軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「精霊が急に活気付いたので何があったのかと思いましたが……、噂では聞いていましたけれど、まさか本当にハイエルフの御方がこの国にいらしてたなんて、驚きました」

躊躇いがちにそう口にする女エルフに、僕はちらりと横目でレアスを確認すると、彼が一つ頷いたので、目の前の彼女こそが目的のテューレであると理解する。

しかし、エルフから見るとハイエルフが光って見える事は知ってたけれど、精霊も活気付くから、近寄っただけでもバレるのか……。

少しばかりショックである。

もしかしてアイレナや他のエルフ達も、ずっと僕が居ると精霊が活気付く事は知ってたけれど、ハイエルフである僕ならば、精霊の反応なんて気付いてて当然だと思って口にしなかったのだろうか?

いや、うん、でもハイエルフである僕にとって、ハイエルフが近くに居ない時の精霊の様子なんて知りようがないのだから、言われなければわからないのだけれども。

あぁ、だけどエルフからではないけれど、人魚のミズヨには近い事を言われた覚えがある。

えぇと、確か、『水がとてもはしゃいでる』……だったっけ。

扶桑の国の事は、もう既に懐かしく感じてしまう。

ミズヨはきっと健在だろうけれど、ゴン爺は流石にもう居ないだろうし……。

でも今は、判明した事実にショックを受けてる場合でも、過去の思い出に浸ってる場合でもない。

僕はテューレに向かって一つ頷き、

「見ての通りだよ。僕も君の事を聞いて会いにきたんだ。でも話に聞いてた以上だね。どの作物も、本当に見事に育ってる」

彼女に向かって手を差し出す。

もしかすると、人間と長く関わったというテューレなら、理解してくれるんじゃないだろうかと期待して。

すると彼女は、ほんの少しだけ考えてから、差し出した僕の手を握った。

隣のレアスは一体何をするんだと言わんばかりに目を剥いてるけれど、けれどもこれが、僕の望んだ正解、握手である。

期待にテューレが応えてくれた事に、僕は笑う。

これは本当に、大当たりだ。

周囲のエルフ達から変わり者として認識されてる彼女は、エルフを束ねる立場には向かない。

だけどイネェルダの地を囲む人間の国の動向を把握、意図を理解し、そのエルフを束ねる誰かに伝える役割、参謀や補佐ならば、テューレはきっと果たしてくれる。

また彼女がいれば、僕の望みも正しく理解されるだろうから。

「これなら人間の国からの侵略に脅えなくて済む耕作地をもっと用意できれば、食料の問題はどうにかして貰えるかな」

僕は探るように、テューレに問う。

もちろん幾ら彼女を気に入ったからといって、すぐさま補佐としての採用をするには、些か以上に勇み足が過ぎる。

だってまだ、実際に誰を補佐するのかすら決まってない。

故にまずは、今、テューレが深刻に悩んでいるだろう問題の解決に力を貸し、互いの信頼を深めるべきだ。

そして彼女が頭を悩ませているだろう問題は、イネェルダの食料不足を補うに足る作物を育てる場所、広い耕作地の確保だろう。

テューレに優れた能力がある事は、育った作物や彼女自身を見れば疑う余地は、少なくとも僕にはない。

更にエルフが農業に携わるなら、水不足や天候に関しては精霊の力を借りれば余程の異変が起きない限りは安定する。

しかしそうした能力があるからこそ、足りぬ食料を補えない事は、テューレにとって悩ましい筈だ。

食料不足がこのまま続けば、エルフの集団はやがて瓦解していく。

その未来が見えていて、またそれをどうにかできるだけの能力があるのに、土地が足りず、森を切り開けないといった理由から解決できない。

優秀であるが故にそれはもどかしく、苦痛にすら感じるだろう。

だが先程も述べた通りに僕には考えが、というよりも、物事を強引に解決するハイエルフとしての能力がある。

敵対する隣国からの侵攻の為、安全に使えぬ耕作地があるなら、国境を大きな川や山で遮ってしまえばいい。

精霊の手助けを受けた力技での解決は、僕にとって最も安易だ。

普段なら山で完全に行き来を遮断してしまうところだけれど、今回はまだしも行き来が可能な川でイネェルダの国境を遮ってしまう事を検討してる。

何故なら山で国境を遮ってしまえば完全に安全が確保され、今戦ってる戦士達は役割を失い、西中央部の状況が変わっても外を知らぬエルフ達に出る心算がなくなってしまいかねないから。

いざという時の為、エルフ達は自衛力を保持しておくべきだし、外への関心も捨ててはならない。

一方、川で国境を遮れば、橋や船で渡る事は可能だろう。

でも水の精霊の力を借りたエルフは、イネェルダの国土に敵を引き込んで奇襲を掛けるよりも、ずっと有利に戦える。

また友好的な国、豊穣神を崇めてる国からの船の行き来は止める必要はないし、なんなら彼らが川を利用して水運をしようとした場合、エルフが手助けしてもいいのだ。

そうすれば友好的な国に対しても、エルフの存在感は増す。

もちろん手助けの対価として友好的な国からは情報や食料が手に入るだろうし、あわよくば共に敵対的な国に対して圧力を掛ける事もできる。

それはこの西中央部の変化を後押しする力となるかもしれない。

川でイネェルダの地を囲うだけでそれだけの効果が期待できるなら、やらない手はないだろう。

森の外とはいえ、自然環境を大きく変化させる行為に対する反対はあるかもしれないけれど……、エルフが小さな森を離れた事で既に西中央部の至る所で変化は起きているのだ。

エルフ達は身の安全を求めて小さな森を離れ、その結果として森には魔物が増えた。

それと同じく、僕はエルフの安全の為、川を作って環境を変える。

「もし、本当にそんな事ができるなら、いえ、ハイエルフの御方の言葉を疑う訳ではないのですが……、あまりにも話が大き過ぎて、でも、本当にそうなったら……、私の持てる力の全てを尽くし、この地が抱える問題の解決に対する一助となりたく思います」

僕の話に、レアスは衝撃を受けたようで眩暈を堪えるかのような顔をしているけれど、テューレは慎重に言葉を選びながらも、しっかりとこちらを見てそう言った。

あぁ、実にありがたい話だ。

この地が抱える問題は、食料だけではないけれど、彼女はそれを理解して、僕に自分を使っていいと言ってくれてる。

もちろんまだまだ人手、エルフの手は足りてない。

多くのエルフが暮らすこの地を安定させるには、やはり多くの手が必要になるだろう。

けれども一つずつ、一つずつそれを集めて行こう。

レアスからテューレの存在を教えて貰ったように、テューレからもまた、別の面白い、もとい優秀なエルフの存在を聞けるかもしれないから。

そうして輪を広げていくのだ。