軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第412話 「退却可能な固定エンカウントボス」

ダンジョンが消えた。

その情報を初めて聞いた時は、これまで数々の異常な光景をその目に収めてきた丈夫ではがれにくいも、さすがに耳を疑った。

あわてて最寄りの転移装置で確認してみれば、たしかに転移先リストからハーフェン大森林の名が消えている。

ダンジョンが突然増えたことはあっても、ダンジョンが突然消えたことなどこれまで無かった。

事態を目にしたというプレイヤーの話では、どうやらやったのはマグナメルム・セプテムらしい。

お優しくも事前に注意喚起をしてくれたようなのだが、それを聞こうとしなかった反マグナメルム過激派のプレイヤーたちは避難しようとはせず、ダンジョンと運命を共にしたようだ。

ダンジョン、元ダンジョンへの直接転移は出来なくなってしまったが、幸いフェリチタからもケルコスからもアクセスの難しくない場所だ。

丈夫ではがれにくいたちはそれらの街へ移動し、そこから徒歩で現地へ向かい、目撃者から話を聞いた。

「──よくわかった。ありがとう。それで君たちは、ファンクラブに入りたいんだっけ?」

「ああ。スレで聞いたところじゃ、丈夫ではがれにくい……さん? とアラフブキさんってプレイヤーに話を通せってことだったから」

コトノハと名乗ったスカウト職の女プレイヤーがそう答えた。

彼女と他に2人、ファンクラブ加入希望の彼らがダンジョン消失の目撃者であり、生き残りだ。別に死んだプレイヤーが消えてなくなったわけではないため、生きていようが死んでいようが目撃者は目撃者だが。

コトノハたちは顔を隠して人ごみに紛れ、その目で直接セプテムの姿を見たらしい。

オクトーによく似た風貌で、そしてオクトー以上の存在感を放つセプテムから語られた「逃げた方がいい」という言葉に脊髄反射で従って、彼らは一目散に逃げ出した。

もともとダンジョンの入口、端の方にいた事もあり、ギリギリで被害を免れることができた。

爆風でかなり転がされてしまったようだが、それは丈夫ではがれにくいも覚えがある。親近感を覚えた。

「さん付けはいらないぜ。呼びにくいだろうし」

「それは助かる……けど、呼びにくいのは別にさん付けのせいじゃ」

「──おい丈はが! 見てみろ! よく見ると穴の底がなんか光ってるぞ! 金属光沢か?」

最近行動を共にすることが多いアラフブキだ。

一瞬誰を呼んだのかわからなかったが、この場にはセプテムを恐れてか他のプレイヤーやNPCは居なくなっている。おそらく自分が呼ばれたのだろう。

「お前の呼び方が一番わからんわ……どれどれ」

アラフブキの隣に立ち、穴を覗きこむ。

太陽が傾いていると底まで光が届かず、よく見えないのだろうが、真昼間なら底まで見える。

アラフブキの言う通り、確かに穴の底はつるつるとした質感で光を反射しているようだった。

穴に沿って何らかの液体が塗られているとかでなければ、金属光沢で間違いないだろう。

地層の一番底であり、かつ黒々とした色であるため、このように光ってくれなければ変化に気付く事はできない。

穴に落ちれば登ってくるのも容易ではないし、下まで降りたプレイヤーはいないだろう。NPCではこの場所に寄りつく者さえいない。

となると、これを発見したのは丈夫ではがれにくいたちが最初かもしれない。

「確かに金属だな……。黒い金属か。ウェインやギルたちの鎧に使われてるやつと同じかな? 確かアダマスとかいう」

「それってクソ硬いって話のあれか! じゃああの地層はその採掘用とかなのかな。降りて採掘出来ればかなりの儲けが期待できるんじゃないか?」

「うーん……。穴を開けたのがセプテム様だとしても、あれほど綺麗に光ってるんなら、鉱石とかじゃなくてきちんと精錬された状態なんだろう。だったら地層として存在してたってよりは、誰かがこの場所に埋めておいたって方がありそうだけどな」

「……そういえば、セプテムはオクトーが何か面白い物を見つけたから、それを掘り出すために地上を吹き飛ばす、とか言ってたような」

「様をつけろよ盗賊女」

「あっごめんなさ──って、盗賊女って何さ。あたしはスカウトだよ。斥候職を総じて盗賊呼ばわりするのは旧世代の悪習だよ。職業差別だ」

「そうだぞアラフブキ。すまんねコトノハさん。どうにも口が悪くて」

別に誰を信奉しようが個人の自由だ。

ファンクラブと言っても、セプテム派もいればオクトー派もノウェム派もいる。

人類の敵を崇めるという性質上、人数もそれほど多くない事もあり、仲間内での争いは歓迎できない。

丈夫ではがれにくいはファンクラブの中心ということもあり、マグナメルムの全メンバーに様付けをするよう心がけている。アラフブキもそうなのだが、それを他人に強要するのはよくない。

「しかし、そうだとすればあのアダマスっぽい超巨大な何かがオクトー様の発見した面白いもの、というわけか。

ここにはセプテム様とオクトー様、それにノウェム様の全員で来たんだったよな?」

「ああ。それと長身の緑ローブとちっちゃい茶色ローブもいたみたいだけど……。角度的に見えたプレイヤーもいれば見えなかったプレイヤーもいるから、そこはあんまりはっきりしてない」

「他にもマグナメルムメンバーが居るのか……。暫定で緑、茶色か。10番と11番ならデケムとウーンデキムとかか?」

「詳しいなアラフブキ!」

「ったりめえだろ。つっても別に知ってたわけじゃないが。もしかしたらと思って調べといたんだよ」

お前もしっかりしろ、と言われてしまった。

アラフブキは口は悪いが根は真面目な男だ。こういう奴は付き合ってみると面白い。

「しかし、今は誰の姿も見えないな。目的があって吹き飛ばしたんだったら、そのままにしてどこかへ行ってしまうというのも考えにくいんだけど……」

調べてみたいが、降りたら上がって来られなさそうな事を考えるとためらわれる。

イベント期間中なら死亡しても大したデメリットもないが、そうでないなら迂闊な行動は避けなければならない。

戦闘やダンジョンアタックと違い、命を賭しても経験値が得られるとは限らないからだ。失うだけで終わってしまう。

穴の縁で雁首そろえて悶々としていたところ、やがて太陽が中天に昇る時間になった。

穴の底も全てが照らし出され、底の方だけが光沢によって反射される様子は、見る者にまるで水が貯まっているかのように錯覚させる。

すると丈夫ではがれにくいの強化された視覚がそこに一ヶ所、沁みのようなものを見つけた。

「……あれ、何だ? 穴……が開いてる? 穴の底にさらに穴が開いてるのか?」

さらに良く見ようと身を乗り出した瞬間。

「──丈はが! 上だ! セプテム様が!」

声をかけられたからというより、セプテムという単語に反応して反射的に上を見上げる。

それと同時に丈夫ではがれにくいの視界を影が覆った。

太陽を背にして巨大な何かが宙に浮いている。

細長いシルエットだが、それでもプレイヤーたちを太陽から覆い隠すには十分なほど大きい。

見覚えのある姿だ。

これは双頭の竜。セプテムのペットだ。

以前に旧天空城周辺でキルされた時よりもさらに大きく、シャープな姿になり、色も変化しているようだが間違いない。

ペアレ王都でセプテムに会えた幸運な者たちが見たと言っていた姿とも一致している。

これはもしや再びセプテムの姿を目に出来るチャンスだろうか、と思いきや、残念ながら双頭竜の背中には誰も乗っていないようだ。

アラフブキは双頭竜の姿とコトノハたちの話からついセプテムの名を出したようだが、実際にいたのは双頭竜だけだった。

それがわかるということは、背中に誰も居ないのが見えたということは、つまり双頭竜は丈夫ではがれにくいたちの視線と同じ高さにいるということであり、穴に降りてきたということである。

端的に言うと、目が合った。

「──あっ。その、お久しぶりです……」

「い、言ってる場合かバカ! セプテム様がいねえんだったらここにいてもしょうがねえだろ! 逃げるぞ──」

アラフブキに手を引かれ、穴の縁から強制的に遠ざかっていく。

コトノハたちはとうに逃げ去っているようだ。

以前に見た時の事を思えば、そしてグライテンという街が襲われた時の話からすれば、この状態の丈夫ではがれにくいや、少し離れた位置にいるコトノハたちを纏めてキルするのは双頭竜にとっては造作もないはずだ。

しかし双頭竜はそうした行動を見せなかった。様子を見ているというか、アラフブキが口にした「セプテム様」という言葉が気になっているように見える。彼がそう言った瞬間、双頭竜の片方の頭部がわずかにアラフブキの方を向いた気がした。

セプテム様という単語に反応して攻撃を躊躇した、ということだろうか。

だとしたらそれは何を意味するのか。

もしかするとこの双頭竜は、主人であるセプテムに様を付けて呼んだ自分たちに少なからず興味を抱いているのかも知れない。

だから殺さず、様子を見るに留めた。

となると、積極的に敵対行動をとるような真似をしなければ、彼らとコミュニケーションをとる事も可能かもしれない。

セプテムたち自身も、大戦を起こした事はともかく、それ以外では基本的に防衛と反撃以外の目的で人類を攻撃するような行動はとらなかった。

いや大戦を引き起こした件にしても、もしかしたら何かに対する反撃であるという可能性はあり得なくもない。

魚心あれば水心、という古い言葉もある。

こちらが敵意を見せずに接触する事が出来れば、あるいは友好関係を結べるかもしれない。

イベントまとめスレでは、ハウストがマグナメルムを便宜上国家に類する勢力として扱った場合というような話をしていた。

であれば仮に友好関係を結ぶとしたら、こちらもそれなりの、国家規模の組織を構築する必要がある。

どうやら見えてきたようだ。

この先、マグナメルムファンクラブが進むべき道筋が。

親マグナメルムを国是とする国家を樹立し、彼女たちを崇め、魔物と手を取り合う未来を模索する。

成功すればファンクラブとしてマグナメルムにより近づく事ができるし、それで大陸に平和が訪れるのなら、先の大戦でいくつもの国家が滅んだ一因を担ってしまったプレイヤーとして贖罪にもなるだろう。

一石二鳥の素晴らしいアイデアだ。

そのためにはマグナメルムに負の印象を与えるわけにはいかない。

本人たちがいないのだとしても、ここにこうしてペットが現れたという事は、この地は人間に立ち入って欲しくないのだろう。

相手の嫌がる事はしないというのは対人関係の基本だ。

今後の事を考えれば、彼らの心証を損ねるような真似は慎むべきだろう。

これまでの発言から、セプテムやオクトー、ノウェムはプレイヤーの特殊性についてよく知っているような節が見られる。

最近はプレイヤーに対して、自分たちと同じように色々な考えの者がいると思ってくれるNPCも増えてきたが、マグナメルムもそうだとは限らない。

一緒くたにされている可能性もあるし、ファンクラブを公称している丈夫ではがれにくいたちの話を一般プレイヤーたちがどこまで聞いてくれるかは不明ながら、一応はこの地にはなるべく近寄らないよう注意喚起をしておく方がいいだろう。