軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第551話 「正義VS悪」

最初はライラの思いつきだった。

たまたま、ライラの配下であるライリエネの元に騎士志望のプレイヤーが現れた。

その存在自体は後に別件で調べていたSNSからも確認が取れたが、特に大した狙いもない、純粋に騎士としてのロールプレイがしたいプレイヤーのようだった。

それだけならば無視して終わり、仮に騎士になったとしても特に何かをするつもりはなかった。

ところが、その騎士プレイヤーがライラの目に止まった。

ライラが目をつけたのはその名前だ。

騎士志望の彼女の名前はユスティースと言った。

ライラはレアの配下である、双頭竜ユーベルの事が脳裏をよぎったという。

この件はすぐにレアにも伝えられた。

いつかお互いの手駒として両者を戦わせ、代理戦争をしてみたら面白いんじゃないか。

ライラはそう言っていた。

その時がついに来たのだ。

もっとも今となっては代理戦争の意味合いは薄い。

舞台は運営が用意した安全に配慮された闘技大会の場である。

そしてレアとライラも大会に参加している。

トーナメント順が最初と最後であるため決勝まで待つ必要はあるが、レアとライラが直接戦うことも有り得る状況だ。

そしてレアは負けるつもりはないし、なんだかんだ言ってもライラが自分以外に負けるところも想像できなかった。

いずれ必ず来る未来である。

〈──つまり、要はこれは前哨戦みたいなものってことだね。私とレアちゃんの〉

〈まあ、そう言ってもいいかもしれない。言っておくけど、この試合に勝ったからって、わたしに負けても一勝一敗で痛み分けとか言わないでよ〉

〈何言ってるの? この試合も勝つし、決勝でも勝つよ。だからお姉ちゃんの二勝だね〉

少し驚いてライラの顔を見た。

そこには不敵に笑う邪悪な姉が居た。

その表情に妙な懐かしさを感じ、レアはなぜだか嬉しくなった。

〈……なんでもいいけどよ。決勝で姉妹対決するにゃあその前に俺らに勝ってもらう必要があるわけだが〉

〈ねー。丸無視はひどいよね。これは目に物見せてやらにゃあだよ!〉

〈にゃあにゃあうるさいよ〉

〈では私はそれを高みの見物といこうかな〉

〈てめえは何で参加してねえんだよ。してりゃあ合法的にボコボコにしてやったっつーのに〉

〈もちろん、そう言われる事がわかっていたからだが〉

〈ああ自覚あったんだ。凄いな教授!〉

《──それでは、闘技大会本戦! 二回戦、【オーラル鎧獣騎士団】VS【ユーベル】! 試合開始!》

──キュオオオオオオ!

開始の宣言と同時にユーベルが一声啼いた。

いつもの格好付けの咆哮ではない。声に魔力が宿っているのがレアには見えた。

となるとこれはおそらく『死の咆哮』だ。抵抗に失敗すればその時点で勝負がつく。

しかし鎧獣騎士団には目立った変化はない。

「……効いていないな。レジストしたの?」

「いや、多分鎧獣騎が対象に取られたからだ。あれはあくまでそういう物体であって生き物じゃないからね。毒、麻痺、即死、疫病なんかには影響を受けない」

「そうか、判定もすべて鎧獣騎に置き換えられるからか」

コクピットはそうした一切の影響を受けないよう完全に密閉されているようだ。

コアが存在する事と、このコクピットの完全密閉が揃って初めて鎧獣騎は鎧獣騎として認定されるらしい。駆動部分や全体の形状は実際のところ何でもいいそうだ。ただ、コアとの相性によっては駆動部分が全く機能しない事もあるらしいが。

「だとすると、有効な状態異常は能力値関連のデバフくらいか」

「あとは錆とかね。あるのか知らないけど」

「腐蝕というのがあるよ。毒と麻痺を併せたような効果だ。ゴーレムや一部の魔法生物に効果がある」

ホムンクルス研究の一環でそうした特殊な状態異常も見つけていたようだ。教授が教えてくれた。

近頃あまり弄っていなかったが、ユーベルならば何かの拍子にアンロックされるかもしれない。

これなら強化しておいてやればよかったか。

相手に対して何の効果もないと見るや、ユーベルは左右の顎からそれぞれ違うブレスを放射した。

『トキシックブレス』と『プレイグブレス』だ。

猛毒と疫病の追加効果を持つブレスだが、『死の咆哮』が効かない者が相手では効果はあまり期待できない。

案の定、ブレスはユスティースが掲げた巨大な盾に防がれた。

ただユスティース以外の鎧獣騎には、ダメージそのものを無効にするまでの防御力はなかったらしく、装甲の一部がひしゃげてしまっている騎体もある。

それを見てユーベルはまずその他の雑魚から始末する事にしたらしい。

高く飛び上がると、急降下して端に居た騎体を狙ってストンピングを仕掛けた。

それに対してユスティースが何か指示を出していたようだったが間に合わず、端の騎体は哀れユーベルの全体重を受けてぺしゃんこに潰されてしまった。

「うわー。あれ中の人どうなったのかな」

「ありゃあミンチだな」

ユーベルはさらにその場で一回転した。

別に格好付けてポーズを決めたわけではない。

長い尾をムチのようにしならせ、隣の騎体を攻撃したのだ。

ユーベルは非常に巨大な竜である。ムチのように、と言っても、その重量は尾だけでも大型のクジラほどもある。また登場ユニットがどれも大きいためサイズ感がわかりづらいが、あの大きさであの動作をしたのなら尾の先はゆうに音速を越えているはずだ。

そんな大質量の高速打撃を受けた騎体は哀れにも紙細工のように吹き飛び、空中でバラバラになった。

ウルルや例の巨大化した幻獣王でもそうだが、本来巨大な者というのはただそこにいて動くだけで大変な脅威なのだ。

それが戦闘行動を取るのだから、その恐ろしさたるや推して知るべしである。

「──これ以上やらせるか! はあああああ!」

ユスティースの騎体が雄叫びを上げ、ユーベルに斬りかかった。

ユーベルは再び半回転し、ユスティースの突進を止めるべく足元を尾で薙ぎ払う。

「──甘い!」

しかしユスティースはユーベルが動き始めた時点で狙いを察し、空中を蹴って上空に逃れた。

『空歩』だ。

確か持っているとかSNSに書かれていた。

あれを読んだときは軍事機密だろうに大丈夫なのか心配になったものだが、どのみちここでバレるだろうからあえて制限していなかったのかもしれない。

尾による薙ぎ払いが回避されたユーベルはそのまま勢いを殺す事なくもう一回転し、今度は空中のユスティースを打ち払った。

『空歩』で空中の散歩をしてしまうと、一度大地に足をつけないと再び空を蹴ることは出来ない。

故に空中で回避できなかったユスティースはその攻撃を受けるしかなかった。

ただしとっさに上半身をひねり、右側からの尾の攻撃を左手に持った盾で防いでいた。

空中から大地に叩きつけられはしたが、尾のダメージそのものはかなり減らすことが出来たようだ。

ユスティースをあしらったユーベルは彼女が体勢を崩している間に他の雑魚を片付けにかかった。

まずはブレスで相手の視界を奪い、その隙に近づいて巨体を活かして叩き潰すのだ。

鎧獣騎も大きいが、ユーベルの身体はそれよりも更に大きい。鎧獣騎としては大型であるユスティースの騎体でさえ子供扱い出来るほどだ。

通常の鎧獣騎などおもちゃのようなものである。

ユスティースがダメージから立ち直った頃には、立っている鎧獣騎はユスティースだけだった。

形の上では一騎討ちである。

しかし賢いユーベルはバカ正直にそれを受けたりはしない。

翼を大きくはためかせると、上空に舞い上がった。

『空歩』で多少は歩けるとしても、自由に行動できるわけではないユスティースでは上空のユーベルにダメージを与える術はない。

しかしユーベルにしても、咆哮やブレスで有効なダメージが見込めない以上は近づいて殴る必要がある。

上空に上がったユーベルはすぐに急降下し、ユスティースの騎体に例のストンピングを仕掛けた。

これを繰り返すヒットアンドアウェイ戦法を取るつもりのようだ。

ユスティースはその急降下攻撃を辛くも回避する。

勢い余って大地を蹴りつけたユーベルにはわずかにダメージが入っていた。

この攻撃は回避されるとユーベルにもリスクがあるということのようだ。

ユーベルによって大地に刻まれた亀裂を見たユスティースは、先ほどの尾の攻撃でひしゃげた盾を捨てた。

盾で防ぎ切れるものではないと判断したらしい。

そして剣を両手に握り、正眼に構えた。

「……へえ」

歪な構造の騎体とは言え、なかなか様になっている。

ユーベルはそんなユスティースを警戒してしばらく上空を旋回していたが、やがて意を決してか、一声咆哮を上げると 三度(みたび) 急降下の体勢に入った。

一瞬の静寂の後。

急降下したユーベルの足をわずかに身体を捻って躱したユスティースは、その身体に斬りつける。

それを察知したユーベルはすぐさま翼で剣を叩き、軌道を逸らせた。

しかしユスティースはあっさりと剣を手放すと、両手でユーベルの翼にしがみついた。

慌てて上空に逃れようとするも、翼を押さえられているためそれは叶わない。いわゆる拘束状態だ。

『飛翔』するにあたっては翼の羽ばたきは必要ないが、自分以外の誰かによって拘束状態にある場合は『飛翔』を発動することは出来ない。これは足でも同じだ。

そう、ユーベルもドラゴン系のため『天駆』も持っているが、ユーベルの足もまた拘束されていた。ユスティースの鎧獣騎の下半身四つ足のうち、前2本の脚によってだ。

ユーベルはそれに気づいて暴れるが、鎧獣騎にダメージは入るもののすぐに拘束が解ける様子はない。

しかし、ダメージが入っているということはいずれは破壊出来るという事である。

剣を失ったユスティース側に有効な攻撃手段がない以上、これは時間稼ぎの悪あがきにすぎない。

「善戦した、とは思うけど。騎士にしては意外と泥臭い最後だったね」

「……それはどうかな」

「何を──え?」

レアの『真眼』から、突如ユスティースの騎体のLPが消えた。MPもだ。

破壊されるにはまだ早すぎる。

一体何が、と言おうとしたところで。

「──でええやああああああああ!」

ユスティースの騎体の背中、そこにあったハッチが開き、中から剣を構えたユスティースが飛び出してきた。

「──食らえええええ! 『アサルトブレイド』!」

ユスティースの剣は驚いたユーベルの左の顔を撫で、目を切り裂いた。

しかし、生身であるならユーベルの敵ではない。

左の首は悲鳴の代わりに『死の咆哮』を上げ、右の首から『トキシックブレス』が放たれ。

《──試合終了です! 勝者、【ユーベル】! ご観覧の皆さま、素晴らしい戦いを見せてくれた両選手に拍手を!》