作品タイトル不明
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「うーん……」
思わず唸り声をあげながら、僕は貸し与えられた、蔦と葉を編んで作られた部屋に、荷を下ろす。
いやはや、実に重かった。
何せ小国家群で襲撃を受けて返り討ちにした際に強奪した四人分の魔道具が、割と嵩張る荷物だったから。
折角落ち着ける場所を借りられたのだから、少しここらで荷の整理をしよう。
本当は集落のエルフ達に聞いた話を纏めるべきかもしれないが、まだ僕の中で上手く咀嚼し切れていない。
鍛冶で品評会に出す作品が行き詰った時、無駄に鍛冶場の掃除をしたくなる。
それに似た心理に、今の僕はなってるのだろう。
まぁさておき、あの四人から強奪した魔道具は、外套が四枚に弓が一つ、片手剣が三本に、小さな盾が二枚。
弓はともかくとして、外套や剣、盾に関しては見えない部分に術式が刻んである場合も考えて、一つずつパーツにまで分解していく。
その結果わかった事は、外套、弓、剣に関しては、あの戦いで僕が感じた通りの代物だった。
闇を纏って夜の活動での隠密性を高める外套。
強度、反発力を高める事で、常識ではあり得ない強い矢を放つ弓。
バチバチと雷を纏い撒き散らす片手剣は、剣や鎧で受け止めたなら、衝撃で相手にダメージを与え、更に大きな隙を生むだろう。
片手剣に関しては、雷を出す術式以外にも、刀身に刻まれた術式を保護する為の復元、放った雷が使い手に逆流しない為の保護等、必要な機能が揃ってる。
しかしこの小さな盾だけは、ちょっと僕の予想を裏切る代物だった。
何しろこの盾は、形は盾だが、魔道具としての機能は決して盾じゃない。
魔道具に関しては何度か述べているように、術式の形が歪めば簡単に機能を失ってしまう。
故に相手の攻撃を受け止め、つまりは衝撃を受ける事が役割である防具とは、些か以上に相性が悪いのだ。
だから僕はこの小さな盾に、一体どんな工夫がなされているのかと、一番楽しみに術式の解析を行ったのだけれど……。
この小さな盾に持たされた役割、刻まれた術式は、相手の攻撃を受け止める為の物ではなかった。
盾に刻まれていた術式の効果、発動する魔術は、発光である。
それも盾の表面のみが強く発光するように調整されてて、簡単に言えばこの盾は、相手の攻撃を受け止めるフリをして構え、魔力を通せば光を発し、敵の目を潰す為の物。
大勢が入り乱れて戦う戦場での使用を目的とした物ではなく、先日のような夜中の襲撃を行う為に製作された魔道具だ。
受ける印象的には、暗器に近い。
恐らくオディーヌの軍も、今の段階では魔道具とその使い手が、戦場を一変させられる存在であるとは考えていないのだろう。
その用途を夜襲や、もしくは暗殺に用いようとしている気配を、これらの魔道具は感じさせる。
カウシュマンは確か、魔道具を冒険者に使わせたいって思いを持っていた筈なのだけれど、あぁでも暗殺者にとって便利な道具は、冒険者にとっても便利か。
ただ僕としてはその方針をどうこう言う心算はないし、魔道具に施された工夫、術式はどれも面白く思う。
魔道具を扱う兵士の存在も含めて、カウシュマンの進めた研究は以前よりもずっと進化していた。
でもだからこそ残念に思うのは、魔道具としてではなく、弓の、剣の、盾の、……その物の出来だ。
質が極端に悪いとは、決して言わない。
量産品としては及第点だろう。
そう、量産品としては、及第点なのだ。
僕とカウシュマンは、あの時、持てる限りの技術を尽くして、炎の魔剣と、今も腰に吊るすこの魔剣を製作した。
カウシュマンの術式の知識はもちろん、僕だって間違いなく逸品である剣を打ち上げた自負がある。
その流れを汲んだ魔道具が、及第点の量産品ばかりでは、僕はどうしてもやるせない。
術式の研究、利用に関しては、確かに発展していると言えるだろう。
だけど鍛冶を疎かにされては、あの時に二人が目指した場所とは、違う所に辿り着く。
実際、物の出来もそうだが、術式を刻む技術の精度が及第点といったところだから、本当に小さな歪みで術式は機能を失う。
魔道具としての機能を保持する為の復元の術式も、それ自体が簡単に歪むようでは、正しく役割を果たせない。
つまりこれは、使い捨てとまでは呼ばないにしても、消耗品の魔道具だった。
もちろん全ての武器や防具は、使ってる間に壊れるのが、消耗品である事が当たり前だけれど、僕とカウシュマンが目指した魔剣という浪漫は、もう少し違った筈なのだ。
カウシュマンが限られた寿命の中で優先せざる得ないものがあり、理想の形を追い求められなかったとしても、それは仕方のない話である。
人間は何時までも、浪漫ばかりを追ってもいられないだろう。
ただそれでも、仮にもドワーフの弟子であった彼なら、職人やその技術への敬意を忘れる筈はないし、拘りだって持ち続けた筈。
なのに今、目の前にある魔道具からは、その敬意やこだわりが、あまり感じられない。
これは僕の勝手な感傷だが、それでも改めて、思う。
あの炎の魔剣は、カウシュマンが追い求めたロマンは、いつかオディーヌの軍から取り戻そうと。
そしてこれらの魔道具の大半は、術式の控えだけを写し取り、どこかの鍛冶場で処分する事を、僕は決めた。
だが炎の魔剣を取り戻すのも、今の情勢が落ち着いてからの話だ。
或いはもっと、何十年も先だって構わない。
なので漸く、そろそろ本題に入るのだけれど、この集落のエルフから聞けた話は三つある。
一つ目はここよりも南の、元々はカーコイム公国の領土だった場所の森が、屍人に襲われたとの話。
屍人というのは人の遺体が魔力によって魔物と化した存在で、イメージとしては鮮度の良いゾンビを思い浮かべれば、まぁ大体は間違ってないだろう。
但しこの屍人は、実は結構珍しい魔物である。
というのも遺体が魔物と化すには、かなり厳しい条件が整わなければならないからだ。
例えば損壊が激しければ、その時点で身体に染み込む魔力が漏れ出る為、特に腹部が大きく裂けた遺体が屍人と化す事はない。
故に多くの場所では亡くなった人を弔う際、腹を裂いて内臓を取り出し、壺に納めて埋葬する等、遺体が屍人にならぬように処置をする。
仮に野外で野垂れ死にが出た場合でも、獣がその大半を喰らえば、その遺体は屍人にはならなかった。
また夏場など遺体の腐敗が早い時期なら、身体に魔力が沁み込むよりも、腐り落ちてしまう方が早いから、やはり屍人にはならないだろう。
だから屍人というのは、滅多に発生する事のない魔物だった。
例外は流行病などで村一つが全滅して遺体を弔う者がいなくなったり、戦争などであまりに多くの死者が発生し、弔いが間に合わない場合か。
そうした、遺体が止むを得ず放置されてしまった場合には、時に多くの屍人が発生する事もあるという。
つまりカーコイム公国の領土だった場所の森を襲った屍人は、ズィーデンによる侵攻の際に、大量に亡くなった人々の成れの果てだと思われる。
まぁ大きな戦争が起きたのだから、当然あり得る事態ではあったが、聞いて気分の良い話ではなかった。
二つ目はアイレナ達、エルフのキャラバンが数年前からこの辺りを訪れないという事。
これもまぁ、予測していた通りの話である。
アイレナ達がズィーデンを警戒して近付いていないのか、それともこの国が入国を許可していないのかはまだわからない。
だけど僕もやはり、この国を警戒して、人里には近づかずに動いた方が良いだろう。
そして最後に三つ目だが、数ヵ月程前にズィーデンの国から、森に住むエルフ達に対して、この地に住む一員として兵力を供出するようにとの要請があったらしい。
しかも要請の手紙を持たせた兵士の部隊に、エルフの住む森を探索させるというやり方で。
森の外との窓口であるエルフのキャラバンを通した訳でもない要請を、エルフ達は今のところは黙殺してる。
だがこのまま要請を黙殺し続ければ、人間との戦いになるのではないかと、不安を抱くエルフもいるそうだ。
ルードリア王国の一件以来、エルフ達も自衛の為に力を磨いてはいるだろう。
だがそれでも、どうしたって多勢に無勢だ。
軍が本腰を入れて攻めて来れば、森も集落も、灰にされてしまいかねない。
エルフを人間の争いに巻き込もうとするズィーデンの狙いは、今のところは全く不明だった。
やはりエルフのキャラバンは、ズィーデンが入国させていないと考える方が自然か。
窓口である、人間の世界に慣れたエルフのキャラバンと、森のエルフを切り離して抱き込もうと考えている。
あまりにも、不穏な気配だ。
もしもズィーデンが森に住むエルフに手を出す心算だとしたら、僕が動く必要もあるだろう。
エルフと人間が争い、双方に大きな被害の出る泥沼の戦いになれば、その後何百年、或いはそれ以上の月日に亘って、両者の間に溝ができる。
そうなってしまうくらいなら、ハイエルフの力を使ってズィーデンを脅し付け、或いは他の国を動かして、事態を収めてしまった方が、結果的に被害は少なく済む。
もちろんそれでも、犠牲は皆無とはいかないだろうが……。
僕は溜息を一つ吐いて、ごろりと床に寝転んだ。
事が大き過ぎて、安易には決められない。
しかし迷うばかりで時間をいたずらに浪費すれば、或いは手遅れになる事だってあり得る。
……本当に、悩ましいけれど、動かなければ何かを取りこぼす。
目を閉じ、僕はゆっくりと息を吐く。
昂ぶった心を宥め、睡魔を呼ぶ。
身体を休め、力を蓄え、目覚めればすぐにでも、事を成す為に動けるように。