軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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さて、僕の背後でゆっくりと門が閉じて行く。

開閉装置を操作し、門を閉じるのは、役人のような衣服を身に纏ったエルフが二人。

彼らが大きな取っ手をぐるぐると回すと、鎖の音ががらがらと鳴って、門は少しずつ閉まる。

やがて音を立てて門が完全に閉まり切ると、

「祖たる真なる人をこの黄古の森に招けたこと、我ら全ての森人が、喜びの念に堪えません。まことに光栄に存じます」

二人のエルフは僕に向かって丁寧に一礼をした。

彼らは本当に嬉しそうで、その裏に何らかの企みがある風には、僕には見えない。

しかしそれにしても、祖たる真なる人か。

エルフは確かに、ハイエルフを参考に、神が生み出したとされるから、祖と言われても然程に違和感はないのだけれど、……あんまり嬉しい呼ばれ方じゃない。

エルフとハイエルフの違いなんて、三百年程の寿命の差と、精霊が貸してくれる力の強さ、それに死後の魂の行く先くらいしか、大きな違いはないというのに。

三百年という時間は、多くの人からすれば大きいだろうけれど、七百年を生きるエルフと、千年を生きるハイエルフにとっては、ちょっとした誤差でしかないと思う。

でもそんな考えを、この場で主張しても仕方がない。

状況の把握が済んでからなら兎も角として、今は流れに乗った方がスムーズに事が運ぶだろうから。

僕はらしく見えるように鷹揚に頷き、道が消えたと戸惑うサイアーを森に向かって歩かせる。

「木々は僕らを遮らない。大丈夫」

サイアーは本当に賢い馬で、危険を危険と判断する知能と臆病さを持っている。

だけどその上で、僕の指示には従ってくれる、信頼と勇気も持ち合わせていた。

森の木々が根を、幹を動かして、僕らの為に道を開く。

この森、黄古の森とやらに来るのは初めてだけれど、それでも僕が道に迷う事は決してない。

何故なら森の木々が、自ら導いてくれるからだ。

見知らぬ地であっても、どんな秘密が隠されていても、森は僕を受け入れる。

僕はそれを疑わないし、躊躇いもしない。

ここは僕のテリトリーだ。

恐らくは案内する心算だったのだろうエルフ達が、大慌てで付いてくる。

僕が案内を必要としない事を、彼らも察しはしたのだろう。

余計な言葉は、発さない。

……別に話してくれて良いのだけれど、いや、むしろ色々と話してくれた方が助かるのだけれど、彼らは黙ったままだった。

まぁ僕から話すのも、何だかなぁと思うし、暫く黙ったまま森を行く。

そしてふと気付けば、あぁ、そりゃあこれだけ力のある森ならば当然だろう。

傍らに大きな霊木が見える。

僕はサイアーを立ち止まらせるとその背から飛び降り、

「くれる?」

霊木を見上げて、そう問うた。

すると霊木はガサガサと枝を揺らして、伸ばした僕の腕の中に数個の実を落とす。

そう、大きく成長した霊木のみに生るアプアの実だ。

……でもこれは、僕が知るアプアの実とは、ほんの少し違う。

実に満ちる生命力は変わらない。

だけどその甘い匂いが、より強かった。

サクリと実を齧れば、あぁ、これはそう、桃に近い甘さだ。

僕の知るアプアの実はリンゴのように甘さと酸味のバランスが良い果実だったが、この黄古州の霊木はまた違った実を付けるらしい。

これは少し、面白かった。

まぁ一人で食べるのも何だし、僕は後ろにいる二人のエルフに一つずつ実を放り、サイアーにも実を齧らせる。

「おぉ、仙樹が自ら仙桃を落とすとは、流石は祖なる御方」

そんな風に、エルフは言う。

仙樹に、仙桃。

あぁ、仙人か。

竜翠帝君の影は、こんな所にも。

だけど竜翠帝君が一体どんな存在かはさておき、

「この仙桃は美味いね。僕はアプアの実も好きだけど、これも決して負けてない。遠くの知人達にこれを食べさせたいと思うし、君達にはアプアの実を食べさせたいと思うよ」

仙桃の味は気に入った。

サイアーもとても機嫌が良さげで、僕に頭を擦り付けてくる。

栄養補給も済んだところで、さぁ、行こう。

生命力に満ちた実を喰らい、森の空気を胸に吸えば、頭が冴えて身体に力が満ちるのが分かる。

サイアーの背に乗り、奥へと進む。

森の木々に導かれるままに。

そうして、僕らは二週間程、森の中を進み続けた。

でも実は、真っ直ぐに進む訳じゃない。

水を飲みたいし浴びたいし、サイアーだって水は必要だから、小川には寄るのだ。

見た事のない植物も多いから、観察の為に立ち止まるし、サイアーは自分の好きな草をモグモグしてる。

急ぎはしない、のんびりとした、散歩のような旅だ。

本来ならば大きな森に一つしか生えない筈の霊木、いや仙樹も、ところどころ見かける。

僕の故郷の深い森と同じように、やはりここは特別な場所なのだろう。

そこら中に森の恵みがあるから僕も食料には困らないし、あぁ、でも、持って来た干し肉を齧ってると、エルフ達からはぎょっとした目で見られたけれども。

まぁ別に良い。

だって僕は肉も食べたいんだから。

尤も、流石に火を使った煮炊きはしないが。

森の恵みはそのまま口に入れられる物が多いし、流石はエルフの聖域だけあって、気候も穏やかで夜も然程に寒くはないから、サイアーと身を寄せれば十分に暖かいのだ。

まぁエルフは森の中で火を使われる事に拒否感を示す場合が多いから、その辺りで揉めてもつまらないし。

しかし……、思ったよりも広い森だった。

いや、別にこれよりも大きな森は幾らでもあると思うのだけれど、そうではなくて、エルフの聖域としては、大きいと思う。

例えばプルハ大樹海は物凄く大きな森だけれど、その中央に存在する聖域である深い森は、極一部の僅かな部分だ。

徒歩で歩いても、……一週間もあれば横切れる程度の広さしかないと思う。

もちろんそれは森に慣れており、木々が歩き易いように道を開けてくれるハイエルフだからの話で、普通の人間ならば迷うばかりで横切るなんて不可能だろうけれど。

だがこの黄古州は、全てがエルフの聖域だ。

他の州に比べれば小さな州ではあるのだろうが、それでも北門からその中央まで僕でも二週間は掛かってる。

つまりそれだけ広い範囲の森が聖域で在れる程に、強い力を発生させる何かがこの地にはあった。

んん……?

いや、違和感がある。

この地に、強い力を発生させる何かがあるのは、間違いなかった。

だけどもしかすると、それは深い森も同じなのだろうか。

これまで僕は、プルハ大樹海の大部分が、深い森を支える為にあるのだと思っていたけれど、もしかしたら違うのかもしれない。

何せプルハ大樹海も、人間達からは危険地帯と呼ばれる程に森の力が強くて、魔物の数も多い場所だ。

深い森にも何か強い力を発生させる存在があって、周囲のプルハ大樹海はその影響で生まれたのだとしたら。

あぁ、ならば黄古州を囲む城壁は、外からの侵入を防ぐと同時に、内側の力を外に漏らし、プルハ大樹海のような場所を生まない為に在るとも考えられる。

……だとすれば一体何が深い森に存在するのか。

ハイエルフの長老衆が、僕に隠してそうな何か。

うぅん、あぁ、それはきっと、不死なる鳥だ。

不死なる鳥はハイエルフと真なる巨人を繋ぐ為、地と空を行き来する存在として生み出された。

だったら当然ながら、ハイエルフか真なる巨人かの、どちらかと共にある筈だ。

すると必然的に、この黄古州に存在する物の正体も知れる。

精霊は世界のあまねく場所に、ハイエルフは深い森に、真なる巨人は雲の上。

そして不死なる鳥がハイエルフと共にあるならば、……残るは世界を守護する真なる竜のみ。

黄古州の、黄古帝国の皇帝は、竜翠帝君。

要するに答えは最初から、その名前の中にあった。

恐らくこの黄古帝国は、終わりの時まで眠るとされる真なる竜を、目覚めさせない為の揺り籠だ。