軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

295

真っ白でどこまでも広がる雲の上に、ヒイロがふわりと着地する。

いや、この場合、着地って言葉が正しいのかどうかわからないけれど、雲は柔らかそうな見た目と裏腹に、ヒイロの大きな身体が乗っても全く揺らぐ事なくそれを受け止めた。

……まるで、前世で見たアニメのような、幻想的な光景だ。

もうそれがどんなアニメだったのか、内容は全く覚えてないけれど、雲の上の世界は、それ程に現実感がない。

だけど僕は首を振って、その考えを頭から追い出す。

どんなに現実感がなくても、今、目の前にあるのは、僕が生きてる現実だった。

雲がどんなにふわふわに見えても、僕の頭の中までふわふわとしていていい筈がない。

意を決してヒイロの背を降り、雲を踏む。

思ったよりもずっと硬い感触に、少しばかり安堵する。

それを構成してるのは、普通の雲と変わらず水だ。

精霊と感覚を共有できる僕が、それを間違える事はない。

だったら何故、精霊の助力も得ずに雲を足場として立てるのか。

思い当たった可能性は、まず魔術。

しかしそれを、僕の勘は、いや、感覚は否定する。

自然の力の中でも、最も変化をし易い、つまり扱い易い要素である魔力のみを用いた術で、僕が立つ足場はできていない。

この高き場所に雲を作り、固めて足場としている力は、自然の力その物。

一部だけじゃなくて全ての要素を活かして用いてて、それは精霊の力の行使と変わらなかった。

もちろん精霊の仕業じゃない。

それならもっと、僕にはハッキリと詳細がわかる。

僕の知る知識の中で、この雲を作り上げた何かに最も近いのは、……仙人達が操る仙術だろう。

彼らは精霊には及ばぬが、自然に術理を以て干渉し、現象を引き起こす。

それは魔術とは違い、自然の力の要素を全て活かした術である。

……考えてみると、仙人は凄い。

何しろ自然の力は、古の種族と同じく創造主が生み出した、不出来な弟妹である神々ですら、扱い難いと一部の要素のみを抜き出して使おうとしたのだ。

その神々の被造物である人が、自然の力を活かした術を扱う。

実に皮肉な話である。

とはいえ、巨人が自然の力を操れるのは、決して驚く事ではないだろう。

不死なる鳥も、竜も、やはり力の扱いには長けていた。

精霊はもちろん自然の力を誰よりも上手く扱うし、ハイエルフは精霊を通してではあるけれど、同じく自然に干渉できる。

ただ少しばかり、巨人の力の扱い方は、僕が見た事のある仙術に酷似し過ぎてた。

精度にはそれこそ天と地くらいの開きはあるが、仙術は巨人の力の使い方をモデルにしたのだと言われれば、納得しそうになる程に。

いいや、実際にはモデルにした程度で模倣できるような代物じゃないから、巨人が力の使い方を教え伝えたのだろう。

恐らくは魔族を生み出したのと同じように、実験の心算で。

そして巨人と仙人の繋がりは、多分、今も切れてない。

何故なら、黄古帝国で出会った仙人の一人、王亀玄女は、扶桑の国に住む鬼が、巨人が匿った魔族の生き残りだと僕に教えてくれた。

だけど彼女は、一体それをどうやって知ったのか。

僕は扶桑の国を旅したけれど、現地の住人からその話を聞いた事は……、確かなかったように思う。

匿われた魔族の子孫となる鬼ならば、その話は語り継いでるだろう。

故に僕は、これまで王亀玄女は鬼からその話を、どうにかして聞き出す機会があったのだと考えていた。

でも巨人と仙人の間に繋がりがあるのだとしたら、鬼が魔族の子孫であるという話は、巨人から伝わったのだと考える方がしっくりと来る。

尤も、だからといって僕らの行動に何らかの変化がある訳じゃない。

ヒイロの背を降りるアイレナに手を貸してから、僕は両の手を一つ打ち鳴らす。

すると雲の上を風が吹く。

これは僕らの来訪を巨人に報せる先触れの風。

本当なら、やはり風を用いて雲の上を調べる事も、ここに来るまでは考えていたのだけれども。

……どうやらその必要はなさそうだし、巨人へと先に挨拶だけをしておけば、それでいい。

「さて、行こうか」

僕はアイレナにそう声かけて、歩き出す。

雲はしっかりと踏みしめられるとわかったが、しかしながら、大地のように平らではなかった。

細かく、或いは大きく凸凹としていて、丸みを帯びてる。

身体が大きいのであろう巨人にとっては、そんな凹凸なんて無視できるのかもしれないけれど、僕らにとっては延々と岩場が続いているのと変わらない。

躓かないように注意して、もしくは大きな出っ張りを乗り越えて、苦戦しながら前へと進む。

目指す先はこの雲に聳え立つ、雲の端から見ても一目で分かる、山程に巨大な、城のようにも神殿のようにも見える建造物だ。

探索の風が必要ないくらいに目立つあそこに、雲の上の主である巨人が住んでいない訳がないだろうから。

先程、自分を戒めたばかりなのだけれど、……本当にアニメみたいだと、もう一度だけ、そう思う。