軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第352話 「聖戦勃発」

ウェルス王都に攻め上がった「聖女の旗の下に」のメンバーたちは、味方の数を頼みに城壁の外をぐるりと固めていた。

国中から集まってきた賛同者たちを加えた神聖アマーリエ帝国軍は、数だけで言えばすでに王都の正規軍を遥かに超えている。

ただ現在はその戦列の中に民間人も多く混じっており、騎士にしても戦闘経験が少ない者たちばかりで、実際に戦力として数えられるかどうかは微妙なところだ。

やはり言い出しっぺであるビームちゃんたちプレイヤーが奮闘するしかない。

と言っても、あまり無茶な事は出来ない。プレイヤーたちの力を結集すれば城門を破るのは難しくないが、それほどの火力をぶつけてしまえば街の中の民間人にまで被害が及んでしまうだろう。

何とか王都内部に残っているNPCの賛同者と連絡が取れれば、城門周辺に避難を促すなどの安全対策も取れるはずだ。

こんなことならプレイヤーのメンバーを何人か、王都に残しておけばよかったのだが、あいにくと王都にいた聖女の旗の下にのメンバーは誰も聖女と別れて行動したがらなかった。当然だが。

もしかしたら、明太リストやギノレガメッシュはまだ王都に残っているのかも知れないが、彼らに少しでも情報を与えてしまえば、それは瞬く間にいたるところに広がってしまうだろう。

住民を避難させたいという情報はこちらの襲撃のタイミングを正規軍に教えることにつながるし、出来れば決行直前までは気付かれたくない。

幸い、聖教会の総主教だという老人が、自身の知り合いを通じて壁の向こうと連絡を取れないか模索してくれるという。

完全封鎖されている現状でどうやるのかは不明だが、とにかく今はそれを待つしかない。

そんな状況が大きく変わったのは、王都を包囲した翌日の事だ。

突如として、王都の正門が開かれた。

聖教会の総主教ともなれば、その知り合いは王都の開門さえ自在にできるのだろうか。

いや、そんなわけはなかった。

門を開け、中から溢れ出して来たのは正規軍の騎士たちだ。

しかもこれは、武勇においてウェルス王国に並ぶ者なしと謳われる第2王子フェルディナン率いる近衛騎士団である。

彼らの実力はよく知っている。

聖女の為にと、この王都を数度に渡って襲撃した魔物たちの軍勢と戦った時、彼らの登場に助けられた事は記憶に新しい。

ビームちゃんは覚悟を決め、叫んだ。

「──逃げろ! いきなりやべえのが出てきた! プレイヤーと騎士たちは命がけで足止めだ! とにかく一般の協力者たちを──」

「あ! 帰ったかハセラ!」

「うん……。粘れるだけ粘ったけど、どれだけ助けられたかはわかんないな。

聖女たんはまだ頑張って下さってたから、たぶんあれ以上は死んでないと思うけど……」

神聖アマーリエ帝国軍は慌てて王都の包囲を解き、グロースムントまで逃げ帰った。

しかし包囲していた者たちの大半は、軍事的な訓練を受けた事もない市民たちだ。

ただ逃げると言っても、スムーズに出来るわけではない。

そこでプレイヤーや味方の騎士たちが王子や敵の近衛騎士を抑え、時間を作って市民を逃がしたのだ。

何人ものプレイヤーたちがリスポーンを繰り返したが、それでも市民の全てを逃がしてやることはできなかった。

やがてプレイヤーたちもリスポーンしなくなった。

戦場が野営地にまで及んだのだ。

これ以降、死亡したプレイヤーはグロースムントまで戻される事になる。

こうなると、もはやプレイヤーを再利用可能な戦力として計算する事は出来ない。

元野営地付近を最前線とし、生き残ったメンバーで奮闘するしかない。

損耗を最小限に抑える事を考えるなら、帝国軍で最強の戦力を 殿(しんがり) に 充(あ) て、そこを限界点として敵の攻撃を押しとどめるというのが最も合理的だ。

そう提案したのは他ならぬ最強戦力、聖女その人だった。

本来であれば最も取るべきでない戦略だ。

敵にとって最重要の戦略目標がのこのこ最前線で踏ん張っているという状況である。

しかしだからこそ、他の部隊の退却の助けになるはずだと強硬に主張され、ビームちゃんたちも泣く泣く同意した。

しかしそのおかげで、残った市民たちはなんとか退却する事が出来た、はずだ。

ビームちゃんたちはこの頃すでに死亡し、このグロースムントでリスポーンしていたためわからない。

ハセラは戦闘力自体はそれほど高くはないが、耐久性に特化したビルドをしている。とにかくしぶといのだ。

そのため聖女と共に殿を務め、最後まで戦っていた。

今この地で復活したということは結局は死亡してしまったのだろうが、これだけ時間を稼げば市民の足でも逃げられるだろう。

もうそろそろ、グロースムントに到着し始めるかも知れない。

「聖女様は無事かな……」

「……大丈夫、だと思う。戦ってた感じ、あの近衛たちの攻撃力じゃ聖女たんの防御は抜けないと思う。その前に当たってなかったけど」

本来守るべき聖女を殿につかせ、脱落してしまうとは情けない限りである。

しかし前述の通り、この陣営で最も戦闘力が高いのは聖女だ。

その戦闘力は、もうあの人ひとりでいいんじゃないかなと思えるほど高い。

「──生き残りの市民も戻ってきたよ! 聖女様もご無事だ!」

街の外まで様子を見に行っていたもんもんだ。

帰還を伝えに来てくれたらしい。

「よかった……!」

「じゃあ、お迎えに」

「いや、もうじきにこちらまでお出でになる。出迎えは不要だって言われちゃったよ」

聖女は高い地位についているにも関わらず、非常に合理的な事を好む傾向にある。

そうした部分も、人々を惹きつけて止まない魅力のひとつと言えるのだが、あまり世話をさせてくれないという意味では少々寂しい。

「じゃあ、その、一応反省会というか、今後の事を話そうか……」

ハセラの元気がない。

目の前で何人ものNPCが死亡したのだ。無理もない。

しかもそのNPCたちは聖女を、そしてハセラを信じて運動に参加したのである。

超級のアホに見えて意外と繊細なハセラにとって、これほど辛い事もないだろう。

「──おいしっかりしろよリーダー! しょげてる場合か!」

「そうだぜ! まだ革命は始まったばっかだ! 亡くなった人たちは残念だったが、彼らだって俺たちがここで落ち込むことなんて望んでなかったはずだ!」

「それに、俺たちはもう走り始めてるんだ。今さら止まれない。公式にもウェルス王国はもう存在してないし、いつまでもこのままってわけにはいかない」

ビームちゃんに続き、もんもんや、いつの間にか来ていたファームが次々にハセラに声をかけた。

「──その通りです。ここに至っては、たとえこちらが退いたとしても、彼らが私たちを許すことなどないでしょう。

ひとたび振り上げた拳は、覚悟を決めて最後まで振り抜くしかないのです。

少なくとも私は、その覚悟で立ち上がりました」

聖女が会話に加わった。

見たところ怪我などもない。法衣は血で汚れているが、すべて返り血らしい。御付きの女司祭に渡された布で身体を拭っている。

この御付きの司祭たちも聖女と共に戦場に出ていたが、聖女同様怪我などは無いようだ。彼女らが戦っているのを見るのは今回が初めてだったが、少なくともビームちゃんたちよりは戦闘力が高そうに見えた。

「私の友、ライリエネはツェツィーリア王女をよく支え、あの革命の日を戦い抜きました。あの姿に勇気をもらった人々はたくさんいます。私もそのひとりです。

今度は私が、私たちが勇気を示す時なのです。

さあハセラさん。戦いはこれからですよ」

「せ、聖女たん──。僕の名前……覚えて……」

「もちろんです。ビームちゃんさん、もんもんさん、ファームさん……。

私に手を貸してくださる皆さまのお名前は、ちゃんとこの胸に刻み込んであります」

「せ、聖女たんの胸、胸に僕の名前が……名前が胸に……」

「……よかった。リーダー立ち直ったみたいだ」

「……いや言うほど良かったかなこれ……」

作戦は、さらにその翌日から再開する事となった。

ただし、もうかさ増しのためだけに一般市民を連れて行くようなことはしない。

攻撃部隊はプレイヤーと地方騎士たちのみで構成され、市民はグロースムントで銃後の守りに徹している。

この街もまだ発展途上であるし、実のところ人手はいくらあっても足りないのだ。

建設や生産作業のうち、スキルが必要なものは聖教会が呼び寄せた専門家が行うが、それ以外の、労働力だけが必要な作業は一般市民でも十分に手伝える。

一般市民を除いたとしても、神聖アマーリエ帝国軍はまだ正規軍よりも多い。

相手の正規軍も王都を守る近衛や衛兵たちだけで構成されている。それ以外の騎士団は各地の鎮圧で手一杯で、こちらまで来ることはない。

以前の魔物の襲撃とは事情が違う。

今回は王都だけを守ればいいというわけではないのだ。戦火は国中に燻っている。

「総主教のおっさんの 伝手(つて) は、もう使えないんだよな」

「らしいな。まあ前回あんだけ騒いじまったからな。内通者ってのは使えたとしても一度きりだ。その一度をフイにしちまった以上、もう使えない」

であれば、多少の犠牲は出るかもしれないが、とにかく正門を破壊するしかない。

もっともそれも、布陣している近衛騎士団を突破できればの話だが。

王都周辺にはすでに近衛騎士団が陣を敷いている。

こちらがいつ攻めてくるのかはわからなかったはずだが、ご苦労なことだ。

「やる気満々だな……。でもまあ、こっちも引く訳にはいかん。

聖女たんの想いに報いるためにも、なんとしても王都を落とす!」

「別にリーダーだけに向けられてる想いじゃねえだろうけど、まあそうだな。

いいかお前ら! とにかく敵を突破して門を破壊することだけを考えるんだ! 敵は倒したところでそのうち復活するが、それはこっちもおんなじだ!

だが門は違う! 破壊しちまえば、すぐには直せねえ! だから門の破壊を優先するんだ!」

ビームちゃんの檄に、おう、と皆が応える。

士気は上々だ。

事前に調べたところでは、今の王都にはプレイヤーはほとんどいない。

聖女人気の高さもあってか、ウェルス王国側についたプレイヤーがいないことを示している。

そしてそれは奇しくも前回の襲撃失敗のときにも確認が取れている。

聖女の旗の下にのメンバーの中にはプレイヤーらしき相手と交戦したものはいなかった。

プレイヤーが戦争という稼ぎイベントで、積極的に前線に出てこないというのは考えにくい。先のないウェルス王国に付いているというならなおさらだ。

「行くぞ! 突撃ー!」

号令一下、正門目掛けて突撃を敢行した帝国軍だったが、当然ながらその手前で敵正規軍と激突することとなった。

野戦だ。

このケース自体は想定内である。

門を破壊されれば不利になることは相手もわかりきっているだろうし、死守するために手前の平原で戦端が開かれるのは当然だ。

この辺りは以前、あの魔物の軍勢がウェルスを守るプレイヤーや兵士たちと戦っていた場所である。

あのときビームちゃんは王都を背にして戦っていた。

そして今はその王都を落とすために戦っている。

あれからそれほど経っていないというのに、不思議なものだ。

地方領主の騎士たちは弱い。

もちろん一般市民と比べれば遥かに強いが、精鋭の近衛騎士団と比べては勝負にならない。

いかに数で優るといえど、この点は如何ともし難く、戦況は有利とは言えない。

しかしそんな近衛騎士よりも、プレイヤーのほうが更に上だ。

もちろん参加しているすべてのプレイヤーが近衛騎士より強いわけではないが、近衛騎士よりはるかに強いプレイヤーはたくさんいる。

ビームちゃんもそのひとりである。

「うおりゃあああ! 『アドバンスラッシュ』!」

ビームちゃんの握りしめた拳が敵の騎士を鎧ごと叩き潰し、かと思えばその隣の騎士を殴りつけ、そうやって徐々にその勢いを増しながら次々に被害者を増やしていく。

『アドバンスラッシュ』は本来、対象が倒れるまで何度も拳を叩きつける乱打系のスキルだ。対象が力尽きるか、発動者がキャンセルするか、あるいは発動者がノックバックなどでスキルの強制キャンセルを受けるまで止まることはない。

しかしこの「対象」というのが実は、それぞれのブローの直前に毎回判定が挟まれているらしい事が最近、検証により判明した。

つまりインパクトの直前、それまでとは違う相手を睨みつければ、そちらが新たな対象だと判定され、殴りモーションが終わった直後にそちらの方に殴りかかるのだ。

当初はアバターが長時間に渡り自動的に動く状態が気持ち悪いとされ、取得難易度の割に人気のないスキルと言われていたが、この仕様の発見により再評価がなされた。

今ではスキルひとつ分のコストで大きな効果を得られると、無手の格闘系のプレイヤーには欠かせないテクニックとなっていた。一撃の威力が低めのため時間あたりのダメージ効率は見た目ほど良くはないが、格下相手であれば疑似的な範囲攻撃として機能する。

ビームちゃんたち上位のプレイヤーはこうして、様々なスキルや小技を駆使し、近衛騎士を蹴散らしていく。しかし数人が突出したところで街への突入が出来るわけではない。

仮に敵陣を突破し、城壁に取りつくことができたとしても、ビームちゃんたちだけでは門を破壊する事までは出来ないだろう。

敵も当然さらなる抵抗をしてくるだろうし、門のような巨大な構造物を破壊するのは近接物理職では難しい。

しかしそうやって目立てば敵の注意を引く事も出来るし、その分他のメンバーへの圧力も減るはずだ。

いずれ遠距離から高火力を投射できるプレイヤーたちが門への射程圏内まで迫れれば、状況は一気に好転する。

がむしゃらに前進するのも無意味ではない。

敵兵を倒して得られる1時間というアドバンテージをいかに活用し、正門の破壊に漕ぎつけられるか。それが勝利の鍵になる。

「──クソ、厳しいなやっぱ。敵にゃプレイヤーはいないから、敵の数自体はかなり減らせてはいるが……。こっちのNPCの地方騎士たちはそれ以上に減らされちまってる」

誰が話しかけてきたのかと思えば、ファームだった。

戦っているうちに彼の近くまで来ていたらしい。あるいは彼の方から近付いてきたのかも知れない。この乱戦ではわからない。

「でもよ、こっちは多少やられたとしても、諦めなきゃ負けるこたないが、相手は門を破壊されたらかなり厳しくなる。攻撃側である俺たちはその分だけは有利だぜ」

この戦場には聖女も来ている事を考えると、最終的な勝利条件としては敵の方が有利とも言えるが、いかに戦力を集中させても聖女を倒すことが難しいのは敵も分かっているはずだ。

「まあそうなんだけどな。その門までが遠いのなんのって──あれ?」

「どした。──あれ?」

ファームの視線を追って正門に目をやれば、門の中心あたりが赤く光っている。というか、燃えている。

「なんだろなあれ……なん──おい伏せろ!」

ビームちゃんはとっさにファームの頭を抱え込み、地面に押し倒した。

その直後、王都の正門は轟音を立てて内側から吹き飛んだ。

ビームちゃんたちはまだ正門から距離があったため伏せるほどでもないところだったが、すぐ近くにいた敵近衛騎士たちの中には門の破片の直撃を受け、倒れたまま動かない者もいる。

お互いに死ぬことがないというルールの中での戦争だ。ゆえに正門の破壊は侵攻戦の第一段階における最重要目標だった。

突然それが達成されてしまった形になったが、その理由が分からない。

「なんで門が……。あ、おい、あれ見ろよ」

「……見てほしいならまずどけよ」

「おっとわりい」

ファームの上から退き、2人で立ち上がると、破壊された門を眺めた。

残骸の向こうにいくつかの人影が見える。

破片が外側に飛び散ったことからも、門の破壊はどうやら街の内側から行なわれたようだ。

そしてそれをしたのがあの人影だろう。

「……んー? 見たことあるなあいつら。プレイヤーだぞ」

「マジか。まだいたのかプレイヤー。──確かにどっかで見た顔だな。誰だっけ」

防衛目標の突然の崩壊に呆然としていた敵の騎士たちがようやく再起動し、ビームちゃんたち帝国軍などそっちのけで門を破壊した人物に殺到していく。

どうやら彼らは敵側ではないらしい。門を破壊したのだから当然ではあるが。

その騎士たちの猛攻をしのぎ、返す刀でひとりずつ確実にキルしていくその姿にはやはり見覚えがある。

「あ、あいつギノレガメッシュだ」

「あー。じゃああの魔法使いは明太リストか。いっしょにいるのがウェインかな。あいつらまだ王都にいたのか」

「てか、なんであいつらが門とか破壊してんの? 俺らの事止めたいとか騒いでなかったっけ」

よく見れば彼らの後ろには聖教会の法衣を来た人たちもいる。

さすがにウェインや明太リストだけでこの門を破壊出来るとは考えにくいし、都内に残っていた聖教会の人たちと連携して魔法を放ったのだろう。

どういうことなのか状況がまだつかめていないが、門が破壊され、そして味方も増えたというなら文句はない。

「まあいいや。よくわからんが、勢いで押し切ろう。

──皆! 我らの進撃を阻む壁は打ち砕かれたぞ! 敵は捨て置き、とにかく王都への侵入を優先するんだ!」