軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第607話 「ガラパゴス宗教観」

《プレイヤー名【レア】様

平素は弊社『Boot hour,shoot curse』をプレイしていただき誠にありがとうございます。

まずは神属への就任、おめでとうございます。

つきましては、神属についてご説明すべき項目がいくつかございますので、少々お時間を拝借いたします。

現在、『Boot hour,shoot curse』世界において神属はレア様おひとりしか存在しておりません。

理由は申し上げられません。ご容赦ください。

・『神罰』と名のつくスキル、または魔法について

ワールドメッセージでもお伝えしましたが、事象融合『 遁れえ(ネメシス・) ぬ神罰(アドラステイア) 』をはじめとする、『神罰』と名のつくスキル、または魔法は、神属による断罪の剣であり、神属がこれを執行する事になっております。

現在神属はレア様のみですので、これはレア様が行なう事になります。

この際、レア様が何かをしなければならないという事はございません。

ただし、レア様のアバターが使用されるため、その利用料として経験値の一部が支払われます。

今後、レア様以外の神属が増えていった場合、7体を超えた時点で抽選になります。選ばれたキャラクターには、同様に経験値の一部が支払われます。

また利用料は参加神属で頭割りであり、7体になった場合利用料は7分割されます。

『神罰』は担当する神属によって最終的な与ダメージが変化いたしますのでご注意ください。

現在はレア様お1人による執行になっているため、与ダメージはレア様の能力値のみに応じた倍率がかけられています。

神属の座を降りたい場合、特設メールフォームから申請が可能です。

その場合、いくつかのスキルを封印した上で元の種族に戻ることになります。能力値が減少する事はありません。

・信仰について

神属の権能は『Boot hour,shoot curse』世界における全キャラクターからの信仰心によって上下いたします。

国家システム同様、プレイヤーの皆様の数値は計測できませんので、基本的にノンプレイヤーキャラクターの数値によって決まります。

この信仰心が高い場合、『神罰』執行時の抽選で選ばれる確率が上昇します。

他キャラクターからの『神罰』攻撃を受けた際のダメージは信仰心の数値に応じて減少します。

神属キャラクターが『神罰』を発動する場合、信仰心の数値に応じてボーナスを得ることが出来ます。

他にご意見、ご質問等ございましたらお気軽にご連絡ください。

『Boot hour,shoot curse』開発・運営一同》

「信仰心、とやらが完全に死に設定な件……」

「神とかバンバン生まれてくれば話は変わってくるかもね。仮に『神罰』の撃ち合いになったら、より信仰心を集めている方が有利ではある」

「あんなの、撃たれた時点でわりとおしまいでしょ。撃たれる前にヤるしかないよ」

イベント後、レアにだけ送られてきたシステムメッセージの内容について仲間たちに話した。

イベント後とは言っても、実際のところまだイベントは終わっていない。

ただ本体である黄金龍は始末したので、レアとしてはもう終わったイベントだと認識しているだけだ。

現在も世界各地に黄金龍の端末は残っているだろうし、その駆除のためにプレイヤーやNPCが奔走している。

マグナメルムの関係者もまだまだ働いている者はいる。

ただ、例の空間の罅割れは消えて無くなったようだし、本体の討伐以降ネームド端末は現れていないようだ。

小さめのウツボ程度ならそれほど強くもないし、経験値にブーストがかかっているのなら美味しい雑魚と言える。火山島に現れたようなサイズのウツボも確認されていない。

要は消化試合だ。

レアたちが出て行ってどうこうするほどの事ではない。

多少騒がしくはあるが、打ち上げも兼ねて軽くお茶会をしているところである。

場所はメリサンドの希望で空中庭園アウラケルサスの珊瑚城だ。

「ところでレアちゃん。神がどうたらっていうのはどうするの? 今はまだバタバタしてるだろうからいいかもしれないけど、イベント期間が終わったら聖教会を通じて何かした方がいいんじゃない?」

「ううん……」

聖教会の仕切りはマーレに任せている。

SNSを見る限りではマーレに対するプレイヤーやNPCの信仰心は高いようだし、それを今更マグナメルム・セプテムにすげ替えても反発しか生まないだろう。

ライラはあのように言ったが、NPCとてアホではない。

今日から神になったのでよろしく、と言ったところで、ハイヨロコンデとはなるまい。

例えマーレがそう命じたとしても、おそらくマーレに対する信者の不信感を植え付けて終わりだ。

「でもさー。これまでさんざん破壊の限りを尽くしてきた相手をさ。神になったからっていきなり信仰してはくれないでしょ」

まさしくブランの言う通りである。

なのだが、ひとつ訂正しておくと、これまでレアは別に破壊の限りを尽くした事はない。

必要な時に必要なだけ破壊したに過ぎない。

もし破壊の限りを尽くしていたとしたら、今頃中央大陸は地図から消えている。

「でも後続が現れる前に、ある程度中央大陸の信仰は押さえておく必要はあるよね。シェア争いみたいなもんだし、こういうのは早ければ早いほどいい。

新しいものっていうのはなかなか受け入れられないものだし、昔からあるものの方が信用されやすいしね」

買い切りの商品ならば必ずしもそうとは限らないが、継続して契約するタイプの商材ならば確かにその傾向はある。

保険や新聞も、オマケや料金に差がないのであれば敢えて変更する者は少ない。

「それだったらなおさら最初からいる聖教会にゃ勝てねえだろ。他の大陸についちゃ詳しくねえが、少なくとも中央大陸に住んでて聖教会を知らねえNPCはいねえぜ。魔物でさえ知恵のある奴なら何となく知ってるほどだ」

バンブが言う知恵のある魔物というのは、レアと出会う前の自分自身の事だろう。

SNSにはあまり目を通していなかったらしいが、時折り森に来る傭兵と戦っているだけでも聖教会らしき宗教組織の存在には気づいていたという。

とはいえ、そのレベルの知性を持った野生の魔物など今更どこにも居るまいが。

それはそれとして、レアは実は聖教会になら信仰心で負けていても問題ないと考えている。

中央大陸の聖教会が信仰しているのは特定の神属ではなく、システムメッセージだ。

これまで、なぜそんなものを信仰しているのだろうと思っていたのだが、今回の信仰心システムを聞いて何となくわかった。

システムメッセージに対する信仰心がいくら高かろうと、信仰心システムには何ら影響を及ぼさないからだ。

おそらく新たに誕生する神属というのは基本的にプレイヤーを想定しているのだろう。

もし、既存の神属が存在した場合、その神に対する信仰心を奪い取るのは容易な事ではない。

『神罰』の威力を目の当たりにした身としては、より信仰心を集めた神属の『神罰』に対抗出来るとは思えない。成り立てのレアでさえ、北極をほとんどまるごと消し去る事が出来たのだ。

つまり、後追いのプレイヤーでは現地の神には勝つことが出来ない。

ならば、そうした宗教戦争に勝てなかったとしても直接的に影響がないよう、システムメッセージを利用して「存在しない神」を置いておいたのではないだろうか。

聖教会は中央大陸にしかないが、中央大陸以外の地域に住むNPCは基本的に無宗教だ。

地底王国ケラ・マレフィクスには怪しい教団があったが、あれも宗教というより秘密結社のようなものだった。

教授が仲良くしていたのは主に幹部の者たちばかりだったが、街の人々にとっては教団と為政者が同義であり、信仰心というより単なる帰属意識のようなものだったらしい。

その帰属意識も、中央のキャッスル・オブ・ピラー──教授が勝手に呼んでいるだけらしい──が崩れ去った事でリセットされ、今は街を実効支配しているゼノビアと教授の配下にすり替えられているという。中央大陸の普通の国家と変わらない。申請はしていないだろうが。

もっとも、例え既存の神がいたとしても、絶対に勝てないとはレアは思っていない。

信仰心が神の力になるというのなら、その神を信仰する民の方を始末してしまえばいいだけだ。

いかな神属といえど、まさか自分の信者全てを守りきる事など出来ようはずもないし、キルしたNPCは復活しない上にプレイヤーは死亡しないため気長にやればいい。

いつかは既存の神の信者を滅ぼし、その力を削ぐ事が出来るだろう。

「信者についてはイベントが終わったらゆっくり考えるよ。面倒だし、災厄神国ハガレニクセンに丸投げしてもいい。

わたしが黄金龍の本体を倒し、世界の喉に刺さった小骨を取り除いてやったのは確かだしね。うまくすれば、聖教会とは別の宗教勢力を立ち上げる事も出来るでしょう。

ていうか、別に聖教会の勢力を削る必要はないんだよね。聖教会の信者でありながら他の神を信仰する奴なんて居ないだろうし、そう考えれば後続が現れたとしても、聖教会信者以外のパイをたくさん持っている方が勝つ。

なら聖教会には磐石で居てもらったほうがいい。下手に揺るがせて、後から来た奴に切り取られても厄介だ」

「ふむ。しかしだ。聖教会の信者であっても、他の神を信仰している者だっているだろう。少なくとも1人は」

「え、誰?」

「他ならない聖女アマーリエだよ」

そういえばそうだった。

「ならいっそ、教義として聖教会と災厄神は競合しないって事にしてやった方がいいかな。日本人と同じだ。クリスマスは騒ぐし、初詣にも行くし、バレンタインにはチョコを貰う」

「え、貰う?」

レアの言葉にブランが首をかしげた。

バレンタインは周りの人が皆チョコレートをくれるのでそういう日だと思っていたが、そういえば女性が男性に贈るのが一般的なのだったか。

ジェラルディンたちは「ニホンジン」や「クリスマス」と言ったワードに首をかしげつつも、それほど気にした様子もなくお茶を飲んでいた。

チョコ、というものが気になったようではあったが、これはライラがインベントリから取り出して与えていた。

「ま、いずれにしてもちゃんとイベントが終わってからかな。まだ各地で戦闘は起きているみたいだし、期間中はウツボも追加されるんだよね? これ結構おいしいから、わたしたちも積極的に狩っておこう。

戦闘力を持たないNPCにとっては脅威だろうし、我々が守ってやれば感謝もしてくれるでしょう」