軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第526話 「外来種」

出来れば他の街も見てみたい。

ウェインたちプレイヤーのその願いは思いの外あっさりと叶う事になった。

使節団が次の街に向かうことになったのだ。

交易を行なうにあたり、港町だけでなく南方大陸全体の文化や経済の状態を見てみたいという事だろう。

しかも移動に際しては街の方から護衛に1騎、例の鎧獣騎をつけてくれるらしい。

どうやらオーラル王国使節団は南方大陸初の街に好印象を与える事が出来たようだ。一部のプレイヤーが迷惑をかけていたようだったが、決定的なマイナスポイントにはならなかったようで安心した。もしそうなっていればこの時点でプレイヤーだけ送り返される可能性もあった。

この街、アリクビには外交官補佐と数人の騎士を残し、使節団リーダーの外交官と騎士プレイヤーのユスティースをはじめとする騎士団の本隊はウェインたちと共に次の街を目指す。

騎士団やユスティースは情報を全く公開しようとしないので細かいところは不明だが、そういう形になったようだった。

集団の後ろから付いてくる大きな金属の犬は、こうして見ている限りではそれほど強そうな感じはしない。

鎧獣騎は単体で置いてあるだけの状態では何も感じられないが、人が乗り込むとLPが見えるようになる。そこから判別できる戦闘力からすれば、ウェインたち3人であれば何とか狩れる程度の大型の魔物と大差ない。

この集団にいるプレイヤーや騎士たちの能力を総合的に考えれば、鎧獣騎が護衛に付いているのは形だけの事だと言える。

ただ鎧獣騎のライダー、と呼ばれるパイロットはそうは思っていないようで、休憩中でも鎧獣騎から降りず、常に周辺を警戒しているようだった。

悪い人ではないのだろうが、何と言うか、空回りしているような気もする。

ただ1騎の鎧獣騎、ただ1人のライダーでウェインたち3人に匹敵しうる戦闘力と考えると確かに強力な兵器だが、あの港街ではこれと同じものを3騎ほど見た程度だった。他に隠されているとしても、格納庫を兼用している領主館の広さからすると10騎も無いだろう。

そう考えると、あの港街全体での戦力はオーラル使節団と同程度か、それ以下だと言える。

人間サイズであるという強みを活かして作戦を立てれば、軽微な被害で制圧する事も可能だろう。プレイヤー戦力を使節団に上乗せするのであれば正面からでも制圧できる。

同行しているライダーの彼が張り切っているのは、鎧獣騎もない弱い人間たちを守ってやろうという親切心であろうことは何となくわかる。

しかしそれはどうにも的外れに感じた。

南方大陸の全ての国が所属するというウィキーヌス連邦なる国が戦争している相手は北の悪魔たちと南の獣人帝国だ。

だがだからといって悪魔や獣人だけが国民の脅威というわけではない。

中央大陸同様、街道から外れれば魔物も出るし野盗もいる。

「──ふう。片付いたな」

「やっぱ、魔物はあっちより大型の奴が多いな。経験値稼ぎはしやすいが、生半可な実力じゃかえって経験値を失う事になりそうだ」

「鎧獣騎があればこそ、この大陸の人たちもやっていけてるんだろうね」

ウェインたちは襲ってきた大きな蛇のような魔物を倒し、死体を解体してインベントリに収めた。入り切らない部分は捨てた。

アリクビを発って数日。

最初こそ張り切って率先して戦おうとしていた鎧獣騎だったが、彼が想定していた以上に、大人数を守って戦うというミッションは難易度が高かったらしい。

日に何度も襲ってくる魔物たちに、鎧獣騎はともかく中のライダーが悲鳴を上げた。

これだけの人数をたったひとりが護衛しようという事自体に無理があったのだ。

翌日からは傭兵であるプレイヤーと騎士団とでローテーションを組むことにし、襲い来る魔物たちの対応を分散して行なう事になった。

魔物の襲撃が少ないエリアでは代わりに一行の様子を窺う複数のLPが見えていたが、あれはおそらく野盗の類だろう。襲って来なかったのはこちらの人数が多い事と、鎧獣騎が居たからだと思われる。

そういう意味では虫除けとして役に立っていると言えなくもない。

しばらくするとライダーとも打ち解けて話せるようになり、色々な話を聞く事が出来た。

「でも、いつもだったらこんなに魔物に襲われる事なんてないんだけどな。特にたまに出てくるあの、気持ち悪い蛇みたいなやつ。あんなの見たことないんだが……」

「まあ、魔物っつっても生きてるからな。別の地域に住んでた奴らが縄張り争いに負けて移動してくるなんて事もたまにゃあるだろ」

「へえ。そんな事もあるんだな。物知りだなあんたら」

この地に住み、鎧獣騎のライダーとして信頼される程の人物である。街道の危険性も周辺の魔物についても知っているはずだった。

しかし魔物が縄張りを移動するといった現象はこのあたりではあまり起きたことがないようだ。そんな事は中央大陸ではしょっちゅうなので、こればかりは地域性という他ないのだろう。

「俺たちは傭兵だからな。魔物と戦うのが仕事みたいなもんだ。こっちの大陸にはそういう職業ないのかも知れないけどよ」

「こっちじゃあ、国に認められた一部の兵士しかライダーには成れないからな。獣人でもあるまいし、人間が生身で頑張ったところで知れてるってのもあるが、鎧獣騎に乗らん事には魔物なんかにゃ対抗出来ない。傭兵なんて自由な職業もあるんだな。世界は広いなあ……」

アリクビから付き合ってくれたライダーの彼とは、その隣の街で別れる事になっていた。プレイヤーたちももっと他の街にも行ってみたいと思っていたし、使節団も同じだ。

隣の街でも同様に外交官が話をし、その補佐とわずかな護衛を街に置き、また別の鎧獣騎とライダーを案内人代わりに借り受け、次の街を目指す。

そうしていくつかの街を経由して南方大陸を横断していくと、やがてこれまでにない大きさの街へと辿り着くことになった。

高く、どこまでも続くのではと思われるほど長い城壁が街を覆っている。

そのためどういう街なのかは遠目ではわからない。

しかし城壁よりもさらに高い建物がちらほらと見えていることから、城壁だけではなく街並みも立派なのだろう事は分かる。

ただせっかくの城壁であるのに、一部は崩され、痛ましい姿になっている。

修理は行なわれているようで足場のようなものが組まれているが、作業をする者の姿は見えなかった。

「──ここが、かつての連邦盟主国であり、首都でもあったウテルです」

案内してくれたライダーがそう教えてくれた。

かつての、とはどういう事なのか。

使節団や騎士たちはすでに知っているようだったが、これまでの街でそういう話を聞いていないプレイヤーにはわからない。立場上仕方のない事ではあるのだが。

旅の途中でライダーと話した内容も、主には中央大陸と南方大陸の魔物についてや食事の違いについてだった。傭兵の話題などそんなものである。

もう街のすぐそばだ。魔物や野盗が襲ってくる事はないだろう。警戒はもうする必要はない。休憩中ではないが、多少雑談したところで構うまい。

そう考えて騎士に尋ねた。

騎士の話によると、今から半年ほど前の事になるが、どうやら悪魔勢力との大規模な戦闘があったらしい。

あちらは首領である大悪魔も参戦するほど力を入れた攻勢で、ウィキーヌス連邦は瞬く間に首都ウテルまで攻め入られてしまったと言う。

なぜ急に悪魔たちが大攻勢をかけてきたのか、正確なところはわかっていないが、後に軍学者が考察したところによれば、ウテルで開発中だった新型の鎧獣騎を警戒してのことではないかとの事だった。

その新型は、大悪魔はおろか首都のどの建物よりも大きく、しかも優美であり、強大な力を持ち、さらに金色に輝いていた。

しかしひっきりなしに現れる悪魔たちの攻勢に耐えきれず、健闘虚しくも破壊されてしまい、また研究所も主任研究員も悪魔たちによって失われてしまった。

その時に首都ウテルが受けた傷は大きく、立ち直るには長い時が必要だと判断され、盟主国の座を自ら下りる事を決断した、というわけらしい。

そういう事情であるのなら、もしかしたら大きな街に見えても人々の気持ちは沈んでいるのかもしれない。

そう考えながら城門をくぐってみたが、そんな事はまるでなかった。

よその街からの行商の為だろうか、門の近くの広場では市場が開かれていた。時刻はすでに昼を回っていたが、未だに活気がある。朝市というわけではないようだ。日があるうちは誰かしらが商売をしているのかもしれない。

市場を抜けると商店街に入った。さすがに店も客もごった煮の市場よりは静かだったが、街に活気がある事はそこかしこから感じられた。

未だ崩れたままの建物もあるが、城壁と違って修復が進められている。そこで働く人々にも、その周りの人々の顔にも不安の色はない。自分たちの街が盟主国でなくなったことを悲観している人は少ないようだ。

使節団と騎士団が街の中央の行政庁へと向かって行くが、傭兵であるプレイヤーたちはさすがについて行く事は出来ない。

また、これまでいくつかの街を経由してきた中で、使節団はここをひとまずの目的地に定めていたらしい。

到着し、この街のトップに顔つなぎをしたら、外交官と護衛以外は中央大陸へ帰すようだ。

それまでに、それに付いて中央大陸へ戻るか、それともこのままウテルに留まるのかを決めておけと言われた。

「どうする? ウェイン」

「うーん……。悩ましいけど、あの鎧獣騎ってアイテムはちょっと気になるな」

「そうだね。普通に考えれば軍事技術だし、プレイヤーが手に入れられる可能性なんてないけど……。でも登場させるだけ登場させておいて、まったく乗れないって事もないんじゃないかと思うんだよね」

「うし。んじゃ、しばらくはこの街で様子を見るか。金はかかるかもしれんが、その気になりゃあ転移装置でいつでも帰れるしな」

「そうしようか」