軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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小国家群に踏み入れば、僕はエルフのキャラバンと別れ、川を東へ遡行する船に乗ってツィアー湖へ向かう。

船に乗るのは、随分と久しぶりだ。

前に乗ったのは、出会ったばかりのウィンと一緒にジャンぺモンへ向かう時だったから、もう四十年以上は前になる。

あの頃のウィンはとても小さくて、僕の膝の上に座ってた。

人力で漕ぎ、川の流れを遡行する船の速度はゆっくりだ。

しかしそれでも徒歩で旅をするよりはずっと速い。

ツィアー湖へと辿り着けば、畔の町、フォッカで数泊して旅の疲れを癒す。

いやまぁ、船で座ってるだけなので、別に実際に疲れる訳じゃないのだけれど、長く船上にいると動けなくて身体が固まるし、周囲が水であるにも関わらず水浴びだってできやしない。

さてツィアー湖から南西に向かう川の流れに乗ると、ジャンぺモンへと向かうが、今回僕が向かうのはまた別のルートになる。

……カウシュマンにノンナ、小国家群の知人達が今どうしてるのか、確認したい気もするが、同時に少しばかり怖い。

特にカウシュマンに関しては、少しではあるけれどカエハよりも年上だったから、もう会えない可能性の方が高いから。

少なくとも今は、これ以上の別れを上に積み重ねたくはなかった。

ウィンが傍らに居れば話はまた違ったのだけれど……、彼は今は遠い西の地だ。

何時か二人で再びジャンぺモンにとの約束を果たすのは、きっとあの地の誰もが、僕とウィンの事を知らなくなってから、思い出を反芻したくなった時になる。

故に僕はカウシュマンとノンナには、手紙を書いてエルフのキャラバンに託してた。

仮に二人からの返事があったとしても、僕がそれを読むのは、遥かに遠い東への旅を終えてから。

僕が乗った船は、川の流れに従って東に向かう。

東の都市国家、プラヒアやトロネン等の幾つかの国を越えれば、船は小国家群を抜け、バーダス、オロテナンという名の二国へと辿り着く。

川の流れは大湿地帯、人喰いの大沼にまで続いているが、流石にそこまでは運んでくれないらしい。

バーダスとオロテナンは、それぞれ川を挟んで向かい合う国で、この両国が協力する事で、人喰いの大沼から出て来る魔物を討伐して減らしているそうだ。

つまり危険地帯に対する門の役割を果たす国なので、この二つの国は小国家群に属してないにも拘らず、食料を始めとする物資の支援を受けている。

そして僕が一時的に滞在して食料の補充、情報収集を行うと決めたのは、川の北側の国、バーダスであった。

今晩の宿を求めて町を歩くが、見た限り、冒険者と思わしき武装した人間の数がかなり多い。

またそんな冒険者達を商売相手としてるのであろう酒場や安宿、娼館、鍛冶屋に素材の買取商らしき店を、良く見かける。

後はまぁ、抑止の為だろうけれど、町を警邏する衛兵の姿もチラホラと。

どうにも独特の雰囲気だ。

魔物の討伐は国軍も行うが、報奨金や素材目当ての冒険者も集まる。

すると彼らを相手にする商売人もやって来て、町が発展していったという所だろうか。

大きく違う所は幾つもあるが、僕にヴィストコートを思い出させる空気が流れてた。

命を危険に晒して金を稼ぐ冒険者は、粗野なものが多く、また殺伐とした空気を発してるから直ぐにわかる。

だけどそんな彼らだからこそ、次の仕事に出るまでは稼いだ金を大いに使って享楽に耽るのだ。

酒場や娼館といった娯楽で戦いの緊張感を抜かなければ、切り替えられずに擦り減って、何時か心を壊してしまうから。

まぁそんな町だからこそ、泊る宿はちゃんと選ぶ必要がある。

下手な安宿を選んでしまうと、どんなトラブルに巻き込まれるか分からない。

別に料金が安いから即座に危険な寝床、と言う訳ではないのだけれど、やはり金を出した方が安全は得られ易いだろう。

昔、ヴィストコートでアイレナが、僕を高級宿に引き留め続けた理由も、今となれば理解ができた。

特にエルフは町中では目立つから、どうしても目を付けられ易い。

本当なら多くの人目の中なら犯罪には巻き込まれ難いのだろうけれど、時折は度胸試しのように狙って来る奴も居る。

僕はすれ違いざまに死角から伸びるスリの手を、振り向く事もなく手刀で叩き落とす。

これはカエハに教わった技の応用……、というよりは単にそれを素手で行った物。

「ぐあっ?!」

悲鳴を上げて蹲る若いスリの男に、周囲の視線は集まるけれども、僕は立ち止まらずに歩き去る。

大した腕ではなかったし、駆け出しの部類だ。

察するに、二、三度仕事が上手くいった事で調子に乗って、敢えて目立つ獲物を狙ったのだろう。

わざわざ捕まえて衛兵に突き出す程の相手でもなかった。

僕が見逃した所で、どうせ似た様な失敗を繰り返す。

冒険者相手に盗みを失敗して腕を切られるかもしれないし、衛兵に捕まって投獄され、労役として魔物退治に駆り出されるかもしれない。

だとすれば、あのスリがどんな結末を迎えるにしても、それに僕が関わる必要はないと思う。

しかしそれにしても、スリに狙われるなんて本当に随分と久しぶりだ。

昼から夕まで町を歩いてみて回り、決めた宿は船を使って荷を運んで来る商人達が利用する、川近くの宿の一つ。

宿賃は銀貨二枚と多少高いが、安全を得るという意味では間違いはなかった。

まぁ僕は鍛冶で働いたお金を貯め込んでるから、多少の出費をケチる事に意味はない。

貨幣ばかりじゃ長旅には邪魔だから、所持金の多くは持ち運び易い宝石に変えて所持してるけれど、大金貨や金貨、銀貨もちゃんと残してる。

夕食は宿では取らずに、適当な酒場に向かう。

宿の食事は輸入した麦や、普通の川魚を調理した食事になるが、冒険者向けの酒場なら、狩った魔物の肉が出るらしい。

僕も人喰いの大沼に踏み入る以上は、どんな魔物が美味しくて、どの部位が食べられるのかくらいは、知っておきたかった。

明らかに毒があって食べられない物等は、水の精霊辺りが警告してくれたりもするのだけれど、彼らは味に関しては全くの無理解だ。

どんなに不味くて食用に適さずとも、食べて害がないなら大丈夫の判定になる。

そりゃあ精霊は食事をする訳じゃないから、味なんて分からないのが当たり前なのかも知れないけれども。

ある程度は不味くても、狩った獲物は可能な限り食べようとするけれど、これから向かう場所は湿地帯。

つまりは湖沼や湿原だ。

生息する生き物は、多分泥臭い物が多い。

だからこそそんな中でも美味しい魚や魔物、食用に適した部位等の知識は必要になるだろう。

僕が満足できる旅の為に。