作品タイトル不明
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かっぽかっぽと、僕はサイアーの背に揺られながら街道を北に向かってる。
けれどもその旅路は、僕とサイアーだけでなく、傍らを歩くのは白尾の町で知り合った、ジゾウだ。
僕とジゾウは、あの騒動の後、すぐに白尾の町を旅立った。
何故なら僕らの行いは、個人的には特に恥じる事はないのだけれど、法を犯した物ではあったから。
商業組合は処分されるだろうけれど、彼らから賄賂を貰っていた役人や兵士は、僕らを憎々しく思うだろうし。
そのまま町に留まる事は、余計なトラブルを招くだけだと判断したのだ。
僕も、ジゾウも。
なら水運業組合の一人勝ちなのかといえば、多分そうはならないらしい。
どうもこの黄古帝国、というか白河州には、スゥが憧れるくらいには遊侠の類が多く居て、今回の僕らの行動は、そんな彼らにとって羨む物になるそうだ。
故に後追いという訳ではないけれど、暫くの間は白尾の町に多くの遊侠が訪れるだろうし、ならず者の退治を狙う筈。
そしてそんな遊侠達にとって格好の的は、今回の話の発端であるにも拘わらず、傷を負わなかった組織である水運業組合だ。
仮に水運業組合が下手な動きを見せれば、遊侠達は大喜びで、同じように攻め入るだろうとジゾウは言った。
……怖い話だなぁと、普通に思う。
散々好き勝手に暴れた僕がいうのは筋違いかもしれないが、割と無法者の理屈じゃないだろうか。
行動原理が義や善性による物だとしても、その基準は個々によって違うのだから、何とも危うい話であろう。
まぁ僕だってエルフだから、ハイエルフだから等と言い訳をして、人間の作った法を破る事は多々あるから、ホントに言えた義理じゃないのだけれども。
しかしそんな勝手な印象の話をさておけば、結果的に今回の件は割と僕の都合の良い風に転がった。
中央部の国々と黄古帝国が全く違うのだと理解できたし、識師の存在を知れた事も大きい。
ましてや識師が使う簡易魔道具、札に関しては実物まで入手したのだ。
札に描かれた術式となる紋様の多くは僕も知ってる物だったが、未知の紋様もあったし、札を保護してるのが表面に塗られた特殊な蝋であるとも判明してる。
流石に蝋の成分、精製の仕方までは分からなかったが、これを中央部に持ち帰ってオディーヌに届ければ、カウシュマンもさぞや大喜びを……。
あぁ、いや、僕が帰る頃には、或いは既に、カウシュマンは生きてないだろうけれども、……オディーヌに居るだろう彼の弟子達は喜ぶ筈。
そうでなくとも新しい知識を得られて、僕は今、嬉しい。
……うん。
それから今回の件での一番の収穫は、やはりジゾウと知己を得た事だろう。
高い技術と圧倒的な身体能力を持つ彼の戦いは、見ていてとても爽快だ。
もちろん蹂躙される側にとっては凄惨としか言いようがないけれども、僕は別にジゾウと敵対する気はない。
長物にも、ちょっと憧れる。
でも長物の扱いをジゾウに習うのは、ちょっとないかな。
彼の戦闘方法は、あの圧倒的な身体能力が前提になっているから、僕には絶対に向いてない。
一応は僕も剣や鍛冶、旅に山歩きと、身体は鍛えてる方だけれども、ジゾウのアレはそういう次元の話じゃないから。
僕に鞘付きの魔剣で殴られた商業組合の人間は、顎や腕の骨が砕けた程度の怪我だったけれど、ジゾウと戦う羽目になった相手はもう、まるで大型馬車にでも撥ねられたかのような有様だった。
横から見ていて、十分に手加減をされていたにも拘らず。
アレと同じ真似をするのは、僕にはどう考えても無理である。
そのうち良い師が見付かれば、学んでみる事にしよう。
言い訳をすると、別にそれはヨソギ流から、剣から他に浮気をするって話じゃない。
長物の扱いを知れば、長物との戦い方も知る。
それはきっと、剣の腕を磨く事にも繋がるだろう。
そう、剣を学び、鍛冶についてより深く知ったように。
僕は、実際の戦いでは弓よりも剣を使う事が多くなりつつあるし、戦う為の手段が増えるのは、決して悪い話じゃないのだ。
……くらいに言い訳をしておけば、カエハも多分許してくれる。
いや、そもそも彼女は、そんな事じゃ怒らないか。
他にかまけて剣の修練を疎かにしない限りは、楽しそうに話を聞いてくれる人だった。
「そういえば、エイサー、貴方の旅には目的はあるのか?」
黙々と街道を歩いていたジゾウが、ふと思い付いたかのように僕に問う。
物凄く今更過ぎる質問に、少し笑える。
「一応はあるよ。東の方にね。でも急ぐ旅じゃないし、僕には時間も沢山あるから、黄古帝国を見て回りながら行くよ。真っ直ぐ東には、向かえないみたいだし」
黄古州に入れたら、そのまま東に向かうのだけれど、入れないのだから仕方ない。
南の赤山州か、北の黒雪州を回って、東の青海州へ。
そこから船に乗って、更に東の島国に向かう。
どうせ回り道をするのなら、急ぐ旅でもないのだから、興味と風の赴くままにだ。
「そうか。……だったらこのまま北に、黒雪州に行ってみないか? 決して楽しい場所ではないのだが、会わせてみたい御方がいる」
ジゾウはそう言って、三尖両刃刀で北を、進む道の先を指し示す。
僕にはその先に、まだ何も見えないのだけれど、彼には一体何が見えているのか。
少しだけど興味が湧いて来る。
北か南、どうせどちらかを選ぶ必要はあったのだ。
案内人が得られるのなら、北を選ぶのは自然の流れだろう。
僕は一つ頷いて、サイアーの首を軽く叩く。
空を流れる風の向きが、東から北へと変わった。