軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

貪欲     ・

ハルベリー様のお話は、今後私とトワイス様で親しく交際をしましょうという話だった。

悪い提案ではないけれど、いままでそんな交流は一切なかったのに、なぜだろう。

なんとなく不安で、あいまいな受け答えをして切り抜けた。

ハルベリー様との話し合いを終えて王宮から屋敷に戻り、自分のベッドにボフッとうつ伏せに倒れ込んだ。お行儀悪いけど誰も見ていないからいいのだ。

(うーん、似てるけど違う)

ハルベリー様の考えと私の考えは似ているようで違う。私はやりたいことをやって、みんなのために役立ったらいいな、と思っている。私と親しくなりたいとおっしゃっているハルベリー様は、お考えが私とは違うような気がするのだ。

彼女の申し出の理由がはっきりしないから、おちつかなくてイライラムズムズした。

「マリアンヌ、入るわよ」

ノックと声が同時にしてカタリナお姉さまが入ってきた。

「ハルベリー様との話し合い、ご苦労様。それと、講演会はとても好評だったみたいよ。講演会に参加した皆さんが『今後は民間の記録にも視野を広げなければ』と言い合ってたと、グリード様からお父様にお手紙が来たわ」

「講演が好意的に受け入れられたなら嬉しいです。ハルベリー様とのお話は疲れました」

お姉さまが困ったような顔をして私を見る。

「彼女はあなたのことが気になるみたいね。便利に利用されないよう、気をつけなさい。あの方はとんでもなく貪欲だもの」

「貪欲?」

「そう。あの方はこの国を案じているとご自分で思っているみたいだけど、向けている視線はいつでも王家と実家と将来の我が身だわ。この国を支えている平民のことは末端の使用人としか思ってないのよ」

「ああ……」

(自分の感じていた居心地の悪さや違和感はそれだ。お姉さまにはハルベリー様の本質が見えるのね)

「まあ、私だって農場の子供達と関わらなかったら、彼女と似たような考えだったと思う。平民の一人一人にも、親を失った子供達にもそれぞれの人生があるってこと、忘れてしまうのよ。ハルベリー様みたいに貴族しか見ていなければそうなる」

「ハルベリー様はなぜ私に近づいたのかしら」

「王家があなたに興味を持っているからでしょ? あなたのどこにどんな魅力があるのか知りたいのでは? それにしてもあなた、背が高くなったわね。すっかり大人っぽくなって、綺麗になった。アレクサンドル様も早くお戻りになればいいのに」

「アレクサンドル様はお仕事でホランドへ行かれたのですし、仕方ありませんよ。それと、私もあと十ヶ月で成人ですので、もう、ほぼ大人です」

カタリナお姉さまがにっこりした。

「ふふふ、蜘蛛の巣や蟻の行列を何時間も眺めていたマリアンヌも、もう大人になるのね。私が歳を取るはずよ」

「そういうお姉さまこそいったいどうなさったのです! さっさとご結婚されると思ってましたよ」

「そうねぇ。お話は沢山頂いてるわ。そろそろ誰か決めないとね。ついつい仕事が楽しくてね。そして郵便の仕事で収入が増えるほど婿入りの希望者は増えて行くわ。私じゃなくて財産を見てるのね」

お姉さまが少し悲しそうだ。

「お姉さま?」

「変よね、私、以前はなるべく条件の良い貴族をお迎えしてこの家のために尽くそうと思っていたのに。今ではそれが楽しい人生には見えないの。貴族なのに、変よね」

お姉さまは商売に参加してから、確かに変わった。

「いまだに私はいい子でいなかったら大人に見放されるんじゃないかって恐怖に縛られてる一方で、それがどうした、とも思うようになったの」

「私のせい、ですよね。私がやりたいことだけやって社交界での顔つなぎもしないでいるから、お姉さまにばかり負担がいってますよね」

お姉さまが首を振った。

「そうとも言えるし違うとも言えるわね。私が変わってしまったの。この家のためにだけ生きるのがもう難しいの。商売を始めたらなんだか、呼吸が楽なのよ。生まれ変わった気持ちさえするわ」

「お姉さま、あの、貴族の肩書で選ぶのではなくて商売のやり手の殿方を探すのはダメでしょうか。それなら共に歩む人生が楽しくなるのでは?」

お姉さまが驚いた顔になった。

「確かにそうね。釣り書きは全部貴族からしか送られて来てなかったから、それを考えなかったわ」

「お相手が平民でも、親戚のどなたかにお願いすれば養子に入れてもらって身分もどうにかなるし、その線で進めてみたらどうでしょうか」

「それもそうよね。ん? なあに? どうしてそんな顔で見るの?」

「だってお姉さまがとてもいい笑顔になってるから。新たな扉をまた開いたのかなって思って見ております。あのご令嬢とは違う意味で貪欲で、素敵です」

昔には考えられなかったけれど、今の私たちはとても仲がいい。

「お姉さま、どこか森の中で、私、何かを研究しながら一人で暮らしたいと思うことがあります」

「疲れちゃったの? マリアンヌはずーっと誰かのために走り回って来たものね。休んだらいいわよ。でも、ひとつだけ約束してくれる? いきなり姿を消したりはしないでほしい」

それはあの人のことを言っているのだろうか。

「それって、もしかして」

「そうよ。いなくなったあの人みたいなことはしないと約束して。私もお父様も、あなたに無理やり何かをやらせたりしない。そんな人が寄って来たらみんなで守る。だからいきなりいなくなるのは絶対にダメ」

何も言えずにコクコクと首を振った。そうね。それはやっちゃいけないわよね。

そのあと、二人でしみじみと話し合った。お姉さまは結婚に関して、親戚から養子を貰うことまで考えていたそうだ。

「あなたが送ってきた種飛ばしセット、特許申請して大正解よ。類似品は取り締まってもらえるし、ひとつ売れるごとに権利料が入る。老若男女誰でも遊べるし。マリー牧場の子供達は、あれを入れる箱を組み立ててお小遣いを稼いでるの。デザインの上手い子がいてね、その子は来年からデザインの仕事をすることになったわ」

一人一人が出来ることでそれぞれの人生を輝かせてほしい。みんなが自分の幸せを追いかけることが国にとっての幸せであってほしい。

国のために、が最初に来る人生ではなくてね。