軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第522話 「禁断の融合案」

「相談というのは他でもない。実はちょっと実験というか、検証をしてみたくてね。中央大陸は異邦人だの何だのがひしめいてるから、中々いい場所が思いつかなくてさ。

この辺りで、陸地が抉れたり地形が変わったりしても誰にも迷惑かからないような場所ってないかな」

「レアちゃんの中の大陸さんが寛容すぎる! そんな事したら少なくとも西方大陸そのものにとってはいい迷惑なのでは」

ブランのツッコミはなかなか面白い着眼点だった。

確かに、大陸にしてみれば一方的に自分の身体を抉られるなどたまったものではないだろう。

自分たちの上に勝手に住んでいる者の迷惑などどうでもいいから他所でやってくれと言うに違いない。

「ああ、大陸に対する迷惑については意識してなかったな。非常に難しい問題だとは思うんだけど、わたしとしては人格を有さない対象に対しては基本的人権は認めない方向で一貫しているから」

「……まるで人格を有している対象の人権は尊重しているかのような言い方じゃな」

人権は認めるが別に尊重するとは言っていない。

メリサンドは呆れたように言うが、彼女が不躾なプレイヤーの腕を切り飛ばした件はブランから聞いている。他者の人権について興味が持てないのはお互い様だ。

「ふうん。私は始源城に影響がないエリアなら別に問題ないけれど……」

「僕も地底牧場、じゃなかった、半地底王国に影響がない場所ならどうでもいいと思うな。

そもそも、迷惑がかかったからといって特にまずい事もないだろうしね。自分の支配するエリアくらい守りきれない方が悪い」

「守りきれずに黄金龍の端末ごときに侵食された人が言うと重みが違うわね」

「ぐ。うるさいなジェリィは……」

突き放すような言い方だが、それがジェラルディンの本心でないことはレアもよく知っている。

冷たくなったゼノビアに泣いて縋り付いていたあの姿を思えば明らかだ。これはゼノビアを諌めるために敢えて言っているのだろう。

「わしは海に影響が出なければ構わんぞ。海の場合は、直接縄張りに関係しないところならどうでもいいというわけにはいかんがの。棲処を失った大型の魔物が流れて来ぬとも限らぬし」

「そうなると、始源城や地底王国、セプテントリオンからある程度距離があって、かつ海から遠いところか……」

レアがそう呟くとブランが目を輝かせた。

「え、なになにセプテントリオンって! わたしの中の中学生が刺激されるフレーズ!」

「おっと、聞かれてしまったか。ふふふ。そのうち見せてあげるよ」

聞けば、地底王国からここまでは例の妖鳥ジズに乗って来たのだと言う。

ならば機会があればいつでも招待する事は出来るだろう。

一直線に横断しただけではあるが、レアも西方大陸の大まかな地形は把握している。

各人の勢力圏に抵触しない範囲で該当するとしたら、始源城の東に南北に横たわるあの山脈付近だろうか。

「ここからだと東かな。あの山脈なら消し飛ばしても問題ないかな」

「あー。どうかなぁ。ルフの巣が群集してるみたいな話があった気がするけど。ルフってまだいるの? デカイ鳥なんだけど」

なんだかんだ言っても、この大陸の知識においてはゼノビアは抜きんでている。それは数百年のブランクがあっても変わらない。隔たれた時代の差を埋める必要はあるだろうが。

「いるんじゃないかしら。たまに城の近くに小山みたいな 糞(ふん) が落ちてるし」

「じゃあ山脈消し飛ばしたらこの周辺の糞害も減りますね!」

「あら、それはいいわね。レアさん、山脈だったら消し飛ばしても問題ないわ」

そういうことになった。

せっかくなのでブランのインディゴに乗せてもらう事にした。

留守番をウォルターとマリオンに任せ、5人で藍色の背中に乗る。

メリサンド以外は全員何らかの飛行手段を備えているため、インディゴの背中に乗るのにさほど苦労しないが、そうでもなければただ乗るだけでも何らかの工夫が必要だ。インディゴの背中に乗って空を飛ぶためには空が飛べなければならないという本末転倒な事になっている。

なお、メリサンドはブランとジェラルディンが左右から腕をとって持ち上げて運んでいた。

捕まったエイリアンのイメージ画像を思い出して笑ってしまったところ、メリサンドに怪訝な顔で見つめられた。とりあえず微笑みを返しておいたら、少し赤くなっていた。悪い男に騙されそうで心配になる。

ユーベルより速い、とブランがしきりに自慢するのでどれほどのものかと期待していたが、確かにインディゴは速かった。また安定性の面でもユーベル以上と言えるだろう。

ただ現時点で言えばカルラの方が速い。いずれはインディゴも成体になり、その頃になればカルラを超えていくのだろうが。そうだとすると、飛行する性能についてはジズ、フレスヴェルグ、ウロボロスの順になるのだろうか。もともと飛行型として生まれた魔物の方が性能がいいようだ。

短い間ながら空の旅を楽しみ、ほどなく例の山脈に到着した。

大陸を分断するかのような山脈だ。似たようなものは中央大陸にもあるが、こちらの方が高く長く感じる。

この辺りは以前にも2回ほど来た事があるが、どちらも通過しただけだった。山脈に用があって来たのは初めてだ。

以前と同様、遠くに小さな鳥の影が見える。

といっても近づいて見たとしたら決して小さくはない。以前に見たものと同じであれば、あの影はルフという魔物であるはずだ。すべてがそうなのかはわからないが。

「さて。着いたね」

レアはローブを脱ぐとインベントリに仕舞った。

脱いだローブを受け取ろうとジェラルディンとゼノビアが手を出していたが、他のプレイヤーに見られているわけでもないここでインベントリを使わない理由はない。彼女たちの優しさに応えられないのは申し訳ないが、無意味に手間を増やす事もないだろう。

そして翼を広げ、ふわりと浮いた。

「インディゴちゃんだっけ。みんなを乗せて離れておいで。どのくらいの被害になるかわからないから、もっと遠くに行っておいた方がいいよ」

「あ、もしかしてこの間森を消し飛ばしたやつやるの?」

ブランが身を乗り出して聞いてきた。

「一応あれよりも威力が高い、もののつもりだけどね」

初めてやるのでどのくらいの被害が出るかわからない。そのための検証でもあるのだが。

「そりゃやばい! 退避、退避ー!」

ブランはインディゴにさらに離れるように指示をした。

その姿が小さくなっていくのを確認し、レアも準備を始める。

あの位置からではレアの姿はしっかりとは見えないかもしれないが、起こした事象はよく見えるだろう。

前回、何とか言う大森林を消し飛ばした時は6属性の魔法による事象融合『 天変地異(カタストロフ) 』だった。

しかし、魔法の属性は6つだけではない。

『植物魔法』などは例外としても、攻撃出来る属性では他に『神聖魔法』や『暗黒魔法』などがある。

それら2つの魔法の融合として『カオス・アナイアレイション』というものがあるらしいことはバンブに聞いて知っているし、これを『天変地異』に融合してやればさらに威力を高める事が出来るはずだ。

幸い、翼も腕も魔法の保持をするためのアームとして使える事はわかっている。6枚の翼と2本の腕があれば8属性でも融合出来るはずだ。

そんなものを食らえば、さすがに黄金龍の本体と言えどもただでは済むまい。

「──では、いこうか」

6枚の翼をめいっぱい広げ、両手を軽く開いた。

上空から俯瞰する光景からは、まるでレアがこの雄大な山脈を抱きとめようとしているかのような錯覚を覚える。

「『フレイムデトネーション』、『レイジングストリーム』、『レヴィンパニッシャー』……」

『魔眼』を意識すると自分の眼がうっすらと光っていくのが感じられた。『魔法連携』の魔法陣が瞳に浮かび上がっているのかもしれない。

「『セディメントディザスター』、『ゲイルランペイジ』、『クライオブリザード』……」

前回と同じだ。ここまでは。

そしてここで『神聖魔法』の『ホーリーエクスプロージョン』を──

《魔法の発動制限に達しました。【魔王】では7種以上の魔法を同時に発動することはできません》

またしても、エラーメッセージに止められた。

同時に『魔眼』からも力が失われていく。レアが発動をキャンセルしたためだ。

どうやら、色々と考えなければならない事ができたらしい。

まずは発動制限に抵触したというメッセージだ。

その後のメッセージも含めて考えると、魔王では同時に6つの種類あるいは属性の魔法までしか発動できない制限がある、という事だろう。

これは逆に言えば、魔王以外に7種以上の魔法の発動が可能である種族がある事を示唆している。

しかし魔王以外の誰にそんな事が出来るというのか。

単体での事象融合自体、現状ではレアか教授しか発動させていないはずだ。バンブも3つの顔を使えば可能であると仮定しても3名だけである。

魔王か、阿修羅王か、ラタトスク。

この中でどの種がいちばんその手の技術に優れているのかといえば、どう考えても魔王だろう。

では仮に純粋な種族でなかったとしたらどうだろうか。

例えばバンブに教授を融合させてみたとする。そして仮にバンブが『二枚舌』を得る事が出来たとする。

その場合、3つの口でそれぞれ『二枚舌』が発動できれば、合計で6つの魔法を同時に発動可能になる。

しかしそれなら現在のレアでもひとりで出来る。

「……他に、魔法やスキルの発動に特化した種族でもいるのかな」

魔王の上の種族であればあるいは、とも思うが、先日転生出来なかった事を考えるとそれも可能性は低い。

魔王自体があまり見かけない稀少な種族だ。仮にその上が存在しているとしても、文献などにその情報が残されている可能性は低い。祭壇を使っても何のヒントも得られなかったし、やはり存在しないと考えるのが妥当だ。

「……いや、そうとも限らない、か?」

祭壇を建造したのはおそらく前精霊王だ。

仮に魔王の上の種族があったとしたら、同様に精霊王の上の種族もあるはずである。その場合、祭壇で転生のヒントが貰えるのだとしたら、前精霊王がそれを試さないはずがない。

にもかかわらず前精霊王は精霊王のまま最期を迎えた。

だとすれば、仮に上位種族が存在するとしても、それは祭壇の力ではわからなかったという事も考えられる。

希望的観測に過ぎないが、そう信じる分には害はない。

少なくともあのメッセージから、必ずしも7つ以上の魔法を同時発動できないわけではないのは確かだ。

でなければはっきりと「仕様上無理です」とか言うだろう。あんな気をもたせるような言い方はしない、はずだ。たぶん。

「──どーしたのー!?」

遠くからブランの声が聞こえる。

そうだった。みんなを待たせていたのだった。

新必殺技の開発には失敗したが、山脈を吹き飛ばすのはジェラルディンの依頼だ。害鳥駆除も兼ねている。

とりあえずそれだけは済ませておいた方がいいだろう。

レアは片手を上げてブランに返事をし、再び山脈を見下ろした。

「──『天変地異』」