軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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オディーヌを出て、南へと向かう。

そういえば、逆にここから北へと向かった事は今までに一度もなかった気がする。

小国家群、もといアズェッタ王国の北にある国と言えば、これまで幾度も東中央部に戦乱を齎してきたダロッテだけれど、そのダロッテも今は存在してなかった。

ルードリア王国との戦いで傷付いていたダロッテは、より北の国から侵略を受けて滅亡したからだ。

北側の国と言えば、僕はフォードル帝国にしか行った事がないけれど、彼の国も、既に地図の上には存在していないという。

一度くらいは東中央部の北側の国も、ぐるりと回ってみようか。

フォードル帝国で体験した北側の国の寒さは、もう二度と味わいたくないと思う代物だったけれども、夏ならば比較的、移動し易い気もするし。

そんな事を考えながらも、しかし足は南へと動く。

興味がない訳じゃないけれど、今のところ、北への用事は特にない。

何より、今の季節は夏じゃなかった。

アズェッタ王国から南に向かえば、豊穣神を崇める宗教の総本山を有したラドレニアがある。

ラドレニアは東中央部でも最も権威のある国だけあって、争いに巻き込まれる事もなく、その存在は揺らいでいない。

但しその東側にあった国の名前は、やはり既に変わってる。

尤もそれは争いの結果滅ぼし合って国が消えた訳ではなく、小国家群がアザレイと南アズェッタ王国に分かれた際に、その異変に対応すべく、ドルボガルデとシグレア、それから更にシグレアの北の都市国家であるバーダスとオロテナンをも加えて一つの国に纏まったのだ。

というのも、バーダスとオロテナンは小国家群の支援を受けて大湿地帯、危険地帯である人喰いの大沼からの防波堤を担っていた都市国家だった。

しかし小国家群が二つに割れて川を使った物流が止まり、バーダスとオロテナンへの支援が止まれば、到底その防波堤の役割は果たせなくなってしまう。

そしてバーダスとオロテナンが陥落すれば、南に位置するシグレアにとっても他人事ではない。

シグレアも同じく、人喰いの大沼からやって来る魔物を食い止めているが、バーダスやオロテナンが陥落すれば、その負担は大幅に増す事になる。

そうなれば、シグレアの後方に位置するドルボガルデにだって影響が及ぶ可能性も皆無じゃなかった。

故に彼らは一つに纏まり、シェガルダという名の国になる。

その成立には、ラドレニア及び、エルフのキャラバンも大いに支援を行い、後押しをしたという。

或いはシェガルダという国が誕生したからこそ、東中央部は争乱で国の名前や国境線は変化しても、大きく形が変わるような事態は避けられたのかもしれない。

僕は、もうそれなりに長く生きてると思うのだけれど、この世界では争いがずっと絶えていないし、これからも絶える事はないと思っていた。

別にそれが悪いという心算はない。

魔物という敵が、大きな脅威があっても尚、彼らは同種との戦いは止められないのだろう。

それは人間という生き物の業である。

欲を満たす為に他人を踏みつけんとする者、身近な誰かを守る為に剣を取る者、憎しみから戦う道を選び、戦いの中にしか生きられなくなった者。

戦う理由は多種多様で、皆それぞれに違うだろう。

けれども結果として、人間は戦いを止められない。

かと思えば、混乱を治める為に身を沈める者もいて、多くの人々は平和を願う。

人間は実に混沌とした生き物だ。

相反する性質も、矛盾なく一つの生き物としての器に収まっている。

だけど、僕はそれでも、或いはだからこそ、人間という生き物が好きだった。

これは凄く今更になるのだけれど、この世界の人間と、僕が前世でそうであった人間は、全く別の生き物であろう。

少なくとも、僕が前世で見知った人間は、死んでも歪みの力なんて吐かなかったし、剣や槍を手に巨大な魔物にも挑まない。

でもそんな事は関係なしに、僕は前世で見知った人間も、この世界で出会った人間も、どちらも同じくらいに好いている。

強く、儚く、しぶとく、優しく、残酷で、悩み、決断して、何かを作り、壊してしまう人間が、とてもとても好きなのだ。

僕は、訪れた町の宿屋で、看板娘の胸にガーネットのペンダントが揺れているのを見て、嬉しくなって酒杯を重ねる。

ペンダントはとても古い代物で、幾度も補修を受けたのだろう。

最初の形とは、少し変わってしまってる。

けれどもそれでいいし、そこがいい。

明日にはアズェッタ王国を出て、ラドレニアに、そこからもう暫く旅すれば、シェガルダの港町に辿り着く。

そうすれば船に乗り、パンタレイアス島に帰れるだろう。

つまり間もなく、今回の旅も終わりを迎える。

今回の旅では、僕は何も得なかったし、逆に誰かに何も与えなかった。

助ける事もなかったし、ただぐるりと、東中央部を歩いて回っただけ。

されどこの胸には、言葉にできない何かが残る。

実に不思議で不可解だけれど、僕にはそれが心地好く、今回の旅には満足していた。