軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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船が辿り着いた港には、異国の風が吹いていた。

いや、もちろん殆どの港は僕にとって異国なのだけれども。

この黄古帝国の、青海州の港は、特にそれを強く感じさせてくれる。

立ち並ぶ建物の建築様式、道行く人々の服装や、顔立ち。

同じ大陸に住みながらもそれらが全く異なるから、空気まで別物に感じるのだろうか。

あぁ、風に乗って流れてくる食事の香りも、東中央部辺りとは全く違う。

大草原の南、海沿いの国々も独自の文化を持っているけれど、黄古帝国はまた更に異なるから。

僕は久方ぶりの黄古帝国の空気に、心が躍るのを明確に感じた。

しかしふと空を見上げると、そんな異国の空を、どこかで見たような鳥が一羽、弧を描くように舞っている。

誤解がないように言っておくと、もちろん不死なる鳥のヒイロじゃない。

こんな人目の多い、しかも黄古帝国にヒイロが来たら、流石に僕も何のフォローもできやしないし。

その鳥は、僕にとっては少し複雑な感情を抱かせる相手だ。

真なる竜の眷属である四神獣の一つ、南の鳳凰に連なる聖鷲とかいう大層な肩書きの付いたその鳥が、何か悪さをしたって訳では、別にない。

ただその鳥がパンタレイアス島に来た事で、僕とアイレナの血の繋がらない家族、ソレイユの運命は大きく変わった。

もしもその鳥がソレイユの友にならなければ、彼女は人間としての生を全うしただろう。

尤もその鳥がソレイユの友にならなければ、彼女は既に生きる時間を終えていた。

その善し悪しを決めるのは僕じゃないけれど、それでも久方ぶりに姿を見れば何とも複雑な気持ちを思い出す。

だが、この際その鳥はもう重要じゃない。

今、僕にとって大切なのは、鳥がここに来ているなら、同時にソレイユもこの青海州の港に居るって事だった。

「父様! 母様!」

聞き覚えのある声が響く。

僕の隣で、アイレナが大きく息を呑んだのがわかる。

あぁ、アイレナにとって、それは本当に大きな衝撃だっただろう。

僕は仙人の類と何度も接した事があるから、ソレイユがそうなると知っていた。

けれどもアイレナは、白狼道士とかいう仙人の弟子を、南の大陸に送り届けた時くらいしか、その類と接する機会はなかったから。

本来ならば、とっくに老いて死んでいるだけの時間は経っているのに、パンタレイアス島で別れた日と変わらぬままの声、姿のソレイユを見て、アイレナの目から涙が溢れる。

自分を置いて先立つ筈の人間が、何一つ、……いや、服装は独特な黄古帝国の衣装に変わってるけれど、自分の前に立っているのだ。

その姿には、色んな思いを抱くだろう。

喜びはもちろん、こんな奇跡があるのなら、既に先立ってしまった人々とは、どうして一緒の時間を過ごせなかったのかと。

僕だって、それを考えた事がない訳じゃない。

ロドナー、カエハ、ノンナ、カウシュマン、それからアズヴァルドもウィンも、既にこの世界にはいないのだ。

ただこの再会は、本来は望外の幸運なのだ。

いや、それが本当に幸運なのかは、僕にはよくわからない。

仙人になれる素質を有するのは、ごく一部のほんの僅かな人のみ。

しかもそんな僅かな人ですら、多くは途中で挫折をしたり、道を間違えて他者を食らう邪仙となってしまう。

そして仙人となったとしても、そこに至る修行の間に、親しかった人々は既にこの世界を去っている。

今のソレイユは、仙人の弟子の道士であって、正しく仙人という訳ではない筈だ。

彼女が本当の仙人になる時、アイレナや僕がまだ生きているかは、わからない。

もちろん僕は、ハイエルフとしての生を終えた後も精霊として存在するから、世界のどこかには存在してるだろうけれども。

要するにこれは確かに奇跡であるけれど、都合の良い奇跡ではなかった。

けれどもそんな事を、一々口に出すのは野暮かもしれない。

「ソレイユ!」

ダッと駆け出したアイレナと、受け止めたソレイユが抱き合って再会を喜んでる。

涙でグシャグシャのアイレナの感情の激しさに、ソレイユが少しばかり戸惑ってる風にも見えるけれど、それも仕方のない話だった。

僕は喜び合う二人が、主にアイレナが落ち着くまで、のんびりと空を見上げて時間を潰す。

空の上ではクルクルとあの鳥、シュウが飽きもせずに弧を描いて飛んでいる。

もしかすると、シュウも空気を読んでいるのだろうか。

同行していたケイレルも、最初は見た事がないのだろうアイレナの感情的な姿に驚いた様子だったが、今は離れて人払いの指示を出してくれてた。

また一つ彼の事が知れた気がする。

何というか、割と良い奴だ。

仙人となる事の是非は、僕にはやっぱり何とも言えない。

その誕生には巨人が関与していて、今も仙人達が巨人の指示で動く場合もあると知ってるから、余計に。

ただ善いとか悪いは別にして、今回の再会は僕にとっても、本当に嬉しい事なのは間違いがないから。

もう暫くしてアイレナの気が済んだら、次は僕が同じ真似をして、ソレイユを困らせてやろうと、そう思う。