軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第609話 「まだ見ぬ世界」

「──てことで、そろそろ飽きちゃってんじゃないかなと思って」

「……別に、そんなことないよ」

どうやって見つけたのか、女王の間までライラがやってきた。

ブランもいる。

「暗っ! 何ここ暗い! こんな暗い所にいたら気が滅入っちゃうよ!」

吸血鬼が何か言っている。太陽燦々よりはましだろうに。

「……『魔眼』があるから灯りがなくても困らないんだよ」

「ていうか、レアちゃんなんか光ってるのに別に周りを照らすとかってことはないんだね。そこにいるって気付いて初めて認識できるっていうか。目が離せなくなるから光ってるようにみえるだけなのかなぁ……」

何を言っているのかよくわからない。

以前は魔法照明を考えていたが、灯りが必要な者がここに来る事が無くなったため計画は立ち消えになった。

『魔眼』で大気中のマナを余さず感知してやれば、目が見えなくとも活動に支障はない。

それは『神眼』でも同じだ。

こちらは土の精なり闇の精なりがうろうろしているのも見えるため、若干騒がしくはあるが。

そうだ。

これを使って『霊術』の検証をしてみるのもいいかもしれない。

色々な所へ行って『霊術』をぶっぱなし、場所ごとに効果や威力を検証する。

それをマップに落とし込み、何らかの傾向がみられるようなら条件を絞り込んで、地形や天候、時間帯による効果の違いや、それと付近の精たちとの因果関係を調べるのだ。

「ところで『霊術』の検証ってさ──」

「ああ、それならうちのイライザがやってるよ。もうちょっと待ってね。そのうち報告が上がってくると思う」

「あ、そう……」

そういえば居たのだった。精霊王がひとり。

膨らみかけたやる気はすぐに萎んでしまった。

というか、ライラは何をしに来たのか。モチベーションの落ちたレアに発破をかけに来たのではないのか。

遠回しにそう聞いてみると、ライラはニヤリと笑って言った。

「ちょっと見てもらいたいものがあってね。ここじゃ暗いな。明るい所に出ようか」

「明るさがいるなら適当に光らせればいいでしょ」

言いながらレアは天井に『照明』を放った。

「うおっ! まぶしっ!」

ぼうっと、レアの手から放たれる魔法を目で追っていたブランがうずくまった。

全く何をしているのか。

あまりにあまりな様子につい笑ってしまった。

「で、何を見せたいって? 灯りが必要だって事は、色とかそういうものがあるの?」

「色っていうか、文字だね。まあ本だよ」

ライラがインベントリから古ぼけた本を取り出した。

本ならば仕方がない。

『神眼』で形状はつぶさに観察する事が出来るが、そこに書かれている文字までは読めない。

そして本の価値とは形状ではなく、記された内容にある。

ライラから本を受け取る。

古ぼけているように見えたのはそういうデザインで、実際の紙は真新しかった。

いやデザインではなく、これは。

「複製か」

「うんそう。貴重な資料だからね。読みにくいだろうけど我慢して」

ライラに促され、ページをめくると、ミミズがのたくったような汚い字が目に飛び込んできた。

確かに読みにくい。

この世界には印刷技術はないため、すべての本は手書きである。

そうでありながら流通しているのは、ひとえに『複製魔法』のおかげだ。

『複製魔法』で複製した物は品質が低下するため、本であれば文字や挿絵が劣化する。

繰り返せば当然どんどん劣化していく事になる。これはおそらくコピーのコピーか、そのまたコピーだろう。もっとかもしれない。

「……ええと。神、に関して書いてあるのかな? これは……」

そこにはお伽話が書かれていた。

太古の昔。

黄金龍が飛来するよりさらに古い時代。

この世界には神々がいた。

神々は力を求め争っていた。

戦いは熾烈を極め、時に手を組み強大な神を封じ、時に裏切り、最後に残った二柱の神は、互いの剣が互いの胸を突き、相討ちとなって滅び去った。

こうして神無き時代が訪れ、神々の争いによって極限まで減ってしまった生き物たちも増えていき、今日に至る。

大ざっぱにまとめるとそんな内容だった。

「前にちょっとさ、ゼノビアが神についてお伽話でしか聞いた事がないとか言ってたんだよね。中央大陸ならまだしも、西方大陸に生まれたゼノビアがどこでそんなの聞いたのかなって思ってさ」

確かに、神の存在を謳う聖教会は中央大陸にしか存在しない。

教授の話によれば、西方大陸ではシステムメッセージは世界の声という事になっていたはずだ。

西方大陸の人間がもし「神」が居ると言ったのなら、それは運営以外の何かである可能性が高い。

「調べてみたら、こういうお伽話めいた古文書が出てきたってわけ。でさ、死んじゃってるのはいいとして」

「封印された強大な神とやらは、今もどこかに居るかも知れないってこと?」

「そうそう!」

「でも、中央大陸も西方大陸も、あと南方大陸にも結構人をやってるけど、そういう怪しげなものがありそうだって報告は受けてないけど」

封印、というと北の極点の『クリスタル・ウォール』が思い出される。

しかしそんな物が大陸にあれば気がつかないはずがない。

それに、封印された神とやらが本当にいたのかどうかも怪しいものだ。

システムメッセージには「レア以外の神属はいない」とはっきり明記されていた。

仮に封印状態は神属とは見なさないのだとしても、である。

例えばその神が魔霊神だった場合、現在はレアがその座についているが、その状態でその神が復活した場合果たしてどうなるのか。

そういう整合性が取れなくなる可能性があるようなミスを、運営がするとは思えない。

とはいえ、そのシステムメッセージには「理由は申し上げられません」とも書いてあった。

明らかに何かある。

存分に気にして、気の済むまで調べて追いかけてほしいと言わんばかりだ。

あれがレア個人に宛てたメッセージである事を考えると、他のプレイヤーやNPCを相手に暴れるよりも、そっちに意識を向けてほしいという事だろう。

つまり、非常に迂遠だがエンドユーザー向けのコンテンツの案内である、のかもしれない。

「ま、私に言えるのは、そういうまだ見ぬ何者かがどこかで眠っているかもしれないってことだけかな」

「どこかって言っても……」

もう探すような場所はない、と思う。

「そこでわたしの出番ですよ!」

ブランが胸を張って言った。

「この間極東列島のマグナメルム・ウトピアに行って来たんだけどさ──」

「ごめん、何? どこに行って来たって?」

「マグナメルム・ウトピア?」

「……何それ」

「極東列島にある精霊とアンデッドの楽園だよ」

「……何それ」

ブランの話によれば。

極東列島に現れた端末は、かつて現れた黄金腐虫ペルペト・カスパールだったらしい。

ブランたちが倒した時ほどの数はいなかったらしいが、それでも精霊たちにとっては脅威だった。

そこに現れたのが精霊のアンデッド、レムールの集団だった。

その集団は1体の強力なレムールに率いられており、統率された動きで精霊たちを助け、共に黄金腐虫を打倒した。

後にブランが様子を見に行った際には、そのレムールリーダーはブランを見るなり跪いたという。

それを見た精霊たちは、やはりマグナメルムの思し召しによって救われたのだ、と歓喜に沸き、列島全体をマグナメルムの理想郷として永く語り継いでいく事を決意した、らしい。

アンデッドとどうやったら仲良くやれるのかよくわからないのだが、寿命の長い精霊にとっては寿命のないアンデッドも殺せば死ぬという点では同じであり、忌避すべきものでもないとか何とか。

聞いてもよくわからなかったので理解するのをやめた。ブランもよくわかっていないようで、説明がいまいちだったのもそれに拍車をかけた。

「……まあいいや。で、その精霊さんだか死霊さんだかが何だって?」

「なんかね、極東列島のさらに東に、なんかあるらしいよ。ずっと昔の話だけど、難破した船が島の東側に漂着した事があったんだって」

極東列島のさらに東。

極東とかいうくらいだし、東の極みでありその先はないものと漠然と考えていたが、その先にも何かあるのか。

中央大陸を基準にし、西、東、南、北と大陸かそれに類する何かがあった。

しかし西方大陸に行った教授が言っていたように、西方大陸の民にとってはそこが世界の中心であり、中央大陸は東の大陸に過ぎない。

この世界が球体であることは、地平線や水平線の存在からわかっている。

であれば、世界一周してみるまでは、極東列島や西方大陸の向こうに別の大陸や島がないとは言い切れないのだ。

遥かな高みから世界を睥睨するだけの力を得たことで、世界の全てを見たつもりになっていたのかもしれない。

しかしどれほど高みに昇ろうとも、世界の裏側を見る事など出来はしない。

現実の月と同じである。

レアはこの世界の表側しか見ていなかった、ということだ。

「……なるほど。飽きてしまうのは、世界の裏側や太古の神をこの目で見てからでも遅くはない、ってことか」

「やっぱり飽きてたんじゃん」

「うるさいなぁもう……」

「やる気出たんならどっか行こうよ! あ、そういえばバンブくんが黄金龍の経験値の使い方について相談したいとか言ってたよ! どさくさに紛れてアウリ何とか拾ったみたいでさ──」