軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

349

ヨソギの名を捨てる。

それは生半可な覚悟で口にできる言葉じゃなかった。

何故ならそれは、彼らの誇りと同様に二百年以上も、いや、もっともっと以前からずっと受け継いできた物だから。

またヨソギの名を捨てたからと言って、ルランタ国が必ずしもマカツ達への警戒を解くとは限らない。

更にヨソギの本家、ヨソギの国は、確実にヴィストコートの道場に対して怒りを抱く。

だがそれでも、マカツはこのヴィストコートに留まり続け、代々担ってきた役割を果たし続ける事を選んだ。

もちろんルランタ国に対しての働き掛けは、ヨソギの名を捨てる以外にも色々と行う心算だろうけれども。

それは間違いなく、険しく困難な道のりである。

ただ僕は、今の彼なら、よりにもよってヨソギ流の相談役である僕に対して、ヨソギの名を捨てると宣言できるマカツなら、やり遂げるんじゃないかって、そう思う。

ヴィストコートのヨソギ流は、これで終わりだった。

ヨソギ流の相談役である僕は、これ以降は彼らと関わる事はないだろう。

でも不思議と、それを惜しむ気持ちにはならない。

何故なら、ヴィストコートのヨソギ流の道場を建てた張本人、ミズハとの約束は最後に果たせたんじゃないかと思うから。

新しい剣が生まれる姿を見届ける。

それは皮肉にも、わかれたヨソギ流が一つに戻るのではなく、ヨソギの名を捨てた事で生まれたけれども、きっとミズハなら、この結末に満足した筈。

僕だってこの結末は全く予測してなくて、だからこそマカツの選択を、潔く、清々しくすら感じてた。

あぁ、尤も、やはり一抹の寂しさは、どうしたってあるけれど。

僕はマカツに手合わせを申し込み、ヴィストコートのヨソギ流を胸に刻んでから、縁の断たれた、名も知らぬ新しい流派の道場を後にする。

それから向かうは東。

ヴィストコートから東に向かえば、ルードリア王国の首都だったウォーフィールがあって、更にその先には興ったばかりのヨソギの国があった。

今の僕は、ヨソギの国に対する影響力は殆ど持っていない。

だがヨソギ流に起きる出来事に対しては、相談役という役割はまだ多少の重みを持っている。

ヴィストコートの道場が名を捨てた事が伝われば、ヨソギの国は怒るだろう。

分家が本家と絶縁しようとは何事だと。

しかしヨソギ流からの離脱を相談役に向かって宣言し、それを僕が認めたとあれば、その怒りの矛先は幾らかこちらに向く筈だ。

まぁヨソギの家の問題ではなく、ヨソギ流の問題として、僕が勝手に認めた事にしてしまおうって、そういう話である。

もう、ヨソギ流でなくなってしまったヴィストコートの道場を僕が庇い立てする理由はないけれど……、それでもやっぱり彼らはミズハの、そしてカエハの流れを汲む子らだから。

あぁ、それからもう一つ、僕はマカツを得手もなければ不得手もないと称したけれど、十二年ぶりに立ち合って一つだけ気付き、思い出した事があった。

確かに、十二年経った今でも、マカツの武器に得手不得手はなかったけれど、どの武器を握った時も、立ち姿は素晴らしい。

そう、彼は構えが良いのだ。

思い出せば以前に立ち合った時もそうだったし、だからこそ彼は、多くの武器を不得手なく扱えるのだろうと納得させられた。

だから、なんというか、僕が彼を少しばかり低く見積もってた事に対するお詫びの意味もあるし、改めてそれを立ち合いで気付かせてくれた、お礼の意味もある。

要するに、僕もまだまだ未熟だなぁと、久しぶりにそう思えたのだ。

国を手に入れたヨソギの本家、ヨソギの国の王家に僕が面会する事は難しいけれど、伝手を使えば手紙を届けるくらいはできるだろう。

そんな風に考えて、僕はまだ混乱の最中にあるルードリアの地を、東に向かって歩き続ける。

一つ目のヨソギは、武家の一員としてルードリア王国を滅ぼし、この地を荒らした。

国を興したこれからは、この地の安定に寄与するかもしれないけれど、他国との戦を行って更に荒らす可能性も高い。

二つ目のヨソギは、逆に荒れるこの地が崩れぬように、土に張った根である為に名を捨てた。

三つ目のヨソギは変わらぬままに、更なる発展を求めて、荒れたこの地を離れた。

三者三様。

どれが正しい道で、どれが間違った道って訳じゃない。

ヨソギの本家が貴族家となり、更には国を興した事で、救われた何かもある筈だ。

例えば、ヨソギの本家が得た領地を守らんと奮戦しなければ、ルードリアの地はダロッテに踏み荒らされていたかもしれない。

ヨソギの名を捨てたヴィストコートの道場だって、それで存続が確実となった訳ではなかった。

或いはこの先、ヨソギの国がルランタ国を滅ぼして、ヴィストコートの道場を解体する事だって十分にあり得るだろう。

逆に他のヨソギが滅びても、名を捨てたヴィストコートの道場だけが生き残る可能性も、皆無ではない筈。

ヨソギ一刀流も同じく、発展するも衰退するも、先は誰にも見通せない。

まぁヨソギ一刀流に関しては、移住先がパンタレイアス島という事もあって、僕も協力し易いけれども。

差し当たっては、刀の供給と知名度の向上には、大いに役立てると思ってる。

いずれにしても時の流れは彼らを変えて、それぞれに新しい道を歩ませた。

彼らが変われば、僕との関係性も当然変わる。

けれどもそれを、悲観はすまい。

当然ながら、一抹の寂しさはあるけれど、その変化を楽しく思おう。

僕にとってのヨソギ流は、カエハの剣は、変わらずこの腕に宿ってる。

だから決してなくなりはしない。

ヨソギの国で、この国に仕える事となったヨソギ流の剣士達に王家への手紙を託し、僕は更に東へ歩く。

折角ここまで出て来たのだから、帰る前に少しばかり足を伸ばして寄り道をしようと考えて。

次に向かうのは、かつて小国家群があった場所だ。