軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第594話 「第二形態」

「こいつで……仕舞いだ! 『アドバンスラッシュ』!」

ビームちゃんの放った連撃がアナコンダサイズの端末をミンチにし、戦闘が終了した。

ワールドクエスト最終章として、世界中に現れている黄金龍の端末は、ここ神聖アマーリエ帝国周辺にも現れていた。

サイズはまちまちだが、その大きさによって強さが変動するらしく、今のアナコンダサイズのものくらいならビームちゃんならソロで討伐出来る。

ひと口で家さえ飲み込めそうなほど大きなものになると聖女アマーリエの手助けが必要になるが、そうでなければプレイヤーだけでも十分に対処が可能だ。

すでにグロースムント市内に発生した、謎の空間の罅割れは全て破壊してある。

黄金龍の端末はこの罅割れから現れるため、罅割れを超えるサイズのものはいない。

キングコブラサイズくらいの小型の端末なら初心者でもパーティで対処可能なため、街の外に出来た小さな罅割れは位置だけ記録して放置してある。

イベント期間中限定の沸き狩りだ。経験値効率もいい。

初心者プレイヤーや街の自警団にそれらの罅割れの監視を任せ、ビームちゃんたちは大きめの罅割れの探索と端末の討伐で街の周辺を巡回していた。

「この辺の罅割れはもう大方破壊しましたね。今度は南側に行ってみましょう」

「了解です、聖女たん」

「様をつけろや」

パーティは闘技大会に出場した時のメンバーだ。

ビームちゃん、ハセラ、もんもん、ファームに、聖女とそのお付きのオルガとパメラの7人である。

聖女の意見に従い、一行は南へと移動する。

移動の途中で遭遇した端末や罅割れは随時対処していく。

順調だ。

SNSによれば、北の決戦も問題なく進行しているらしい。

黄金龍の本体が第二形態に移行したとの書き込みがあった。

その際マグナメルム・セプテムの超必殺技に巻き込まれてプレイヤーが何人かリスポーンする羽目になったらしいが、書き込んでいるウェインによれば、近づきすぎた本人たちの自業自得との事だった。

ビームちゃんとしては、まずラスボスであるセプテムが攻撃しようというのにわざわざ近付いていく心理が理解できないが、そんなに興味を惹かれるものでもあったのだろうか。

「本体が第二形態になったんなら、端末の方も何か変化があるかもしれんね」

「あー。あるかも。ライト層のプレイヤーが張り付いてる罅からあんまり妙なのが出てくるようだと困るっちゃ困るか」

もんもんとファームがそう話す。

確かに困りはするが、プレイヤーならば自己責任である。

イベント期間中であるし、死亡したところで実質的なデメリットは無い。

むしろSNSに書き込むネタが出来ておいしいとも言える。

「何にしても、南側を見回ったら大きめの罅はあらかた片付いちまうな。俺たちの目的は周辺の治安維持だからいいが、中堅以上のプレイヤー的には獲物がいなくなって──」

***

「──間違いないわ。エウラリアの顔だわ。それにしても、随分と顔幅が広くなったものね。一瞬誰だかわからなかったわ。なんかごめんなさいね、私いつまでも美しくて。あなたに比べてほら、こんなに小顔!」

「……先輩何言ってんのこれ」

「……昔何かあったんじゃない? 僕は知らない人だけど。友達の友達ってなんかちょっと微妙な距離感になるよね」

「……あ、わかるそれ!」

「言ってる場合か。──動くぞ」

バンブの言う通り、黄金龍の身体が少し震えた。

そしてエウラリアの口がゆっくりと開かれ。

──ラアアアアアアァァァァァ!

澄んだ声が響いた。

さらに目を見開いたエウラリア。

再び世界が震え、空間が罅割れる。

今度は小さな罅割れはない。

新しい罅割れは例外なく、これまでのものよりも大きい。

その罅から現れたのは──

***

「──なんだ! また罅割れが出てきたぞ!」

「しかもこれまでのよりでけえ! つか見たこと無いサイズだ!」

「皆さん、注意してください! この威圧感は……!」

狼狽えるハセラたちを聖女が引き締める。

全員がスッ、と表情をなくして落ち着き、冷静に構えを取るあたり、よく訓練されていると言える。

もちろんビームちゃんもそうだ。

「──来るぞ」

罅割れから現れたのは、端末と同じ色の細い何かだった。

細いと言ってもそもそも人間の胴よりは太い。罅割れ自体がとてつもなく大きいからそう見えるだけである。

数本出てきた細い何かは、根本にいくにつれ少しずつ太くなっているようだ。

その数本もどうやらつながっているらしく、枝分かれして──いや、まさに枝そのもののように見えた。

それが何本も罅割れから現れる。

「……木、か?」

「木が動いてんのか?」

罅割れから外に出た枝は器用に折れ曲がり、罅割れの縁を掴んで力を込めた、様に見えた。

そこを支点に、罅割れの中から本体を引き上げる。

しばらくして罅割れから全身を外に出したそれは、まさに木だった。

ただ、太い幹には逆さまに人間の顔が張り付いている。

「……人類ノ敵。……倒ス。……人類ノ敵。……倒ス。……人類ノ敵」

「シャベッタァァァ!」

「キモ! なんだこいつ!」

「人類の敵って、てめえ鏡見てみろや!」

これまでの黄金龍の端末とは明らかに違う、圧倒的な存在感。

単純に気持ち悪いということもあるが、それを越えた根源的な、絶対に相容れないという感覚が湧いてくる。

まさにこれは人類の敵、いや世界の敵だ。

これは存在してはいけないものだ。

「どなたか、アレの情報を見られませんか? もしかすれば、名前くらいは見られるかもしれません。貴重なアイテムでしょうから、強制はできませんが……」

「え? いやでも聖女様、あれ明らかに見られるレベル超えてるっていうか」

「おい馬鹿か! 聖女たんがやれって言ったら黙ってやるんだよ! ええと、看破のモノクルは──」

ハセラがインベントリからモノクルを取り出し、左目に当てた。

皆押し黙り、ハセラの鑑定の結果を見守る。

「……見えた! 名前だけ! それ以外は……なんか文字化け? してるな。

名前はええと、黄金怪樹サンクト・メルキオールだって!」

「ネームドかよ! 現地以外には端末しか出てこないって話じゃなかったのか!」

「あれもまた、端末のひとつ、ということなのでしょう! いずれにしても、この7人だけで対処できるかどうか……。皆さん、もし可能なら応援を!」

「わ、わかりました聖女様!」

慌ててSNSのイベントスレに書き込みをしようと開くもんもん。

しかし。

「──げえ! 似たようなのが他のとこにも出現してるって!」

***

オーラル王国、ヒューゲルカップの街。

その美しい街並みを守らんと、仁王立ちする鎧獣騎の部隊があった。

その隊長こそ王国を守る盾、ユスティースである。

今、ユスティースの目の前で、新たに現れた罅割れから出現した、異常な存在感を放つ一体の魔物がいた。

いや、魔物というカテゴリーでいいのかどうなのか。

それは一見してただの魔物には見えなかった。

鎧獣騎にも似たその姿は、どこか美しく、どこか歪んでいて、まるで神を彫刻しようとして失敗してしまったかのような、そんなアンバランスな魅力を持っていた。

ユスティースは光になって消えていくモノクルを握りつぶし、つぶやいた。

「……黄金偽神、アクラト・バルタザール……か」

***

「なんでだよクソ!」

「落ち着けジェームズ! 悪態ついてる場合じゃねえだろ!」

「わかってる! わかってるが……!」

「世界各地に似たようなレイドボスが出現してるって話もある! ここもそのひとつってことだよ」

菜富作がSNSをチェックしながら言う。

それはわかっている。

わかっているが、なぜ、よりにもよってこのバーグラー共和国に、それもこの場所にこんな奴が現れるのか。

「嫌がらせか!? 運営の嫌がらせなのか!? PKもダーティプレイも別に何も違反してねえだろ!」

「偶然だろ! たまたまだ!」

「なんで、なんだって──」

ジェームズが改めて、悍ましい威圧感を放つその黄金のレイドボスを睨みつけた。

「──なんだって、よりにもよってここにこんな臭っせえ奴が現れんだよ! 食品加工工場だぞここは! こいつ倒したとして、この臭いちゃんと取れるんだろうな!?」

菜富作の使ったモノクルによれば、このレイドボスは黄金腐蟲ペルペト・カスパールと言うらしかった。

食品関連の施設にとって「腐」や「蟲」などあってはならないワードである。

臭いよりもむしろ、そちらの風評被害の方が深刻だ。

***

「……これはまた、懐かしいのが出てきたね」

「ふむ。滅んでいなかった……というより、あの端末の情報を再現した、ということかな」

「くっさ! 相変わらずくっさい!」

「ふうん。みんなの反応からすると、他の2つが話に聞いてた怪樹と腐蟲ってことか」

「……俺だけ何の因縁もねえんだが」

「安心したまえ。僕もだよ」