軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第381話 「非同期対戦サービス稼働テスト」

レア以外の他のメンバーが何を願ったのかはわからない。

わからないが、あの恐ろしい者たちの事だ。どうせ碌なものではないだろう。

それに比べ、バンブがねだった報酬など可愛いものだ。

バンブが運営に対して要求したのは「死ぬことがない練習相手」だった。スパーリングが出来る相手、自律行動する人形である。

バンブはこれまでの自分の戦績を考えた。

序盤以外の大抵は余裕の勝利だったが、能力値的には自分が勝っていたはずのマーレ──レアには土をつけられた。

そして先日のイベント、水晶姫とかいう妙な女だ。

結果的にはほぼノーダメージでの勝利だったが、もし能力値が拮抗していたとしたらどうだったろうか。

それでも勝った、と断言するほどの自信はない。

最初の一撃がバンブの防御力を貫いていれば、そこから崩されていただろう。

これまでバンブは、自身のプレイヤースキルに相当な自信を持っていた。

たとえ戦闘や格闘技のプロフェッショナルが相手であっても、それなりに結果を残せると信じていた。

そしてほとんどの場合、それは正しかった。

やはり自分自身の肉体ではないというのがプロにとっては大きなハンデとなるのだろう。

そう思っていた。

しかし自分自身の肉体どころか、自分で作成したアバターでもない状態のレアには、バンブの力は通用しなかった。

これについて当の本人は「常に万全な状態で戦えるわけじゃないでしょ。スポーツじゃあるまいし」などと言っていた。じゃあお前は一体何なんだと言いたいところだったが、正論ではある。少なくともゲームの中では。

うわさ話やおとぎ話でもなく、実際に目の前にそれを体現している人間がいるのであれば、バンブにも出来ない道理はない。

そしてそれを可能にするためには、やはり練習しかない。

つまり練習試合、模擬戦だ。

バンブが練習相手を望んだのはそういう理由からだった。

ダメ元で言ってみた部分もあったのだが、その要求に対し運営が応えたのがこれである。

この人形は、相互フレンドに設定してあるプレイヤーの情報を読み取り、そのプレイヤーの現在のステータスをそのまま反映させ、模擬戦闘をする事が出来る。

所有者にしか起動できず、起動した者としか戦う事が出来ないが、こちらの攻撃によるダメージは全て無効になる。一応LPは減るようだが、ゼロになっても死亡する事はないし、破壊される事もない。

そして相手の攻撃によるダメージは一切発生しないため、起動者が死亡する事もない。ただしダメージが発生していたとしたらどの程度なのかは数値で表示されるらしく、計算上起動者が致死ダメージを受けたと判定されると模擬戦は終了となる。

今後、実装を予定しているアイテムだということで、このアイテムは現段階では試作品扱いだ。

バンブに与えられたのも、ゲーム内αテストの意味合いが強い。

そのためか、この人形に関する一切については他言無用の誓約書に同意させられている。

しかしこれが試作品なのも、他言無用なのも頷ける。

「──てか、言われなくても誰にも言えんだろこれは……。とくにあのねーちゃんにはよ……」

ノイシュロスの森、かつてレア扮するマーレと対峙したその広場。

バンブの前に立っている人形は、まさしくレアそのものの姿をしていた。

「これじゃまるで等身大フィギュアじゃねえか……。もしかして俺は、踏み入れてはヤバい領域に足を……?」

バンブはそのような事はしないし考えも浮かばないが、実在のプレイヤーとまったく同じ姿の人形を作り出せるとなれば、よからぬ事を考える者も出てくるだろう。

正式実装の際にはこのあたりの問題は何とかしておくべきだ。例えば顔などは元のデッサン人形のままにしておくとか、同一種族のデフォルト顔からランダムにピックアップする仕様にするとか。

これは忘れることなく報告書にしたためておく必要がある。

「あとは、こっちから攻撃しないと戦闘が始まらん仕様もちょっと問題かもな。いつも先制取れるとは限らんし」

そういう名目ではあるが、バンブの心情的には全く逆である。

以前レアと戦った時には、カウンターでずいぶんと高く投げ飛ばされたものだ。そんな技を持っている相手に対し、先制攻撃を仕掛ける気にはなれない。

しかし、攻撃しなければ戦闘が始まらないというのなら仕方がない。

目の前の人形はすでにデータとしてはレアと同じになっているはずだ。バンブの『真眼』にも本物同様LPがブレて見えている。

人形にもこうしてコピーされているということは、あの妙なLP表示はやはりバグの類ではないらしい。

そういう得体のしれない部分も含め、本物のレアにしか見えない。

「人形相手に、ただ向かい合ってるだけで緊張してくるな……。だが、こうしていてもはじまらん。行くか──」

意識を切り替え、レア人形を睨む。

ただ立っているだけであるにもかかわらず、隙がないように感じられる。

実際にはまだ戦闘には入っていないはずなので、本当にただ立っているだけのはずだが、それでもこのプレッシャーだ。

いきなり勝てるとは思っていない。

しかしいかに相手が強大であっても、訓練を続けていけば、いつか一撃くらいは入れられるようになるはずだ。

あの水晶姫というプレイヤーがバンブにそうしたように。

その奇跡を、バンブも訓練によって得るのだ。

それでダメージが入るかどうかは別の問題だが、しかしまずは一撃、入れることさえできなければ何も始まらない。

「──よし、『縮地』」

覚悟を決め、スキルを発動する。

視界が切り替わり、レア人形の側面に出た。

「もらっ──」

そう思った瞬間、レア人形と目が合っているのを認識した。

いつの間にかこちらを見ている。

そしてその小さな口が何かをつぶやく。

「──『解放:巨体』」

「ぶべっ!?」

バンブの目には、青空が広がっていた。

どうやら仰向けに倒れたらしい。

起き上がると、さっきの場所にデッサン人形に戻った人形が佇んでいる。

つまり戦闘が終了したという事であり、バンブが致死ダメージ判定を受けたという事である。

この森にプレイヤーがもしアタックしていれば今のを見られてしまったかもしれないが、配下のホブゴブリンたちからはそういう報告は来ていない。仮にいたとしても、情けないがほとんど一瞬だったはずだ。あれが何かもわかるまい。

「……だめだなこれは。勝負にならん」

最低限、人間サイズで戦ってもらいたい。

この人形は未だ試作段階ということもあり、その戦闘パターンは搭載されている簡易AIが管理している。コピーした相手の行動をなぞったりなどといった機能は無く、ただひたすらに理論上最適な行動を選択して行なうよう設定されているらしい。

今のケースでは、巨大化して殴り飛ばすのが最も効率のいい攻撃だったという事だ。

「巨大化は禁止な……。って言ったところで、仕方ないが──」

〈ファジー検索実行。ワード「巨大化」に関する行動は行わないよう設定します。バトルを再開しますか?〉

「おお!?」

思った以上に柔軟な対応である。

特定のスキルを縛るような設定はフレンドとは言え相手のビルドを覗き見る行為に相当する可能性があるため、実装は無理だろうと考えていたが、こういった形で除外してくれるというならありがたい。

これなら、あらかじめそういう行動はとらないと設定するだけであり、実際に相手がその行動が可能かどうかは知るすべがない。

今回に限ってはすでに嫌というほどわかっているが。

「よし、じゃあ再開だ。行くぞ、『縮地』──」

「『 致死(レタリス) 』」

《抵抗に失敗しました》

「──はっ!?」

今度はうつぶせだ。懐かしい土の味がする。

人形の攻撃ではダメージを受けることはないが、ダメージ相応の衝撃などは受ける事になる。そうでなければ格闘戦など出来ないからだ。

今のはおそらく、即死魔法だろう。

確かそんなスキルを解放したとか言っていた気がする。

そして即死魔法を受けた事で死亡判定になり、実際には死なないものの、疑似的な死亡状態として強制的に倒れさせられたのだろう。

「……即死攻撃も禁止、と」

〈ワード「即死」に関する行動は行わないよう設定します。バトルを再開しますか?〉

「うし、これで開幕死亡は避けられるはずだ。今度こそは」

改めて構えを取る。

今度はいきなり突っ込んだりはしない。

考えてみれば、格上相手に至近距離で戦うなど自殺行為だった。

まずは様子を見て、どう戦うのが最適なのかを見極めるべきだ。

「……つっても、俺から攻撃しねえと戦闘は始まらないんだよな。やっぱこの仕様だけは何とか修正してもらった方がいいな。えーと、『ブレイズランス』」

バンブの放った魔法はしかし、レア人形に当たる直前に爆発して消えた。

人形にダメージがあったようには思えない。まるで見えない壁にぶつかったかのようだ。

いや、『真眼』を凝らしてよく見れば、ブレている謎のLP部分がわずかに損傷しているようにも見える。

「……なんだ、これは。パッシブでバリアでも張ってんのか? ダメージが入るって事は、あのバリアも割れたりすんのか? ロボットアニメの要塞か何かかこいつは……」

そしてその攻撃で戦闘開始のスイッチが入ったらしい人形は、まるで誰かを迎え入れるかのように軽く両手を広げ、魔法を発動した。

「っと、なんか来やがるな……。だが、即死攻撃でなきゃあ、ちったあ訓練に──」

「──『ダーク・インプロージョン』『ホーリー・エクスプロージョン』」

人形が2つの発動ワードを流れるように立て続けに言い放った。

しかし確かに発動させたはずのその魔法は、それぞれ光と闇を人形の右手と左手に集束させたまま、何も起こらない。

「え、なんだこれ。見たことない現象なんだが大丈──」

「──事象融合『カオス・アナイアレイション』」

「……これは一体、何を禁止すりゃいいのか……」

今のはおそらく、以前にどこかのSNSで話題になっていた複合魔法とかいう技術だろう。

どうやら正式には事象融合と呼ぶようだが、とりあえず名前などどうでもいい。

問題なのは、そのエネルギーの奔流に触れた瞬間、戦闘終了判定を受けた事だ。

つまり現在のバンブのステータスを持ってしても、一瞬で死亡させられたということである。これでは即死攻撃と変わらない。

「しかし複合魔法か。存在するかもわからんつーのに、いつの間にしっかり研究して、やがっ……」

本当にそうだろうか。

こんな強力な手札があるのなら、これまでにもどこかで使っていてもおかしくない気がする。

事実、『ホーリー・エクスプロージョン』はマーレ越しにだがバンブも受けた事があるし、『ダーク・インプロージョン』は時々使っているような事を聞いたことがある。

確かにレアの手札をすべて知っているとは思わないし、レアの性格上、すべてを話しているとも思えない。

しかしあの話したがりのレアのことだ。この『カオス・アナイアレイション』とやらの存在こそ言わないにしても、事象融合とかいう技術を発見したくらいのことなら、ぽろりと言っていてもおかしくないように思える。

「……これがいわゆるスキルじゃなくて、単にプレイングってか、技術的な問題だったとしたら」

実際に必要なスキルとしては『ダーク・インプロージョン』と『ホーリー・エクスプロージョン』だけであり、それらを技術的に組み合わせることで発動する特殊な現象なのだとしたら。

最適な行動をとる設定のAIが組み込まれた人形が、レアの戦闘パターンとはまったく関係なく発動したとしてもおかしくない。

これが試作品であることも考慮するとなおさらだ。プレイヤー本人ではやらないような行動でも関係なくやるだろう。

もし、レア自身もまだ気付いていない、新しい戦闘技術なのだとしたら、これは是非とも伝えてやりたい。

世話になっているという自覚はある。そして未だ、それに対して報いていないのではという気持ちもある。

これをもしまだ本人が知らないのであれば、恩を返すにはちょうどいい。

しかしすでに本人も知っている技術である可能性もある。

今の考えがすべてバンブの気のせいで、もしかしたらレアはバンブの知らないところで今の恐ろしい魔法をバンバン撃ちまくっているのかもしれない。

「いやそれはねえな。だったらとっくに大陸の形が変わってるわ」

見た目のエフェクトだけで実際のダメージは発生しないため、今の攻撃ではただ突然バンブが倒れただけだが、あれほどの威力である。実際に放たれていたとしたら、広場やその脇のログハウスはおろか、森ごと消し飛んでいても不思議はない。

どちらにしろ本人に聞いてみればはっきりする。

するが、聞くわけにはいかない。

どこで知ったのかと聞かれれば、この報酬について明かさなければならなくなる。

しかしバンブは誓約により、この人形については他言出来ない。

いや、仮に誓約がなかったとしても、言えるはずがない。

──あんたそっくりの等身大の人形で遊んでました、なんざ。

「……しゃあないな。そういうワザがある、ってことはわかったんだ」

あの組み合わせでしかできない、とは考えづらい。『神聖』と『暗黒』以外の組み合わせも必ずあるはずだ。

この人形について明かせないのであれば、そういう技が存在する事を こ(・) れ(・) か(・) ら(・) バ(・) ン(・) ブ(・) が(・) 発(・) 見(・) し(・) 、それを伝えるしかない。

「……惜しいが、しばらく模擬戦はお預けだな──あ、その前に」

現在の人形の仕様では、手間さえかければ相手の手札をすべて明らかにする事も出来てしまう。今バンブがやっていたように、やられた行動をひとつひとつ縛っていくだけである。

しかしたとえ相互フレンドと言えど、多くのプレイヤーはそれを容認できないはずだ。

──正式なダミー人形実装時には、フレンドが使用する場合の自分のアバターの性能について、公開可能な情報とそうでない情報を個別に設定できるようにした方がいい。

そう報告書にしたためて送信し、人形はインベントリに仕舞った。

残念だが今の修正が反映されるまでは封印だ。勝手にやっておいて何だが、これ以上レアの能力を覗き見るべきではない。

これを本人──この場合はレア──に知らせずに適用するのは事実上不可能であるため、人形を再び使えるようになるのはいつになることか。