軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ラーヴァフロッグの肉は、もも肉を切り取って焼いて食べたけれど、思った以上に美味だった。

鳥肉に近いクセの少ない味なのに、けれどもしっかりと美味い肉。

尤もわざわざあの厄介なラーヴァフロッグを狩ってまで食べたいかと言えば、ちょっと苦労に見合うかどうかは怪しいけれども。

しかしそんな事はさて置き、僕はラーヴァフロッグを狩って皮膚を手に入れ、ドワーフの国に持ち帰る。

アズヴァルドは安堵と呆れ、喜びの入り混じった複雑な表情で、

「お前さんなら大丈夫だとは思っていたが、こんなに早く帰って来るとはな。ソレはドワーフの戦士が数人でどうにか倒せる位の難物なんじゃが……。しかし、あぁ、だからこそ今回は助かった。礼を言う」

僕に感謝の言葉を告げてくれた。

うん、まぁ確かにあのラーヴァフロッグは意表を突いて来る厄介な魔物だったけれども、我が鍛冶の師から感謝の言葉が聞けるなら、あの苦労も悪くはない。

そしてそれから数週間後、最後の素材であるラーヴァフロッグの皮膚を使って、待望の炉は完成する。

「じゃあ始めるとするかの」

そう言ってアズヴァルドは、新しく出来上がった炉に火を入れる。

その間に僕は、以前の炉に宿る火の精霊に、お願いして引っ越しを受け入れて貰う。

新しい炉にも、使い続ければすぐに別の火の精霊は宿るけれども、既に出来上がってる関係を無駄にするのは余りに惜しい。

炉と鍛冶師には相性があると言われるが、実はそれは鍛冶師と、炉に宿る火の精霊の相性だ。

アズヴァルドはたとえ精霊が目に見えず、感じられずとも、炉の中で燃える火に機嫌がある事を知っていて、常にそれに誠意を以て向き合って来た。

故に二十年以上も大事に使われた炉に宿る火の精霊は、アズヴァルドに強い好意を持っていて、彼との相性がとても良い。

それを新しい炉の完成でふいにしてしまうのは、勿体なさ過ぎるし、寂し過ぎる。

でも今、この場所には精霊を見る事が出来る僕が居るから、その言葉に火の精霊は素直に頷き、燃える木炭の一つに宿って、それをアズヴァルドが新しい炉へと運ぶ。

それから火の精霊が新しい炉に馴染める様に、轟々と炉の中で火を燃やし続けて、……恐らくは三日もすれば完全に引っ越しは終わるだろう。

その間は勿論、僕とアズヴァルドが交代でずっと炉の番だ。

最初は木炭を燃やしていたが、だけど途中からは燃やす燃料が変わる。

アズヴァルド曰くドワーフ秘伝の燃料らしいが、……僕には石の様にも見えるから、もしかするとコークスだろうか?

もしかすると僕の良く知らないこの世界にしか存在しない、高温で燃焼する燃料かも知れないが、まぁ別にどちらでも良いだろう。

そんな事は、今の鍛冶場の熱さに比べれば非常に些細な事だった。

熱い。

暑いじゃなくて、熱い。

もう随分と長く鍛冶師をしてるから、鍛冶場の熱さには慣れた心算だったけれども、今の熱さは僕の限界を超えている。

炉に問題は発生しなくて、火の精霊も上機嫌だ。

クソドワーフ師匠が平然とした顔で、大きなふいごを動かして、炉に酸素を送り込む。

いやだから既にもう本当に熱いんだけれど、あぁ、久しぶりに、心の底からアズヴァルドの事をこのクソドワーフって思ってた。

熱に強い種族とか、ずる過ぎやしないだろうか。

……しかもこの上、更に僕が火の精霊に力を振り絞る様にお願いして、炉の温度を上げるのだ。

ちょっとこれは、無策だと普通に死にかねない。

僕はアズヴァルドに一言告げて鍛冶場を出、頭から水を被って体を冷やし、その上で風の精霊に助力を乞う。

どうか僕の周囲を巡って欲しい。

炉から吹き寄せる熱を逸らして欲しいと。

少しでも体感温度を下げてくれれば、後は何とか耐えるから。

そうして新しい炉に火の精霊が馴染む三日が過ぎれば、いよいよミスリルを加工する準備は整った。

アズヴァルドが鍛冶場に運んで来たのは、既に精錬されてる風に見える金属塊。

何でもミスリルは、自然に存在する鉱石から抽出するのではなく、最初から精錬された金属として得られるらしい。

詳しい事はドワーフの秘中の秘として、少なくとも今は、アズヴァルドが王になるまでは、他の種族には教えられないそうだ。

僕の身に危険が及びかねないからと。

うん、まぁ、それでもおおよその想像は付くけれど、恐らくは妖精銀と似た様な形で、魔物が関係して得られるのだろう。

ドワーフの国でしか得られない、鍛えられない金属である以上、僕とミスリルが関わるのは今回限りなのだから、詳しく知る必要は別にない。

ミスリルは恐ろしく硬い金属で、不変、不壊の象徴とされる。

けれども高温の炎に晒せば、それから少しの間だけは柔らかくなり、ハンマーで打っての加工が可能となると言う。

但しミスリルが冷えて硬く戻れば、次に柔らかくするには、前回よりも更に高温の炎に晒す必要があるのだとか。

ミスリルは炎を浴びて冷える度により硬く、強く、そして加工し辛くなって行く。

故にこの金属の加工には、高い熱量を得る手段と、それを正しく段階的に管理する方法、素早く加工を済ませる鍛冶の腕、その全てが欠ける事無く必要だった。

僕の仕事は、炉の温度管理だ。

アズヴァルドの相槌を打つ余裕もなく、僕は炉を、中で踊る火の精霊を見て、状態を把握し続ける。

炉が出せる熱量には限界があるから、段階的に温度を上げて行き、なるべく多くの時間、アズヴァルドがミスリルを加工出来る様にしなきゃならない。

だけどそれだけでは絶対に足りない事もわかっているから、……炉が普通に出せる温度の限界に達したら、そこから先は火の精霊に力を借りて、炉の性能の限界を超えて行く。

……どれくらいの時間を、そうしていたのだろう?

ミスリルの加工は途中で中断できる仕事じゃないから、ずっと作業をしっ放しだ。

「これで最後じゃ! 思いっ切りで頼む!」

アズヴァルドが最後にミスリルを、完成間近のソレを炉に入れ、僕は火の精霊に頼む。

全力を以て燃え盛り、炉の温度を上げてくれと。

炉の全ての熱量を、このミスリルに注いでくれと。

すると僕等が大仕事の最中であると理解してる火の精霊は、本当に全力で燃えてくれて、オーダー通りに炉の全ての熱量を、ミスリルの剣に注ぎ込む。

その瞬間、ミスリルの剣は真っ白に光った。

アズヴァルドは炉から引き抜いたそれを素早く研磨し、刃を付け磨き上げて、ミスリルの剣は完成する。

そして僕達は、二人して同時に、大きく大きく息を吐く。

張り詰めていた物が、途切れたからだ。

「あぁ、やったのぅ。やってやったぞ」

それからアズヴァルドは、クツクツと押し殺したような笑い声を漏らす。

ミスリルと言う、ドワーフにとって特別な金属を自分の手で鍛え上げた喜びを、ゆっくりと噛み締めながら。

気だるさに抗いながら、僕は視線を出来上がったばかりの剣にやれば……、あぁ、それはやっぱり見事な出来栄えだった。

悔しがる気も起きない程に、アズヴァルドの、僕の鍛冶の師は、突き抜けた腕の持ち主だ。

多分今回の王座を巡る競争も、ミスリルの加工なんて要素が飛び出さなければ、きっと一人で勝ち抜いただろう。

でもそんなアズヴァルドに、僕は間違いなく手助けが出来た。

それがどうにも嬉しくて、僕も笑みが抑えきれない。

「乾杯したいね。思い切り良いお酒で、アズヴァルドの奢りでさ」

今の僕は、ウィンも、衣食住の全てをアズヴァルドの世話になってるから、奢りも何もないのだけれど、僕は笑ってそう口にする。

僕の言葉にアズヴァルドは頷き、

「あぁ、悪くない。でも乾杯するなら、ここでじゃな。鍛冶場で飲み食いは不作法だが、酒だけなら良かろう。そこにおるんじゃろ。もう一人が」

それから炉を見て、やっぱり笑う。

もうお互いに、笑いが止まらない。

そんな妙なテンションの僕等を、炉の中から火の精霊が不思議そうに、だけど楽しそうに眺めてた。