軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

370

この世界には超常的な力を発揮する術、前世の知識的に言えば魔法の類が幾つかあった。

例えば僕が精霊の力を借りる精霊術も、その一つに含まれる。

力を借りてるだけなのに何が術なのかって話はあるんだけれど、精霊の力を強く引き出すにはイメージや感覚の共有といった、言葉では説明し辛いコツのようなものも必要だから、術というのも間違いではないのだろう。

他には魔術、仙術、神術とあるけれど、……まぁ、魔術が一番わかり易くてそれらしいか。

魔術は、魔力という力に術式を作用させ、望む現象を引き起こす術だ。

魔力は自然に存在する力の一つでしかないけれど、その中でも特に反応、変化を起こし易く、神々が新しい人を生み出す際にも積極的に利用したらしい。

まぁ今の魔術は神々が新しい人を生み出したそれには遠く及ばないけれど、魔力に術式という刺激を与えればどんな変化、現象を引き起こすのかって記録を蓄積した、知識の結晶のような物だった。

術というイメージに一番近いのは、これだろうと僕は思う。

仙術は巨人が自らの力の使い方を簡略化、体系化し、人に伝えた物である。

これを扱うには稀なる素質が必要で、更にそれを扱えるようになるとそれまでの種族の枠を外れ、仙人という存在になっていく。

単に術と呼ぶには、あまりに異質な代物だろう。

最後に神術は、厳しい修行によって鍛えた精神力や強く信じる心が引き起こす奇跡、という事になっているが、実際には超能力だ。

もちろん精神力や信じる心も超能力への影響は皆無じゃないだろうから、全くの嘘という訳ではない。

ただ神術の才能を秘めた子供を探すテストを行っていたりする辺り、宗教組織も『厳しい修行によって鍛えた精神力や強く信じる心が引き起こす奇跡』という文言が単なるお題目である事は承知の上なのだろう。

ちなみに僕の知る限り、というか巨人が記録を残す限り、この神術、超能力に関しては、神々が生み出した新しい人に特有の能力である。

数を増やさぬ巨人、不死なる鳥、真なる竜は当然として、精霊やハイエルフにこの力の使い手が現れた事はない。

もちろん絶対数が少ないハイエルフに、その才能の持ち主が生まれてないだけなのかもしれないけれど、今のところは、新しい人に特有の力である可能性が高かった。

何故なら、巨人も、不死なる鳥も、真なる竜も、精霊はもちろん、精霊の力を借りればハイエルフにだって、幾つかの神術とは似たような行為が可能なのだ。

既にできる事を、別の手段で行えるようになる必要があるかといえば、首を傾げるところだろう。

さてそんな神術だが、その効果は様々だ。

例えば僕が知る神術の使い手は、マルテナ、ジュヤル、それからパドウィン。

マルテナはヒーリングと念動力。

ジュヤルは発火能力。

パドウィンは瞬間移動。

マルテナのように複数の神術を宿す者もいるけれど、これはかなり特別な存在になるのだろう。

改めて振り返ると、何でマルテナが冒険者なんてやってたのかは、本当に謎が多い。

色んな効果のある神術だが、全てが公平に扱われる訳ではなく、ヒーリングこそが最上の能力とされているそうだ。

まぁ神術を管理しているのが宗教組織だから、ヒーリングを特別に扱うのも頷ける。

そしてここからが問題なのだが、瞬間移動はヒーリングに次ぐ能力だと位置付けられていた。

実際のところ、人の身体を癒す事に関しては魔術でも代用が可能な為、替えが利かない能力という訳ではない。

先程も述べたが、神術を管理しているのが宗教組織だからこそ、癒しの力であるヒーリングを優遇して特別扱いしているのだ。

故にそういった優遇なしに次点に位置する瞬間移動は、本当に希少で求められる能力であるのだろう。

パドウィンはもう十二歳になったけれど、彼を手に入れようとする宗教組織の画策は、止む事なく続いてる。

余談だが、念動力や発火能力といった殺傷能力に長けた神術は、ヒーリングや瞬間移動に比べると扱いは悪い。

以前に戦った教会の暗殺者は念動力の使い手だったが、仮に彼がマルテナのようにヒーリングを扱えたなら、決してそんな役割を与えられてはいなかっただろう。

だがそんな殺傷能力に長けた神術よりも更に扱いが悪いというか、存在を秘されているのが感応能力、人の心を読んだり想いを伝える、テレパシーだった。

僕の予想では、神術が超能力であるのなら、テレパシーの使い手もきっと存在してはいる筈なのだ。

或いは未来視や過去視の使い手も。

しかしどの宗教組織もそんな神術の使い手がいる事を、明らかにはしていない。

尤も、そもそも神術に関しては秘匿されてる情報がとても多いのだろうけれども。

パドウィンはもうすぐ島の学び舎を卒業する。

その後は、エルフのキャラバンが雇ってる私兵達の訓練所に通い、戦いに関する技術を身に付けるそうだ。

恐らく彼も、自分の能力が他人から狙われる代物である事は、もうわかっているのだろう。

最初は僕に剣を教えて欲しいと言いに来たが、その願いは断った。

パンタレイアス島にはヨソギ一刀流の道場があるのだし、学びたければそちらに通うべきである。

少なくともこの島では、僕は他人にヨソギの技を教えて、道場の食い扶持を奪う真似はしない。

……まぁ、ソレイユには教えたけれど、あの子は完全に家族だったからだ。

祖父としてでも父としてでもいいけれど、孫や子に自分の技術を伝えるのは、そりゃあ当然の事だから。

その代わりと言ったらなんなのだけれど、パドウィンには十五歳になったら好きな武器を打ってやるとの約束はしてる。

彼はヨソギ一刀流の道場に通うかも悩んだらしいが、結局は私兵達の訓練所を選ぶ。

私兵達の訓練所で熱心に学べば、十五歳になった後にはエルフのキャラバンに雇ってもらえると考えたのだ。

どうやらパドウィンは、少なくとも妹のマノンが十五歳になるまでは島を守る私兵がやりたいのだろう。

たっぷりと愛情を注がれて育ったからか、パドウィンも家族への愛情がとても強い。

ただやはり見知らぬ場所への興味も尽きないらしく、キャラバンの連絡員のような仕事を任せて貰えないかと考えているのだとか。

まぁパドウィンの人生なのだから、彼の好きに生きればいいと思う。

そして好きに生きさせてやりたいと、関わりを持った僕は思ってる。

パドウィンがエルフのキャラバンでの仕事を希望してるなら、彼を守る事に関しても反対意見は減るだろうし。

そろそろ、執拗に狙って来る連中くらいは、なんとかしてやりたいなぁと、僕は大きく息を吐く。