軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第449話 「孫請け」

悪魔のドロップ品が欲しいのであれば行く先は決まっている。北の樹海だ。

初めてこの大陸に訪れた際の事を考えればちょっとちょっかいをかければまたわらわらと集まってくるだろうし、それをまとめて始末してやればいい。

そしてライラは今、あの樹海の上空に『天駆』で立っていた。

樹海に放っておいたレーゲンヴルムを辿って『召喚』で移動し、そこから飛び上がったのである。

この樹海は樹の密度が高く、そのせいか湿度も高いようで、レーゲンヴルムたちにとってはかなり過ごしやすい環境であるらしい。

特に指示は出していなかったのだが、活動的になったレーゲンヴルムたちは勝手に悪魔を狩っていたようだ。

彼らが始末したという悪魔たちの心臓を受け取ったが、かなりまとまった数になっていた。

来て早々だが、すでに任務は達成したも同然である。

やったのはレーゲンヴルムたちだが、レーゲンヴルムはライラの眷属、レーゲンヴルムの手柄はライラの手柄だ。

「『鑑定』してみても汚れた心臓としか表示されないけど、個体差ってどうやって調べるんだ。

──なるほど。心臓単体での効果は行動阻害か。清らかな心臓が死体の消費期限を延ばす効果だった事を考えると、こっちは生きてるキャラクターの寿命を縮めるといったところかな」

行動阻害がかかったところで寿命が縮むとは限らないが、何もしないよりは死に近づくだろう。

しかしその行動阻害の具体的な内容は少し恐ろしい。体内に新種の病原菌を発生させるとある。

数秒から数分で消え去るとあるが、出来れば食らいたくない。人類がこれを鎧獣騎のコアとしてだけ利用しているのはある意味で平和なことなのかも知れない。

しかし品質に多少のばらつきはあるものの、この状態から生前の悪魔の姿を推測するのは不可能だ。

アクラージオはどうやってそれを判断するのだろう。

「……まあ、なんかそういうのがわかる器材でもあるんだろうね。出来ればそれも手に入れたいな」

今後、例えば中央大陸で鎧獣騎を生産しようと思ったら必ず必要になるアイテムである。

それはそれとして、頼まれていた素材回収はいきなり終わってしまった。

すぐに戻ってこれを渡してもいいのだが、いくらなんでも早すぎる。

これまで以上に警戒される、というのもそうだが、このスピードを基準として次回以降の仕事を頼まれるようになってしまうといささか困る。

能力に応じて、というか具体的な納品数に応じて見返りを受け取るよう雇用契約をしっかり取り決めておかなかったのはライラのミスだが、だからこそ最初の1回が重要になる。

研究所に戻るのはもう少し時間を潰してからの方がいいだろう。

「せっかく来たことだし……。今後何かの役に立つかもしれないし、悪魔たちの拠点でも調べておくか」

もしこの仕事を継続的に行なう事になるのなら、効率化は必要だ。

そのためには巣を探し出しておくのが手っ取り早い。

と言っても闇雲に探したところで見つかるとも思えない。

誰か案内役が必要だ。

「まあいいか。適当に騒ぎを起こせば、また誰かが様子を見に来るでしょう。『フレイムデトネーション』」

***

樹海がまたしても何者かに破壊されている。

そう報告を受け、シトリーは現場に急行した。

またあの、いけすかない黒い人間が現れたのだろうか。

シトリーはつい最近、大悪魔として覚醒したばかりの個体だ。

人間たちを殺した数を讃えられ、その功績をもって「審判の燃えさし」をその胸に受け、大悪魔へと転生したのだ。

そういうことであるから、管理者としての大悪魔の中でも一番の下っ端であった。

何か異常事態が起きた時、その場に真っ先に向かうのはシトリーの役目である。

しかし現場でシトリーを待っていたのは、ただただ燃え盛る樹海のみだった。

シトリーは樹海の消火を悪魔たちに命じ、火を放った下手人を捜した。

しかしどこにもいない。

あの巨大な鎧獣騎もない。

樹海の中に潜んでいるのかもしれないが、ここ最近は樹海の中から見慣れない魔物が現れる事がある。

シトリーからすれば大したことのない魔物だが、配下の悪魔たちにとってはそうではない。

樹海の捜索は危険を伴う。

「……あの時の人間も、確かあの巨大鎧獣騎ごと地面に沈むようにして逃げて行ったな。今回も地面の下に隠れている可能性はある、か。仕方ない。

お前たち、消火が終わったらしばらくこの周辺を警戒していろ! 捜索は無理に行なわなくてもいい! 何か異常があったらすぐに報告に来い!」

ひとまずそう指示を出すと、シトリーは拠点に帰ることにした。消火に参加しない指揮官がこの場に居ても意味はない。

それよりもこの不可解な状況について、一刻も早く主人に報告を上げるべきだ。

樹海の中に、ひときわ欝蒼とした、樹々が密集して盛り上がったかのように見えている場所がある。

遠目で見てみれば不自然だと言えなくもないが、人工物だと言い切れるほどの違和感はない。人類に見られてしまったとしても怪しまれる可能性は低い。

そんな小山の麓には石垣で覆われた低い壁があり、その壁には全周のいたるところに出入り口が設けられていた。

シトリーはそのうちのひとつをくぐり、中へと入る。

長い通路を抜け、小山の中心部あたりまで到達すると、そこは天井の高いホールになっている。

このホールの天井が高いのは当然だ。

その中心部には、悪魔たちの首魁たる真の大悪魔、スレイマンが堂々たる姿で寝そべっているからだ。

「──ただ今戻りました、スレイマン様。

樹海の火事はやはり何者かによる火付けのようです。しかしその下手人は見当たりませんでした。

先日現れた黒い人間は地面の下を移動する能力を持っているようでしたので、もしかすれば──」

***

「なるほど。ここが悪魔たちの巣か。自分らで作った……わけじゃないよね。放棄された施設を再利用しているのかな」

1人逃げていく女悪魔を追い、ライラがやってきたのは、樹海の中にこんもりと盛り上がった、小山のような場所だった。

上空から俯瞰してみればよくわかるが、明らかに自然に出来た山ではない。

似たものをライラは資料画像で見たことがある。古代ニホンで建造されたとされる古墳、その中の円墳というものに近い。

近づいて見てみると、やはり人工物で間違いないようだった。盛り上がったその根元に石垣のような物が見える。

円墳の根元はその一周がぐるりと、石垣によってかさ上げされている。巨大な丸い平屋の屋根に古墳が乗っているような状態だとも言える。

もし古墳の航空写真を見たことがなかったら違和感を覚えて近づく事もなく、人工物だと気付く事もなかったかもしれない。

古墳の屋根は低く見えるが、入口が低いわけではない。

女悪魔が入っていった入口は地面がかなり掘られており、これなら3、4メートル級の異形悪魔であっても十分に出入りできるだろう。

女悪魔が個人的に利用している別荘という可能性もあったが、だとしたらこれほど広い入口は必要ない。

やはり悪魔たちの巣である可能性が高い。

ライラは『迷彩』と『隠伏』を発動させたまま、その入口をくぐり中に入っていった。

中の通路も入口同様、かなり広く作られており、移動するにあたって不便さは感じられない。それは異形悪魔たちも同じだろう。

放棄された施設を勝手に使っている、にしては通路が広すぎる。

石をアーチ状に組んで作られている通路は、構造上後から広げる事はできそうにない。

となるとこの施設は最初から異形悪魔のようなサイズの生物のために作られた施設、なのだろうか。悪魔が自分たちで建てたという可能性もあるが、それにしてはいささか年季が入り過ぎている。

自分たちで建てたのであれば、もうそろそろリフォームしてもいい頃のはずだ。

いくつかの分かれ道はあったが、女悪魔は通路をまっすぐ進んでいる。

ライラもその後を追い、通路を直進していく。

するとやがて開けたホールに出た。

天井が高い。

この高さを確保できるとなると、おそらく古墳の中心部だろう。

そのさらに中心に、1体の巨大なドラゴンが寝そべっていた。

いやドラゴンに見えるがこれはドラゴンではない。トゥルードラゴンやガルグイユ、あるいはウロボロスなどに比べて人型に近いシルエットをしているようだ。

ライラに匹敵する力を内包するその存在の名は、『鑑定』によれば、大悪魔スレイマン。

これがおそらく、六大災厄に名を連ねる大悪魔本人だろう。

複数の大悪魔がいるにもかかわらず、「六」大災厄から増えていないということは、おそらく取り巻きの大悪魔も含めて全てこのスレイマンの眷属だ。

しかも悪魔誕生の仕組みを考えれば、この者たちは全てメスということになる。

まるでアリか何かのような奴らだ。南方大陸攻略はレアの方が向いていたかもしれない。

いや、それだと今頃この近辺は荒野になっていた。連邦首都も灰燼に 帰(き) していただろう。

鎧獣騎という報酬を確実に手に入れるためには、ライラでよかったと考えるべきだ。

「──鎧獣騎というのは、制限なく生み出せるわけではない。強力な個体を生み出すには、相応の素材が必要だ」

ライラが見守る中、巨大悪魔のスレイマンが威厳のある低音を響かせる。低音ではあるが、やはり女性の声だ。

ライバルである鎧獣騎の製造上のネックを知っているとは、ウィキーヌス連邦の情報管理はどうなっているのか。いや、鎧獣騎のコアについてペルリタなども知らないようだった。となるとこれはこのスレイマンが知っているのがおかしいということになる。

「つまり、あの鎧獣騎にはそれだけ我が同胞たちの命が使われていると……?」

「数を揃えればいいというものなのかどうかはわからんがな。その巨大鎧獣騎を操っていたのは肌が黒い人類だと言ったな? という事は、あの女がついにその目的を果たしつつあるという事……」

「あの女、というのは……」

「若いお前は知らぬか。ベルタサレナという名の魔精の女だ。錬金術師としての腕は優れておったが……。その性質は狂気のひと言だった」

どうやら、ライラをアクラージオだと勘違いしているらしい。

失礼な話だ。ライラはあんなに老けていない。

「ベルタサレナは狂気に取りつかれておった。

わらわは詳しくは知らぬが、いつかどこかで見たとかいう機械仕掛けの神、それを破壊するための力を生み出すのだとか言っておった。あの鎧獣騎とはそのために作られたものだ。どれもその神とやらには到底届かぬ失敗作のようだがな。

そしてわらわたち悪魔も、そのための──いや、これはよそう。言っても詮無き事だ」

予想通り、といったところか。

やはり悪魔たちを生み出したのはアクラージオだ。その目的は鎧獣騎の素材を用意するため。

そして鎧獣騎の技術を発展させ、機械仕掛けの神とやらを破壊するなどという大それた事を画策している。

神殺しなどあの合理主義の塊のようなアクラージオとは結びつかないが、天使や悪魔、それに巨大ロボットさえも存在する世界だ。機械仕掛けの神くらい居ても驚くまい。

「私が見たあの巨大な鎧獣騎、あれがそのベルタサレナの野望の結実だとすると……」

「うむ。神殺しの力を手に入れたベルタサレナは、何をしでかすかわからぬ。その機械仕掛けの神とやらを殺すだけで話が済むとは到底思えぬ。

この大陸の全てを支配し、海の向こうまでその魔の手を伸ばすという事も考えられる。再び樹海に火を放ってきたのも、先に北側から攻撃をするという宣言代わりの可能性もある。

人類がどうなろうと知った事ではないが、我らの領域や、すぐそこの北の大地を刺激するのは避けねばならん。あの地はこのところ、立て続けに強大な存在が生まれておる。パンパンに膨らんだ鳳仙花の実のようなものだ。つつけばどのような災いが飛び出すか」

北の大地というのは中央大陸のことだろう。

つまりそこから飛び出してきたライラはひと粒の鳳仙花の種というわけだ。

何とも可愛らしい事である。

次に偽名を名乗る機会があったら、インパティエンス・バルサミナとでも名乗ってみるのもいいかもしれない。

「では──」

「──他の大悪魔たちも呼び集めよ。これより人類領域に討って出る。

ベルタサレナを……。討つのだ」

ちょっと悪魔の拠点でも探そう。そう思っていただけなのに、想定外の展開になってしまった。

いや、これは仕方がないことだった。

彼女らの会話を聞く限り、ベヒモスを大悪魔に見られた時点でこうなることは避けようがなかった。

ライラは悪くない。

しかしある意味でちょうどよかったのかもしれない。

この大悪魔たちが連邦首都に攻めてくるようなことがあれば、さすがにアクラージオも何か反応するだろう。特にこの大悪魔スレイマンはアクラージオを知っているようであるし。

悪魔たちの言うアクラージオの目的というのが本当なのかどうか、確かめるにはいい機会だ。