軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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酒を飲んだり奢ったり、暇を持て余してそうな人に話を聞いたりしながら、海陽の港で情報を集めた結論は、どうやらこの国は央都と呼ばれる首都が面白そうだという事。

何でもこの扶桑の国には大きな町は五つあり、海陽の港はその一つとなるらしい。

海陽の港の役割は、その名の通り港、それもこの国で唯一の、大陸と貿易をする為の整備された大きな港だ。

故に人と物が集まって、この国の情勢を知るには都合が良かった。

だけどヨソギ流の源流を探したり、この国がどうして今のようになったかを、成り立ちから正しく知ろうと思うなら、もっと扶桑の国の中に踏み込む必要がある。

そう、海陽の港は、あくまでこの国の玄関に過ぎないから。

では他の四つの町は何なのかといえば、一つは先程も名前を出した、この国の首都である央都だ。

央都への道のりは、海陽の町から北東へ、街道を歩けば二週間程で辿り着く。

また央都は、その名の通りに、この扶桑の国の真ん中である。

……といっても、島の中央部という意味ではなくて、その南側、人が集まり国を成している部分の、中央であり中枢だった。

もう少し具体的に言えば、央都から東に行けば、丘陵地に築かれた天岳という町があり、そこには翼人が住むという。

逆に央都から西側に向かえば海にぶつかるが、その先には人魚の町である蜃が、海中に存在してる。

更に央都から北へと進めば、前線基地を兼ねる城塞都市である鎮守があるらしい。

もちろん町自体は他にもあるけれど、扶桑の国を構成する上で欠かせない機能を持つのが、この五つの都市なんだそうだ。

そして央都は地理的にも五つの都市の真ん中に存在していて、三つの種族が入り混じり、協力し合って成り立つ都市なんだとか。

実に興味を惹かれる話だった。

確かに海陽の港では、人間と人魚は目にするけれど、翼人を見る事はなかったし。

それに鍛冶場を始めとする物の生産や、武技を磨く為の道場だって数多いと聞けば、僕もある程度はこの国の常識を理解もしたし、央都を目指さぬ理由はない。

海陽の港を出て、街道を徒歩で北東に向かえば、暫くして見えてくるのは、一面に広がる水の張られた田んぼ。

この世界ではなかなか見る機会に恵まれなかった光景に目を細める。

胸に湧く感情は、不思議な郷愁だ。

今の僕とは、全く縁のなかった筈の風景なのに、それでも懐かしく感じてしまう。

一体どこでそれを見たのかなんて、掠れた前世の記憶の中にすら、覚えてさえもいないのに。

ここから央都の近くまでは、街道沿いにも田畑の並ぶ、食糧の一大生産地帯らしい。

見える田畑からは何やら、前線から遠い後方なのだからと、少しでも多くの食糧を生産し、戦いを支えようとする気概のような物を、感じるような気がした。

実は昔は、この辺りにも極稀にだが、扶桑樹の辺りから流れてくる川を伝って、鬼が出る事があったそうだ。

その目的は人の、というよりも人間に限定して、女性が狙われたという。

今では前線地帯の警戒が厳しく、仮にこの辺りまで忍び込めても、大きな土産を持って帰る事なんてできはしないから、その危険もなくなったそうだけれども。

人に比べて強く、長く生きる鬼は、けれどもその数が圧倒的に少ない。

それはまぁ、寿命の長い種族の宿命のような物だし、一度は滅びの淵にまで瀕したのなら尚更だろう。

だが戦において、やはり数こそは大きな力だった。

故に鬼は戦力の穴を埋める為、人間の胎を借りて半鬼を作る。

半鬼は人間より強く、鬼より弱く、けれども鬼よりも早く成熟して戦士となれる、奴隷階級だ。

また半鬼同士の交配でも、半鬼が生まれるという。

現在、中央部の戦場で主力となっているのは、この半鬼であるとの事だった。

察するにこの地に住む鬼とは、恐らくは人間が魔族と化した者の末裔なのだろう。

僕の知る限り、人間やエルフ、ドワーフといった種族が違う者同士は、子を成せる確率が低い。

また仮にハーフが生まれたとしても、その繁殖には大きな制限が伴う事になる。

……そして、あぁ、こんな例に彼を使いたくはないけれど、ハーフエルフのウィンの場合、人間かエルフの伴侶を得れば、子が生まれる可能性はまだあった。

もちろんそれは、人同士、エルフ同士の場合に比べると随分と低いけれども。

だけどこれがドワーフや獣人、その他の種族となると、可能性はほぼゼロに等しい。

ちなみに数の少ないハーフエルフ同士が巡り会って結ばれたって話を、僕は聞いた事がないので知らないが、他のハーフ、獣人と人間のハーフの例を見ると、やはり子供は作り難そうだ。

けれども鬼は、人間との間に半鬼を作ってる。

しかも戦場で主力となれる程に数が増えてるとなれば、このハーフの例に当て嵌まらない。

つまり鬼は、人間とは同じ種族として繁殖してる可能性が非常に高かった。

その話に僕は、危惧と迷いを覚えずにはいられない。

鬼の行為が嫌悪感を覚える野蛮な物である事をさておいても、彼らの勢力が拡大した先に待つ未来が、あまり良い物に思えないのだ。

住処が足りなくなって争いを起こした。

これはもう、仕方のない話だ。

獣が縄張り争いをするのと同じで、こんな悲劇はどこにだって転がってる。

強い者がそれを制して生き残るのは、摂理ともいえるだろう。

しかし住処が足りなくなって争いを起こしたにも拘らず、半鬼という手段で大幅に数を増やそうとする鬼の存在は、どうにも危険だ。

そこには大きな矛盾があって、もう既に、鬼は戦う為に、闘争心を満たす為に戦ってるのではないかとすら、思う。

だとすれば、もし仮に鬼が勝利し、扶桑の国の全てを手に入れて、……そこで戦いは終わるだろうか?

それは完全に僕の想像に過ぎないが、恐らくそうはならない筈だ。

彼らは更に人間や、半鬼自体と交わって数を増やし、大陸に打って出る道を選ぶ。

その場合、ぶつかる国は黄古帝国。

強大な国で、魔族の末裔たる鬼であっても容易く落とせる相手じゃない。

何せ五人もの仙人がその地を守ってる。

だが万に一つ、鬼の騒動が真なる竜、黄金竜の眠りを揺るがせば?

起こり得る悲劇は途轍もない物になってしまう。

鬼を扶桑の国へと逃がしたのが本当に真なる巨人ならば、薄い可能性ではあっても竜の眠りに影響する可能性は、皆無じゃなかった。

僕は街道を歩きながら、傍らの田畑を見回し、空を流れる雲を見上げて、溜息を吐く。

世界の為、なんてお題目で動くのは、僕らしくないと。

だけどこの世界には揺らいで欲しくなくて、どうしても鬼は邪魔に思う。

真なる巨人は、一体何を考えてこの島に魔族を匿ったりしたのだろうか。

もちろんこれは、人の国で、主に人間の話ばかりを聞いて得た情報だ。

鬼には鬼の言い分があるのかもしれないけれど、それを聞ける機会はなさそうだし。

実際に鬼と戦うかどうかは別にしても、今の僕は扶桑の国の状況が、随分と気になっていた。

ちなみに倫理的な話をするなら、敵対者を攫って繁殖し、血で同化するという行為自体は人間同士でも普通にやっている。

草原の民は激しく敵対した部族の戦士を殺し尽くしたら、生き残りの女子供は自分の部族に迎えて同化を行う。

戦士の力なしでは草原では生きてはいけぬから、それは同化される側にとっても必要な行為だ。

そこに伴う感情は、さておいて。

或いは草原の民ではなくとも、国が別の国を滅ぼして併合を行った時、数世代の時間を掛けてだが、血は混じり合ってやがて同化していく。

同化が進まずに独立の機運が高まる事もあるけれど、意外にすんなりと混じり合う場合も決して少なくはない。

鬼のソレは野蛮だが、鬼もまた人間であると考えるなら、少なくとも余所者である僕が義憤に燃える話ではなかった。

「さて、どうしようかなぁ」

考えが纏まらずに、そう口に出してみる。

街道を行く一人旅だ。

僕の独り言に耳を傾ける人なんて、誰もいない。

鬼が主に山地に住んでいるなら、彼らが移動できないように山を険しく変化させて閉じ込めてしまおうか。

いや、鬼の身体能力はわからないけれど、多少の難所は踏破されてしまうかもしれない。

いっそこの島を南北で二つに、鬼の島と人の島に割って遠ざけてしまおうか。

互いの手出しが難しくなるくらいに。

幸い、ここは海に囲まれた島国で、島の形も細長い。

かなり大規模な力の行使になるけれど、地の精霊と海に宿る水の精霊に全力を出して貰えば、……今の僕なら恐らく可能だ。

黄金竜との接触以降、僕は以前よりも、多分強く精霊の力を引き出せるようになっているから。

尤もそんな強い力を引き出すのは危なっかしくて、一度も試してないけれど。

いやいや、でも、そんな力を使った場合に出る被害は、恐らく途轍もない物になる。

以前に起こした地震なんて比じゃないくらいに大きく激しく揺れるだろうし、海沿いは大波に浚われてしまう。

海中に在る人魚の町も粉々だ。

幾ら鬼を遠ざけた所で、扶桑の国が滅びかねない。

真っ当に戦った方が、ずっと穏便なように思う。

鬼と戦いたい、殺したいとはサッパリ思わないのだけれど、放っておけないとも感じてた。

それは、あまりいい事じゃない。

我ながら難儀な話である。

別にこれまでも扶桑の国はずっと戦い続けてきたし、今が危機的状況にある訳でもないのだから、僕の勝手な想像は、深入りする理由にはならないだろう。

余所者の僕が首を突っ込む理由は、今のところは存在しないのだ。

でも僕は黄金竜と出会い、この世界が、考えていた以上に壊れ易いと知ってしまった。

だからこそ、無駄に不安にもなってしまう。

その不安のままに突き動かされて道を誤れば、僕こそが鬼なんて及びもつかない災厄になりかねないと、わかってはいても。