作品タイトル不明
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吸血鬼とは、仙人の成り損ないである邪仙の一種だ。
自然の力を取り込んで昇華する仙人になるよりも、他者の命を取り込む方が手軽だと、安易な外道に走った邪仙。
その中でも人の血肉と共に命を喰らうのが、この世界の吸血鬼だった。
なるほど、確かにウィンの言う通り、クォーラム教の聖教主が吸血鬼であるのなら、色々と納得は行く。
仙人は、ハイエルフである僕から見ても、不思議な術を行使するし、非常に多くの物事を知ってる。
その教えを受けた邪仙なら、若返りの霊薬なんて代物の作り方を知っていても、然程に驚きはしない。
また刃を通さぬ程に肉体を強化したり、精霊の起こした自然現象を無効化する事も、僕は目の当たりにした事があった。
聖教主が確認されてから数百年、代替わりもせずにクォーラム教を導き続けているというのも、吸血鬼であるなら簡単だ。
僕自身、その話を聞いた時には、邪仙の存在を疑ったし。
邪仙は自らが蓄えた命を他者に分け与える事もできるけれど、一度その恩恵にあずかると、供給を絶たれれば飢えた化け物、食屍鬼と化してしまう。
常に近くに居る相手ならともかく、幾つもの国を支配する為に用いるには、些か不向きな方法である。
だからこそ若返りの霊薬を対価に、広く西部に影響力を及ぼす方法を取っているのだろう。
あぁ、若返りの霊薬が仙人由来の技術であるなら、もしかして、黄古帝国で見た仙桃はその為に利用されてたんじゃないだろうか。
まだ己の力では自然の力を昇華できない未熟な仙人の弟子が修行を積める時間を少しでも伸ばす為に、若返りの霊薬は恐らく有用だ。
そんな弟子の存在なんて、僕は黄古帝国に居る間は一度も目にしなかったけれど、あの地の仙人は僕に全てを晒した訳じゃない。
だとすればその弟子が居る可能性が高いのは、僕が会ってない仙人、凰母が統治する、南の赤山州だ。
つまり凰母は雛を育てる凰で、仙人の弟子達の母という訳か。
彼らは僕に、自分達の抱える戦力の底が見えぬ様、慎重に隠していたという訳である。
もちろんそれは僕の想像に過ぎないし、真実だったとしても仙人達を責める気は毛頭ない。
余所者にある程度の手の内を隠しておく事なんて、至極当たり前の話だった。
ただこれも勝手な想像になるのだけれど、恐らくは若返りの霊薬も、服用の度に次第に効果が薄れたり、或いは服用に何らかのデメリットがある代物なのだろう。
でなければこの世界には、もっと沢山の仙人が溢れかえっている筈だし、薬で若さを保ち続けられるなら、外道に走って邪仙となるリスクを選ぶ必要性も薄い。
尤もウィンが相対した聖教主が、本当に吸血鬼かどうかは、まだ定かではない。
何故なら吸血鬼と同じ真似は、他の邪仙もだが、仙人にだって可能だから。
成り損ないである邪仙と、仙人を比較すれば、間違いなく後者の方が手強い相手だ。
真っ当な仙人が宗教を牛耳って地域を支配なんて、あまりしそうには思わないけれど、……それを言うならば黄古帝国の支配だって仙人には似合わない。
勝手な印象で敵を低く見積もるのは危険だろう。
ウィンには僕が斬った吸血鬼の話しかしてなかったから、細かい見分けは付かない筈だし。
だがそれよりも問題は、
「だけどそれでも、あの聖教主はボク等がこの手で討たなきゃ意味がないんだ」
相手を吸血鬼だと推測しても尚、ウィンが自分で戦おうとしてる事だった。
いや、もちろん僕にも、その理由は察しが付く。
聖教主はクォーラム教の象徴であるだけでなく、従う国の指導者達に若さと長寿という実利を齎す存在だった。
欲を煽り、叶える存在と言い換えてもいいかもしれない。
このまま種族の連合軍が戦争を優位に進めたとしても、聖教主が国の指導者の欲を煽り、見返りを提供し続けるなら、人間は何時までも戦いを止めはしないだろう。
また連合軍側も、人間に対しての感情は一枚岩ではない筈。
前も述べた気がするけれど、戦いを終わらせたいと望む種族もいれば、恨みが強く、人間を根絶やしにしたいとまで望む種族もいる。
そんな一枚岩ではない連合軍を纏め上げて従わせるには、誰もが認めざる得ない程に大きな功績を上げるのが一番早い。
その大きな功績こそが、クォーラム教の聖教主という、連合軍に参加する全ての種族から憎まれている存在の首だった。
そう、だからウィンが戦いを終わらせる事を望むなら、僕じゃなく、彼自身が聖教主の首を取る方が望ましい。
子が、誰かの首を取る事が望ましいなんて、我ながら嫌な考え方をしてしまっている。
だけど今の西部はそんな考え方を持たざるを得ない場所で、その状況を変えるには、この地で戦い続けて来たウィンに功績を上げさせるべきだろう。
それにウィンが、実際に聖教主と相対した時に、多くの仲間を失った事も容易に想像がつく。
感情の上でも、その仇を討ちたいと彼が思うのは、実に自然な話である。
但し問題は、……それができるかどうかだ。
実際に邪仙を斬り、更に本物の仙人を目の当たりにした僕は、彼らの殺し方も知っている。
邪仙は命の力を、仙人は自然の力を取り込んで強大な存在となっているが、彼らはそれでも生き物の範疇だった。
特殊な術で肉体を鋼のように硬化し、負傷を再生する能力も持ってるが、一瞬で死に至らしめる損傷を与えれば、やはり死ぬ。
例えば、首を刎ねても保有する力で命を繋ぐ可能性はあるが、脳を破壊してやれば殺せるだろう。
或いは蓄えた命の力、自然の力も、決して無限ではない。
本当にどこまでも広がる自然に比べれば、邪仙も仙人もちっぽけなのだ。
仮に邪仙が、森一つに匹敵する命の力を蓄えていたとしよう。
だったら空と地を成すもっと大きい自然の力、多くの精霊の力を借りて、邪仙が無になるまで擂り潰せばいい。
でも前者の方法は、僕が魔剣を扱えるヨソギ流の剣士、鋼をも断てる手段を持っていたから為せた事だし、後者の手段も、精霊に関して理解を深めたハイエルフでもない限りは不可能だろう。
せめてウィンに魔術の才があれば、魔道具を扱えるだけの魔力が動かせたなら、僕の魔剣を貸せばそれも可能だったかもしれないのだけれど……。
あぁ、でも、いや、もしかしたら、どうにかなるだろうか?
ウィンはヨソギ流の剣士で、少なくとも今の彼は、レイホンを斬った時の僕よりも、ずっと腕が立つ筈だ。
それにウィンには、魔術の才はないけれど、その代わりと言ってはなんだが、ドワーフ達から同胞と認められた証、ミスリルの腕輪がある。
思いを巡らせてみれば、本物の仙人ならともかく、邪仙ならばどうにかなりそうな材料が、揃っているような気がした。
この地にはドワーフもいる。
そうでなくても、ウィンだって僕と同じ師から鍛冶を学んでいるのだ。
試してみる価値は、あるかもしれない。