軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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央都はこの扶桑の国の首都であるが、その本質は海陽の港、天岳、蜃、鎮守を結ぶ中継地だ。

故に町の真ん中は、南から北へと、街道をそのまま延長したかのような大通りが一本、真っ直ぐに通ってる。

また町の中央から東へは、天岳へと食料を運ぶ為の道も伸びていた。

逆に西側には道ではなく水路が伸びていて、そのまま海とこの央都を繋ぐ。

なのでこの央都は、町の東側は翼人に配慮し、西側は人魚に配慮した形となっていて、人間は双方の間に立って、両方に寄り添いながら暮らしてる。

さて、夕食を片付けた後だから時間はもうすっかり夜で、綺麗な月が空に出ていた。

案内されたゴン爺の家は、町の西側にある大きな屋敷……、というか道場だ。

あぁ、強い人だからそうじゃないかとは思ってたが、やはり道場の関係者か。

恐らくは当主って年齢ではもうないから、先代か先々代の当主だろう。

そんな人物が気軽に町の食事処で飲んだくれてた事には、少しだけ驚くけれども。

「なんでぇ、あんまり驚かないんだな」

つまらなそうなゴン爺に、僕は頷く。

いやまぁだって、僕だって道場暮らしは長かったから。

案内された場所が道場であっても、少し懐かしさを覚えるくらいで、慌てたりはしない。

ラセン槍術。

道場の看板には大きくそう書かれてる。

そちらも少し興味はあるけれど、でもまずは人魚だ。

待ち切れない様子の僕を、ゴン爺はちょっと勿体ぶりながらも中へと案内してくれた。

といっても通されたのは道場の中ではなく、庭にある大きな池の前。

その池の中央にある大きな岩に腰掛けて、彼女は夜空の月を、眺めてる。

下半身が、といっても両腿の辺りから一つになって鱗に覆われてる、人魚の女。

若く、美しく、酷く艶かしい。

ゴン爺からは昔の事に詳しい人物だと聞いてたけれど、とてもそんな風には見えない存在だ。

「ウチの庭の池は底が近くの水路に繋がっててな。潜れば直接水路から池に来れるんだよ。おぅい、ミズヨ、帰ったぞ」

自慢気なゴン爺の声はとても機嫌が良いけれど、振り返った、ミズヨと呼ばれた彼女の表情は実に不機嫌そのもの。

だがその不機嫌な顔ですら、美しいのはズルいと思う。

僕は、顔の造形が整っているだけならば、エルフやハイエルフを沢山見知ってるから、あまり心が動かない。

でもその人魚の美しさは、蠱惑的な、肉感的な美しさである。

「ゴンゾウ、遅い。客をもてなすのは家の主人の役割。なのに私を放って一人で町にお酒を飲みに行くとか、本当に信じられない」

そして声まで、綺麗だった。

海陽の港で見た、小舟を引く人魚達はどれも男性だったが、……よく思い出せば容姿は整っていたように思う。

しかし僕の印象には残らない程度だったから、人魚の中でも彼女は特別なのだろうか。

「いやぁ、俺はもうこの道場の主人じゃねぇからな。その理屈は通らねえさ。それにミズヨ、お前は酒に付き合ってくれない上に、もう年なんだから飲むなとか言うだろ。だからこの尖り耳の兄ちゃんと飲んでたんだよ」

悪びれた風もないゴン爺。

だけどそんな雑な紹介をされても、僕だって困る。

彼女の視線がこちらを向くが、僕は軽く一礼してからゴン爺を手で指す。

言い逃れの為のパスは受け取らない。

二人で思う存分にやり合って欲しい。

僕の用事はそれからでも十分だ。

そんな意図を込めた僕のジェスチャーは、ミズヨにはちゃんと伝わったらしく、彼女はそのままゴン爺を責め続ける。

それから暫く、やがてゴン爺はどうあっても自分が不利だと悟ったらしく、

「お、そういえば兄ちゃん。今日はもう泊まっていくだろ。寝床の準備をさせて来るから、後はミズヨと話しててくれ」

なんて風に言い残して道場の中へと逃げて行った。

あまりに露骨な逃げっぷりに、僕とミズヨは、初対面同士なのだけれど、思わず顔を見合わせて笑ってしまう。

老境にあるゴン爺が、まるで親に叱られた子供のように逃げたのだから。

「全くゴンゾウはしょうがないわね。改めてはじめまして。私は、もう知ってると思うけれど、ミズヨよ。……でも貴方、ただの森人じゃないのね。水がとてもはしゃいでるわ」

改めて僕と彼女は向かい合う。

人魚は、水の流れを操る力があるというけれど、その言葉は少し意外だった。

どうやら彼女は水の流れに干渉するだけでなく、水の気持ちを感じ取れているらしい。

それはより正しくは、水に宿る精霊の気持ちだ。

だが人魚である彼女には精霊が見えている訳じゃないだろうから、水の気持ちとなるのだろう。

この感覚の違いは、少しばかり面白い。

もしも僕が彼女に精霊の在り方や、精霊に対しての心の伝え方を教えれば、彼女の水の流れを操る力は強まるのだろうか。

それともあくまで水を操る力と精霊は無関係で、全く変化はないままなのか。

その結果次第で水の流れを操る力とやらにも、ある程度の推論は立つのだけれども。

少し試してみたい気持ちにもなってしまう。

「そうだね。僕はエイサー。森人を、故郷ではエルフと呼ぶけれど、僕はハイエルフだよ。生き物としてはそんなに大差はないけれど、精霊とはより一段と仲が良いからね」

僕の自己紹介にミズヨは驚かず、ただ納得した様に頷いた。

これが僕に、この国の歴史を教えてくれた人魚、ミズヨとの出会いである。