軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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はためく翼が空を舞う。

「わーっ」

ソレイユの小さな口から漏れた言葉は歓声だろうか。

まだ二歳に満たないソレイユにとっても、空を飛ぶって経験は特別に感じるらしい。

僕がサバル帝国からの帰還する方法に選んだのは、不死なる鳥、ヒイロを呼び寄せてその背に運んで貰う事だった。

ウィンから彼の子、ソレイユを預かった僕は、その足ですぐさま宮殿を出る。

赤子を抱えたエルフなんてどうしたって目立つから、長居をして良い事なんて一つもない。

大きな森からソレイユを連れて来たエルフ達も協力してくれて、彼らを目くらましに使って、僕らは帝都を脱出した。

あぁ、僕にソレイユを預けた後、ウィンがすぐに次の皇帝の決定を発表したのも、衆目を逸らす役に立ったのだろう。

今回の皇帝の選定は、サバル帝国の重鎮にとってはともかく、ウィンにとっては完全にソレイユの存在を僕に渡す為の隠れ蓑だったのだ。

帝都を出た後、西部を出るなら港から船に乗るのが普通である。

だが船は、港に辿り着いて乗り込んだからって、すぐに出発してくれる訳じゃない。

水や食料の補給に、運ぶ商品の手配に、それら全てが済んだ後、ゆっくりと港を離れるのだ。

もし帝都から、ソレイユの存在を察した誰かが追手を放てば、場合によっては船という閉鎖された空間で、僕は襲撃を警戒し続けなければならなくなってしまう。

自分の身を守るだけならともかくとして、ソレイユを抱えた状態では、僅かなリスクも背負いたくなかった。

また小さなソレイユに海での長い船旅は、身体への負担が読み切れなかった。

食事にアプアの実を摩り下ろして飲ませれば、健康を害す事はないと思うが……。

リスクを背負いたくないと言うなら、陸路も当然ながら論外だ。

間違いなく追っ手は来ないけれど、西部と西中央部の陸路を塞ぐ危険地帯、霧の山脈と死の回廊には追手よりも手強い魔物がひしめいている。

僕一人ならともかくとして、やはり小さな子供を連れて挑むべき場所じゃなかった。

そうなると残る手段は空しかない。

不死なる鳥、ヒイロの背中に乗って空を行けば、ソレイユを狙うのがどんな権力者だったとしても、決して手は届かないから。

僕はエルフ達と別れて北西に向かって移動しながら、人里から遠く離れた場所で魔術を使って空に浮かび、呼び寄せたヒイロに回収された。

小さなソレイユは、ずっと機嫌よく僕に身を預けてくれている。

急ぐ旅路にも、更には空の上を飛ぶ事にも、恐れを見せずに辺りを見回し、それから僕の顔に視線を戻しては、嬉しそうに笑うのだ。

やっぱりこの子は、ウィンの子供なのだなぁと、改めてそう感じた。

僕と出会ったばかりの頃、ウィンはあまり我を表に出さない子だったけれど、それでも旅を厭わなかったし、特に船から見る周りの景色には、目を輝かせていたから。

本当に強い子である。

いやぁ、しかし僕がお祖父ちゃんか。

何だか少し笑ってしまう。

以前、アイハに自分達は何なのかと問われた時、僕はカエハの子であるシズキやミズハも、その子のトウキやソウハも、更にその子供達に対しても、孫って感覚はわからないから、全てが子供達って感覚だった。

でも今は……、間違いなく僕はこの子、ソレイユを孫だと認識してて、お祖父ちゃんになっているのだ。

あぁ、アイレナには土産を探して帰るって言ってたけれども、その土産が孫になるなんて思いもしなかった。

彼女は何て言うだろう。

呆気に取られた顔をして、それから笑うのだろうか。

それとも、全てをわかって待っててくれるのか。

アイレナがこの子の存在を知ってる筈はないのだけれど、彼女だったら、ウィンからの手紙に色々察しててもおかしくはないなぁとも、そう思う。

『実に楽しそう、……いえ、嬉しそうですね』

ピョロロと、鳴き声と共にヒイロが思念を伝えて来る。

嬉しい。

そりゃあもう、嬉しいに決まってるじゃないか。

この子の抱えた事情は重い。

ウィンだって、本当はソレイユを自分の手元で育てたかっただろう。

その辺りに関しては、僕も思う事は沢山あった。

せめてもっと早く、子が胎に宿ったと分かった時点で僕に頼ってくれてれば、ソレイユの母だって助けられたかもしれない。

毒も病も、暗殺者だって、僕なら何とかできただろうに。

だけど嘆いたところで今更だ。

ハイエルフであったとしても、時間を過去に巻き戻せはしない。

だからもう、そんな重たい事情は全部投げ捨てて、ただ一人のエイサーとしてこの子を見れば、孫の存在が嬉しくない筈がなかった。

ウィンが背負った国、しがらみを捨てられなかった分、僕は何も背負わずにこの子を見よう。

今の僕にできるのは、祖父として、預かったこの子を全力で愛して育てるのみ。

僕の祖父といえば、実はもう精霊になってしまった深い森のハイエルフ、長老だったサリックスになるのだけれども……、僕がそれを知ったのは、彼が精霊になった後である。

彼は良き理解者ではあったが、祖父だと知って接した事はない。

あぁ、僕とソレイユの関係はどのような形になるのだろうか。

僕とソレイユは祖父と孫だが、同時に親代わりもしなきゃならない。

苦労はきっと多いだろう。

でも、それ以上にきっと喜びも多いと分かってるから、嬉しくて楽しみで、堪らなかった。