軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第494話 「走り回る出っ歯」

「──そんなナリでも災厄級なのか」

バンブは祭壇から降りてきた森エッティ教授に声をかけた。

教授の姿は一言では言い難いものに変化していた。

本体はタヌキのままだ。

しかしその尾は本体よりも巨大な、リスのような形状のものになっていた。模様は縦に黒い筋が入ったような色合いで、先端だけが黒くなっているところにタヌキの名残を感じさせた。

さらに額には一本のねじれた角が生えていた。ねじれているあたり教授の性格を表しているようにも見えて滑稽さがある。

また転生直後で特性が解放されているためか、背中からも翅が生えている。

元はコオロギのそれだったのだろうが、色といい形状といい、なんというか、やはり黒いあれに似ているように見える。

それに気づいたのか教授はすぐさま翅だけ消した。

「らしいね。そんなようなメッセージが聞こえた。『霊智』ツリーは私も育てているがね。本人だとあってもなくても聞こえるようだしよくわからないが」

経験値は得ているはずだろうに中々強くならないなと思っていたら、そんな事に使っていたのか。

下手をすると教授はレアやライラに次いでスキルのバリエーションは豊富なのかもしれない。

ただ、もう弱いなどとは口が裂けても言えないだろう。

転生した教授の種族は「ラタトスク」。

北欧神話に登場する、伝言によってフレスヴェルグとニーズヘッグを仲違いさせるという出っ歯のリスだ。教授はそれほど歯が目立っているようには見えないが、個体差があるのだろうか。それともタヌキがベースだからだろうか。

今この広場にいる、レアのフレスヴェルグのカルラとライラのニーズヘッグのアビゴルの素材を拝借することで転生に成功したのだ。他に世界樹の枝もレアからもらっていた。レアからもらったというか、連絡したら突然上から落ちてきたのだが。

このラタトスクの持つ固有のスキルは『二枚舌』。

自分の声を聞かせた相手に対する、自身の『精神魔法』の成功率を上げるというパッシブスキルだ。成功率を上げるというか、正確に言えば「抵抗された場合、もう一度判定を行なう」効果である。

どうやっても抵抗値を抜けないような実力差がある相手に対しては何の意味もないが、乱数で成否が分かれるくらいの拮抗した状態であれば大幅に有利になる。

また、この二度目の判定というのは『二枚舌』独自のタイミングなので、他のスキルやアイテムは介入できない。抵抗判定時にボーナスを得られるような効果のスキルやアイテムでガードされた場合でもそれをすり抜ける事が出来る。つまり、特性「角」は『二枚舌』の前では無力になる。

ツリーになっているようなのでその先も何かあるのだろうが、とりあえず今はわからない。

他者を騙して争わせると伝説にあるこの小さな獣は、まさに教授のために用意されているかのような種族である。

「……ふむ。『天駆』を覚えられるな。そんなものでもなければ世界樹を走り回っての伝言役など勤まらないということかな」

「勤める気がねえ奴が何言ってんだ」

「私に言われても困るな。設定上の話だろう」

しかしこれでようやく、マグナメルムの5人の幹部が晴れて全員災厄級へと至った事になる。

果たして教授が戦闘で役に立つのかは不明だが、陣営の強化と言う意味ではひとつの区切りになったと言えるだろう。

「さすがにそろそろ、MPCの連中に黙っておくのも限界だな」

バンブは見た目もずいぶん変わってしまっている。いくら同じローブを着ているとしても、何も言わないわけにはいかないだろう。

魔物は転生する事も多いしそれはMPCのプレイヤーたちもわかっているため、アバターの姿形が変化しているだけならどうとでもなるが、LPの増加はごまかしようがない。

「そうだね。しかしMPCも随分とメンバーが増えてしまっている。不特定多数のプレイヤーにばらすというのはリスクが大きいな」

「まあ、そうだな……。とりあえず、家檻には話しておきたいところだが……」

家檻は頭が回るし、妙に勘が鋭い事がある。

あれを引き入れる事が出来ればMPC向けの情報管理は任せる事が出来るし、バンブの胃にも優しい。

「ふむ……ふむ。まあそれは必須事項だね。あと出来ればスケルトイ氏とリック・ザ・ジャッパー氏あたりにもマグナメルムとの関係は言っておいた方がいいかもしれない。

スケルトイ氏はMPクラスターのシステム上の元首だし、リック氏はその補佐をしている。実際の運営はバンブ氏や家檻嬢の指示に従っているとしても、今後の事も考えると柔軟性という意味で彼らも事情は知っておいた方がいい」

「なるほど、そうかもな。あと問題なのは、レアたちの素性まで教えるかどうかってところだが……。つまりプレイヤーだって事をだな」

「──私はそこは伏せておいて欲しいかな。何がきっかけでボロが出るかわからないし、直接会った事がない人に私の事を話すのは危険な気がする」

ライラからストップがかかった。その考えは理解できる。

中央大陸におけるライラの影響力は凄まじい。その気になれば特に根回しなどをせずとももう一度大陸大戦を起こす事も可能だ。損失の方が大きいだろうからやらないだろうが。

同じ事がレアにも言える。

こちらは影響力と言うより物理的な破壊力だが、これもその気になれば大陸に生きる全ての命を断ってみせる事も不可能ではない。さすがに何の理由もなくそんな事はしないとは思うが、理由さえあれば明日にでもやってしまいそうな危うさもある。いやクールタイムを考えると1日ではさすがに無理か。

ブランはちょっとどう判断すればいいのかわからないが、中央大陸の中央に聳え立つ墓標を建てた重要NPCとの関係などを考えると、ある意味で最もプレイヤーらしくないプレイヤーのようにも思える。

魔物側の勢力の最強存在がプレイヤーという事実が同じく魔物側であるMPCのメンバーたちにどう影響を与えるのか。

自分たちも頑張ろうと奮起してくれる程度ならいいが、後ろ盾になってくれると勘違いして暴走しない保証はない。

MPCはある程度バンブが掌握していると言えるが、所詮はゲーム内の非公式クランに過ぎない。それに秘密を共有するには少し組織が大きくなり過ぎてしまった。

「……確かにな。あんたら3人の事をそのまま伝えるのはリスキーだわ」

「実際に会って、人柄を見て、その動向を観察した上でならいいんだけどね。今の段階で許可を出すのはちょっと怖いかな。

あと悪いんだけど、この判断についてはレアちゃんの分も同じって事にしておいて。顔同じだし、どっちかがNPCでどっちかがプレイヤーだなんてまずあり得ないだろうし」

「ふむ。ではまとめるとだ。家檻嬢、スケルトイ氏、リック・ザ・ジャッパー氏の3名に我々とマグナメルムとの関係を明かす。ただし、我々以外のメンバーはNPC扱いとする。

これはつまり、プレイヤーであろうともNPCの組織に加入できるという事になるわけだが……」

「似たような事はうちのユスティースがやってるから大丈夫なんじゃない? 残念ながら実際のところNPCの組織って例は皆無になっちゃうけど。

まあそれはどうとでもなるかな。ゼノビアとかジェラルディンとかもいるし、その気になれば本当にNPCの配下にもなれないことはない、と思う」

「じゃあその方針で行くか。打ち明けるにしても俺たちだけだと妄言と区別がつかねえだろうから、出来ればライラかレアのどっちかには同席して欲しいんだが……」

「私はいいけど……。レアちゃん今西方大陸だよ」

出来ればより有名なレアの方に来てもらいたかったのだが仕方ない。家檻たちには2Pカラーで我慢してもらうしかない。

会う機会はこれからまた作る事も出来るだろう。

「しゃあねえ。ライラだけでいいわ」

「何だよその言い方は。別に私だって付き合ってやる義理はないんだからね」

「──では僕がレア様の代理として出席してあげようじゃないか。暇だし」

ゼノビアが割り込んできた。

しかしバンブや教授以上にマグナメルムとして名が売れていないゼノビアが来たところで何の意味もない。むしろ不安要素が増えるだけだ。

だいたい、マグナメルムの一員と言ってもコードネームも付いていない。

ゼノビアとジェラルディンは元々この世界の災厄なので本名を隠す必要もないため、別にそのままでもいいと言えばいいのだが。

「あんただけ来ても意味ねえんだよなあ……。いや悪かったよライラ。すまんが付き合ってくれ。俺の借りってことでいいから」

「ほーう。太っ腹だね」

なぜ借りをひとつ作っただけで太っ腹になるのか。嫌な予感しかしない。

「タヌキへの貸しって事でいいから」

「なぜだね!?」

「じゃあ2人へ半分ずつ付けておくよ。ブランちゃんもイベントで忙しいだろうし、行けるのは私だけかな」

「待ちたまえよ。僕も行くったら」

「え? 来るのか?」

「もちろんだとも。僕の方がレア様の役に立つという事を証明してみせようじゃないか」

必要なのはネームバリューだけなので、ぶっちゃけライラは黙って立っているだけでもいい。

その意味では知名度ゼロのゼノビアが来たところで何の役にも立たないのは決まっているのだが。

「……まあ、居る分には別にいいか。それより、そのレア様っての人前ではやめとけよ。セプテムとかのコードネームで呼べよ」

「心得ているともラルヴァ。それにウルスス。あとついでにオクトー」

「……私も大人だしあんまり気にしないようにしてたけど、タヌキより下扱いはさすがにイラっとくるな」

気持ちはわかるが大人ならスルーして欲しい。大人は自分でそんなこと言わないと思わないでもないが、これを言うと収拾がつかなくなるのでやめておいた。

いらないことでライラの機嫌を損ねて借りを増やされてもたまらない。