軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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この身は再び洋上へ。

扶桑の国を出てから、もうずっと船で波に揺られてる。

ミンタールの港で過ごした三日間も、どうにもずっと地面が揺れてる気がして仕方なかった。

当たり前の話だけれど、船旅は意外と不自由も多い。

まず他の積み荷との兼ね合いがあるから、水を積める量は限られる。

周囲が海という巨大な水の塊に囲まれているから、少し不条理に思えるけれど、普通の人間にとって海水と真水は別物なのだろう。

僕は、まぁ水の精霊にお願いすれば真水くらいは簡単に手に入るけれども、だからといって周囲の目を考えれば気軽に水浴び、という訳にもいかない。

精々が、身体を拭ける量の水を確保するくらいだ。

もちろん、船の上には鍛冶場がないから、鉄を鍛える事も不可能だった。

……僕にとっての鍛冶とは、食い扶持を得る為の手段であり、趣味であり、もう自身と切り離せない生き方の一つになっているのだろう。

最後に鍛冶をしたのは扶桑の国の旅の最中で、……要するにもう、それなりに時間も過ぎていて、割と欲求が溜まってる。

まだ我慢できなくなる程じゃないけれど、船の上ではどうしたって無理だと考えてしまうと、逆に鍛冶がしたいなぁとの思いが募ってくるのが、多分僕の捻くれた所なのだ。

当然、無理な物は無理なのだけれど。

でも鍛冶ができないからって、時間が潰せない訳じゃない。

自身の修練って意味では、常に揺れ続けてる環境というのは、陸の上では得難い物である。

単に立っているだけでも、自身の重心の置き場を意識して、どんな風に剣を振るかを考えてしまう。

それが意外と面白いのだ。

また空を眺めて風に吹かれ、波の音に耳を傾けていれば、精霊達が色々と教えてくれて、面白かった。

海に宿る水の精霊は、小さな魚の群れが集まって泳ぐ様子を、或いはそれを狙う大きな魚の動きを、語ってくれる。

吹く風に宿る精霊は、遠くの島で人が暮らす様子や、空を舞う海鳥の姿と、鳴き声を。

尤もそれは精霊の視点から見、感じた姿や声の話だから、曖昧だったり抽象的だ。

けれども、いや、だからこそ、その話は何故だか微笑ましくて、楽しく思う。

僕は不自由なりに、この船旅を楽しんでいる。

ただ以前にも少し思ったけれど、やはりそろそろ狩りがしたい。

狩って得た新鮮な肉を、思う存分に貪りたい。

……それは多分とてもハイエルフらしくない欲求だけれど、まぁ僕の場合は今更だ。

樽詰めにされた塩漬け肉や、魚に関しては少し飽きてきた。

船で食事の問題といえば、新鮮な野菜や果物の不足、それからそれに伴う壊血病が思い浮かぶ。

そして確かにこの世界にも壊血病はあって、船乗りの病と呼ばれて、原因も不明で恐れられてる。

だがその船乗りの病は原因不明ではあるけれど、新鮮な野菜や果物を摂取すれば病を遠ざけられる事が習慣的に知られていて、船の上では難しくとも、港では豊富に食べられた。

しかし肉に関しては完全に嗜好の問題になるし、何よりもやはり港のある町、つまり海沿いでよく食べられるのは魚になるから、航海中に立ち寄った港でも出てくる食事は、どうしても魚がメインとなる。

まぁもう少しの、辛抱ではあるのだけれど。

やはり陸にあがったら、機会をみて森に行こうと思う。

狩る獲物は淡白な味わいの鳥や鰐じゃなくて、ワイルドボアのような癖はあるけど旨味も強い、魔物がいい。

たまには思う存分に弓の技を振るうのも、きっと楽しい筈だ。

ミンタールの港で、スインが僕に手配してくれたのは、大きな船団に所属する船の一隻だった。

何でもこの船団は、ミンタールの国が編成した船団で、つまり所属は軍になるらしい。

商船でありながら軍船でもあるというのは少し奇妙に感じるけれど、まぁ考えてみれば、軍船でありながら海賊船であるというのも、僕にはしっくりこない話ではあったのだし、今更だ。

大きな船団の中には、護衛を主目的とするのだろう戦船も混じってる。

これだけ大きな船団ならば、並大抵の魔物はもちろん、他所の国の軍船だって近付いて来ないから、トラブルなんて起きようがないだろう。

強い嵐に襲われれば、どんなに大きな船団でも航海を続ける事は難しいだろうけれど、僕が乗る船が嵐に巻き込まれる筈もない。

暖かな、というよりはいっそ熱いくらいの日差しの中を、船団は我が物顔で海を行く。

航海の安定感はこれまでの中でも一番で、だけど逆に、それが何故だか少し物足りない。

海という危険な場所を旅する緊張と、それから高揚感が、全くなくなってしまったからだろうか。

それから船団は、水と食料の補給に各地の港に立ち寄りながら、一ヵ月以上をかけて西へ進み、人喰いの大沼も南の海も通り過ぎて、大陸中央部へと辿り着く。

そして入る港は、小国家群から見て南東に位置する国の一つ、ドルボガルデ。

海沿いに在り、整備された港を持つこの国は、ヴィレストリカ共和国程ではないけれど、大陸東部との交易で栄えてる。

……まぁヴィレストリカ共和国は他の大陸との交易すら行ってるから、海洋貿易に関しては、あの国は別格になるらしい。

もちろん僕をこの国まで運んで来てくれた船団も、最終的にはヴィレストリカ共和国に向かうそうだが、僕はこのドルボガルデで船を下りる事にした。

というのも、僕が大陸東部を旅したこの十数年の間に、大陸中央部の情勢には大きな変化があったらしく、その変わってしまった国々を、この目で見て歩こうと思ったのだ。

カエハの墓に参るのは、少し遅れる事になるけれど、そう、もう既に僕の足は大陸中央部の地を踏んでいる。

だったら辿り着くのが多少、もしかするともう何年かくらいは遅れた所で、そんなのは誤差の範囲だろう。

あの人は僕をずっと待っててくれた人だから、その程度の遅れで、今更目くじらを立てたりはしない。