軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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空を行くヒイロの背に乗れば南の大陸まで一直線……、という訳では実はない。

僕もアイレナも、生き物である以上は当然の生理作用はあった。

具体的には腹も減るし眠りもする。

そうした生理的欲求を満たすのに、ヒイロの背中は些か以上に都合が悪い。

要するに、僕らだって長距離を移動するには食事やトイレ休憩は必要だった。

また本番の支援は船で行く。

その為の航路を確認するのも、今回の視察の目的の一つだ。

というのも、以前はヴィレストリカ共和国を含む幾つかの国が、南の大陸へと交易船を出していた。

しかし南の大陸に興ってそれを統一した帝国は、北の大陸との交易を禁止する。

恐らく帝国は、南の大陸を制した武器である銃や砲が北の大陸に流出する事を嫌ったのだろう。

結局、この帝国がハイエルフを多く殺したが為に、南の大陸は滅んだのだから、交易の禁止はある意味で北の大陸を救ったのかもしれない。

ただその結果として、南の大陸へと渡る船はなくなり、もう百何十年も経っている。

当時の交易船が通っていたルートを覚えている船乗りは誰もが墓の下で眠っており、僕らにそれを教えてくれよう筈がない。

古い海図は残っているが、その航路が信頼できるのか、或いは既に大型の魔物が縄張りを変化させていて危険なのか、全く判断は付かなかった。

何よりも大きいのは、外洋貿易に必須とされた人魚との契約が、この百何十年の間に消滅してしまってる事だろう。

もちろんハイエルフである僕が乗った船ならば、精霊の力を借りれば縄張りの外から魔物を感知できるし、多少の障害は強引に突破もできる。

だが僕の身体は一つしかないし、船の移動に付きっきりになると、南の大陸には留まれない。

船で物資を運ぶのは、恐らく一度や二度じゃ利かないだろうから。

可能であれば、今回の視察の間に人魚を見付け、新たな契約を交わしてしまいたかった。

故に僕らは、転々と存在してる島々をなぞるように空から見下ろし、様子を確かめながら南へと向かう。

「あっ、あれもそうですね」

海図の写しを片手に、アイレナはある島を指差す。

以前、北と南の大陸が交易を行っていた時、中継地の一つとして使われていた島だ。

ヒイロがぐるぐると上空を旋回して、僕らは島を確認する。

島のサイズは、パンタレイアス島よりも幾分か小さいくらいか。

朽ちた建物、ボロボロに壊れた船着き場と、かつての名残は残っているが、人が暮らす気配はなかった。

このサイズの島では、外からの船が来なければ、人が生き続ける事は難しい。

不可能ではないにしても、敢えてそうするメリットは薄いだろう。

北と南の大陸が交易を行っていた時は、水を補給する場として整備され、人も暮らしていたらしいが、交易の終わりと共に放棄されて、今は名残を残すのみ。

「ハズレかな?」

僕の言葉に、アイレナも頷く。

船の上では水は限られた貴重な物資だ。

以前、北と南の大陸が交易を行っていた時は、こうした水を補給する島が必要不可欠だったに違いない。

でも今のエルフのキャラバンが有する船には、少なくとも一人はエルフが乗ってる。

水の精霊の力を大いに借りられる海の上で、エルフが居れば少なくとも飲み水に困る事はなかった。

つまり、以前の交易がおこなわれていた時と同じように、この島を整備して人を住まわせる必要があるかと言えば、実に微妙なところだろう。

もちろん水の補給以外にも、足跡を残したり、嵐に巻き込まれた船が補修の資材を求める場として使えはするのだろうけれど、それは別にここでなくとも良いのだ。

そういった意味で、僕らにとってこの島はハズレだった。

「詳しい調査はするにしても、優先度は低くなりますね」

アイレナの言う通り、近くの島に整備された拠点を得れば、辺りの島も探索、調査し、使い道の有無を調べる事にはなるだろうけれど、それはまだ随分と先の話になる。

ただ大きな島ばかりでなく、こうした小さな島も確認するのは、どこに人魚と接触していた痕跡が残っているかがわからないからだ。

人魚さえ見付けてしまえば、彼らから航路にある島の情報も聞き出せるだろうから、一つ一つこうして確認する手間も省けるのだけれど……。

そこでふと、僕はある事を思い出す。

「ねぇ、ヒイロ。北の大陸は黄金竜、南の大陸は黒檀竜だったけれど、残りの二体の真なる竜はどこにいるの? 海で眠ってて、人魚に崇められてたりしないかな」

黄古帝国のように、真なる竜を囲んで人魚の国があったなら、細々と探さなくてもそちらを訪れる手もあるだろう。

まぁそれを言うなら、今回の視察の最中に人魚が見付からなかったなら、扶桑の国の人魚を頼り、別の人魚の国を紹介して貰うという方法も取れるか。

するとヒイロは僕の質問に少し考えこんでから、

『人魚に崇められているかはわかりませんが、貴方の言う通り、真なる竜の一体は海にいます。但し陸の竜のように眠ってはおらず、海の真珠竜、宙の深淵竜は今も活動中です』

キュイキュイと鳴き、思念で僕らにそう伝えてきた。

割と驚くべき、それから恐ろしい内容を。

目覚めれば一体でも大陸を焼き滅ぼしてしまう真なる竜が、二体も活動中だとか、そんなの本当に聞いてない。

でも僕の驚きと恐れを察したのだろうか、

『もちろん心配には及びません。そもそも海に流れて溶け込んだ歪みの力、それにより発生した魔物は、大陸のように全てを焼いて消し去るという訳にはいかないので、真珠竜は海の魔物を殺し続けているのです。一匹ずつ、この世界に歪みの力が発生してから、ずっと』

まるで宥めるかのようにヒイロは言う。

あぁ、なるほど。

海は大陸のように全てをリセットする事ができないから、発生する魔物を一匹ずつ殺し続けるしかない。

その為に、真珠竜が活動中だというのは尤もな話だった。

だけど世界に歪みの力が発生してから、神々が新しい人、エルフやドワーフ、人間といった種族を生み出してからずっと続けているなんて、それはハイエルフである僕にとっても、気の遠くなるような話である。

そんな事、思う資格はないのだろうけれど、僕は真珠竜を、どうしても哀れに感じてしまう。

どうしようもない話だし、何もできやしないのだけれど、この世界を支える為に、ずっと魔物を殺し続ける真珠竜は、なんて悲しい生き物なのか。

だが、……宙の深淵竜も、同じように魔物を殺してるのだろうか?

空の主と言ってもいいヒイロが言う宙とは、恐らくここより更にずっと上の、宇宙の話だと思うから。

そんなところに魔物がいるなんて、ちょっと僕には思えない。

だってそこには、歪みの力を発生させる人もいなければ、変化する生き物だって居ない筈だ。

僕が疑問を抱くと、ヒイロはそれを肯定する思念を返して、

『その通りです。ですから、宙の深淵竜は最も幸運な真なる竜であると言えましょう。何故なら深淵竜が今も果たし続ける役割は、世界の守護。世界を脅かす何者かが、この世界に現れぬように見張る事。創造主によって生み出され、与えられた本来の目的に、四体の内で唯一、今も殉じられているのです』

機嫌よく一声、大きく鳴いた。