軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

291

アイレナと二人、高く険しい山々を歩く。

互いに手を貸し合い、時には精霊の助力も受けながら、僕らは北を目指してる。

でもこの旅に、大きな意味がある訳じゃない。

単に、そう、不死なる鳥であるヒイロを呼ぶのは、ドワーフの国から北に行った場所にある、高くて険しい火山が相応しい気がしたのだ。

それに火山地帯にはとても手強い魔物が出た覚えがあるから、肉を得る為に狩りをすれば、アイレナとの連携を確認するにも丁度良い。

また火山地帯の手前には、僕が以前に掘って、ドワーフ達が整備した温泉もあった。

何が起きるかわからない雲の上に向かう前に、温泉に浸かって逸る気持ちを和らげたいと、そんな風に思ったから。

「エイサー様、今回は私の願いを、白の湖を探すという難題を、叶えていただき、本当にありがとうございました」

だけど歩く最中、アイレナが、ふとそんな言葉を口にする。

それは随分と気の早い感謝の言葉。

だから僕は思わず笑ってしまって、

「それを言って貰うのは、まだ少し早いかな。雲の上で、巨人が素直に白の湖にまで案内してくれるとは限らないしね」

大きな段差を越える彼女に手を貸しながら、軽く首を横に振る。

でも僕の手を掴んで段差を乗り越えたアイレナは、そのままこちらをジッと見詰めて、

「いいえ、ならば尚更、今、お礼を言いたいのです。私達の夢物語は、そのまま夢物語のままに終わる筈でした。いえ、実際にそう終わりました」

少し声を震わせてそう言った。

あぁ、私達と言うのは、アイレナだけじゃなく、クレイアスとマルテナか。

三人で見た夢物語は、あの二人が既に死んでしまったから、夢物語のままに終わった。

「後に残ったのは、ただの私の心残り。なのにそれを晴らしたいという私の我儘に、エイサー様は大陸中を巡って、雲の上への道を拓いて下さいました。言い伝えの、不死なる鳥まで探し出して」

なるほど、どうやらアイレナは、僕にもう十分だとでも言いたい様子。

驚いた事に、彼女程の冒険者であっても、不死なる鳥や巨人という伝説が現実となって目の前に立ちはだかってくると、弱気になってしまうらしい。

ただそれは、アイレナが自分の命を惜しんでの弱気ではないのだろう。

僕は、ハイエルフは大きな力を持っているけれど、それはこの世界に生きる多くの生き物と比較しての話だ。

同じく創造主が直接生み出した、古き種族の中で言ったなら、恐らくハイエルフは一番脆弱な存在だろう。

つまり簡単に言えば、これから会う事になるであろう巨人は、僕より強い可能性が高かった。

それは巨人が僕に敵対的な反応を示した場合は、大きな命の危険があるって意味だ。

故に彼女はこう言いたいのだろう。

大きな命の危険を冒してまで、自分の心残りに付き合ってくれなくて良い。

もう十分なのだと。

しかしそれは僕にとって、実に聞く価値のない言葉だ。

だから僕はアイレナの言葉の続きを遮って、

「でも、アイレナは行きたいんでしょう?」

逆に彼女にそう問うた。

答えは、聞かずともわかってる。

冒険者であるアイレナが、雲の上という未知の世界を前にして、立ち止まれる筈がない。

彼女の弱気は、あくまで冒険者でもなんでもない僕を、自分の我儘に付き合わせて死なせたくないとの思いから出た物。

だが僕に言わせれば、それは幾ら何でも僕を舐め過ぎだ。

いいや、僕だけじゃなく、僕のこれまでの旅路を侮っていた。

アイレナに、その心算がなかったとしても。

確かに僕は多くの事柄に力で対処が可能だろう。

けれどもこれまでの僕の旅路に命の危険がなかったかと言えば、決してそんな事はない。

強力な魔物を相手に戦い方を誤れば、命を落としていたケースは幾つもある。

仙人や竜と敵対すれば、危険地帯の環境に適応できなければ、或いは僕はここに居なかった。

雲の上にどんな危険が待ってるとしても、そんな事は今更だ。

もちろん、僕と一緒にその旅をした訳ではないアイレナに、それを理解しろというのは難しい話である。

どうしたって現実的になって来た、雲の上で待つ巨人の脅威の方が、大きく思えてしまうのだろう。

故に彼女の心配を、別に咎めようとは思わない。

お互いに異なる道を歩いているのだから、共有できない物はあって当然だ。

アイレナが僕と一緒に雲の上に行き、僕に何かある事を恐れるように、僕だって彼女だけを雲の上に行かせて、帰って来ない事を恐れる。

その気持ちには、妥協する余地がない。

ならば僕は、僕の気持ちを優先させる。

何より、ここまでお膳立てをして、雲の上に行くのだけはお預けなんて、そんなの真っ平ごめんだから。

「だったら僕も雲の上に行くよ。白の湖は僕も見てみたいし、巨人にも興味があるしね。そもそもヒイロ、不死なる鳥が、僕抜きでアイレナをちゃんと運んでくれるかって微妙な所だし」

ただ僕は何時もの調子でアイレナにそう告げ、再び北に向かって歩き出す。

これ以上の問答は無用であった。

「……はい、わかりました。いえ、知っていました。貴方は、全く本当に、もう、そういう事は絶対に譲って下さらない方でしたね」

僕の後ろを付いて来る彼女が、そんな風に溜息を吐く。

理解いただけて何よりだ。

そう、この件は、僕は絶対に譲らない。

「ですがご理解ください。もしもエイサー様に何かがあれば、私は貴方に白の湖の探索をお願いしてしまった自分を、もしかするとあの二人と他愛のない夢物語を見てしまっていた事さえ、許せなくなってしまいますから」

アイレナの言葉に僕は一つ頷いて、だけど言葉は返さず、黙々と歩き続ける。

火山まではまだ少し掛かるだろうが、途中で立ち寄る心算だった温泉は、もうそんなに遠くはなかった。