軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30

タコは内臓を取り除いてから、何度も塩で揉んでぬめりを取り、水で綺麗に洗ってから茹でる。

それから適当な大きさにぶつ切りにすれば完成だ。

醤油があれば最高だけれど、なくても別に十分美味しい。

「うまー。食感がね。良いね。ほのかな塩味と風味がね。うん。お酒欲しくなる味」

本当に食べるのかと顔色を蒼褪めさせてるドリーゼを無視して、僕はバクバクとタコを口に運ぶ。

タコの美味しさを広める心算なら、姿を隠せる料理にした方が良いのだろうけれども、僕が食べる分にはこれで充分だ。

仮にタコ焼きを作るにしても、今から鍛冶場に籠って作業をし、凹凸のある鉄板を用意するのは、正直面倒臭い。

あぁ、確か熱伝導の関係で、銅板の方が良いんだっけ?

「いや、少し味見したけどな。確かに美味かったぜ。八足も研究すれば色々作れそうだな」

そう言ってテーブルに辛口のシードルを置いてくれたのは、タコを調理してくれた店主のグランド。

どうやら彼は料理人だけあって、僕に提供する前に味を確かめたらしい。

「うぇ、マジかよ。…………なぁ、エルフの兄さん。ちょっと貰って良いか?」

幼馴染らしいグランドの言葉に興味が湧いたのか、躊躇いつつもドリーゼがタコに手を伸ばす。

僕としても、これは元々ドリーゼが獲って来てくれた物だから、多少食べられたところで文句はない。

全部食べたらマジ怒るけれども。

「後はイカ、……十足だっけ? も美味しいよ。内臓とか吸盤取って、塩水で洗って日に干して、それから焼いて食べるとか」

慣れぬ食感と口の中に広がる風味に目を白黒させてるドリーゼを横目に、僕はグランドに教える。

実に悲しい事にドリーゼは、八足も十足も同じだろなんて馬鹿な台詞を吐いて、タコしか獲って来てくれなかったのだ。

いや、タコを獲って来てくれただけでも十分に感謝はしているけれど、何と言うか彼はどうにも粗忽者だった。

僕の言葉に、グランドの瞳が好奇心に輝く。

「おい、ドリーゼ。何で十足は獲って来なかったんだ。すぐに行ってこい。今すぐにだ」

なんて無茶を言ってるけれど、僕としては食べられるならイカは後日でも構わない。

だってタコがとても美味しいから、今日の所は既に満足だ。

それにどうせ海産物を食べ飽きる迄は、暫く滞在する心算だし。

その為にもドリーゼには、些事に心煩わされる事なく漁に専念して貰いたい。

宿や市場で話を聞いた所、このサウロテの町で起きてる問題はすぐに知れた。

今、このサウロテの町では、大型の船で交易を行う商人と、小型の船で近海漁業を行う漁師の間で、港の使用権を巡った深刻な対立が起きてるそうだ。

元々サウロテは、長く漁業で生計を立てていた町である。

サウロテで古くから漁師達を纏めてきた名家は、パステリ家。

パステリ家はヴィレストリカ共和国の議会に議席を持っており、地元での尊敬を集める名家だ。

しかしこのパステリ家のサウロテにおける支配体制は、この町に別の名家、トリトリーネ家が拠点を築いた事で大きく揺らぐ。

トリトリーネ家はパステリ家と同じく議席を持つ名家だが、その生業は漁業ではなく商業だった。

ラーレット商会等、多数の商人を取り纏めるトリトリーネ家は、新たな交易拠点としてこのサウロテに目を付けたのだ。

それでも最初は、パステリ家もトリトリーネ家も、共に手を携えてサウロテの町を発展させたらしい。

交易の為に町を訪れる人が増えれば、食料として魚も売れる。

魚が売れれば漁師も潤う。

だが何時からだろうか。

手を取り合っていた両者の関係にも、少しずつ亀裂が生じだす。

例えば交易を行う船は喫水が深いから、もっと港を深くする工事をして欲しい。

もっと多くの商船を招き入れたいから、広く港を使わせて欲しい。

小さな漁船なら港じゃなくても、砂浜からでも海に出られるだろう。

もっと港を広げれば、この地に訪れる商船は増える筈。

だったら砂浜を工事して港にしてしまえ。

……なんて風に。

僕にはこれが海辺で良く起きる問題なのかどうかはわからないけれど、少なくともこのサウロテの町ではこれ等が火種となって争いが起きた。

議席を持つ名家が一つだけなら、一方が他方を駆逐して、問題は素早く片付いた筈。

でもサウロテの町に、今は名家は二つあり、それぞれの立場はまるで真逆だ。

故に対立は深刻化し、時には暴力を伴う事件すら起きてしまってる。

ドリーゼは喧嘩っ早いが腕っぷしが強く、面倒見が良い性質も手伝って、若手漁師の纏め役の様な存在だ。

だからこそ報復と言う形で彼をリンチにかけて見せしめとする事で、漁師達を委縮させてしまおうと言うのが、ラーレット商会の計画だったのだろう。

実に面倒な問題であった。

何が面倒って、人をリンチにかけようってやり方は最悪にしても、問題の根本的な部分では悪と断じられる存在が居ない事である。

商人側も漁師側も、自分たちの生活を守ろうと、良くしようとしてるだけで、それ自体は決して悪ではない。

また商人側も漁師側も、互いに対立はしていても、相手が完全にいなくなってしまっても困るのだ。

例えば商人が全て撤退すれば、サウロテは元の漁業だけの町に戻るだろう。

しかし一度は町の繁栄を経験した漁師達が、それを忘れて元の生活に戻るには長い時間が必要だった。

逆に漁師達が駆逐されれば、この町を訪れる商船の乗組員、商人を食わせる為の食糧が不足する。

勿論食糧を他所の町から運ぶ手もあるけれど、この町を交易拠点とする旨味は確実に減ってしまう。

それに船を使って雑多な人々が訪れるサウロテの治安が保たれているのは、パステリ家が腕っぷしの強い漁師を使って治安維持に一役買っているからでもあった。

要するに両者は、対立しながらも持ちつ持たれつやっている。

それ故に問題は、何時までも解決の兆しが見えない。