軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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アイレナから返事の手紙が届いたのは、僕がドワーフの国にやって来てから、八ヶ月が過ぎた頃。

僕の知らぬ顔も多くなったドワーフの交易隊が、ルードリア王国から荷と共に、その手紙を運んで来てくれたのだ。

本人よりも先に手紙が届いたのは、アイレナが今はとても多忙だからだろう。

そして彼女の多忙さの原因は、その大半が僕にあった。

というのも東中央部は争乱も収まり落ち着いたけれど、エルフのキャラバンの活動が、東中央部という地域を越えて拡大し始めているから。

もちろんそれは、大樹海の向こう側、普通に移動するならば船が必須となる地域である、西中央部にあるエルフの国、シヨウへの支援、交易をおこなう為である。

エルフのキャラバンはヴィレストリカ共和国で最新の交易船を買い、熟練の船乗りを雇って海を渡る手段を手に入れて、西中央部への道を開いた。

その規模はもはやキャラバンというよりも、一つの大きな商会と言った方が良いのだけれど、彼らはキャラバンを名乗り続けてる。

わざわざ危険な海を越え、エルフのキャラバンがシヨウの国を援助しようとしてるのは、同胞の縁があるから以上に、僕がそうして欲しいと頼んだからだろう。

エルフの国であるシヨウが、西中央部の中で孤立した孤独な存在ではないのだと、シヨウにもその周辺国にも知らせる為に、エルフのキャラバンの力を貸して欲しいと。

僕はシヨウの国から西部へと向かう前に、そうアイレナに手紙を書いた。

故に彼女が忙しく東中央部と西中央部を何度も行き来し、航路や交易路を確保し、運ぶ品々を決めたり遠出をするキャラバンのメンバーを選出しているのは、僕の願いを叶える為だ。

にも拘らず、その願いをした当人が、いつの間にか西部から帰還し、ドワーフの国に辿り着いたと知ったアイレナは、さぞかし驚いたと思う。

いや、でも僕だって、まさか不死なる鳥のヒイロが西部まで迎えに来てくれるなんて考えてもなかったから、今の状況は想定外だったのだ。

もしも帰りも徒歩だったなら、恐らくシヨウの国には立ち寄っただろうし、エルフのキャラバンともそこで合流した筈である。

尤もその場合は、ヒイロが成長してたかどうかも不明だから、すぐに雲の上に旅立とうなんて話にはならなかったけれども。

手紙には、今抱えてる問題を解決してシヨウの国への交易路を安定させるまで、二年か三年は待って欲しいと書かれてた。

雲の上には直ぐにでも白の湖を探しに行きたいけれども、西中央部の同胞との繋がりを安定した物とするまでは、どうしても手が離せないからと。

当然ながら、僕がそれに否という筈もない。

そもそも頼んだのは僕なのだから、アイレナが個人的な望みを後回しにしてでもそちらを重視してくれている事には、感謝しかないのだ。

雲の上には何時でも行ける……、とまでは言わないが、連れて行ってくれるヒイロは僕以上に長生きだから、二年や三年の時間は誤差でしかないだろう。

ただ一つだけ悩ましいのは、実はエルフのキャラバンとシヨウの国には、これから先、西部の状況が落ち着いたなら、あの地のエルフ達の支援も頼みたいという事。

まだまだ先の話とはいえ、ただでさえ忙しそうなアイレナに、それを頼むのは些か気が重かった。

恐らく快く引き受けてくれるのはわかっているのだけれども。

西部の状況を変えつつあるウィンは、既に多くの種族の代表となっているから、エルフにばかり手を割く事は難しい。

だからこそ西部のエルフ達には、他の地域のエルフの手助けが必要である。

西中央部も西部も、エルフ達が自分の森で、以前のように暮らせるようになる為には、多くの時間と支援がどうしても必要だった。

長い時間を生きるエルフが森に住み、その環境を安定させて繁殖による魔物の増加を抑えたならば、それは世界の終焉を遅らせる事にも繋がる筈。

僕も雲の上で巨人に会った後は、エルフ達が元の生活を取り戻せるように動く心算だ。

まぁ何にせよ、僕がアイレナと雲の上に向かうには、まだ少しばかりの猶予がある。

今はドワーフの国で過ごす時間を、のんびりと楽しむ事にしよう。

最近は、鍛冶の合間に少しずつだが石を削っての彫刻も進めていた。

モデルはもちろん、今も実物が目の前にいるアズヴァルド。

ドワーフは年齢の変化がわかり難い種族だが、それでも出会った頃に比べれば、彼はもう髪も白いし老いを感じる年齢だ。

でも若かろうと老いようと、アズヴァルドには一目で彼だとわかる、彼らしさがある。

僕はそれを、どうにか形として表現したかった。

ちなみに地下都市に暮らすドワーフ達は、当然ながら石を彫る技術にも長けている。

しかし面白い事に、人の姿をした彫像は、あまり作られないとの事だった。

というのも彫像のモデルになるのは大抵は功績を残した人物、偉人と呼ばれるような人々だが、ドワーフの偉人と言えば鍛冶師か戦士が殆どだ。

そして鍛冶師の場合は自分の似姿よりも作品を遺すし、戦士であるなら愛用した武器や鎧を武勲と共に遺す。

故にドワーフの偉人達は、自分の姿を残す事に頓着しない。

だからこそ逆に、エルフのキャラバンがこの地を訪れた時、レビースの描いた子供達の似顔絵が、物珍しさも手伝ってドワーフ達には大いに喜ばれたのだとも思う。

間違いなくドワーフの偉人となるだろう、王にまでなった鍛冶師のアズヴァルドは、僕が彼をモデルに彫像を作り始めた時、何とも微妙そうな顔をした。

呆れと照れの入り混じった、本当に何とも言えない表情を。

でもアズヴァルドは僕との付き合いが長いから、僕がそうしたい、そうしようと決めたなら、何を言っても無駄である事はよく知ってるから、

「好きにせい」

とそう言って、文句も言わずにモデルになってくれている。

以前も思ったけれども、ドワーフの髭は実に細かくて再現するのに神経を使う。

だがそれは表面的な、物の形を整える技術的な難しさで、それよりも問題となったのは、アズヴァルドの彼らしさを僕がハッキリと認識し、イメージし、彫像に込める事だった。

アズヴァルドというドワーフをどう表現するか、とでも言えばいいだろうか。

僕は彼の良さを本当に沢山知っている。

ドワーフらしいドワーフでありながら、それだけでなく細やかな気遣いの心を持っている事や、懐が深く、面倒見がいいところ等々。

数えだしたらキリがないくらいには、知っているから。

その全てを彫像で表現するなんて、とてもできやしないだろう。

でもその半分……、いや、十に一つ、百に一つでも、彫像に込めて表現したい。

そんな風に思いながら、一削り一削り、ゆっくりと石を彫って行く。

完成にはまだまだ時間が掛かるだろうし、ドワーフ達は出来上がった彫像を評価してくれないかもしれないけれど、それでも別に構わなかった。

今の僕には時間の余裕はたっぷりあるし、完成した彫像にアズヴァルドが何を思ったとしても、彼はそれを決して粗略には扱わないだろうから。

僕にはそれで十分だ。