軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

種飛ばしの木

マリアンヌたちの足元には散り始めた木の葉に混じって種がたくさん落ちていた。

そのひとつをつまみ上げたマリアンヌが頭の高さで手を離すと、卵形の種の上に生えている三枚の斜めの羽が空気を掴んでクルクル回りながらゆっくり落ちる。

二人が話をしながらたどり着いたのは種飛ばしの木の下だった。種飛ばしの木はその名の通り風が吹く季節になると風に乗って遠くまで種を飛ばし、広範囲に子孫の繁殖を図る仕組みだ。

「これを大きくした物を作って欲しいの。そうね、種の部分はまん丸くしてこのくらいで」

そう言って親指と中指で丸を作る。

「失礼します」

レイモンドが近寄り大きさを確認した。マリアンヌの手が小さいので自分の指で丸を作って確認する。

「羽の部分は鶏の羽が使えると思うのだけど。上手くいけば少しだけ小麦の不作分の足しになる商品が作れるかもしれないわ」

「わかりました。いや、お嬢様のお考えはよくわかってはいませんが、お任せください」

「ぷっ」

思わず笑ってしまうマリアンヌ。その笑顔につられて一緒に笑ってしまうレイモンドだった。

□ □ □ □ □

マリアンヌを館に送り届けたあと、レイモンドは早速庭師小屋の作業テーブルに種飛ばしの種を置いて観察した。

今夜は二つの月が並んで出ている。灯りが無くても十分明るい夜だった。

薄い羽根は絶妙な角度で斜めに広がり風に乗りやすくなっている。

レイモンドには見慣れた種だが、お嬢様は何か閃いたらしい。

薪小屋から手頃な乾燥した枝を何本か持ち込んでノコギリで輪切りにしていき、小刀で角を落として丸くしてみる。

何度も大きさを自分の指で確認して「これくらいか?」とまん丸な球をひとつ作った。

まん丸に仕上げるのは結構難しい。遅くまでレイモンドは作業に取り組んだ。

翌朝、作業小屋に来た親方はザルに並んだ数個の丸い球と仮眠用ベッドに眠るレイモンドを見て驚いた。

「おい、レイ!ここで寝ちまったのか?この球はなんだい?」

レイモンドが目をこすりながら起き上がりことの次第を説明すると今度は親方が張り切った。

「ほう。不作を取り返すことが出来るかもしれないのか。よし、お前はしばらくそれに集中しろ。お嬢様のお役に立つんだぞ!」

「いいんですか?俺、これは仕事の後にやりますけど」

「いんや。これは一番に取り組め。他の仕事は後回しだ。庭の用事は俺たちがやっとくさ」

「ありがとうございます!頑張ります!」

レイモンドは早速作業を再開した。

レイモンドは厨房に向かい、鶏の羽の大きいものが欲しいと伝えて、お嬢様の話も伝えた。厨房の料理人たちは「俺たちも協力させてくれ!」と張り切って鶏を解体する際に羽を損なわないよう丁寧に扱った。

色々な大きさの羽がサイズ別に仕分けられレイモンドに届けられる。ちょうど良さそうなサイズの羽三本を木の球に彫った穴に差し込みニカワで固定した。

羽が取り付けられた球を届けられたマリアンヌが笑顔で礼を言う。

「もう出来たの?仕事が早いわね!レイモンド、手間をかけましたね」

「いえ、親方たちや厨房のみんなも協力してくれましたから」

ニコニコとレイモンドの報告を聞いていたマリアンヌが種モドキを投げてみる。

羽が空気を掴んでクルクル回りつつふんわりと飛ぶ。

「なるほどなるほど。ねえレイモンド、この羽の角度を変えてもう少し前に向かって飛ぶように出来るかしら。そうね、このくらいまで」

そう言ってマリアンヌがタタタッと走って振り返った場所はレイモンドの歩幅だと五歩くらいか。

「あとね、軽い板を中皿くらいの大きさに切り抜いて持ち手を付けたものも作って欲しいの。割れない程度になるべく薄く。それでこの球を二人で打ち合ってみたら面白いと思うの」

「なるほど!お嬢様のお考えがわかってきました」

レイモンドは自分の作業の結果を把握して目を輝かせた。子供の時以来遊ぶなんて余裕がなかったが、これは面白そうだと胸が躍る。

何度もマリアンヌと話し合って板も羽根も改良し、「これで完成!」となったのは翌々日だった。

早速マリアンヌとレイモンドが丸い板で打ち合ってみると、これが想像よりもずっと面白い。

地面に落ちたら負け、として撃ち合うと狭い範囲で動いてもかなりの運動になる。

低い位置から下向きに打ってしまうと球を受けようがないのでマリアンヌの頭の高さに紐を渡した。

「これだわレイモンド!これは楽しめる!カタリナお姉さまに送って値付けをしてもらって、特許申請もしましょう。その前にいくつかルールを作ったらより面白そうね」

「はい!今から楽しみです!」

マリアンヌはそこから休憩時間のたびにルールを考えた。コートはレイモンドの歩幅で縦六歩、横三歩にした。

「地面に球が落ちたら相手の点数。十点取ったら勝ち。打った球がコートの外に落ちても相手の得点。最初の球を打つのは交互で!」

庭師、料理人、メイドたちも参加して大騒ぎとなった。

「これは!素早く動けないと勝てませんね!」

ゼイゼイと荒い呼吸でメイドたちが悔しがる。

普段から身体を使っている庭師たちが優位かと思ったら意外な伏兵は料理人たちだった。

「普段から重い鍋を動かしながら立ち仕事で鍛えているからな!」

若手の料理人が優勝して厨房の仲間たちは大喜びだ。

この遊び道具は村の冬場の貴重な現金収入となった。村の男も女もそれぞれ決められた大きさに木を削り玉を作り、羽の角度を決めて球を仕上げる。

最後はレイモンドを中心にした庭仕事の面々が慎重に定規を当てて検査した。

カタリナが特許申請をしてから売り出すと、かなり強気な値段だったにもかかわらず、王都でも他の領地でも大人気になった。

売り上げは領地に還元されて小麦の不足分として小麦やソバの買い付けに回され、余った分は教育の充実が図られた。マリアンヌが「領民への教育こそ我が領の財産」と強く主張したからである。