軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

313

帰宅したアイレナと食事を取り、彼女が土産に持って帰って来てくれた葡萄酒の香りを楽しむ。

パンタレイアス島の良いところは、情報以外にも大陸各地の酒が集まってくる事だ。

ゆっくりとした時間を楽しんでると、

「あ、そういえばエイサー様、手紙が届いてましたよ」

ふと思い出したように、アイレナが僕宛の手紙を渡してくれた。

はて、一体誰からだろうと封蝋を確認する。

するとそれは、ヨソギ流の、アイハが建てた刀の、今ではヨソギ一刀流を名乗る道場からの手紙だった。

前にあの道場を訪れたのは当主の代替わりの時だから、確か七年程前だろう。

今のヨソギ一刀流の当主はかなり練り上げた実力の持ち主で、手合わせがとても楽しかった事を鮮明に覚えてる。

しかし今の当主はまだ若いから、代替わりの話でもなかろうに、僕に一体何の用事があるのか。

封を切り、中の手紙に目を通す。

ちなみに、封を切ったペーパーナイフも自作である。

ペーパーナイフに鋭すぎる切れ味は要らない。

何故なら鋭すぎるナイフで封を切れば、時に中の手紙を破損してしまうから。

敢えて切れないナイフを作る。

それはそれで中々に面白い作業で、興がのった僕は装飾の多い、宗教の祭祀にでも使われてそうな見た目のペーパーナイフを作ってしまった。

まぁ、さておいて、手紙を読んだ僕は、思わず眉根を寄せて考え込む。

手紙の内容、ヨソギ流の相談役への要請が、かなり微妙な代物だったからだ。

仮に他の道場の当主からの要請なら、僕は即座に断りの手紙を書いただろう。

僕に頼む前に自分で動けと。

でも今のヨソギ一刀流の当主は、先程も述べたけれど本当に練り上げた実力の持ち主だった。

本来ならば、僕に頼むよりも自分で動いた方が早い筈。

にも拘らず、敢えて僕に頼むというなら、それなりの理由がある筈だから。

「エイサー様、私も同行しましょうか?」

ヨソギ流からの手紙という時点で、僕が出掛ける事は察したらしい。

そんな風に問うアイレナに、僕は首を横に振った。

忙しい彼女だが、僕が同行して欲しいと頼めば、どうにかして時間を作ってくれるだろう。

もちろんそれは、とてもありがたい事なのだけれど、

「いや、今回はちょっと、血生臭い事になりそうだからね。話を聞いて、気乗りしなければすぐに帰ってくるし、……そうでなくてもすぐに終わらせて戻るよ」

この件にはアイレナを巻き込みたくはなかった。

何しろ今回は、どうやら僕が人を斬る可能性が高そうだったから。

その姿を敢えて彼女に見せ付けたいとは、僕にはどうしても思えない。

翌日、船に乗り込んだ僕はヴィレストリカ共和国へ、そこから更にエルフのキャラバンから馬を借りてルードリア王国へと向かう。

この東中央部の地図も、新しい名前がずいぶん増えて、代わりに知った名前が幾つか消えた。

ヴィレストリカ共和国にルードリア王国、この二つの名前も、何時まで地図の上に残ってるだろうか。

馬が疲労を溜めない程度の急ぎ足で歩かせて、僕がルードリア王国のペレトアという町に辿り着いたのは、僕が手紙を受け取ってから二週間が経った日の事。

ルードリア王国内でも南西部に位置するこの町に、ヨソギ一刀流の道場はあった。

できる限り急いで、……不死なる鳥のヒイロの力を借りたりしない範囲で、できる限り急いでこの町へとやって来たけれど、件の要請の件が既に片付いてしまってる可能性も皆無じゃない。

僕は二週間でペレトアに辿り着いたが、しかし逆にこの町からパンタレイアス島へと手紙が届くには、きっとその倍以上の時間は掛かっただろうから。

まぁ、今回の件は僕が無駄足だったなら、それに越した事のない話ではあるのだが。

「お久しぶりです。今回は相談役殿を呼び付けてしまい、誠に申し訳ありません」

道場で僕を出迎え、深々と頭を下げたのは、今のヨソギ一刀流の当主であるミナギ・ヨソギ。

当主を継いだのが二十代の半ば、それから七年たって今は三十代の前半と若いが、その振る舞いには隙がない。

「構わないよ。他の当主なら、そんな事も自分で片付けられない程に腕に自信がないなら、当主たる資格なしって断るところだけれど、君の腕でそれが成せない筈がないって事は知ってるから、何か理由があるんでしょう?」

僕がミナギの呼び出しに応じたのは、その理由を聞く為だ。

前にも述べたかもしれないけれど、ミナギの腕はヨソギ一刀流だけでなく、他のヨソギ流も含めても今は一番高いだろう。

あぁ、もちろんそれは僕やウィン、人間が生きられる時間を越えて古くから、ヨソギ流の剣を振ってる例外を除いての話である。

ただ例外を除けば一番の実力者であるミナギは、王都にあったヨソギ流が貴族となった時、真っ先に分家として本家を支えると宣言した。

剣士が、自分より実力の劣ると分かってる相手の下に立つ。

そこに何も思わぬ筈がないだろう。

だがミナギという当代で一番の実力者が真っ先に相手を本家として認めた事で、もう一つのヴィストコートにあった道場も、それからヨソギ流の鍛冶衆も、本流と言うべき王都のヨソギ流の下に立ち、分家として支える事に納得したのだ。

もしもミナギがそうしなければ、ヨソギ流の中で争いが起き、多くの血が流れてもおかしくはなかったと僕は思ってる。

それくらいにルードリア王国が与えた貴族位と領地は、ヨソギ流を大きく揺るがした。

……もう、済んでしまった話だけれども。

そしてそういう経緯があったから、僕は今回のミナギの要請に応じてここに居る。

自分の代わりに弟子の一人を斬ってくれって頼みにも、何らかの理由があるのだと信じて。