軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第349話 「残り、4つ」

聖女の首を縦に振らせたビームちゃんたちが最初にしたのは、大規模な、それでいて密かな移動だった。

突然王都で騒ぎを起こしてしまえば、巻きこまれた市民たちに無用な被害が出てしまうかもしれない。

そう聖女に諭されたからだ。

一般市民に被害を出したくないのであれば、決起は市民がいない場所で行なう必要がある。

幸か不幸か、ウェルス王都のすぐそばのグロースムントはつい先日、魔物の集団に襲われたばかりだ。

魔物たちはすでに去っているらしいことは確認が取れていたが、住んでいたグロースムント市民はすべて殺されてしまっている。この地に帰るべき市民はもういない。

痛ましさを抑え、革命軍「聖女の旗の下に」はグロースムントに拠点を移したのだった。

「スキルってしゅごい」

「おい語彙力」

みるみるうちに建物が出来上がっていく。その光景をぽかんと見つめながら呟くもんもんにファームが突っ込みを入れた。

グロースムントに移動を完了して間もなく、ウェルス聖教会が手配したという商人や職人たちがやってきた。

彼らは破壊された家屋を撤去し、そこに次々と新しい建物を建て始めた。

瓦礫の撤去にはプレイヤーも手を貸した。こういう作業はインベントリを活用するのが一番早い。

捨てに行く場所もないため、再利用できそうにない資材については大半はプレイヤーが持ったままだ。

「建物はまだ未完成のところが多いけど、城壁は出来てきたか。こんな簡単に壁が建っちゃうんなら全部の街にやればいいのに」

「誰にでも出来ることってわけじゃないんじゃね? 仮にも聖女様と面識がある職人だし、もしかしたらこの国でも指折りの親方とかなのかもよ」

そんな雑談に興じるもんもんとファームに、彼らを呼びに来たビームちゃんが声をかける。

「集会の時間だぜ。大聖堂だ」

「わあってるって。しかしあの大聖堂もすげーよな」

「リアルにあったら世界遺産級だよね」

「おい急げって」

「集まったようだな、同志諸君。ウェルス王都を後にして以降、徐々に徐々に賛同者をこの聖地グロースムントに移住させてきたが、ついに当局がその動きに気付いたようだ」

大聖堂の多目的ホールにメンバーを集め、声を張って話し始めたのはリーダーであるハセラだ。

多目的ホールというか、本来は礼拝のためのホールなのだろうが、今は有事であるためこのような集会にも使われている。

「……同志とか当局とか、これじゃ宗教革命ってより社会主義革命じゃ……」

「……まあ雰囲気だけは出てるけども」

「そこ! 私語は慎め! 聖女様も見ておられるぞ!」

「──いえ、私は目が見えませんので、見てはいませんが」

「聖女様が見ていないからと言って気を緩めるな!」

なんだそれ、という声が小さく上がった。ハセラはあれで意外と柔軟なところがある。

鬱陶しいが憎みきれないのはああいう調子の良さのせいだろう。

彼がリーダーとしてやっているのは何もクイズで全問正解したからというだけではない。あんなのでも一応、他のメンバーからは一目置かれているという事だ。

「……ええと、何だったっけ。あそうそう。

ついに当局が我々の動きに気付いたようだ! そしてグロースムントを覆う城壁も完成した!

ここに決起の時が来たのだ!」

当局というのがウェルス政権を指しているのであれば、こちらの動きに気付いていたのは当然だ。

ただでさえキナ臭い世界情勢の中、目と鼻の先で堂々と街の再建を行なっていて気が付かないわけがない。

ウェルスの首脳がこれまでグロースムントにちょっかいをかけてこなかったのは、王都に残っていた聖教会のNPCたちを警戒していたからだろう。下手にこちらに兵を出し、逆に王都で決起されてはかなわない。

聖女の意向を考えると王都の信者たちが暴れることなどありえないが、それは政府側にはわからないし、少しでも可能性があるのなら警戒するのは当然だ。

しかしそのお陰で体制を整える時間を作ることが出来た。グロースムントに城壁ができた事で、いざ王国と事を構えたとしても賛同者を街に匿うことが可能になった。

決起の時が来たというのはそういう事だ。

「これより、ウェルスの各街に忍ばせてある同志たちに連絡し、国中で一斉に神聖アマーリエ帝国の樹立を宣言する!」

「──あの、その神聖アマーリエ帝国というのは確定の正式名なのですか? もう変えられませんか? もうちょっとその、個人名に寄らない名前というか」

「なんと奥ゆかしい! ですが我々がお仕えするのは聖女様ただおひとり! そのお名前を入れずして他に何を入れると言うのでしょう!

お恥ずかしいのはわかりますが、この国が聖女様のための国だと有象無象にわからせるためにもここは譲れないところです」

「いえ恥ずかしいというか……」

聖女はなおも抵抗していたが、最終的に「神聖アマーリエ&ハセラのラブラブ帝国」との2択を迫られた末に、諦めて初期案を承諾していた。

なお、この際にハセラは少し体調を崩してしまったため、集会の進行はビームちゃんが引き継ぐことになった。

拳についた血を拭いながら声を張り上げる。

「そういうわけで、合図とともにウェルス全土で同志が決起する!

これは王都でも同じだ!

大々的に全国規模で反乱がおきれば、国は弾圧に動くだろう! 賛同する市民の割合次第だが、各地での激戦が予想される! そのための援軍は異邦人を中心に各地に散らせてある!

ここにいる諸君の仕事は、王都から正規の騎士団が攻撃をしかけて来た場合の防衛だ! 聖地であるここが落されれば全てが終わりだ! 心して当たれ!

それでは聖女様。一言お願いします」

一歩下がり、立ち上がった聖女に場を譲る。

「──こうして皆さんが私を立てて手を取り合ってくれたこと、まずは嬉しく思います。本当にありがとうございます。

この激動の時代にあっても、決して変わらぬものがあります。

それは、神の威光と人の命の尊さです。私はこれを守るため、あえて戦火に身を投じる決意をいたしました。

ウェルス王国と敵対する運びにはなってしまいましたが、あくまで主目的は私たちの居場所を守ることです。くれぐれも無謀な行動は避け、あくまで戦いは皆さんの尊い命を守るためにするのだという事を忘れずに、慎重な行動を心がけてください」

「聞いたか! 同志たち!

このお優しい聖女様の笑顔と比べれば、我々革命軍の、いや神聖アマーリエ帝国軍の兵卒の命など塵芥に等しい!

各員決死の覚悟を以って奮励努力せよ!」

おう、と雄叫びが鳴り響き、大聖堂を震わせた。今や同志たちの心はひとつになったと言っていい。

倒れたハセラがここに立っていたら、きっと今のビームちゃんと同じ事を言ったはずだ。

「……あの、私のお話聞いておりました?」

公式SNSに専用スレッドが立ち、そこにただ一言、書き込みがされた。「時は来た」と。

この瞬間、ウェルス王国各地に神聖アマーリエ帝国の賛同者が声を上げ、その運動は波紋のように周囲へ伝播していった。

波はプレイヤー、NPCを問わず伝わっていき、聖女の話を知る者は皆その国の誕生を言祝いだ。

新たな国家の誕生という、この大陸において全く新しい概念。

奇しくも同時多発的に同様の動きが各地で巻き起こっていたが、少なくともウェルスに住まう人々にとっては電撃が走るほどの衝撃だった。

生まれ育った国にこだわる必要はない。

その気づきは人々の心に自由を与え、遙かな世界の広がりを感じさせる事になった。

連綿と続く大陸の歴史によって縛られていた人々の意識はここに解き放たれたのだ。

盲目でありながら健気に人々を守る、見目麗しい若き聖女の話はすでに有名だった。

そしてその聖女が現状を憂いて立ち上がったという事実は、人々の心を強く惹きつけた。

旧態依然とした古い時代は終わりを告げ、ウェルスに真のイノベーションが訪れた。

そしてその変革がもたらしたものは。

「……あれ? ねえこれさ、公式サイトのウェルス王国消えてない?」

「……消えてるな。なんだこれ。え? もう革命終わり? レボリューションエンド?」

「いや国は無くなったのかもしれんけど、騎士団が即消えてなくなるわけじゃないし、革命戦争が終わったわけじゃないだろ」

「どういうこと? こっちが体制側で、王国政府側が抵抗勢力になったってこと?」

「公式サイトに神聖アマーリエ帝国なんて載ってないし、それも違うだろ。ただ体制側がいなくなっただけだ」

「強制的に戦国時代突入ってことか」

決起からのち、王都周辺では騎士団と同志たちとの戦闘が続いている。

このグロースムントまで小規模な部隊が攻め込んでくる事もあるが、城壁を越えられた事はない。

本格的な都市侵攻をするだけの戦力を準備するのが危険だからだろう。

グロースムントに最も近い都市は言うまでもなく王都だが、そちらからも大きな動きはない。

各地で立ち上がった抵抗勢力の件も王都を空ける事に対する危機感を後押ししているようだ。

そういう報告は各地の領主から上がっているのだろうが、そもそも領主本人からして聖女の魅力──聖女への信仰に転んでいる者もいる。状況を見れば決起していない街というのはほとんどないと分かるだろうし、つまり報告が上がってこない街はすでに手遅れだという判断が出来る。

ビームちゃんが把握している限りでは、その割合は2割程度だ。

しかし残り8割の都市にも抵抗勢力が決起している事を考えれば、ウェルス王国としては非常に不利な状況と言える。

ここにきての、公式サイトからのウェルス王国の消失である。

以前に公表されていた国家滅亡の条件は、王家の断絶か国土の半減、そして国民の半減のいずれかひとつを満たす事だった。

未だ王都をはじめ各地で貴族や騎士団との対立が続いていることから考えて、王家が断絶したわけでないのは確かだろう。

国土については何とも言えないが、今回の蜂起によってまさか一国の半分がどうにかなってしまったとはさすがに思えない。

であれば、ウェルス王国が消えた理由はおそらく国民だ。

それはつまり、ウェルス王国民のうち半数以上が神聖アマーリエ帝国を支持しているという事実を示しているとも言える。

ビームちゃんはそう幹部たちに語って聞かせた。

「──って事だろうたぶん。ま、俺らだって勝手に作った国がいきなり市民権を得られるなんて考えてないし、神聖アマーリエ帝国が正式に認められてるわけじゃないのは確かだ。

だがここでウェルス王家さえ倒しちまえば、元ウェルス王国領の全土を俺たちで統治する事も可能だし、さすがにそうなれば運営だって黙っちゃいないはずだ。トップはNP、あーと現地民である聖女様だし、要望出せば考えてくれるだろ」

同席している聖女は公式サイトを見る事はできないだろうが、ビームちゃんの言葉に頷いているし、この考えはおそらく間違っていない。

「うむ! どうやら僕の考えは代わりに片腕であるビームちゃんがすべて語ってくれたようだな!」

「……だれがいつから片腕になったんだよ」

「キミがクイズで99点をたたき出したときからだけど?」

ハセラに反論しようとしたが、何を言っても逆効果な気がしたのでやめた。

「ここに我ら、聖女の旗の下にの最終目標が定まった!

すなわち、ウェルス王家の誅殺だ! 我々に賛同してくれる都市の騎士団が到着次第、王都を攻めるぞ! 各員心せよ! これは聖戦である!」