軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ヴィストコートに建てられたヨソギ流の道場を訪れた僕は、意外な程の歓迎を受けた。

正直、相談役なんて肩書を名乗って外の人間がやってきたなら、渋い顔をされるのが当然だと思っていたのだけれど。

……これまで僕は、こちらの道場とはあまり縁もなかったから、余計に。

不思議に思って詳しく話を聞いてみると、どうやら道場を建てたミズハが、このヴィストコートでの地盤は僕から譲られたと、常々口にしていたそうだ。

でもそれは、本当はあまり正しくない。

ミズハがこのヴィストコートで安定した地位を得たのは、まず何よりも彼女自身に才があり、また努力をしたからだろう。

他に要素があるとすれば、ミズハの母であるカエハが、同じくこの地で冒険者として活動し、名を上げた時期があった事も、何らかの影響はきっとある。

何しろカエハやミズハの独特の姿は、ヴィストコートでは目立つから。

それから、ミズハと血の繋がりのあるクレイアスも、恐らくは何かと支援をしていた筈だ。

クレイアスが冒険者相手の指南役を引退した後、その役割を引き継いだのがミズハであった事からも、それは容易に想像が付く。

比べて僕がミズハの為にしてやれた事は、魔剣を一本打ち、ヴィストコートに持ってた家を彼女に譲ったくらいである。

大きな助けをした訳では、決してなかった。

まぁヴィストコートには、以前は知り合いも多かったから、全く影響がなかったとまでは言わないが、地盤を譲ったは幾らなんでも大袈裟だ。

しかしミズハの言葉を、僕が否定する事に意味はない。

彼女とて、何らかの意図があってその言葉を口にしたのだ。

多分その意図の一つには、僕が相談役として動き易くなるって事も、含まれてるんだろう。

一体何時からミズハがその心算だったのか、少し驚いてしまうけれども。

ヴィストコートでも、僕は道場の主要な面々の前で、大陸の東部の島国、扶桑の国で知り得たヨソギ流の話を語る。

また彼らの祖先が一度は手放した刀、その製法も、彼らが望むのならば伝えると申し出た。

そう、王都の道場と同じように。

だが彼らは、ヨソギ流の話を聞けた事には喜んだが、刀を必要とはしなかった。

何故ならヴィストコートのヨソギ流は、冒険者の為の剣を目指しているから。

彼らにとって、武器は魔物と戦う為の、消耗品だ。

手入れ、修繕、補充のし易さは、彼らが武器を選ぶ上で最も重要視すべき事だという。

故に今、この道場では、ヨソギ流が刀の代替品として用いてきた直刀すらも、手放そうという動きがあるらしい。

つまりヴィストコートの道場は、王都の道場とは全く別の道を、独自に歩き始めてる。

それは実に、面白い話だった。

用いる剣が変われば、技も変わる。

いやそもそも、冒険者が魔物に対して用いるのが前提の剣技となれば、人相手の駆け引きの技は減り、魔物を打ち滅ぼせる剛剣へと、その性質は変化していく。

やがて王都とヴィストコートのヨソギ流は、全く違った剣を振るうようになる筈だ。

その違いはきっと、王都とヴィストコートのヨソギ流の、大きな溝となるだろう。

同じ名を冠し、けれども全く違う剣の存在を、認め合う事は難しい。

でもそれでも生じたその違いは、間違いなくヨソギ流の発展なのだ。

今なら生じた違いが消えるように働きかける事も、……まぁミズハの協力があれば出来なくはない。

だけど僕は、その違いを潰したくはなかった。

元を同じくし、されど異なった二つが、何かの切っ掛けに再び一つに合わされば、全く新しい何かが生まれる可能性だってある。

あぁ、そうなるように導く事こそが、相談役に期待される役割で、楽しみなんだと、そう思う。

僕がそんな風に話せば、ミズハは笑って、頷いた。

「エイサーさんは、やっぱり変わらないわね。えぇ、そんな新しい剣が生まれたら、それも見届けてくださいな」

自分には、もう見られないものだからと。

それから少しの間、僕はミズハと話をする。

といっても主に喋っていたのはミズハだ。

昔、カエハは僕の話を聞きたがったが、ミズハは自分の体験をひたすらに語った。

冒険者になってからの事、伴侶との出会い、冒険者の指南役となり、道場を建て。

子を生み、どんな風に育て、孫ができたか。

そう、まるで僕という紙に、自らの事を書き留めるように。

ミズハは昔から、快活な子だったと、思い出す。

時にシズキよりも、周囲を引っ張り回してた。

その中でも一番、手を引かれていたのはウィンだけれど。

これは、とても彼女らしい別れだと、僕は思う。

苦労はとても多かった筈だ。

話の隅々に、その苦労が滲み出ている。

シズキは受け継いだ物を大きく発展させたが、ミズハは新たな道を切り開き続けた。

最終的にはやはり道場を構える事となったが、カエハが生んだ双子の辿った道は、全く違う。

もちろんシズキには受け継いだ者としての苦労があったのだろうから、それはミズハと比べられはしないけれど。

「冒険者になって、それからこの年まで生きてきて、色んな物を見て来たけれど、……でもあの時に見た大きな木程、不思議で素敵な物は見付けられなかったの」

覚えているかと、ミズハは問う。

あぁ、僕がシズキをヴィストコートに連れて行き、帰った後、ズルいと騒ぐ彼女を、森の最奥に連れて行った時の話だ。

僕はウィンとミズハに、本来はエルフしか目にしない、霊木を見せた。

「エイサーさんは、あんな不思議な物が、当たり前の世界に生きている。とても羨ましかったわ。私も、次の生があるなら、そちら側に生まれたいわね。そうすれば、……もう少し長い時間を、ウィンとも一緒にいられたでしょうし」

そう言って、ミズハは僕との話を終える。

僕はそんな彼女の感傷を、内心を探ろうとは、思わない。

ミズハは伴侶を得て、子を得て、孫を得て、多くの者に囲まれているから、外から見て納得する分には、それで十分だ。

ウィンは、自分より遥かに成長の早いシズキとミズハに、置いて行かれたように感じただろう。

けれども置いて行く側だって、何も思わない訳じゃない。

それは、至極当たり前の話である。

幼い頃から知るシズキとミズハは、死を近くに感じる程に、老いた。

今の彼らにとって、全く変わらぬ僕は、或いは過去の生き物なのだろうか。

別れを済ませた僕は、ヴィストコートの町を出て、プルハ大樹海へと向かう。

僕にとっての過去、僕の同類、ハイエルフ達が住む、深い森を目指す為に。