軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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大陸から遠く離れた洋上の島は、人が暮らしていない場合、魔物が蔓延る事は少ない。

これは僕の想像なんだけれど、大陸で発生した歪みの力が、海という巨大な自然環境が有する力、その一部である魔力に引かれて水に溶け込むからだと思ってる。

そうでなければ、海には魔物がいて、その近くに浮かぶ島には魔物がいないなんて理由が、他には考え付かないし。

尤もこの島には人魚が住んでいるのだから、多少の魔物がいる事は想像の範疇……、いや、でもその場合でも、人魚は水中に暮らすのだから、やはり歪みの力は海に吸収されるんじゃないだろうか。

だとしたら、何故?

島の中央にある山から見下ろせば、陽はゆっくりと水平線の彼方に沈もうとしてる。

今からだと、今日中に行えるのは人魚との接触か、魔物の確認か、どちらか一つといったところか。

魔物の事も気になるが……、それでもこの島に来た目的は人魚との接触だ。

今日のところは、初志の貫徹を優先しよう。

山を中腹まで降り、そこにぽっかりと口を開けた大きな裂け目から、僕らは地下空洞へと続く洞窟に入った。

アイレナが古めかしい年代物のカンテラに火を灯し、明かりを確保して歩く。

彼女が持つカンテラは、冒険者時代から使っている代物だ。

つまりは本当に古い年代物である。

なのに今でも使えるのは、アイレナがそれを大切に、手入れを怠らずにいるからだろう。

詳しい話は聞いていないが、何らかの思い出がある品なのかもしれない。

緩やかに、時には急に下る洞窟を暫く、……外では陽が完全に沈んでしまったであろうくらいに進むと、足場が湿り気を帯び、天井からは鍾乳石が垂れ下がるようになってくる。

そして足元に気を付けながらも更に進めば、僕らはとても広い空間に出た。

今、目の前に広がっているのは、とても大きな地底湖。

この地底湖が、人魚達の住処の一つだ。

外の海とは小さな裂け目でしか繋がってないから、大きな魔物が入って来ない、安全な住処。

もちろん幾ら広いと言っても、この地底湖に辺りの人魚の全てが住むのは難しいだろう。

恐らく人魚達は似たような場所を幾つも確保して、分散して住んでいる筈だ。

あぁ、まるでそれは、村のように。

物凄く今更だけれど、扶桑の国にあった人魚の町、蜃は見ておけば良かったなぁと思う。

海の中の大きな町。

それは一体どんな場所に、どのようにして築かれたのか。

扶桑の国まで行きながらも見損ねたのは、実に惜しい事をしてしまった。

ひょこ、ひょこと、水中から頭を出した人魚達が、こちらを見る。

カンテラの光は水面に跳ね返されて、暗い水中を照らさないから、まるで水に生首が浮かんでるみたいで、実に不気味だ。

だがこちらを見る人魚達の目には敵意はなく、驚きと好奇心の色が見て取れるから、どうやら歓迎されてない訳じゃないらしい。

「お前さん方、ここにはどうやって来なすった? 船の出入りはなかった筈じゃが」

真っ先に声を発したのは、女性の人魚。

見た目は若々しいが、発する言葉と纏う雰囲気は老成してる。

そういえば、人魚も老けない種族だっけ。

彼女は多分、ここに船の出入りがあった、南と北の大陸間の交易がおこなわれていた頃から、既に大人だった人魚なのだろう。

「僕はエイサー、こっちはアイレナ。ここには大きな鳥の背に乗ってやって来たんだけど、信じてくれる?」

名乗った後、僕は冗談めかして、そう問いかける。

いや、それを口にするかは少し悩みはしたのだが、船を使わずにこの島に来た方法を説明する言葉を、他に思い付かなかったのだ。

「あぁ、なるほど。お前さん方、……いや、お前さんだけか。真なる人かい。聞いた事があるよ。百何十年か前に、北東の巫が真なる人に会ったって言ってたねぇ」

人魚は僕らを、いや、アイレナが大急ぎで首を横に振って否定したから、僕をハイエルフだと見抜いたらしい。

北東の巫とは、……ミズヨの事だろうか。

百何十年前で、北東といえば、恐らくはそうだ。

同じ頃、南の大陸でも前世の記憶を持つハイエルフが活動してたらしいけれど、……北の大陸を訪れたって話は聞いてないし。

でも扶桑の国の人魚と、この地で暮らす人魚は、そんな話を聞けるくらいに密接な繋がりがあるのか。

或いはそれ程に、ミズヨの存在、その北東の巫とやらが特別だったのか。

「そうだね。それは多分、僕の事だと思うよ。……ミズヨは元気にしてるの?」

頷き、僕はそう尋ねてしまう。

懐かしさにつられて、思わず、つい。

少し考えればその質問の危うさは、察せられた筈なのに。

「あぁ、お前さんから受けた恩のお陰で、幸せに過ごせたって聞いてるよ」

人魚は、サラリとそう答えた。

元気かという質問に、幸せに過ごせたって返ってくるのは、……つまりはそういう意味である。

それはとても不意打ちで、覚悟なんてしてなかったからこそ、胸に刺さる事実だった。

ただ、僕から受けた恩とは、もしかすると別れ際に渡した仙桃だろうか。

そのお陰で幸せに過ごせたと言うなら、あの後、ミズヨは欲した物を授かる事ができたのかもしれない。

もしもそうだったら、……うん、それはとても救いのある話だ。

ならば僕は、その話にショックを受けてる場合じゃなくて、やはり前向きにここに来た用件を果たそう。

「そう、なら、本当に良かったよ。じゃあ、僕らが今日、ここに来た理由を話したいのだけれど、その前に、貴女の名前を聞かせて貰える?」