軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ヴィレストリカ共和国の首都、ヴィッツァから南へ二日。

僕はヴィレストリカ共和国で最も大きな港から船に乗り、西へと向かう。

だけどそれは、当初予定していた密航じゃない。

正規の乗船の手配をして向かう先は、大陸の西部でも、商取引が行われるという南方の島国でもなく、西中央部だ。

それも豊穣神を崇める宗教を国教とする、僕が姿を隠さずに訪れても比較的問題のないだろう、ジルチアスという名の国だった。

わざわざ船を使うのに直接西部へ、……もとい、西部に向かう船を見付けに南方の島国へと向かわない理由は、エルフが占拠したという西中央部の国を訪れる為である。

もちろんエルフ達が自らの苦境に武器を取って立ち上がり、国を占拠したというなら、そこに僕が口を挟む筋合いはない。

しかしウィンが複数の種族の連合体に関わって西部の宗教と戦っているなら、近い問題を抱える西中央部のエルフの事情は、知っておくべきだと判断したのだ。

もし仮に、西中央部のエルフ達が何らかの形で助けを欲しているのなら、それが僕の意に反するものでなければという前提は付くけれど、力を貸す事もできると思うし。

尤もジルチアスとエルフが占拠したという国の間には、もう一国、西部の宗教を国教とするカザリアという国があるらしい。

カザリアはジルチアスとも、エルフ達とも争ってる好戦的な国だというけれど、……まぁ僕なら人里に近付かずに通り過ぎるくらいはできるだろう。

エルフを警戒してる国ならば、何時もと少しは勝手も違うだろうけれど。

……さて、船の乗り心地は悪くはなかった。

僕が大陸の東部から戻る時に乗った船に比べても広くて、揺れも少なく感じる。

それが別の大陸とも交易しているヴィレストリカ共和国の造船、航海技術の賜物か、それとも単にこの辺りの海が穏やかなだけなのかはわからない。

いずれにしても大きなトラブルはなく、船は西中央部の一国、ジルチアスの貿易港、トムハンスへと辿り着く。

親切な船乗り達には何度も、常に気を付けて行動し、できる限り早めに東中央部に戻った方がいいと忠告をされてしまったが、残念ながら僕が取る行動はその真逆となる予定だ。

何しろ僕の目的地は西部の宗教を国教とするカザリアを越えて、大きな騒動の中心地であるエルフが占拠した国。

そしてその後も更に西に向かい、西部に行こうというのだから。

船を下りた僕には、幾つもの視線が突き刺さる。

もちろんそれ自体は何時もだが、向けられた視線は単なる好奇だけではなく、強い驚きを含んだ物だ。

まぁでもそんな事を気にしても仕方ないので、僕は港の屋台を巡って歩く。

西中央部の話はそれなりに聞いたけれど、自らの目で東中央部との違いを知るのなら、まずは食べ物から入るのが一番わかり易い。

ただ港の屋台は海産物、焼いた貝や魚が殆どで、ヴィレストリカ共和国の港と大差はなかった。

他には果物の類をチラホラと見かけるくらいだが、これも多くの港と同じである。

貝や魚の味付けは、……塩の味以外にも、美味さを際立たせる酸味。

これは屋台の主人が絞ってた、レモンのような柑橘の汁によるものだろう。

つまり簡単に言えば、中々に美味い。

だがそうして屋台の海産を頬張りながら歩いていると、僕の行く手を三人の衛兵が塞ぐ。

「申し訳ない。エルフ殿とお見受けするが、我々はこの町の衛兵だ。少しお時間をいただけないだろうか」

さて、一体何用だろうか。

船を下りる際に港町に入る手続きは受けたし、それ以降は単に屋台の海産物を食べてただけである。

衛兵に捕まりそうな事はしていなかった。

ここが北の隣国、カザリアだったなら、僕を捕まえて奴隷にしたいのだろうと察しもするが、ここは豊穣神を崇める宗教を国教とする国、ジルチアスだ。

また衛兵達からも、妙な欲望や悪意の感情は伝わってこない。

……まぁ、いいか。

考えてもわからなければ、相手に説明して貰えばいい。

万一の場合でもたった数人の衛兵から逃げるくらいなら、他を巻き込む恐れもないし。

寧ろこの状況は、事態が動く取っ掛かりになるかもしれないと、そんな風にも思えたから。

「構わないけど、一体何の用だろう? 見ての通り僕は今、食べ歩きに忙しいのだけれど」

僕は少し、お道化た風にそんな言葉を口にする。

その方が、どうにも緊張気味に見える衛兵達も、続きを話し易かろうと思って。

するとその態度に衛兵たちは驚いた様子で顔を見合わせ、それから少しだけ緊張を緩ませて、

「このトムハンスの港の領主様が、貴方に話を伺いたいと仰っておられます。豊穣神に誓ってエルフの方に害を与えるような事はいたしませんので、どうか招きを受けて戴けませんでしょうか?」

僕に向かってそう告げた。

あぁ、本当に大きく、事態が動く切っ掛けになりそうだ。

本来なら人間の国で支配者層、王侯貴族と関わり合いになるのは面倒だからと避けて来た僕だけれど、……あぁ、マイオス先生を相手に散々関わったし今更か。

それに今回のように問題が国、地域と規模の大きな話なら、西中央部の支配者層の事情、為人、物の見方、立場は知っておいて損はないだろう。

西中央部のエルフが、全て小さな森の管理を放棄したというのなら、恐らく彼らは、人間に二つの勢力がある事を理解してない。

まぁエルフは元々人間になんて興味がないから見分ける心算なんてないだろうし、全ての人間が敵対者であると考えてる筈。

だからこそ、ここで僕がジルチアスの、エルフに敵対的でない国家の支配者層を見極めておく事は、後から意味を持ちそうだ。

辿り着いた最初の港町でそれが叶うのは、中々に幸運だった。

もし仮にこの西中央部にもアイレナが居れば、僕がそんな事を気にする必要はなかったのだけれども。

しかしこの地で彼女は頼れない。

故に僕は、手に持った貝のつぼ焼きを大急ぎで平らげて、屋台の屑入れに貝殻を放り込んでから、衛兵達に案内を促す。

噛み締めた貝の肉は中々に美味く、ゆっくり味わえなかったのが惜しく思えたから、屋台の位置をしっかりと覚えて。

恐らくこの港町を去る前に、もう一度くらいは食べに来れる筈だから。