軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第575話 「悲願達成」

「機は熟した! 今こそ我らがウェルス王国再興の時! 者ども、続け!」

ガスパールがそう叫ぶと、彼の配下の騎士たちも同様に声を上げ、雪崩を打ってグロースムントに突撃していく。

もちろん大将であるガスパールは本陣で指揮だ。

エルネストはそんな友人の姿を見ながら、密かにため息を吐いた。

ガスパールは祖国を取り戻すため、聖女の治めるこのグロースムントに襲撃をかけている。もっとも、今街の中には当の聖女はいないのだが。

彼らが命がけで聖女と戦うのは、このウェルス王国の大地の治める正統な存在は自分たちだと信じているからだ。

聖女や異邦人たちはあくまで外からやってきた者たちであり、その者たちが街を治めている現状は健全なものではない。

ガスパールたちの主張はこうだ。

これについてはエルネストも同じ思いを抱いている。ただし対象は聖女たちではなく、MPCと名乗る魔物の集団だが。

そう、ポートリーを占拠しているのは魔物たちなのだ。

元はエルフの王国だったポートリーである。それが魔物に占拠されているという時点で、どちらが正統なのかは考えるまでもない。

しかしウェルスは違う。

聖女は人類であり、しかもおそらく高貴な生まれだ。聖女と言うだけあり、神の恩寵も得ている節もある。

この状況で、少し前まで王族だったからというだけの理由で、果たしてガスパールには言うほどの正統性があるのだろうか。

前回、イライザがエルネストの前に立ちふさがったのも、そのせいではないのか。

これまでエルネストは、いつでも誰かに従って生きてきた。

元々はそれが嫌で宮殿を抜け出し、城下街で憂さを晴らしていたようなものだ。

自分よりも優秀な弟。

仮にエルネストが王位についたとしても、サポートという形で弟の言う通りに国を運営する事になっていただろう。

もっともそんな小さな嫉妬心も劣等感も、実際に父や弟を失ってしまった事で霧散している。

それからは怒涛の日々だったように思う。

しかしそんな日々の中でも、エルネストを導いてくれた者がいた。

それがイライザだった。

イライザの言う事はいつも正しかった。

唯一の例外はあの大戦の折、彼女が瀕死の重傷を受けてしまった事だが、あれは異邦人たちがエルネストの命を狙ってやったことだ。おそらく奴らは例のMPCと通じていたのだろう。

イライザはエルネストを庇い、異邦人の凶刃に倒れた。

エルネストなどが生き残るより、イライザが生き残った方がエルフたちのためになったのではないか。

何度そう思ったか分からない。

そしてそんなことをイライザがわかっていなかったとも思えない。

つまりイライザは、あの瞬間だけ、正しさよりもエルネストの命を優先したのだ。

そのイライザが、 ガ(・) ス(・) パ(・) ー(・) ル(・) の(・) 前(・) に立ちはだかった。

ガスパールの協力者であるエルネストにも、当然剣を向けてきた。

イライザも、エルネストに剣を向けねばならない状況にはさぞ心を痛めた事だろう。

もちろん、エルネストも辛かった。

そのショックから何とか立ち直り、落ち着いて冷静に考えてみれば。

現在のウェルス王国の状況は、ただの内戦なのではないか。

常に正しい判断をしてきたイライザが、絶対に剣を向けたくはなかっただろうエルネストにまで攻撃してきたほどの事態である。

ただ事ではない。

このまま、友人の起こす内乱に付き合っていてもいいのだろうか。

今回の行軍に同行したのは、どうやらグロースムントにイライザはいないらしいと聞いたからだ。

それなら最悪の事態にはならないかと、断りきれずについてきた。

つまり惰性である。

どうするべきなのか、未だエルネストの中で答えは出ていない。

元々、ガスパールが挙兵したのもエルネストが協力すると言ったからだった。

あの時はイライザを奪った異邦人に対する憎悪がエルネストの全てだった。

その復讐の為ならば何でもする。

そういう覚悟でガスパールに手を貸し、唆し、レジスタンスを組織した。

しかし、イライザは異邦人たちの側についた。

エルネストの憎しみにはもはや、何の正統性もなかった。

「──よし! 門は破った! 者ども! 突入だ!」

エルネストが悩んでいる間に、いつの間にか城門は破壊されていた。

「我らも行くぞ! エルネスト!」

「あ、ああ」

行く事になっていた。

未だ、心は決まっていない。

しかし今この街にはイライザはいない。

ならば最悪の事態にはなるまい。

この街をガスパールたちが陥落させてしまえば、イライザの望みに反する事になるかもしれない。

しかしその時はエルネストが誠心誠意説得すればいい。

異邦人たちは死ぬことがない。以前はその性質がなにより疎ましかったものだが、今となってはありがたい。

この戦でいくら異邦人が死んだとしても、何の問題もないという事だ。

イライザが恩を感じているという異邦人が死亡しないのであれば、この街が聖女の物だろうとガスパールの物だろうと大差はあるまい。

覚悟を決めたというよりも、覚悟を決めない事を決めたエルネストは、とりあえずガスパールの先導に従い、グロースムントの城壁をくぐった。

街の中はすでに兵士や騎士たちが入り込んでおり、制圧が進んでいた。

残されていた住民は街の中心部の巨大施設に集められているらしく、一般人には被害は出ていないようだ。

今は足止め役なのか、聖教会の修道服を着た戦士たちが後退しながらガスパールの兵と戦っている。

一刻も早い決着を求めているガスパールの指示で、民家からの略奪などは行われていない。

もちろん中に何者かが潜んでいないとも限らないため、家の中は調べられるが、そこから何かをいちいち持ち出したりはしない。

確認済みを示すための、扉を開け放たれたままの無人の家々が街を埋め尽くしている。

いや考えてみればガスパールの兵たちが略奪を行なわないのは当然だ。

この街はこの後、ガスパールが支配する事になるのだ。

住民感情を無意味に悪化させるのは愚行だ。

ただ、いかに住民への被害を最小限に抑えたとしても、聖女から街を奪い取ったという事実だけは残る。

こうして中に入って見ても、以前に訪れたグロースムントとはまったく違う街並みになっている。

グロースムントは魔物たちによって一度破壊されたという話だし、そこから復興させ発展させてきたのは聖女たちなのだろう。

であれば「元々ウェルス王国の物だった街を取り戻しただけだ」などという言い分は誰も信じまい。

ガスパールたちの快進撃──と言っても敵の抵抗は弱く、無人の街を歩いているようなものだが──はその後も続き、ついに一行は街の中心の施設へとたどり着いた。

「ここを制圧すれば、ようやくこの街は我らが手に落ちるな……」

「ガスパール、この中には避難した市民もいるのだろう。元はお前の国の民だ、あまり手荒な真似は──」

「もちろん、わかっているとも。罪なき民を裁くつもりはない。しかし、ここはお前にとっても憎むべき異邦人たちの本拠地でもある。必ずや、滅ぼさねばならない」

ガスパールはすでに覚悟を決めている。

民は大切だが、ウェルス再統一という目的のためならば多少の犠牲は仕方がない。

そういう目をしていた。

止めなくて良いのか。

このままでは少なくないヒューマンが、元王族の手にかかって死ぬ。

もしかすると、イライザはこのやるせない事態を止めようとしていたのではないのか。

しかしエルネストは心のどこかで「とはいえ所詮はヒューマン。下等な種族の内輪揉めだ」という思いもぬぐえないでいた。

今では確かに、ガスパールの事は友人だと思っている。

王として、厳しい決断をしなければならない辛さもわかる。

やるせない事はやるせないが、それも友の決めた事。

「……騎士たちよ」

「はっ」

「我が友ガスパールの助けとなれ」

「はっ!」

エルネストは自身の騎士団もガスパールに預ける事にした。

ここまで来てしまったのだ。

止めるわけでもなく、さりとて手を貸すわけでもなく、ただ付いてきただけでは、この後のポートリー解放の助力に難色を示されるかもしれない。

手を貸したとしてもガスパールがそのために心を砕くかというと微妙なところではあったが、最後までどっちつかずの傍観者よりはマシだと思えた。

どうせイライザが見ているわけでもない。

ならば、少しでも今後役に立ちそうな選択をしておいた方がいい。

そこまで自覚していたわけではなかったが、イライザが生きていると分かった今、エルネストにとってこのウェルス王国でのことは「割とどうでもいい事」、つまり他人事に分類されつつあった。

この行軍の間もずっと、一歩引いて見ていた。見ていたというか、なんなら考え事をしてろくに見ていなかったほどだ。

都市内に侵入してからも、それは変わらなかった。

街を制圧し、住民や聖教会、そして異邦人たちを中心部に封じた今もそうだった。

いや、むしろこの時がもっとも気が緩んだ瞬間だったかもしれない。

もう、あと一押しでこの戦いも終わる。

所詮は他人事、戦いと言っても友人の付き添いだ。

そこにほんの少し、助力をしただけである。

この都市にいる敵戦力はもはや目の前の施設の中だけだ。危険もない。

エルネストの擁する中で最も高い戦闘力を持つ近衛騎士も突撃に参加させる事にした。

このくらいしておけばガスパールも恩に感じてくれるだろう。

「助かる、友よ。

さあ騎士たちよ! 最後の突撃だ!」

ガスパールが声を張り上げる。

「神の名を騙る聖教会を叩き潰し、この地を我らが手に取り戻すのだ!」

その指示を受け、兵士や騎士たちが雄叫びを上げ。

「──ようやくどいたな、邪魔な騎士団が。『スタブ』」

エルネストの耳にあまり覚えがない男の声が聞こえた。

近い、なんてものではない。

長い耳に息がかかるほどだ。

率直に言って気持ち悪いが、それ以上の感覚が胸から伝わってくるのを感じた。

──熱い!

それと同時に馬が暴れ出す。

だがそれを気にする余裕も、手綱を引く力もすでにエルネストには無かった。

ぐらり、と身体が傾いていき、馬から落ちる。

さっきまであれほど熱かった身体が、何故かとても寒く感じる。

ツン、と土の匂いがする。

落馬し、そのまま地面に倒れ込んだようだ。

ようだ、というのは周りの状況がまるでわからないせいだ。目が見えない。

「──うまくいった? よし、逃げるよカントリーポップ──」