軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

40

「さぁ、エイサーさん、たっぷり食ってくれ。アンタは命の恩人だ!」

夜、僕は昼間に助けた農夫の一人、アジルテの家に招待されて、彼の妻の手料理を振る舞われていた。

メニューは非常に豪勢で、まず目を引くのが大皿に盛られた、グリードボアのスペアリブにたっぷりのリンゴソースを掛けた物。

リンゴは肉を柔らかくした上に、臭みも抑える効果がある。

何より勿論味が良い。

他にもリンゴのパイに、グリードボアの挽肉のミートパイに、ちょっと驚きのリンゴのスープ。

更には甘味が強めのシードルと、そう、本当に豪勢な饗しであった。

アジルテの家に招待された切っ掛けは、農夫達が出そうとしたグリードボアの討伐報酬を、僕が断った事。

だって僕は冒険者じゃないし、金の為にグリードボアを殺した訳でもない。

目の前で人が魔物に殺されそうで、僕に何とか出来るなら、相手が金持ちであっても貧乏人であっても、取り敢えずは助けるだろう。

あぁ、明らかに助けるべきでない相手、僕やその周辺に不利益をもたらしそうな相手なら、見捨てるかも知れないけれども。

尤も僕は、冒険者が人助けをして報酬を得る事に関しては否定しないし、寧ろ良い事だと思う。

ただ単に今は僕が冒険者じゃなくて、グリードボアを狩ったのは金の為じゃないと言いたいだけだった。

僕は魔物退治のプロではなく、偶然に通りがかった狩人が獲物を仕留めただけ。

しかし農夫達は、特にその纏め役らしいアジルテは、それでは気が済まないと言って退かずに、せめてアルデノの町に滞在する間は自分に持て成させてくれと、家に招待してくれたのだ。

山の宿でも鍋料理でもなかったけれど、アジルテの持て成しは温かく、料理もまた素晴らしい。

グリードボアのスペアリブは旨味が非常に強いけれど、されどリンゴのソースのお陰でくどさを殆ど感じなかった。

いやまぁ、そりゃあ多少の癖はあるけれど、寧ろ好みの範疇だ。

リンゴはアプアの実に近い味で、エルフが好む果実の一つとされていた。

だけどそれがこうして料理されたなら、それは確かにリンゴであるのに、全く違った魅力を見せる。

粗野にならない程度にガツガツと、僕は夢中で料理を腹に詰めて行く。

旅に出てから、美味い物を食べる機会が凄く増えて、凄く幸せだ。

「ははは、妻の料理が口に合うみたいで何よりだよ。エルフの人の好みはわからなかったからなぁ」

明るいアジルテの言葉に、彼の妻も笑った。

と言っても僕は大体の物は食べるから、偏食なエルフやハイエルフの嗜好を探る上では、多分何の参考にもならないと思う。

ただこれ等のリンゴ料理は、多くのエルフは喜ぶだろう。

豪勢な持て成しや、家の広さ、更には内装等から察するに、アジルテはそれなりに裕福な様子。

どうやら果樹栽培は良く儲かるらしい。

つまりそれは、果樹栽培が主産業であるアルデノの町、或いはアルデノ王国そのものが豊かである事を意味してる。

勿論それは、国の規模の割にはとの言葉は付くけれども。

翌日、僕はアジルテに礼を言い、彼の家を、そしてアルデノの町を後にする。

もっと滞在をして行って欲しいと何度も引き止められはしたけれど、……妙な話になるかも知れないけれど、こう言うのは引き止められてる間に出て行った方がスマートだ。

衣食住の食と住を、他人にべったりと依存する生活は、そう何度も経験する物ではないと思うし、依存し過ぎると癖になると身を以て知ってるから。

それに何より、今はこの背負うグリードボアの皮を加工したい。

アジルテの話によると、このアルデノと次に向かうツィアー共和国の都市であるフォッカの間には、パルノールと言う名の村があるそうだ。

その村の所属はアルデノ王国ではなく、ツィアー共和国。

パルノールは、ツィアー共和国の名前の由来であるツィアー湖から流れ出た川の畔にあると言う。

そしてパルノールの村では、その川の豊かな水量を利用して、布の染色や皮なめしが行われているのだとか。

皮をなめす工程の一つに、川の流れに皮を晒す、川漬けを行うやり方があると言うのは、どこでだったか聞いた事があった。

多分、ルードリア王国で鍛冶仕事をしていた時だろう。

なめしを終えて革となった物に関しては、実は僕も何度も扱っている。

例えば剣の握りに巻いたり、盾に張り付けたり、金属鎧の内側に張ったり、縫って革鎧を拵えたりと。

故にグリードボアの皮も、なめしさえ終われば後は時間がある時に利用法は考えれば良い。

大きく硬い魔物の皮だから、使い道は幾らでもあるだろう。

アルデノの町からパルノールの村までは、徒歩で一日。

パルノールの村からフォッカの町までは、やはり同じく徒歩で一日。

僕はパルノールの村でグリードボアの皮のなめしを依頼して、一泊だけしてフォッカに向かった。

本当は皮をなめす工程にも興味はあったが、大きな町でなら兎も角、小さな村では代々伝える技術の漏洩には敏感だ。

大物の皮を預けて仕事をして貰うのだから、パルノールの村人を僕が煩わせる訳にもいかないだろう。

それに本当に学びたければ、もっと大きな町の革工房に、ちゃんと弟子入りすれば良い。

人の世界に出て来て十数年も経てば、流石にその程度の気遣い位は、出来る様にもなる。

まぁ後は、そう、時間の都合だった。

皮を丁寧になめすには、長ければ数ヵ月の時間を要する事もある。

そんなに長い間は流石の僕も、……旅の最中でなければ待てるけれども、今はちょっと待てないので、魔術の国であるオディーヌに向かう事を優先せざるを得なかった。

オディーヌでの滞在場所を決め、数ヵ月を過ごした後に再びこのパルノール村にやって来るか、或いは商人に頼んだり、冒険者を雇って革を受け取って来て貰うより他にない。

だから少し名残惜しいけれども、革となった姿での再会を楽しみに、僕はグリードボアの皮をパルノールの村に預けて旅を続ける。