軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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僕が船を下りたドルボガルデの最大の港、ネルダニアの町は、北の小国家群から流れて来た川と海が交わる、水の都だ。

どうやらネルダニアは最初から計画的に開発されたようで、町は港を中心に、川を主な軸として、扇形に広がっていた。

また川から幾本も大きな水路が引かれ、更に小さな水路がそれを繋ぐ。

故に人も物も、ネルダニアの町では小舟の移動が主となる。

そしてその町中を移動する小舟の船頭が、驚く程に情報通で、僕に色々と教えてくれた。

町中を行き交う小舟は、町の人だけじゃなくて遠くからやって来た商人や、時には旅人や冒険者だって利用するのだ。

多様な人と接した結果、噂話に強くなるのだろう。

或いは小舟の船頭同士で、情報交換もしてる筈。

何故なら、僕がネルダニアに滞在して情報を集めた二週間程の間、乗った小舟の船頭達は、大体が僕の事を知っていたから。

彼らは珍しいエルフの客が、大陸中央部の情勢を知りたがってると、皆で共有していたのだろう。

実際、酒場で旅人に話を聞くよりも、船頭から情報を集めた方が、ずっとずっとスムーズだった。

何せ酒場で奢る酒代よりも安いチップを手渡せば、より詳細な情報が入って来るのだから。

これは僕にとってはありがたかったけれど、見方を変えれば侮れない話だ。

だって船頭達は、町の外の情勢にも、町の中の事情にも、両方に精通してる。

ネルダニアの町でたった二週間過ごしただけの僕でも分かるくらいに。

つまり船頭の存在は、移動の足であると同時に、目であり、耳であると言えるだろう。

足があって目があって耳がある。

ならばどこかに、それを纏める頭が存在しない筈がない。

船頭達を統括し、持つ情報を吸い上げて活用してる誰かが、必ずどこかに居る筈だ。

それが町の統治者なのか、力を持った豪商なのか、裏社会の顔役なのかは分からないが。

もし仮に、僕がこの町に長居をする心算だったなら、その誰かの存在を、常に気にする事になっただろう。

この感覚は以前にも味わった覚えがあって……、あぁ、あれはヴィレストリカ共和国の、サウロテの町での経験だった。

やはり同じく商業、海洋貿易で栄えた国だけあって、両国には似てる点が多くある。

栄えた場所の明るさと、それを維持する見えない部分の暗さ。

人間の強さで、恐ろしさ。

僕が思うに人間の強みとは、一つはやはり生のサイクルが適度な長さである事だ。

長命の種族よりも生きる時間が短い分、成長が早くて、数も増え易い。

だけど技術を獲得し、蓄え磨き、引き継ぐにも十分な時間があった。

要するに人間の生きる時間が、発展するのに丁度良い生のサイクルなのだと、僕は感じてる。

それともう一つ、人間という種族の社会性も、また適度であるのだろう。

僕の知る限り、最も完成された社会性を持つ種族は、恐らく妖精だった。

まぁ、あれ程に極端ではなくても、森に住むエルフは、人間よりもずっと高い社会性を有してる。

僕やエルフのキャラバンなんかは、あくまでごく一部の例外なのだ。

しかしだからこそ、変化には乏しい。

人間が有する社会性はあくまでそれなりでしかないからこそ、彼らの社会は多様な形を持ち、また短い時間で柔軟に姿を変える。

バラバラに生きる程ではなく、かといって協調的という訳でもなく、同種であるのに頻繁に相争う。

だからこそ彼らは、栄えているし、刺激的で面白い。

ヴィレストリカ共和国や、このドルボガルデで感じた明るさと暗さは、そんな人間の特徴、強さの表れのように、僕は思うのだ。

二週間の滞在の後、僕はネルダニアの町を出て、徒歩で北へと、小国家群へと向かう。

ネルダニアの町から小国家群へは、川を遡行する船を使うのが一般的なルートだ。

もう何度も経験して来たけれど、二本の足と船とでは、旅の速度が全く違うから。

だけど僕は、敢えて徒歩での旅を選ぶ。

理由は、二つ。

一つは、そう、海の上でずっと思ってた、獲物を狩って肉を食べたいって欲求を満たす為。

ハイエルフである僕にとって、整備された街道を歩くも、険しい森の中を歩くも、然程に速度も労力も変わらない。

小国家群へと向かう道すがら、森へと踏み入り、木々に囲まれて過ごすのも、気持ちの整理には良いだろう。

それから、もう一つ。

船を使って川を遡行すれば、向かう先はツィアー湖。

そう、ツィアー共和国の都市である、フォッカかルゥロンテのどちらかとなる。

ルゥロンテで船を下りれば魔術の都市であるオディーヌは間近だし、そうでなくともツィアー湖からは小国家群のあらゆる場所へと行き易い。

だからこそ小国家群へのルートは、川を遡行する船を使うのが一般的なのだろうけれど……。

でも僕は、小国家群で最初に踏む地は決めていたから。

その拘りに、何らかの意味がある訳じゃない。

しかしあの時、僕が大陸東部への旅に向かう旅の最中には、目を逸らして避けてしまった。

受け止めるだけの余裕がなく、先を急いで傍らを通り過ぎた。

けれども、今、もう一度変わってしまった、或いは変わりつつある小国家群を旅するというのなら、やり直しはやはりあの地からがいい。

トラヴォイア公国の町、ジャンぺモン。

今でもあの石船は、黄金の麦の海に浮かんでいるのだろうか。

あの町にはもう、僕が知る人間は誰も居ない筈だけれども、それでも僕は、今のジャンぺモンを確かめたかった。

小国家群のどこよりも先に。