軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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無手での模倣から始まって、やがて木剣を持つ事を許されて、それを振るう。

木剣を振るうようになって気付いたけれど、最初に無手で修練したのは、動きを正しく理解せぬ間に剣を握れば、重さや遠心力で身を痛める可能性があったからだ。

僕はまた一つ理解を深めて木剣を振り続け、季節が幾つも変わった頃には、カエハと打ち合うようになった。

多分三年ぽっちの時間なんかじゃ、僕の技量は自身が、後はカエハが望むレベルには到達しない。

だってこんなの、どう考えても数十年掛けて会得する剣技である。

でもそれでいいのだ。

未完成でも、その時の自分の精一杯を、僕はウィンとぶつけ合えばいい。

その後だって、僕と彼の人生は続くのだから。

だけどそうして流れる時間の最中にすら、喪失は訪れる。

カエハの道場に戻り、今の剣の修練を始めてから二年が経ったある日、僕は手紙を受け取って、……ヴィストコートの町へとやって来た。

クレイアスとマルテナの、嘗て白の湖という名のパーティで活躍した、二人の冒険者の墓を参る為に。

死後に魂が精霊となるとされるハイエルフには、死者を悼む作法がない。

エルフは躯を樹木の近くに埋め、死者を悼む時はその木に話しかける。

この世界では時に死者の躯に魔力が働きかけて、魔物としてしまう事があるけれど、木々がそれを防いでくれるともされていた。

人間ならば、この辺りなら豊穣の神に祈りを捧げるのが一般的だろうか。

故人が安らかに地に還り、何時か再び生を得て欲しいとの祈りを。

特にマルテナは、豊穣の神に仕える司祭でもあったから、きっとそれが正しい筈だ。

他にも死に関わる神はいた筈だけれど、大抵の場合は信仰してる神に祈る。

しかし僕は、……そう、何となくだけど、墓の前に佇むと手を合わせてしまう。

それはこの世界には、少なくともこの辺りにはない作法だけれど、冥福を願う時は、それが一番気持ちがこもる気がするのだ。

当たり前だけれど墓には、二人の面影なんてない。

でも墓の前に立てば、自然と二人の、それも出会ったばかりの若かったクレイアスとマルテナの、顔が思い浮かぶ。

「エイサー様、ありがとうございます」

顔を上げた僕に声を掛けたのは、手紙をくれたアイレナだ。

彼女からの手紙によると、二ヵ月程前、先にクレイアスが息を引き取り、後を追うようにマルテナも一週間程で逝ったらしい。

本当に人間という生き物は、あまりに儚いと思う。

冒険者としては頂点である七つ星に到達したクレイアスとマルテナでさえ、こんなに短い時間で世界を去った。

ヴィストコートに住む多くの人に慕われ、葬儀には大勢が参列したそうだけれど……、百年もすれば二人の事は、もうきっと誰も覚えていない。

例外は、きっとアイレナだけ。

礼を言われるような事じゃない。

そう返そうとして、だけど僕はその言葉を飲み込んだ。

だってアイレナの浮かべる笑みが、あまりにも弱々しい物だったから。

「別れ際に、マルテナに言われました。ごめんなさいって、そして、ありがとうって」

僕は黙って、彼女の言葉を聞く。

クレイアスにマルテナ、それにアイレナの関係を、僕は正しく理解してる訳じゃない。

ただ二人はアイレナに、アイレナは二人に、負い目のような物を感じてる風にも、思えた。

負い目というのも勝手な僕の思い込みで、未練なのかもしれないけれど。

或いはクレイアスとマルテナが、カエハの申し出に応じたのは、その辺りも関係あるのだろうか。

僕とは別の誰かの呪いだとカエハの母、クロハは言っていた。

けれども、そんな事はもう今更だ。

それを事細かに暴き立て、彼らの気持ちを知ろうだなんて思わない。

ヴィストコートの町へはカエハも一緒に来たけれど、彼女は今、娘であるミズハの家にいる。

恐らく僕とは別に、一人で墓に参る心算なのだ。

「エイサー様、もしも貴方が居なければ、私に役割をくれなければ、……もしかしたら私はこの国から、二人の前から逃げ出していたかもしれません」

故に僕には、目の前のアイレナの気持ちも、正しく理解はできないだろう。

だから安易な慰めは口にせず、向けられた言葉を受け止める。

「ずっとずっとこの町に戻れない間に二人が死んで、百年経っても二人の死を確認する勇気もなくて、……もっと後に勇気を出してこの町に来ても、お墓の場所さえ分からなくて」

そんなifは存在しない。

否定する事は簡単だった。

アイレナはそんなに弱くない。

僕が知る限り、最も優秀で、信頼できるエルフが彼女だ。

たとえ一時は逃げたとしても、クレイアスとマルテナが死ぬ前には会いに来ただろうし、仮に死後に町に訪れていたとしても、墓の場所くらいは見つけ出す。

でもきっと、そんな事を言う意味はなかった。

アイレナは別に、折れて弱音を吐いてる訳じゃない。

「逃げていれば、こんな悲しい想いはしなくて済んだのかもしれません。でもクレイアスを、マルテナを、見送る事もできなかった」

ただ悼み、悲しみ、自分の気持ちを確認してるだけだ。

もちろん整理は、まだ暫くは付かないだろう。

それには十年や二十年掛かるかもしれないし、百年や二百年掛かるかもしれない。

だけど思い出を一つずつ、少しずつ、振り返っては確認し、反芻し、やがて胸の戸棚に仕舞って行くだろう。

「ですからエイサー様、ありがとうございました」

アイレナの礼の言葉に、僕は頷く。

彼女はクレイアスとマルテナの死後に備えて、この国を離れられるように、役割を引き継ぐ準備を進めてた。

しかし今後どうするのかなんて、野暮な事は今は聞かない。

実際にどうするかなんて、その時の気持ち次第で幾らでも変わる。

好きなだけ悲しみ、思い出に浸るといいと思う。

どうせ僕らには、時間はたっぷりあるのだ。

仮に思い出話がしたければ、喜んでそれに付き合いもする。

今、アイレナが感じてる痛みは、僕にだって他人事じゃない。

近い未来に、同じ痛みを僕も必ず味わうのだから。