軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第442話 「鎧獣騎」

ステルス性については文句のつけようもない『地中潜航』ではあるが、唯一の欠点として地上の様子がわからないというものがある。向こうからこちらが見えないのと同様、こちらからも向こうの事はわからないのだ。ゆえに今どのあたりを移動しているのかさっぱりわからない。

海底を歩いてきたよりもさらに遅い速度での移動を考えると、地中を移動して樹海を抜けようと考えたら相当な時間がかかることが予想される。

面倒なため移動は誰かに任せてしまいたいところだったが、ベヒモスには個体認証がある。ライラ以外は操縦する事が出来ない。

仕方なくライラは何日もかけ、まさしく牛歩の速度で地中を移動したのだった。

そうしている間にも、レアは西方大陸の問題をひとつ片付けたと言っていた。

具体的に何があったのかは教えてもらえなかった。待てお茶会、ということらしい。

どうせ何かを吹き飛ばして解決したんでしょうと言うとむっとして黙りこんだため、ライラの予想は当たっていたようである。

「──そろそろいいかな。少し地表に近づけるか」

ベヒモスをゆっくりと地表へと浮上させ、ギリギリまで近づいてハッチを開ける。

ハッチ部分やベヒモスの突起などは一部地表に露出してしまっているが、スキルを発動させたまま出現したため、地面が盛り上がったりなどという事は起きていない。

露出部分も、まるで最初からそこに埋められていたかのように見える。

どういう理屈か全くわからないが、仕様書というか封印日記によれば、ベヒモスは地属性への親和性が非常に高いらしい。

地属性の魔法か何かを応用した謎テクノロジーで『地中潜航』を実現しているらしかった。

そのテクノロジーにより、ベヒモスはまるで泥の中を泳ぐがごとく地中を移動することができるのだ。

ただベヒモスを建造したのが何者であれ、何もないところからこんな技術を考えつくとも思えない。もしかしたら天然でこのスキルを所持する魔物もどこかにいるかも知れない。

外に出たライラはハッチを閉じ、辺りを見渡した。

草原だ。

さわやかな風が柔らかく草花を撫でて通り過ぎていく。

「樹海を抜けているのは浮上の際に根っこに邪魔されなかったからわかっていたけど……。ああ、あれが樹海かな。まだまだ視認できる範囲か。やっぱり距離は稼げてないな」

このままベヒモスで移動してもいいが、人類領域までどれだけかかるか分かったものではない。

そもそも人類領域にベヒモスで乗り付けるメリットは薄い。ただ無駄に目立つだけだ。

これに乗って暴れるという欲求はある程度満たすことは出来たし、ベヒモスが得意なのはやはり破壊だ。ライラは別に人類の居住域を破壊したいわけではない。今はまだ。

「……ここに置いていこう。歩いた方が早い、とまでは言わないけど、飛んだ方が早いのは確かだ」

ハッチ周辺や露出している突起部を隠蔽しようか迷ったが、下手な偽装工作は逆効果な気もする。

最初からここに埋まっていたかのようにさりげなく置いておいた方がいいだろう。

どうせハッチを開けられるのはライラだけだし、ベヒモスの全てを掘り出すことが出来る者もいまい。

破壊したくてもライラでさえ破壊出来るか不明な防御力を持っている。このまま放っておいても問題ないはずだ。

思いつく限りでは、レアならこれの破壊も容易かもしれないが、わざわざ西方大陸から南方大陸まで来て、どこに埋まっているかもわからないベヒモスをいきなり吹き飛ばすなど考えられない。そうする理由もない。

この地にレアと同等の破壊力を持つ存在が居ないとも限らないが、その可能性は限りなく低いし、居たところで目立たないようにしているはずだ。

そうでなければあの程度の悪魔の軍勢など、とうに滅び去っているだろう。

どちらの勢力に肩入れしていたとしても、そんな存在が積極的に行動しているなら戦争など起きるはずがない。

レアがしているのは大抵いつも一方的な破壊と殺戮である。

『迷彩』と『隠伏』を発動し上空へと舞い上がると、すぐに南方に煙が上がっているのが見えた。

狼煙というには太すぎるし、本数も多すぎる。

何らかの戦闘が行われた後か、村くらいのエリアが焼き討ちにあった跡だろう。

樹海が悪魔たちの居住区だとすれば、その外は人類のエリアなのだろうか。

そこで戦闘が起きているなら、悪魔が人類領域に攻め入った結果ということなのか。

何にしても南方大陸の状況を知るいい機会である。ライラはそこに向かう事にした。

煙の発生源は建物だった。

村のような集落で戦闘が起きたらしい。

戦闘自体はすでに終息しているようで、悪魔たちが数体の人類の死体や彼らの兵器を片付けていた。

死体はどうでもいいが、この兵器というのが重要だ。

全長は3メートルから4メートルくらいであろうか。

ベヒモスにどこか似た雰囲気を持つ、金属で作られているらしい獣の姿をしている。

異形悪魔たちと同じか少し大きいくらいだが、全体的な造形も似通っているせいか、悪魔がメカ悪魔を片付けているようにも見える。メタな見方をすれば、おそらくデザイナーが同じなのだろう。

これが先ほど大悪魔が言っていた、鎧獣騎とやらだろう。

破壊された鎧獣騎はそれほど多くなく、村全体を見渡しても5体あるかどうかといったところだ。

これだけのサンプルで判断するのは早計ではあるが、モチーフとなった獣はまちまちのようである。

猫のような四足獣型、トカゲのような爬虫類型、ゴリラのような霊長類型と、わかるだけでも3種はあった。

あれを兵器と分類するのであれば、これだけ造形が違っては規格も合わせづらいだろうし、整備性は最悪なのではないだろうか。

ただ、そういう現実的な問題は置くとすれば、この敗北した兵器群といった様相は実にロマンを感じるものがある。

超精密に再現されたジオラマを俯瞰して見ているかのようだ。

ひとつふたつ持って帰りたいところだが、あのサイズだとインベントリに入れられるかどうか微妙なラインである。

真っ二つに破壊されているものであればそれぞれ別の物体として入れられそうではあるが、壊れたものを持ち帰っても仕方がない。いやまったく無意味ではないだろうが、せっかくだし美品完品を入手したい。

となればこの村に用はない。

村にはバリケードのような物も備え付けられていたようだが、無残に破壊されている。見たところ、バリケードは南向きに設置されていたようだ。

樹海が北にあることとバリケードの向きから、この村は悪魔の村であり、そこに人類が攻撃を仕掛けてきたものと思われる。村の規模の割に人類の死体が少ないのもそのためだ。

ただ、煙をあげている建物自体はそれほど大きくない。

異形の悪魔たちが生活するには少々不向きというか、悪魔の中には明らかに建物に入れないだろう者もいる。

それらの状況から推察するに、元々この村は人類の村だったが悪魔たちによって占有され、その奪還のために人類軍が攻撃を仕掛けてきた、といったところだろうか。

教授からの報告では、西方大陸でも人類は魔物によって生息圏を奪われているらしいし、どこも人類にとっては厳しい環境ばかりのようだ。

その点中央大陸は平和で良かった。何せ人類同士で戦争をする余裕があるくらいだ。

まさに始まりの大陸と呼ぶに相応しいステージだったと言えるだろう。

人類の軍隊がどこからやってきたのかはすぐにわかった。

鎧獣騎が移動した跡が草原にくっきり残されていたからだ。

これでは悪魔たちがその気になればすぐに逆侵攻をかけられてしまうと思うのだが、そうならないのはお互いの戦力がある程度拮抗しているからだろうか。

大悪魔の口ぶりでは人類を見下しているように思われたのだが、指揮官の認識と前線の現状との間に乖離があるということか。

そこをうまく突く事が出来れば人類の反撃の一手になり得る、のかもしれないが、この大陸の人類が勝とうが負けようがどうでもいいことだ。

鎧獣騎の詳細を調べ終わるまで人類が生存していられればそれでいい。

見つけた前線基地は、基地とは言っても、先ほどの村にあった物と同程度のバリケードが設置されただけのただの野営地に過ぎないようだった。

宿舎代わりのテントや、整備工場代わりの大きなテントのようなものはあるが、鎧獣騎は基本的に野ざらしらしい。格納庫代わりのテントは無いようだった。

テントは何で作られているのだろうと思って近づいてみれば、 鞣(なめ) した革を縫い合わせたものだった。

こういう大型のテントといえばエステル帆布というイメージがあったのだが、そんな素材は無いのだろう。仮に存在したとしても、魔物や動物が多いこの世界では天然皮革の方が安価であるのかもしれない。

もしこのテントに倒した悪魔の革なども使われているようなら、戦争はどちらかが滅び去るまで終わらないだろうな、などと考えながら、野ざらしの鎧獣騎の方に足を向けた。

並べられている鎧獣騎は、やはり多岐にわたる種類があった。

先ほど見かけたタイプの他にも、やや大きめなサイズでティラノサウルスのような恐竜型のものもある。

少し離れて置いてあるし、エース専用機とか指揮官機とかそういう感じなのだろうか。

ぺたぺた触った感じでは鉄に近い質感のように思える。

そしてそれしかわからないということは、これほどオーバーテクノロジー然とした外観でありながらアーティファクトではない。

「よし、『鑑定』と……」

兵器の名称はやはり鎧獣騎だ。

基本的な仕様としては、性能を別にすればベヒモスと変わらない。

乗りこんだキャラクターの能力値やスキルは全て鎧獣騎の物に置き換えられ、それを参照して戦闘行動などを行なう。

設定されている能力値はかなり高めで、課金アイテムの『鑑定』でちょうど見えなくなるくらいだろうか。

ただスキルや数値は個体ごとに差があるようで、同型の鎧獣騎でも違うものがあった。カスタマイズできるようになっているのかもしれない。

また鎧獣騎もベヒモスと同様個人登録があるようで、現在の所有者が生きている限り他人が乗ることはできない。

兵器としては致命的な欠点だが、プレイヤーに使わせる前提のアイテムなら仕方のない仕様と言えるだろうか。

ひと回り大きな恐竜型は戦闘力も高く、レアの配下の女王アリと同程度くらいだった。

これが量産可能ならかなりの脅威になるだろうが、もしそうなら戦況はもっと人類有利に傾いているだろうし、生産台数には限りがあると考えるのが妥当だ。もしくは製造できたとしても扱えるキャラクターが少ないのかもしれない。

「持って帰るんならこの恐竜型かな。このサイズだとさすがにインベントリには入らないけど」

「──応急処置は済んだのだろう! ならば問題ない!」

「──問題あります! 先ほどの襲撃で悪魔どももまだ警戒しているはずです! 今すぐにまた攻めるというのは──」

「だが、倒れた戦友たちをあの地に置き去りにしたままには出来ん! 死してなお悪魔どもに辱めを受けんとも限らん! 早く連れ帰ってやらねば──」

「お気持ちはわかりますが、戦略的には無意味な行為です! 作戦参謀として許可できません!」

「……だから、貴様たち参謀畑の人間は血が通っておらんと言われるのだ。戦争とは、あくまで人が戦うものだ。地図の上で駒が戦うわけではない。我々が戦死した者たちの尊厳を守ってやらねば、誰が守ると言うのだ!」

「しかし、兵が損耗するたびにいちいちそのようなことをしていては軍としてのリソースが──」

「損耗などと、そんな言い方をするな! リソースが足りないだと!? だからこそ、私1人で行くと言っている!

それに、いつも出来るわけではないからこそ、出来る時には出来る限りの事をしてやらねばならんのだ! いざそうなった時、軍は命がけで尊厳を守ってくれると信じられるからこそ、兵もまた命をかけられるのだ!」

喚きながら恐竜型に近づいてくる2人の男女がいた。

高圧的な口調で話す指揮官らしきエルフの女性と、それを諌めようとする細身のヒューマンの男性だ。

同じ軍事組織に所属しているらしいが、立場の違いか考え方の違いか、意見の食い違いがあるようだ。

軽く聞こえた内容からすると、どちらも決定的に間違っているとは言えない。

ただひとつ言えるとするなら、そういう話はミーティングルームで済ませておくべきものであり、兵が聞いているかもしれない野外でするものではない。

何であれ、この恐竜型はエルフの女の乗騎らしい。

そういうことなら、この女をキルしてやれば晴れてライラの物になる。