軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第572話 「アクティブ蟻地獄」

おかしい、と思ったのは、その妙なオークを見た時だった。

荒野をオークが走っている。

それはいい。それだけなら珍しい事ではない。

妙だったのは、その速度だ。

オークにしては異常に速い。

あの速度、下手をしたらヨーイチの愛馬・鵜黒に匹敵する速度ではないか。

その事を仲間たちに伝える。

仲間たちも異常な速度のオークについては不審に思っていたようで、すぐに理解を得る事が出来た。

しかし、認識の共有は出来なかった。

何故なら仲間たちが見ていたのは、それぞれ別のオークだったからだ。

はじめは色々な方向から走って来ていたオークたちだったが、いつしかその足並みは揃えられ、今やヨーイチたちはオークの集団に追い立てられるように馬を走らせる事になっていた。

「──なんなんだあのオークたち! どんな脚してんだ!」

「上位種か!?」

「いや、鑑定結果はただのオークだ!」

そう、ただのオークである。

にもかかわらず、あれだけの速度を出せている。

ということは。

「あれだけのスピードが出せるのなら相応のLPを持っているはずだが、それもない! つまりあれは、外部から何らかの補助を受けた状態の魔物だという事だ!」

何者かがヨーイチたちを狙い、最高位の速度バフを施したオークたちをけしかけている。

そうとしか考えられない状況だが、理由がさっぱりわからない。

速度にバフを乗せられていると言ってもオークはオークだ。このメンバーならちょっとした群れでも安全に狩る事が出来る。

しかし明らかにオーク以外の存在の影がちらつく中で、いかに格下相手とはいえ呑気に狩りなど出来るはずがない。

状況がまったくわからないまま、ヨーイチたちは逃げに徹するしかなかった。

「──しかし、どうする! このままいつまでも逃げ切れるもんじゃねえぜ!」

ライオン型の鎧獣騎がそう吠える。こうしていると、姿はまるきり機械の獣なのに何故かギルに見えてくるから不思議なものだ。

「そうだな! それに逃げきれたとしても、それは目的地までオークをトレインしていくって事になる! まだまだ距離はあるけど、どこかで覚悟を決めないといけないぞ!」

オオカミ型──ウェインの言葉はもっともだ。

そこまで行かないにしても、これが何者かの仕掛けた罠であった場合、あまり町や遺跡に近い場所では要らぬ被害が出るかもしれない。

「何にしても、もう少し走るぞ! まだ町まではかなり距離がある! 少しでも多く考えて、敵の狙いを探るんだ!」

ヨーイチたちはそれからしばらく全力で走った。

走っていたのは馬たちなので、全力疾走だとしても考察する余裕はあった。ウェインたち鎧獣騎組は自分の身体で走っているのと同じなのでそれは難しいが、彼らにとっては全力疾走ではないようで普通に会話も出来ていた。

が、結局いい案は浮かばなかった。

出来るとすれば、やはりどこかで足を止めて迎え撃つくらいだ。

「──おい! 前を見ろ! デカい穴、いや緩やかな窪地か? あそこの窪地で迎え撃つ! あそこなら多少何か起きたところで周りに影響も出ないだろうし、町からも距離がある!」

走り過ぎて現在位置は正確にはわからなくなってしまっているが、遺跡から港町までまっすぐ駆けてきたとすれば、あの窪地の辺りはちょうど遺跡からも地底王国からも港町からも同じくらい距離が離れている場所のはずだ。

ずいぶんとお誂え向きの場所に、お誂え向きの地形があったものである。

ヨーイチたちは窪地を目指し、速度を上げた。

窪地に下りていくと、オークたちも当然のようにそれについてきた。

ヨーイチたちは窪地の中心部へと向かうが、いつの間にか数を増やし、また他の方角からも来ていたらしい大勢のオークも窪地の中心を目指して駆けている。

「チッ! 数が増えやがった!」

「いろいろな方角からここに向かってきたって事は、僕らはどうやら、この窪地に追い立てられていたらしい!」

ちょうどいい場所を見つけた、と思ったのだがそれは罠だったということだ。

言われてみれば確かに、この窪地は人為的な物のようにも見えてくる。

あまりに丸過ぎるのだ。

まるでクレーターのような、しかしクレーターにしては浅すぎるような。

底面の曲率が大きすぎるというか、地面に何かが衝突して出来たのではなく、上空で何かが爆発した結果抉れてしまったかのような形。

「──しかし、やるしかない! 町や人々から遠いのであれば、ここで戦っても最悪俺たちが死ぬだけだ!」

「そうだな! これから伝説の黄金龍と一戦交えようってんだ! たかが妙なオークの群れくらい──」

そう強がったサスケの言葉は、しかし途中で止まってしまった。

理由はわかっている。

ヨーイチにも見えていたからだ。

オークを追って窪地に侵入してくる、無数の大サソリの姿が。

「マジ……かよ……」

「大サソリの大群……! そうか、あのオークたちの役目はそれだ! 囮、いや餌だったんだ!」

金属質のバイソン──明太リストが興奮して叫ぶ。

「あのオークたちは生き餌だ! いや撒き餌って言った方が近いのかな? とにかく、この広い荒野のいろんなところをああして高速で走りまわらせて、大サソリたちをこの窪地にかき集めてくるのが目的だったんだ!」

そしてその結果がこの地獄、次々と窪地になだれ込んでくる大サソリたちというわけだ。

「だが、そうだとして一体誰がなんのためにそんな事を! 言っちゃあ何だが、さすがに俺たちを罠にはめるためだけにこんな大がかりな仕掛けを用意するなんて考えにくいぜ」

ただ歩いているだけではそうそうお目にかかる事もない大サソリだ。

それがこの数である。

下手をしたらこの広い荒野の全土からこの場所に集まってきているのではないかと思えるほどの恐ろしい光景。

確かに、闘技大会の本戦に出場したとは言え、たかだかプレイヤー8名を始末するためだけに用意するようなものには思えない。

「闘技大会……そうか、闘技大会か!」

「大会がどうしたってんだ、ハウスト!」

「いいか、俺たちは闘技大会の本戦に出場した。ベスト8には残れなかったが、それでもベスト16には名を連ねているパーティだ。あの規格外のマグナメルムたちも参加していた大会で、たった16の枠に残るほどの成績を残している。

それは、どこかにいるかもしれないまだ見ぬ実力者が、俺たちを脅威と見做すには十分な成績だ」

「つまり──黄金龍やマグナメルム以外にも、どこかにまだ謎の勢力がいるってことか……!」

「その勢力が、大サソリを使って僕らを消そうと企んでいる……!」

そういうことなら理解できる。

どうやってかはわからないが、荒野のいたるところにいるオークたちに速度上昇のバフをかけ、興奮させて走りまわらせ、荒野中の大サソリを集めて、こんなバカげた檻と罠を作ったのだ。

「……幸いな事に、って言っていいか分からないけど、僕らはプレイヤーだ。死ぬことはない。

ここは出来るだけ耐えて粘って、あわよくば、この事態を目論んだ黒幕の影を少しでも引き摺り出すんだ」

今も徐々に数を増している大サソリを眺めながら覚悟を決める。

その大サソリから逃げるオークたちはもう目の前だ。

この後自分たちがどうなってしまうのかがわかっているのか、人とはかけ離れた容貌ながらもオークたちの顔が恐怖に歪んでいるのがよく分かる。

まずはこのオークたちを片付け、その後大サソリの猛攻を何とか凌ぎ──

「──なるほど、確かにいつものオークとは毛色が違う餌がいるな。こんなところで何してるの、きみたち」

頭上から聞き覚えのある声が聞こえた。