軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第462話 「青空テラスって二番煎じでは」

久々のお茶会である。

せっかくだし、ビジュアル的にインパクトがある会場がいい。

そう考えたレアが選んだのは空中庭園だった。

この地には新たに湖が作られており、その湖の中心には日の光を受けて七色に煌く珊瑚の城が聳え立っている。

湖から伸びる川は空中庭園の端から遙か下の大地まで流れ落ち、時折その飛沫が風に乗って虹を作っていた。

断言してもいいが、中央大陸で今一番美しい場所はこの空中庭園アウラケルサスだ。

湖の水源は未だ『氷魔法』に頼っているためランニングコストは良くないが、要塞の地下ではスタニスラフが「無限に水を生み出すアーティファクト」を作成するべく研究に励んでいる。いずれはその問題も解決できる日が来るだろう。

空中庭園を任せているディアスやサリーの話によると、少し前まではプレイヤーたちがひっきりなしに徒党を組んで攻めてきていたらしいのだが、それもここ数日はぱったりと止んでいるらしい。

天使を偵察に出したところでは、周辺の転送ポイントのキャンプも撤去されているということだった。

あまり時間を開けるとロックゴーレムたちも復活する──という設定にしてある──のだが、攻略は諦めたのだろうか。

お茶会を開催するにあたっては静かなのはいいことだが、収入が減ってしまうのは悩みどころだ。

また、お茶会に新顔が参加する予定があった事も会場にインパクトを求めた理由のひとつだった。

まずレアの関係者だが、西方大陸の真祖吸血鬼と邪王である。

この2人にはすでにフレンドチャットについても教えているし、システム的に『使役』していないというだけで実際はレアの陣営のようなものだ。

ケリーとマリオンは始源城に置いたままだが、あの城の伯爵級の執事もケリーやマリオンの言う事に従うように言われているらしい。

ただ邪王の配下は教授の配下の枢機卿の指揮下にあるということだから、厳密に言えば邪王ゼノビアは教授勢力になるのかもしれない。

ライラも1人NPCを連れてくると言っていたが、こちらは普通にライラの配下だ。

設備的な事も考えて空中庭園で何かの研究をさせてほしいとか言ってきていたが、おそらくそのための人員だろう。

というか、その前にトレの森のペットはどうするつもりなのか。

忘れているのではないだろうか。

他には特にそういった申し入れはなかったが、今回は例外的にスガルがブランの陣営として参加する事になっていた。

また、ガスラークからもバンブの補佐として参加したいと打診があった。

仲がいいのは結構だが、一抹の寂しさも感じる。

「結局教授だけソロ参加か。やっぱり友達いないんだね」

「同伴者必須のパーティなら予めそう言ってくれたまえ。私だけハブるのはやめてもらっていいですか」

「てか、あの城なんなんだよ。いつの間に建てやがった。どうせなら外にテーブル用意するんじゃなくて、あの城の中で開催にすりゃよかったんじゃないのか」

「見れば分かると思うけど、入口は水の中なんだよ。飛べない人は入れないんだ」

「ねえそんなことよりさあ。お姉ちゃんはその2人がちょっと気になるなっていうか、近すぎなんじゃない? そんなにくっつく必要ある? ていうかないよねちょっと離れなさいよもう!」

「何となく懐かしいような感覚がって思ったけどもしかしてもしかする? あれですか先輩ですか? しまった伯爵も呼べばよかった!」

「いたた! いたい! 何だよこの人──ってレア様そっくりだ! でも黒い! ももももしかして僕とレア様の」

「伯爵っていうのはジェフの事かしら? そうね呼べばよかったわね今からでも呼ぶ? 『召喚』する?」

「様付け!? そういうのが好きなの!? 今からでも妹様とか呼んだ方がいい?」

「いやー今伯爵をいきなりこっちに呼んじゃうと名もなき墓標がカラになっちゃうっていうか」

「おいお前らいい加減にしろよ。まずは落ち着いて自己紹介をだな」

「ところでそちらのエルフの青年はどちらさまかな。白衣など初めて見たが、もしかして何かの研究者とかなのかな」

「──とりあえず埒が明かないから、全員少し離れて座って自己紹介から始めるとしよう。

まったく、わたしがこうやってまとめてやらないと話も出来ないというのだから困ったものだよ」

「……いや、それさっき俺が言ったやつ──」

「じゃあ、まずはホストであるわたしから。

今さら言う必要もないことだけれど、わたしはセプテム。マグナメルム・セプテムという名前でこの大陸で活動している魔王だ。

本名はレアだけど、それはあまり人前で呼ばないでね」

「かっこいいじゃないか! 古い言葉で、ええと、大いなる災い、七番目とかかな?」

「素晴らしいわ! 語感もいいし、レアさんにピッタリね!」

言ってるそばから名前呼びなのだが本当に大丈夫か。

若干不安になるが、これでも西方大陸に長く君臨してきた真祖吸血鬼とその友人である。

数値的にも信頼できるINTを持っているし、いざというときはちゃんとセプテムと呼んでくれるだろう。そのはずだ。

「──私としては自己紹介よりそっちの2人とレアちゃんの関係の方が気になるけど、これ以上怒られたくないししょうがない。

私はオクトー。マグナメルム・オクトーだ。本名はライラだけど、君らは別に呼ばなくてもいいよ」

「貴女、レアさんそっくりね! どういうアレなの? 姉妹かなにか?」

「いやいやあの肌の色艶を見たまえよジェリィ! あれはもうどう見ても僕とレア様の愛の結晶じゃないか! 残念ながら心当たりがまったくないけど、たぶん僕が寝ている間とかに──」

「……あなんだ心当たりないのか。そりゃそうだよね。びっくりしたよもう。てことは一方的にレアちゃんに言い寄ってるだけの盛った雌猫か」

「おおっと言ってくれるじゃないか色違い。ていうか結局君は何なんだ。レア様と僕の娘じゃないんだとしたら、君はレア様の何なんだい?」

「私はレアちゃんの姉だよ。あ・ね。君風に言えばレア様のお姉様ってことだよ。敬いたまえよ」

「勘違いしてもらっては困るけど、僕がお慕いしているのはあくまでレア様個人であって、君は関係ない。ただ血が繋がっているというだけで大きな顔をするのは正直言ってちょっとダサいよ──っていうかほんとに血繋がってるの? 顔は似てるけど、種族も違うんじゃない?」

「なんだそんなことも知らないのか。レアちゃんから異邦人だって自己紹介は受けていらっしゃらない? 実はそんなに仲良いと思われてないんじゃないの? 異邦人っていうのはね、種族は──」

ヒートアップするライラとゼノビアの会話を見ながらブランがバンブに耳打ちしているのが見えた。

「……なんか、ちょっと似た雰囲気あるよねこの2人。マウントの取り合いの仕方とか。同じ種族だから?」

「……そういう性格になりやすい種族なのかもな。片方がプレイヤーって事を考えるとかなり珍しいケースに思えるがな。まあ、それを言ったらブランとあちらの真祖サマもどっか似たような匂いがするが……」

「あら、私の事を話しているのかしら? なになに、何の話?」

そこにジェラルディンが割り込んで行った。

この時点でレアはまとめるのを諦め、先にお茶とケーキを堪能する事に決めた。

教授も会話には参加せず、優雅にお茶を飲んでいた。

今回は西方大陸出張モードのままなのか、老紳士姿だ。タヌキと違って姿勢もいい。もしかしたらいつもは少し椅子が低すぎるのかもしれない。

紆余曲折あり、席替えをすることになった。

レアの隣にはバンブと教授、教授のとなりにライラ、その隣にブラン、ジェラルディン、ゼノビアと続いて、レアに戻る形だ。

ブランはジェラルディンといきなり仲良くなれたらしい。

種族的なものなのか、本人たちの性格によるものかはわからない。サンプルが限定的かつ少なすぎる。

「ゼリー先輩ってなんか親しみやすい気がするっていうか。あとおいしそうな名前だし」

「ちょっとイントネーションが気になるけど、ブランさんは面白いから好きよ。可愛らしい妹が出来た気分だわ!」

一方のライラとゼノビアはひどいものだ。間にジェラルディンを挟む事でなんとか衝突を避けている。こちらも仲が悪いのは種族的なものなのか、本人たちの性格によるものなのかはわからない。

「いいからはやく話を進めよう。自己紹介はもうたくさんだ」

「その点については同感だな。まだよく知らない人もいるけど、それは会話の中で徐々に知っていくとしよう。少なくともこのまま喧嘩をしているよりは建設的だ」

ただ、仲が悪いとは言っても基本的な考え方はそれほど反発してはいない。

同族嫌悪というやつだろうか。

幸い、ライラもゼノビアもレアの言う事だけは比較的素直に聞いてくれるため、とりあえずレアがしっかり手綱を握っていれば進行は可能だ。

「喧嘩が非建設的だってわかっているなら最初からしないでいて欲しいものだけど、まあいいや。

それじゃあどうしようか。ホストであるわたしから報告した方がいいかな」

「──いや、まだそちらのお二人さんに自己紹介も済んでねえし、俺から行かせてくれ。

あとまあ、今回は前回と違ってあんまりパッとした成果がねえって事もあるが」

バンブが手を挙げた。

成果を上げた前回はひとりで来たのに、成果が上がらなかった今回ガスラークを連れてきたのは何故だろう。

「俺はバンブという。見ての通り──っつってわかるかどうかわからんが、デオヴォルドラウグルってアンデッド系の種族だ。ここじゃ、他にもマグナメルム・ラルヴァって名前も貰ってる」

「知ってるわ! 鬼系アンデッドの中堅くらいの種族よね!」

「知ってんのかよすげえな真祖!」

「見た感じからだともっと上位の種族かと思っていたよ。ずいぶんアンバランスな成長の仕方をしているな。さすがはレア様の友人だ。ユニークだね」

長生きしているだけあってジェラルディンたちの知識は意外と豊富なようだ。

その上の種族を知っているのかどうかも気になるところだが、そういった事は後でもいいだろう。始めるとキリが無くなる。

「バンブの強化ビルド計画については後で検討してもらうとして、先に皆の報告だけ済ませてしまおうか」

「おっと、そうだな。

まずは俺のっていうよりも、MPCの活動からだ。ああ、MPCっていうのは──」

バンブがMPCについてジェラルディン達に軽く説明をした。

簡単に言えば「魔物として誕生した異邦人が形成する集団」だ。それだけでもジェラルディン達には興味深い事のようだったが、今ではそれらが国を作っているという事実にはたいそう驚いていた。

やっていることはジェラルディンと変わらないと思うのだが、系統を異にする複数の種族が協力し合っているという事実がカルチャーショックだったようだ。

「──で、魔物とは言っても国家を形成した以上は、何らかの経済活動を行なっていく必要がある、みたいでな。

とりあえずポートリー地方内に生息している色んな魔物の領域にメンバーが出向いて行って、友好的に取引が出来そうな種族を探したんだよ。

大半は人類だろうと魔物だろうと敵と認識して襲ってくる奴らばかりだったが、リーダーにある程度のINTがあるような所だと何とか交渉まで持って行けるところもあってな。

警戒されすぎてご破算になっちまったところも多いが、いくつかはNPCの魔物集団と話がついたところもある」

これは実はかなり革新的な事なのではないだろうか。

国家として魔物と対等に取引をするなど、一般的な人類系のプレイヤーでは思いもよらない事であるに違いない。

魔物系プレイヤーならではの視点、ならではの行動だと言える。

もっとも、取引相手として最初から人類を除外し、魔物を探しに行くあたりは、ある意味で頭の固さは人類系プレイヤーと同じだとも取れるが。

「取引が成立した種族は3つだ。まずポートリー南部に広がる樹海を支配するクィーンアラクネア。

次にポートリー西の端の森、その奥に王国を築いていたケット・シーたちだ。

最後に、これは成立したって言っていいのかわからんが、ウミディタ湖に生息するスライムたちだ」

「ケット・シーなんているのか」

「ああ。ただ、ケット・シー達の集落と俺たちの拠点MPCの間に最近いきなり細長い入り江が出来ちまったって問題があってな。

迂回するとオーラル領に入っちまう事になるし、入り江っつっても幅は知れてるから橋でもかけられねえかって検討中だ。

俺たち異邦人は問題ねえが、ケット・シーがキャピタルに来るには徒歩しかないからな」

「……ん? 入り江?」

ライラには何か思い当たる節があるようだ。

だがそれはまた自分の番に話してもらうとして、それより取引の内容の方が気になる。

「スライムと取引なんて出来るの? その前に意思疎通出来るの?」

「それなんだよな。正直なところ、ちゃんと成立してるのかっていうと自信がない。

スライムに関しては、少なくとも俺たち魔物に対してはノンアクティブのモンスターらしくてな。こっちから攻撃しない限りは敵対的な行動はとらない。

ただエルフが近づくと攻撃するみたいだから、もしかしたら長年の確執みたいなもんは刷り込まれてんのかもな。他の人類種族は近くに居なかったからわからん。

このスライムたち、餌なんかをやるとゲロを吐いてくるんだが、このゲロが実はスライム水とかっていう錬金素材になるらしいんだ。奴らは基本的に何でも喰うんだが、適当な要らない素材がスライム水になるってんで、探して倒してドロップ狙うよりは若干効率もいいんでな。まあ、取引ってよりは共生に近いか」

「それってゲロなの? スライムの口なんてどこだかわからないんじゃないの? もしかしたらウン──」

「そこ重要か? いや話に出した俺も俺だけどよ。一応お茶会の場だぞここ」

どうでもいいところに食いついたブランをバンブが諌めた。

ただ全員MNDが高いからか、それとも性格的なものか、あまり気にする者はいないようだった。

お茶やお菓子を口に運ぶペースが緩む様子はない。

ジェラルディンだけはお茶ではなく持参した謎の赤い液体だったが。

「スライム水の出所はいいとして、次だ。

クィーンアラクネアたちの勢力からは糸と毒を購入してる。引き換えにこっちが渡してんのは金属素材だのなんだのだな。ポートリーは土地柄か金属系の素材は出にくい傾向にあるみたいで、俺たちが採掘してるのも古巣のゴルフクラブ坑道だ。ゴルフクラブは今はそこのガスラークの配下がある程度管理してくれてるから、MPCのメンバーなら安全に採掘出来るからな。

ケット・シーからは普通に加工品を買い取ってる。服だのアクセサリだのだな。こいつは俺も驚いたんだが、連中は連中でかなり高度な文化をもってるみたいで、とくに裁縫や革細工なんかが強い。魔法系のスキルにも精通してるみたいで、アクセサリや服には魔法効果がついてるもんもある。まあ、服は小さすぎて俺たちが着るには向かないが、頼めば大きいサイズも作ってくれるみたいだ。

ケット・シーにこっちから流すのはアラクネアたちの糸と、金属素材、あと狩った魔物の肉や皮だな」

「ちょっと興味深いね。今度そのケット・シーと交渉する際には私も連れて行ってもらえないだろうか」

「教授、猫好きなの? 意外だな。タヌキ派かと思ってた」

「最近少しね。というかタヌキ派ってなんだね。超マイナー派閥じゃないか」

しかし、MPCの意外なほどの躍進が素晴らしい。

この中央大陸において、人類系のプレイヤーやNPCが構築するネットワークに対抗できるような巨大な勢力、その先駆けとなりうる大きな可能性を感じる。

「ふーん。やるじゃないか」

ライラもそれがわかったのだろう。珍しく褒めている。どうせ褒めるならもう少し言い方もあると思うのだが。

「まあ、そうは言っても俺は大まかな方針を指示しただけで、自分じゃ動いちゃいないがな。魔物の連中はやっぱ警戒心が強くてよ。見た目的にも能力的にも俺が行くとなると逃げちまうんでな。

ただ代わりと言っちゃあ何だが、その間俺の方でも他の面倒事を片付けておこうと思ってな。

ほれ例の、西方大陸への渡航詐欺を働いてる奴らいただろ。あいつらにちょいと灸をすえておいた。しばらくはあんなナメた真似はしないはずだ」

「西方大陸? っていうのは私の大陸の事かしら」

「渡航詐欺? なんだかワクワクする響きの言葉じゃないか。詳しく聞こうか」

「バンブ氏、我々からすればあちらは西になるが、あちらの大陸の住民からすればこちらが東にあるというだけだ。ここを中央、あちらを西方と呼びならわすのは、外交的な礼儀で考えればあまりいい表現とは言えないな」

レアもあまり気にしていなかったが、確かに教授の言う通りである。

こういう細かい言い回しにはもっと気を使うべきだった。

「おっと、そりゃそうだよな。すまん。ええと、何て言やあいいかな」

「別に西方大陸で構わないんじゃないかしら。レアさんが拠点にしているのはこの大陸なのよね? だったらやっぱり、ここが世界の中心ということで問題ないと思うわ」

「僕もそこは割とどうでもいいかな。それより詐欺っていうワードの方に心惹かれるんだけど」

ジェラルディンとゼノビアの返事に、バンブは困惑した様子で教授に耳打ちした。

「……おい思ってた以上にやべー奴らなんだが、こいつら本当に大丈夫なのかよ」

「……彼女らはレア嬢の預かりだから、人格面についてはレア嬢に確認を取ってくれたまえ」

ジェラルディンやゼノビアがやばいのは別にレアのせいではない。こちらに責任を押し付けられても困る。