軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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学び舎では読み書きに計算、それからこの世界の常識を。

僕からは剣、アイレナからは精霊術を学びながら、ソレイユは日々大きくなっていく。

彼女が七歳になった年、ウィンからの手紙が届いた。

何でもあの、皇帝の選定の時に候補者の一人だったファーダ・フィッチが、どうやら僕を探してるらしい。

それは多分、あの時に僕がサバル帝国に居た理由が、ソレイユを連れ出す為だったのだと気付いているから。

ソレイユの母であった人間を毒殺したのは、ファーダの父であるロマーダ・フィッチだ。

つまりロマーダの手は毒を盛れるくらいに近く、ソレイユの母の間近にまで伸びていた。

故にその胎の子が、どうにか生き延びた事も、恐らくは察していたのだろう。

但しそんなロマーダの手も、エルフの森の中にまでは届かなかったから、今、ソレイユは僕とアイレナの家に居る。

しかし今回、ファーダが僕を、というかソレイユを探し求めてるのは、命を奪う為ではないだろう。

以前にロマーダが、ソレイユとその母の命を狙ったのは、ウィンの血を引く子供に帝位を奪われたくなかったからだ。

要するにウィンの血を引く子供さえいなければ、自分の子であるファーダが次の皇帝だと考えていたからである。

きっとそうする為に、色んな工作もしていたのだろうし。

けれども結局、ソレイユとは関係なくファーダは皇帝にはなれず、兎の氏族は権勢を失い、ロマーダは氏族内で始末された。

だからファーダには、もうソレイユの命を狙う意味がない。

あぁ、尤もファーダが、自分や父、氏族を失脚させたウィンを恨んでて、復讐の為に狙っているなら話は別だが。

うぅん、いや、そっちの可能性もありそうか。

だが僕は、恐らくファーダが望んでいるのは、自分か自分の子が、ソレイユと婚姻関係を結ぶ事だと思ってる。

ウィンとソレイユの血縁関係を証明できれば、その婚姻はファーダに大きな権力を齎すだろう。

今のサバル帝国には既に新しい皇帝が居るけれど、それでもやはりウィンの存在はまだまだとても大きいから。

またハーフエルフであるウィンと違い、ほぼ人間であるソレイユとならば、獣人との間にハーフが生まれる可能性も皆無じゃなかった。

そうやってウィンの血を取り込めば、或いはファーダの子や孫が更に次の皇帝の選定候補に、いや、皇帝にもなれるかもしれない。

ファーダは、そんな風に考えてるんじゃないだろうか。

……でもソレイユがまだほんの子供な事くらいは、その存在を知ってる以上、ファーダだってわかってるだろうに。

子供を己の栄達を果たす為の道具のように考えるなんて、何とも実に、気持ち悪い。

兎は、獣人の氏族の中では多産、豊穣を司ると言われるそうだけれど、全く以て度し難かった。

まぁ、もしもファーダがソレイユを見付け出したとしても、僕とアイレナが守ればいいだけの話である。

というよりも、正直なところ、僕らの手元にソレイユが居る以上、見付けられない方がファーダにとっては幸運だった。

僕はあまり人を殺す事が好きじゃないけれど、アイレナは大切な誰かを守る為なら、本当に容赦なんて欠片もしないだろうし。

アイレナの気性は穏やかだが、元々は冒険者をしており、更にはキャラバンを率いても長かった為、賊の始末はお手の物だ。

だから、うん、ファーダの為にも、僕は彼がこの島に姿を見せない事を、願う。

ぴぃーっとソレイユが指笛を吹けば、林の方から翼をはためかせた鷲が一頭飛んで来て、僕らが暮らす家の近くの木の枝に留まる。

ソレイユはそれに頷いて、釣って来たばかりの魚を一尾、鷲に目掛けて放った。

お裾分けの心算なのだろう。

でも投げられた魚を嘴で受け取る鷲は、何というか実に器用だ。

……本当に単なる鷲なんだろうか。

実は中身がヒイロだったりはしないだろうか。

いや、流石にそれなら僕が気付くし、ありえないか。

まぁソレイユの友人……、人ではないから友鳥、あぁ、友達を、僕が勘繰るのはあまり良くない。

幼い頃から、といってもソレイユはまだまだ小さいけれど、ずっと一人と一羽は仲が良かった。

ソレイユは鷲にシュウという名を付け、呼べばこんな風に林から家にまで来るようになってる。

今は未だ、ソレイユの身体が小さくて、大きな鷲を支えられないけれど、やがてそれが可能になったら、シュウが彼女に留まれるように、手甲や肩当を革で作ってやる心算だ。

幾ら仲が良くっても、猛禽類の爪が身体に食い込めば、やっぱり痛いし時には怪我をしてしまうから。

その辺りの注意は、ソレイユにしろって言っても難しいだろうから、僕らが見て考えてやらなきゃならない。

シュウは受け取った魚を丸呑みにし、機嫌良さげに数度鳴いた後、バサリと翼を広げて空に舞う。

どうやら今日の触れ合いは、これで終わりらしい。

「また明日ー!」

ソレイユの声に、シュウは空でくるりと大きく弧を描いて旋回してから林の方に飛び去った。

一人と一羽のやり取りは、長く見つめ合ってる事があるかと思えば、こんな風にすぐに終わる日も珍しくない。

第三者の僕にはわからぬ、ソレイユとシュウだけの何かがあるのだろう。

この世界の秘密を多く知ったハイエルフであっても立ち入れない、彼らだけの何かが、きっと。

その事に、やっぱりこの世界は不思議に満ちてて、面白いなぁと僕はそう思う。

確かに僕は、全ての古の種族に会って、世界の秘密を聞かされたり、或いは世界が焼かれてしまわないように戦ったりもしたけれど、……それでも僕が知ってる事なんて、きっとほんの一部に過ぎないのだ。

だからこそ僕は、今日も楽しくこの地に生きてる。