軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第423話 「お裾分けされた幸せなんているか」

ベヒモスの封じられていた、アダマスの石室。

精錬された金属によって一分の隙間もなく作られている部屋なので、正確には石室ではない。

では何なのか、何のために作られたのか。

それは日記に記されていた。

この巨大な建造物は「金剛鋼の封印櫃」というらしい。

その名の通りアダマスで作られた、何かを封印するための箱だ。

何かというか、中に入っているのはベヒモスなのでベヒモスを封印するための箱だろう。

日記の後半には他にも、封印櫃の建造日程や進捗状況についても記されていた。

それによれば、この封印櫃を建造するために国中から多くの錬金術師を集め作業に当たらせたようだ。錬金術師に対する日当なども記されている。

こういうものは大抵、現代とは物価も何もかも違うので、当時の生活様式を知るためには他にも資料が必要になるものなのだが、このゲーム世界においては通貨はずっと変わっていないため想像は容易になっている。

日当は平均でおよそ金貨2枚。

現代の価値からすれば、専門的な技術職だろう錬金術師を雇うにしては安すぎる金額だ。

使用している通貨単位は同じでも、やはり物価は現代とではかなり違っているのだろうか。

それとも当時の錬金術師というのは技術職ではなく、一般的な日雇いと同じような職種だったのだろうか。

例えば故精霊王の生きていた時代、現代よりも人々の平均的な戦闘力や技術水準はずっと高かったのだろう事がわかっている。

それよりもさらに過去だと思われるこの時代、技術水準はもっと高く、『錬金』スキルは一般においても必須級だった可能性もある。

過去の技術水準について、その高さを匂わせている部分は他にもある。

いかに国中から錬金術師を集めてきたとしても、巨大なひとつの箱を単一の魔法金属で作るなど出来るとは思えない。

しかし作業者の日当までも記されている日記にはその詳細な手順は記されておらず、ただ淡々と進捗が書かれているのみである。

そして進捗を見る限りでは、封印櫃の建造自体は1日で終わっている。材料を調達する方がはるかに時間がかかっていたようだ。集めた錬金術師の主な仕事も材料の収集と精錬であったらしい。その材料となるアダマス鉱石は大陸東部のアダマス鉱床から採掘するとあったので、これがおそらくレアのリーベ大森林のことだろう。

この内容からわかることは、つまり当時としては単一の魔法金属による巨大建造物の建造というのは、別に特別でも何でもなかった技術なのではないかということだ。

大規模な成果をもたらす謎の技術。

当時はもしかしたら、例の事象融合を『錬金』に応用したりも出来ていたのかもしれない。

ただ一点、作業における安全面では疑問が残る個所もある。

隙間なく封がされている事を確認するために、内部に残る人員が必要だったというのだ。

巨大建造物を作ること自体は日常茶飯時でも、それを何かの封印に使う事は想定されていなかったのだろう。

苦肉の策として、内部に生きた作業者、それも監督者クラスの人間を残し、その人物が通常の手段で脱出できない事を確認して初めて、封印櫃は完成を見たということらしい。

この日記を書いていたのがまさにその人物だったようだ。

本人の死体が残されていないところを見るに、この人物は誰かの眷属だったのだろう。

役目を終えた後自害し、封印櫃の外にデスワープした、と思われる。

古代の技術水準や労働環境などを知る上でも非常に重要な日記ではあったが、それ以上に興味深い事実がある。

このベヒモスは単にこの地で眠っていたのではなく、この地に封印されていたという事実である。

日記を最後まで読んで初めて気がついたのだが、もう一冊の仕様書というのもライラが勝手にそう思っていただけで、別に親切に仕様を書き記したものではなかった。仕様書にはベヒモスの恐ろしさが淡々と綴られており、あまりに淡々としているためにライラが仕様書だと誤解しただけだった。

一冊目でベヒモスの恐ろしさについて詳細に記し、二冊目でこれの封印計画について記す。

どうもそういうことのようだった。

──人類に大きな技術革新をもたらした機動遺蹟ベヒモスだが、これがある限り争いは絶えない。

ベヒモスに認められた人物は、みな例外なく世界に争いと破滅をもたらしている。

ゆえに魔法による探知が効かない金剛鋼で永遠に封印し、2度と誰の目にも触れられないようにする──

日記はそう締めくくられていた。

「なんでこういうものを書き残す人って、最後にいらん事書くのかな。誰にも触れられない前提だったら、こんな日記も読まれる事もないだろうに」

途中までなら封印作業の進捗を記すものとして活用できる内容かもしれないが、最後の1ページは明らかに蛇足だ。

ベヒモスは危険だから永遠に封印したいし関連する情報も残したくないけど、自分が書いた日記だけはいつか誰かに見られるかも、などと考えていたのだろうか。

日記を残した人物のセンチなメンタルは別にどうでもいいが、機動遺蹟ベヒモスが人類に技術革新をもたらしたという点は見逃せない。

つまり、この日記を書いた人物や、その時代の文明がベヒモスを建造したわけではない。

その時すでにベヒモスは存在していたのだ。しかも遺跡扱いされるほどの状態で。

日記を書いた人物の文明はそれを発見したに過ぎない。

ベヒモスはいつ、誰に作られたのか。

そしてベヒモスを発見した文明は、それを元に何の技術を発展させ、何を作ったのか。

その時作られたものは今どこにあるのか。

「……ベヒモスについては、ブランちゃんなんかはずいぶん羨ましそうにしてたな」

そしてそんなブランの態度のせいで敢えて言わないようにしていたようだったが、レアもかなり気にしている様子だった。

レアは結局仕様書や日記は分厚すぎるため読まずに帰っていったが、もし自分でもベヒモスを手に入れられるとしたらきっと真面目に読んでいただろう。

仮にライラが他にもベヒモスに類似したアーティファクトを発見する事が出来、それを彼女らに贈ったとしたらどうだろうか。好感度の急上昇は間違いない。

事象融合に匹敵する高ポイントを稼ぐ事が出来るはずだ。

「──はずれ、か」

インベントリに羅針盤を仕舞い、精霊王の血管を懐に入れると、ライラは立ちあがった。

この領域にあった遺跡も、ライラの求めるものではなかった。

かつてペアレ王国の北部で見かけた遺跡と同様のデザインのものだが、地下にもあれと同じく転生の助けとなる遺跡しかなかった。

これまで数日をかけ、大陸中を移動しながら遺跡探索を続けてきたが、発見できたのは既知のアーティファクトばかりだ。

デザインから言ってもかつての精霊王に関わる物のようなので当然と言えば当然である。

さらに古い時代だろうと思われる、ベヒモスのような遺跡やアイテムは発見できなかった。

ライラが新たに発見した遺跡は、ペアレ王国のものと比べても峡谷の底にあったり完全に蔦で埋まっていたりと後世の者に見つけさせる気が微塵も感じられないものばかりだったが、そういうわかりにくいものの大半には何のセキュリティもかけられていなかった。

地上の封印を作ったのが精霊王本人とは別人なのだとしたら、その誰かはもしかしたら遺跡の全ての場所を知らなかったのかもしれない。

念のため鍵として精霊王の血管も持ち歩いていたのだが、これが必要になったケースはあまりなかった。

発見した遺跡には特に何もしていない。

マグナメルム謹製の地図に位置だけを記し、監視のために近くに眷属のレーゲンヴルムを配置しておいた。

レーゲンヴルムは巨大なミミズであるフォレストワームを転生させた魔物であり、全身が甲殻で覆われたヤツメウナギのような外見をしている。名もなき墓標の周辺で塔から帰ろうとするプレイヤーを狩っていたのがそれだ。ただ最近はブランを通して伯爵からクレームが入ったため、あまり襲わないように言いつけてある。

それで仕事がなくなったので、こうして再就職先として監視任務を用意してやったのである。

これらの遺跡を他のプレイヤーやNPCが発見できるかは不明だが、もし発見できたなら自由に使って転生でも何でもすればいいというのがマグナメルム全体の意向だ。

ただ、プレイヤーキャラがどんな進化をするのかは興味があるので監視要員を置いているというだけのことだ。

「でも大陸の至る所にこの手の遺跡が隠されてるってことは、この大陸できっちりランクアップしてから大陸外に進出しろよってことなのかな。

実際の遺跡を作った精霊王が何考えてこんな事したのかはわからないけど……。ブランちゃんから聞いた伯爵の話からすると、いずれ現れるプレイヤーの事は予想してたみたいだし、何かプレイヤーの助けになるようなものを作っておこうって考えるきっかけでもあったのかな」

故精霊王は現代にまで影響を及ぼすほどの重要NPCである。

管理AIから何らかのコンタクトを受けていたとしても不思議はない。

サービス開始時期をいつに設定するのかはある程度決まっていたのだろうし、それに合わせて何らかの形で運営から依頼を受けていたのかもしれない。

たとえその名が歴史に遺される事がなかったとしても。

「……まあ、精霊王のことはいいか。

それより、これだけ探しても無いとなると、この大陸にはもう無いか、羅針盤では探せないタイプのアーティファクトなのか、どちらかかな」

羅針盤は本来「設置型アーティファクト」を探すために運営から貰ったアイテムだ。

そのルールだと、むしろベヒモスに反応した事の方がおかしいと言える。

いや、まだあのベヒモスが設置型でないと決まったわけではない。

仕様書と日記、いや二冊の封印日誌に書かれていたことや、ベヒモスに触れた際に流れこんできた情報がすべて欺瞞で、ベヒモスはあの場所から一歩も動かせないただの置物である可能性も残っている。

実際に起動させてみなければ、本当に動くのかどうかわからないのだ。

別に動かしてみたくて仕方がないから、その言い訳をしているわけではない。

「──おお! こいつ、動くぞ! なんてね。

デカすぎて設置型と誤認されたとかそういうパターンかな。それとも時代が古いから特別枠とかになってるのかな。まあ何でもいいけど。

さて、まずはベヒモスがこのアダマスの壁をぶち破るだけの性能を持ってるかどうかだな」

***

オーラル王国南部にグライテンという街がある。

ユスティースは現在、大戦後の処理や国防上の理由からこの街に赴任していた。

基本的に長閑で平和な街だという話だったのだが、突然魔物やドラゴンに襲撃されたり、猟奇的な殺人事件が起きたりする変な街である。

ユスティースはふと、何か違和感を覚えて辺りを見渡した。

「──うん?」

「どしたの? 隊長」

「いや、何か聞こえたような気がして。地響きみたいな感じも……。そういえばこの大陸って地震とかってあるの?」

「地属性の魔法のこと? そりゃ地面が震えるやつはあるけど」

「天然のは無いんだ。じゃあさっきの何だろう」

「気のせいじゃないかな。それか誰かがどこかで魔法ぶっぱなしたか。そんなことより早くランチ行こうよ。ユッタさん、店長と結婚するらしくてさ。今幸せ割引きセール中なんだよね」

「何その殺意の湧くセール。食べまくって店潰してやろうかしら」