軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第600話 「問題ない」

レアの全身に力が漲る。

口の端がつり上がっていくのを感じるが、止められない。止める気も起きない。

無意味に哄笑を上げたくなる。

遠くでは黄金天龍アウレア・アイテールが無様に身じろぎをしている。これからレアが殺す相手だ。

足元には愚かで可愛いプレイヤーたちがいる。レアから搾取されるために存在している者たちだ。

その愚かで可愛いプレイヤーたちが、レアに力を献上してくれた。

黄金天龍を殺すために。

ならば、上位者としてその望みを叶えてやるべきだろう。

好きなだけ、特等席で見るといい。

急激に上がった能力値のせいか、妙に気分がいいが、この程度の事は慣れている。何も問題ない。

「なるほど悪くない気分だ! 褒めてやる!

──黄金天龍アウレア・アイテール! この一撃で消え去るがいい! 『 天変地異(カタストロフ) 』!」

***

人間の使う鎧獣騎とかいう機械にそっくりな、それでいて肉感的な生々しさを備えた金色の巨大な魔物を消し飛ばし、オライオンは息を吐いた。

この魔物は倒してもすぐにどこかから現れる。

どうせまたやってくるのだろうが、それまで小休止は出来るだろう。

マグナメルム・セプテムと名乗る小娘が用意した、ケリーとかいう副官はしばらく前から姿を見せない。

小娘が北の封印を解くとか言っていた時期と重なっているので、そのための戦力として駆り出されているのだろう。

ただケリー以外の獣人の文官は残っていた。

文官として貸し出された者たちだったが、戦闘面でもこれまでのオライオンの部下より遙かに使えるため、今は国を守るために各地に派遣している。

そのためオライオンはこの帝城でひとり、現れる黄金の魔物と戦っていた。

「……妙に癪に障る気配といい、色といい、こいつが復活した黄金龍の端末なのは間違いねえ。前回のにょろにょろも居やがるしな。

ギリギリで倒せる程度の実力なのは助かるが……こんなヌルい相手だったか? 黄金龍ってやつは……」

にょろにょろした端末は前回の黄金龍戦でも何度か戦っている。

あれはサイズによって脅威度が変わるが、世界中のどこにでもお構いなしに現れていた。そのせいで滅んだ国がいくつもあったほどだ。

しかし、今回は違う。

蛇型については、世界中に現れているのかは知らないが、サイズによって強さが違うのは以前と変わらない。

問題は新型だ。

端末自体はこのユークの帝都においても当然現れているのだが、城下街には小型の蛇しか出ていないようだった。

大型や、今倒したような新型は狙いすましたかのように帝城にだけ現れたのだ。

まるで、そこにいる者の実力を考慮して、対処できるギリギリの戦力しか配置していないかのようだ。

オライオンにはそれが作為的に感じられ、何とも言えない気分になっていた。

「……まあ、何でもいいか。俺は俺の国を壊そうとする奴を殺すだけだ。誰が何を企んでいようと関係ねえ」

一瞬だけ脳裏に浮かんだ、聖王エウラリアの面影を振り払う。

封印は──『クリスタルウォール』はもう、とうに破壊されてしまっているだろう。

そうであれば、もはやこの世にエウラリアの遺した物は存在しない。

その事実に胸が切なくなるが、それでもし、黄金龍の息の根を完全に止められるのであれば、それこそがかつてエウラリアの望んだ事なのかもしれない。

封印はしょせん封印に過ぎない。

時の流れを止める事が出来ない以上、あのセプテムとやらが何もしなくても、いつかはこんな日が来ていただろう。

しかし、それは今ではなかったかもしれない。

もう少し、この世界にエウラリアの匂いを残しておけたのかもしれない。

「……ちっ」

オライオンは頭を振った。

どのみち、今さら言っても仕方がない事だ。

力のないオライオンにはその選択権すらなかった。

それだけの話である。

「……だが、ただで見逃してやる気はねえ。もし、これで黄金龍を仕留めきれなかったってんなら、その時は……。

この命にかえても、俺がてめえを殺すぜ、セプテム。だから、絶対に黄金龍を……」

***

SNSによれば、この端末は世界中に出現しているらしい。

まさに世界の終末である。

マグナメルム・セプテムが世界の敵と言っていたのは本当だった。

しかも倒しても倒しても新しいものが現れる。

つまり、端的に言って──稼ぎ時である。

「リック! 『氷魔法』を!」

「わあってる! 行け! お前ら!」

リックの指示に従い、彼の眷属のゴブリンメイジ部隊が一斉に『氷魔法』を放つ。

そのうちの何体かの魔法が事象融合を起こし、黄金の巨大ツリーを凍りつかせた。事象融合までいかなかった魔法もお互いに干渉し、同属性のため普段より大きな成果を上げている。

「今だ! スケルトイ!」

「了解っす!」

そして凍りついた隙を狙い、骨の部隊が殺到する。

ついでに家檻も自身の眷属に命じ、骨の部隊の援護をさせた。

この悪趣味な金ピカのツリーは一見すると植物だが、『火魔法』の通りはそれほどよくはない。効かないわけではないのだが、普通のダメージしか入らない、というべきか。つまりは弱点属性ではないのだ。

一方で『氷魔法』ならばダメージを入れた上に防御力低下の効果が見込めるようだった。

おそらく、黄金龍というのは金属系、大地に属する性質を持っているのだ。

だからこそ『氷魔法』に弱い。

色が金色なのはそれを表している。

この情報はクランマスターであるバンブにすぐにでも伝えたいところだったが、取り込み中のようでフレンドチャットに反応しない。

何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もコールしても応答がないので、本当に忙しいのだろう。

黄金のツリーは恐ろしい再生能力を持っており、斬った端から枝が復元されていく。

しかし凍りつかせてしまえばその再生も鈍化させられるし、ダメージも増やせる。

倒すたびに現れるこの大樹と何度も戦ううちに、MPCのメンバーたちが確立したテンプレ討伐方法が、この『氷魔法』の飽和攻撃からの物理総攻撃だった。

「……グアアァァ……オノレ……人類ノ敵メ……」

大樹は事あるごとに家檻たちを人類の敵だと言う。

しかしそんな事は言われるまでもなくわかっているし、そもそも大樹に言われたくはない。

巨大な樹としか言いようのない姿。幹には逆さまに人の顔。さらには全身金ピカである。

人類と仲良しな様にはとても見えない。

妙に邪悪な雰囲気と相まって、何とも言えない不気味さを醸し出している。

どれだけ人類が好きなのか知らないが、その人類の前に現れたら即刻討伐隊を組まれるだろう。永遠の片想いだ。

「いやー。これうめえな。早く次来ねえかな」

リックがゴブリンメイジたちにMPポーションを配りながら言った。

家檻とスケルトイも疲労回復ポーションを配下に配っておく。

レイドボスとの連戦は神経を使うし配下も消耗するが、配下の消耗についてはマグナメルムから提供されている各種ポーションで無理やり回復できる。

家檻たちプレイヤーの精神的な疲労についても、倒して得られる経験値を見ればすぐに吹き飛んでしまう。

魔物である家檻たちにとって、こんな美味しいイベントは今まで無かった。

バンブと連絡が取れないのが少々気になるが、死んでいるわけではなさそうだし、ここで家檻が心配しても何にもならない。

悔しいが、彼の事はマグナメルム・セプテムに任せるしかない。

慈英難──ウルススメレスに任せるよりは遙かにマシなはずだ。

「──よっしゃ次がポップしたぞ!」

何より、今はこちらも忙しい。

ここを乗り越えれば、これまで以上にバンブの役に立つ事が出来るようになるはずだ。

***

「……まだ来るか。愚かな。身の程がわからんか」

「現れるのは同一の個体だが、記憶や意識を共有しておるわけではないようだの。ならば、毎度毎度訳も分からず攻撃してくるのは仕方のない事なのではないか?」

祖父アルヌスの言葉に、ドロテアは眉をひそめた。

主君レアの宣言通り、封印を解かれたらしい黄金龍は世界中にその眷属を生み出した。

それは当然この魔帝国も例外ではない。

城に匹敵するほどの大樹と、機械で出来たケンタウロスのような女と、とんでもなく臭い虫。どれも金色に輝いている。

蛇のような眷属の後、魔帝国にはこの3体が出現していた。

この3体は討伐してもしばらくすれば次が現れる。

諦めるつもりはないらしい。

主君レアの采配により、魔帝国に集められた戦力は大きい。

並の強者を遙かに超える金色の魔物が3体だが、それでもやられたりはしない。

大樹は攻撃して枝を切り落としてもすぐに再生する、非常にタフな相手だが、ドロテアの先輩でもある2頭のフェンリルの猛攻に耐えられるほどの防御力はない。

再生速度を上回る攻撃を連続して加えられ、瞬く間に幹も生命力も削り取られていく。

機械のケンタウロスはフレスヴェルグのカルラがひとりで相手取っている。

カルラの声には不可視の攻撃能力があるらしく、彼女が叫ぶ度にケンタウロスの各所の黄金のカラクリが砕け散る。

反撃しようと手を伸ばしても、カルラは空高くに逃げてしまう。

常に一方的な展開だ。

アルヌスの言った通り、同じ個体でも記憶の継承はしないようで、現れる度に同じ戦法で討ち取られている。

とんでもなく臭い虫は、リヴァイアサンのエンヴィが遠くから水で押し流し、匂いが弱ったところをドロテアが接近戦で仕留めていた。

この相手が一番弱いのだが、倒すのは一番面倒だ。嗅覚に鋭い他の幹部は誰も近づこうとしないため、布で簡単に鼻を覆えるドロテアがトドメを刺している。

憂鬱な仕事だが、残しておいても臭いので仕方がない。

主君の話では、この者たちを生み出した黄金龍はその昔、天空よりさらに高みから現れたという。

それがこうしてここを攻めているという事は、すなわち主君と黄金龍が天空の座を巡り争っている事に他ならない。

なぜなら、かつて主君はドロテア達に言ったからだ。

其(そ) はセプテントリオン。天に輝く七つ星、と。

「トカゲ風情が諦めの悪い事だ。すでにこの空は、我らが主の手の中にある」

「然り。天の輝きが誰のものなのか、あの汚い金色に刻み込んでやるとしよう」