軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第371話 「憤怒と悲嘆」

「へえ。ここがヒルス王城か。オーラルの王城にちょっと似てるな。薄暗いけど」

「文句があるなら帰りなよ」

「連れないこと言わないでよ。ケーキ持ってきたからさ」

『飛翔』して単独でやってきたライラをバルコニーから招き入れた。

城内にはすでに他のメンバーは集まっている。

バンブと教授はもう来ている。彼らは飛行できないため、ユーベルを迎えに行かせてあった。移動に時間がかかる事が予想されたので、彼らだけは早めの集合に設定してあった。

ブランは霧に姿を変えて、すでに会場に現れているとメイドレヴナントから報告を受けている。

同行しているライストリュゴネス──もう上級吸血鬼になっているらしいが、その彼女たちも一緒だ。一日に一度しか霧になれないというのに、格好つけてブランと共に参上したらしい。

報告してきたメイドレヴナントは他にも何か言いたげな様子だったが、ちょうどライラからも到着したとの連絡があり、急いでいたのでスルーした。

今回は人数が多いため、会場には会議室か何かだったと思われる部屋を準備してある。

会議室にしては椅子だけで机がない妙な部屋だったが、お茶会のようなスタイルにするのであればかえって好都合だ。

小さめのテーブルをいくつも運び入れ、数人ごとに会話ができるよう設営した。

会議室へ案内しながらライラにそんな雑談を振った。

「じゃ、あれか。結婚式場とかみたいな感じかな」

「結婚式とか出たことあるの?」

「……まあ、そりゃ、私も大人だし? 付き合いとかも、あー、あるし?」

煮え切らない反応が返ってきた。出たことがあるとは言っていない。

ライラがこういう反応を返すときはたいていは何か知らないことを聞かれたときだ。

さも結婚式場を見たことあるように言ったのはハッタリである可能性が高い。

それはともかく、ヒルス王城とオーラル王城の雰囲気が似ているというのは、レアも感じたことがある。

おそらくだが建築された時代が近いからだろう。

種族や文化を考えれば、ヒルス王城、オーラル王城、ウェルス王城は似たデザインや作りになっていてもおかしくない。

また城の内部が薄暗いのはここで働くメインスタッフのためだ。

この城には基本的にアンデッドしかいないため、陽の光は都合が悪い。

窓のほとんどには嵌め殺しの鉄の雨戸を取り付け、余計な光は最小限にしてある。

廊下などは燭台を持っていなければ歩くのもおぼつかないほどだ。

今回使用する会議室についてはリフレで購入した魔法照明を多数取り付けてあるため、反省会には影響はない。

魔法による照明はアンデッドに対するデメリット効果が小さいらしく、低位の耐性でも完全に防御できる。

「──おまたせしたようで申し訳ない。

お詫びというわけではないが、お茶請けを用意してある。遠慮なくつまんでくれたまえ」

「何偉そうにしてるの。ライラの城じゃないでしょ」

会議室に入るなりインベントリから取り出したケーキを配り始めるライラを窘めた。

部屋にはいつもの顔ぶれに加え、今回はレアの主だった配下たちも集まっている。

今回のイベントの顛末、そして今後の動きを話し合うためだ。

特にディアスとジークには、真っ先に報告を聞かせてやりたかった。

レアたちが何をしようとしているかはわかっていたはずだが、それでも何も言わずただじっとこの城で待っていてくれたのだ。その想いに報いてやりたい。

「さて。では全員集まったようだし、今回のイベントの報告会兼反省会を執り行うとしよう。

形式としてはいつものお茶会と同様だが、故あって今回はわたしの配下も同席させてもらっている。理由は後で話すよ」

ホストとして挨拶を兼ねた宣言をすると、参加者がみなレアに注目した。

ブランだけはこちらを見ないですでにケーキを頬張っていたが、気にしないことにし──ようとしたが無理だった。

ケーキを頬張るブランの顔は墨のようなもので真っ黒に塗りつぶされていたからだ。

よく見れば傍に控えるアザレアたちの顔も同じように墨が塗られている。

ここで初めて気づいたが、少し離れたテーブルで目を閉じて座るバンブの肩がわずかに震えていた。

笑いをこらえているのだろう。真面目な彼らしい。

では自由で不躾な教授はなぜ静かにしているのだろうと見てみれば、こちらは笑い疲れて突っ伏していた。

ここでようやくライラも気づいたようで、ブランたちを指差して笑い出した。

「あははははは! なにそれブランちゃんたち! どうしたの!?」

するとブランはケーキを刺したフォークを置き、神妙な顔で話し始めた。

「やはり、気づかれてしまったようですね……」

ここで耐えきれず、バンブも吹いた。

「ぶっは! 気づくに決まってるだろ! 周りにどんだけのスルースキルを期待してんだよ! あとさっきからタヌキが笑い転げてたのは何だと思ってたんだ!」

しかしブランはバンブを無視し、話を続ける。この様子では疲れるまで笑ったらしい教授も無視していたのかもしれない。

「──話せば長くなります。これには海よりも深く、山よりも高い理由があるのです」

「海、というものは見たことがないのでわかりませんが」

そこにアザレアたちが口を挟む。

「そこまで深い理由はありません」

「それと、山より高いという形容詞がこの場合正しいのかどうか……」

彼女たちの話をまとめると、こういうことだった。

イベント終了後、ブランは一旦エルンタールに戻った。

シェイプ王都はまだ治安が回復しておらず、商会の本店は無事だとしても、街全体は騒がしくて落ち着けないというのが理由だそうだ。

エルンタールに戻ったブランは、イベントで得た経験値をアザレアたちやバーガンディ、それに吸血鬼たちに振り分ける作業に手を付けた。

自身の強化も含めたそれらの作業を終え、このお茶会までの時間が空いてしまったブランは、『変身』スキルの検証を行なうことにした。

最初の方こそ真面目に検証をしていたブランだったが、次第に飽きてきた。

そこで『変身』した状態で化粧などをしていた場合どうなるのか、あるいはその逆は、など、実用性に欠ける検証へと興味が移っていったらしい。

折しもそこへ、ヴァイスが帰宅した。

ヴァイスの目に映ったのは、地獄のような光景だった。

自分と同じ顔をしたモノが、女の格好をして派手な化粧をしている。

そこに居たのはヴァイスに『変身』し、女装して遊んでいるブランだった。

ヴァイスは激怒した。

そして不敬にも主であるブランを指差して笑うアザレアたちを見て、その思いは更に燃え上がった。

幸か不幸か、検証によって『変身』や『霧散化』では化粧は取れない事が判明していたこともあり、罰として丸一日をこの顔で過ごす事を申し付けられた、という訳らしい。

「──思った以上にどうでもよかった」

深くもなければ高くもない理由だ。

しかしライラははしたなく腹を抱えて笑っているし、バンブも肩を震わせている。教授に至っては呼吸困難に陥っている。

レアの配下たちも笑っていいのかどうなのか困ったような顔を浮かべていた。

反省会の前に空気を和ませるという意味では、これはこれでよかったのかもしれない。

とりあえず皆が落ち着くのを待ち、反省会を始めることにした。

「さて、ではまずは今回のイベントの概要だな。

知っている者もいると思うが、事の起こりは──」

話の途中何度か、ディアスとジークが目頭を押さえていたのは見えていた。

親にも等しい元主君の仇。

それ自体はもうどこにも存在しない。

いるとしても、その血を引く者たちだけだ。

そうした者たちについて、ディアスたちがどのような感情を抱いていたのか。

仇本人はすでに亡く、その子孫には罪は無い。

だが例えそうだとしても、故精霊王の存在を、歴史を抹消し、あるいは歪曲し、あるいは利用し続けてきた各国王族に激しい怒りや嘆きがあるのは間違いない。

今回、彼らを留守番役に設定したのは、ターゲットに激しい感情を持つ彼らが暴走してしまう事を懸念したためだった。

作戦の目的のひとつには各国王族を唆し、災厄級種族へと至らせるというものがあった。

必然的に倒すべき敵は災厄級へと至る事になり、それだけ作戦の難易度も増す。

しかしディアスたち 不死者の王(イモータル・ルーラー) は、災厄級の中でもかなりつつましい性能をしている。

聖王や精霊王が邪王や魔王に並ぶ存在だとすれば、これに対抗するのは難しい。

ディアスたちが暴走した結果、国王たちを倒してしまうのであれば別に構わない。その後の討伐フラグも彼らに任せるだけの話なのだが、逆に倒されてしまうのはよくない。実利的なデメリットはないが、彼らのフラストレーションはより高まってしまうだろう。

この判断が良かったのか悪かったのか、人生経験の浅いレアにはわからなかった。

しかし討伐フラグ回収を兼ね、すべての王をその手で葬ったレアが、彼らの最期を直接語って聞かせることで、少しでもその魂を慰めることになればと思った。

その想いが『使役』のバイパスを通じ、ディアスやジークに伝わったのか、彼らは涙を流しながら報告を聞いたのだった。

ちなみに関係ないヴィネアも何故か釣られて泣いており、それを見たライラがもの凄く色々聞きたげな顔をしていたがスルーした。