軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第344話 「ただしお前は別だ」

プロスペレ遺跡に侵入者あり。

レアのもとに、そうモン吉たちから連絡が入った。

しかしこの展開についてはすでに知っている。

総主教がペアレ国王を過剰に挑発したのはやはり良くなかった。

第2王子からプロスペレ遺跡に侵入者があった可能性があると報告を受けていた事もあり、国王は即座に遺跡と聖教会の関係について疑ったらしい。

つまり、第1王子が南部で魔物に変化した事と、聖教会が突然力を増した事には何らかの関連があるに違いないと。

そしてプロスペレ遺跡への侵入者と聖教会を結びつけ、王子が撤退した後に聖教会が何らかの手段でゴーレム達の突破に成功し、大きな力を得るに至ったと考えたようだ。

実にすばらしい洞察力である。

生来の幻獣人という、現在の大陸において他に類のない上位の種族というのはこれほどまでに侮れない存在なのか。

そしてなぜレアがそんな事を知っているのかと言えば、それを受けて調査を命じられた本人から聞いたからである。

騎士たちのほとんどを南部遺跡に向かわせてしまった王家が信頼している、はずだった数少ない人物、王城を守る衛兵ゴードンだ。

ペアレ国王アンブロシウスはこのゴードンに部隊を任せ、遺跡調査を命じて送り出したのである。

この部隊において、ゴードン以外にはレアの眷属はいない。

であればゴードンとしても、適当に報告書を書いて調査した事にしておくというわけにはいかない。

少なくとも遺跡に直接行く必要がある。

この報告を受けた時、レアはペアレ国王に対する警戒度を数段階上げた。

かつてゴードンたちを『使役』した時、王城へジャネットたちを侵入させるという目的だったため、協力者は複数必要だった。そのためゴードンと同じ班の者たちをすべて『使役』した。

それが今回に限ってゴードンだけが調査隊に配属され、他の者たちは別の場所というのは少々キナ臭い。

アリを手のひらで転がして遊んでいたつもりが、いつの間にか手からこぼれおち、知らぬ間に足元からよじ登っていたのかもしれない。

そういう感覚を抱いたためだ。

そしてそれは間違ってはいなかった。

「なるほど。やはりそうか。いつの段階からかはわからないが、どうやらゴードンは国王に疑われていたようだね」

プロスペレ遺跡の奥地、もう少し歩けば地下への入口が見えてくるというあたりで、レアは十数名の倒れ伏す獣人を見下ろしながら呟いた。

この獣人たちは遺跡の調査隊だ。

そしてレアは彼らを『使役』する事が出来なかった。

すでに他のキャラクターによって『使役』されていたためだ。

「……申し訳ありません」

レアの前に跪き、ゴードンがうなだれた。

「いや、君の責任じゃない。相手の方が一枚上手だった……違うな、わたしの考えが甘かっただけだ。

こうなる可能性は考慮しておくべきだった」

ゴードンの他にレアが『使役』していた衛兵たちも、現在はすべてバラけて別々の任務を命じられている。

今この遺跡で起きている事をペアレ国王がリアルタイムで知る術はないはずだが、どのみちこの調査隊が戻らなければゴードンに対しての嫌疑は確定されるだろう。

そうなれば他の者たちも即座に拘束される可能性がある。

ペアレ国王はおそらく、今レアがしたようにゴードンに『使役』をかけたのだ。

そしてキャンセルされた。

NPCにシステムメッセージが聞こえない以上、それが何によって弾かれたのかはペアレ王にはわからなかっただろう。しかし少なくとも王家に忠誠を誓っていない事だけは間違いないと判断したはずだ。忠誠を誓っていたのなら、普通『使役』には抵抗しないだろうからだ。

調査隊を選抜し、念のためなのか疑いがあったからなのかは不明ながらも、国王はその全員に『使役』をかけ、そしてゴードンだけがかからなかった。

そこでゴードンに対し、王家への叛意ありと判断して、調査隊の他のメンバーに始末させるつもりで遺跡に送り込んだのだろう。

王都から引き離す目的もあったに違いない。もし仮にゴードンのように王家が『使役』できない者が他にも複数おり、それらが繋がっていた場合、王都で堂々とゴードンを断罪してしまえば、どこにいるかもわからない他の曲者を取り逃がしてしまう恐れがある。

「疑われていた、と考えるよりは、念のために調査隊は騎士にしておこうと考えたところで発覚したと考えた方が自然かな。最初の古文書の盗難騒動の時にやらなかったくらいだし、それ以降に敢えて疑う理由はない。

単に必要だったからやっただけなんだろう。調査隊を眷属にしておけば、例え調査中に死亡したとしても最低限の情報は持ち帰れる。それでたまたま発覚した」

王都に騎士が多く残っていればその者たちに調査を任せたのだろうが、あいにく王城を守る最低限しか残されていない。

しかしいずれにしても、王家の信頼厚い衛兵に忠誠心が無かったとわかれば、今後は城の周辺を守る兵士はすべて騎士に変えるはずだ。

幻獣人が獣人1人を使役するのにどのくらいのコストを支払う必要があるのかは知らないが、現在の情勢を考えれば多少無茶でもやらざるを得ないだろう。

「今後はペアレの動向が掴みにくくなるな。聖教会にしても──」

聖教会の幹部たちはどのみちペアレ王家では『使役』できない。

種族的に言っても能力値的に言っても無理だろう。

また聖教会の彼らに王家に対する忠誠心があるようにも思えない。

場合によってはゴードンたちも聖教会の手の者だと思われている可能性がある。

国王は聖教会の力の秘密と遺跡を結びつけ、それを調査させるために特殊部隊を選抜した。

そして万全を期すため『使役』しようとしたところで、たまたま偶然不穏分子が混じっていた。

しかし調査隊の詳細はすでに話してしまっている。不穏分子が自分の主人に情報を漏らす前に片を付ける必要がある。

そこで不穏分子は予定通り調査隊として連れ出す事にし、そこで始末しようとした。

そんなところだろうか。

「聖教会が王家に疑われることについては彼らの自業自得か。無駄に神経逆撫でしたみたいだし。

それにどうせ王城周辺の兵士をニワカ騎士に仕立てたところで、物理的に戦力が増えるわけでもないし、シェイプの侵攻に対抗できるようになるわけじゃない。獅子身中の虫と知りつつも、結局は王家は聖教会を利用するしかない」

今頃はペアレ王城内にいる全ての兵士は王家によって『使役』されているだろう。

そして『使役』出来ない者たちは分断して配属され、常時監視されている。ゴードン以外の衛兵からは特に目立った報告は無いが、いきなり気付かれるように監視したりはしないだろうし、これはおそらく間違いない。

いや、調査隊のゴードン以外のメンバーがすべて王家の眷属だった事を考えれば、出発前にはすでにそうなっていた可能性が高い。

聖教会がすでに幻獣人の力を手にしている可能性について、国王が気付いているかは不明だが、気付いていないとしたらゴードンたちを始末する事で片をつけるつもりだったはずだ。

そして気付いていたとしたら、ゴードンたちが聖教会の眷属になっていると考えているだろう。その場合、ゴードンの始末は聖教会への牽制のつもりだったと考えられる。

いずれにしても眷属にした彼らを王都に残しておくのは危険だ。

一旦引き揚げさせ、どこかに匿っておくべきだろう。

王城の動きをうまく掻い潜る必要があるが、例えばトイレなどの個室に入ったタイミングで『召喚』してやれば、煙のように消す事も可能だ。

「問題はこの調査隊だな。『使役』を試した時にわたしの顔も見られているし、こいつらがこのまま王都でリスポーンすれば国王にわたしの存在が知られてしまう。なんとかしないとな」

真の意味で殺す事は出来ないし、他人の眷属であるため実験素材にも出来ない。

しかし何も永遠にどうにかしておく必要があるわけではない。ペアレ王国もそう長期間存続していられるわけでもないし、しばらく誤魔化すだけならどうとでもなる。

継続的に人員を貼り付けておく必要があるが、丁度暇になった者たちがいる。

遺跡で一連の始末をつけたレアは、のんびりとキーファの街の周辺まで上空を移動した。

ゴードンから連絡を受けて以降、キーファ南部の戦線については放り出してそちらに向かっていた。

オミナス君とモニカが監視しているし、戦況に急激な変化があった場合は連絡するように言ってある。

シェイプ軍とのじゃれ合いは狐オコジョに任せっきりにしてしまったが、子供じゃあるまいし問題ないだろう。出発時には確か自分ひとりで十分だというようなことを主張していた気もする。

正直に言えば、何度も同じような戦闘を繰り返す彼らに飽きてしまったこともある。

「──あれ? なんかオコジョの動きが悪いな。そんなんじゃ、騎士はともかくプレイヤーの攻撃は避けられないぞ」

戦場上空まで戻ったレアは精彩を欠いたオコジョの動きに眉を顰めた。

レアが不在の間、徐々に戦況が傾いていたのだろう。モニカから報告が無かったのだからそのはずだ。

案の定プレイヤーの範囲攻撃を避けきる事は出来ず、オコジョは後脚に直撃を受け体勢を崩してしまう。

そこへ騎士たちやタンク系プレイヤーの突進が殺到し、その衝撃でオコジョは盛大にひっくり返った。

数が多いとはいえ人間サイズの生物があの大きさの生物をひっくり返すなど現実ではありえない。能力値という生物の性能を底上げするシステムがあればこそだ。あるいは相手の体勢を崩しやすくする何らかのスキルなども使っているのかも知れない。

しかしオコジョもただでは転ばない。

そのふさふさの尾で敵をなぎ倒し、口からは炎を迸らせて周囲を焼き尽くす。

オコジョはブレス攻撃も得意なようだ。ブレスを可能とする種族を混ぜ込んであったらしい。

ブレスと言えば身近なものだとスキンクだが、どこから連れてきたのだろう。すぐ北にはペアレスキンクが大量にいるが、あれはライラの眷属だ。素材にするにはライラの許可がいる。

倒れたオコジョはさらに魔法もばら撒いている。

これは頭部に生えている上半身の仕事だ。

以前に強化した第1王子は接近戦が得意だったようであまり役には立たなかったが、それを踏まえて聖教会のメンバーには魔法の取得を推奨させてあった。

こればかりは外野からどうこうする事が出来ないため、完全に本人に任せるしかなかったが、実用レベルで何とか使える程度には取得してくれたらしい。

多少低ランクの魔法でも、INTの高さがあるためそれなりの効果は見込める。

「でも多分、もうだめだなこれ。時間をかけ過ぎだ」

ワンサイクルの戦闘時間が1時間を超えてしまうと、序盤に倒した騎士たちが復活して来てしまう。

ただでさえプレイヤーは即座に復活してくるのだし、オコジョにとって時間は敵でしかない。

プレイヤーについては蘇るたびに少しずつ弱くなるが、この弱体化が明けるサイクルも1時間だ。プレイヤー側に優秀なリーダーがいれば、NPCの騎士たちの復活サイクルとうまく噛み合わせて最小限の戦力低下で回してくるだろう。

せめてオコジョも定期的に回復するなどをすればもう少し耐えられたのかもしれないが──。

「あ、わたしがいなくなったからか」

この聖教会の実験動物たちは性能的には満足いくレベルではあるが、無限に復活してくる敵が相手では持久力に難がある。

『再生』があるため部位破壊されたとしてもそのうち元に戻るが、LPの回復速度を超えるダメージを受け続けるのであればそんな事は関係ない。

「そもそも単騎で運用するというコンセプトに無理があるな。回復とかのサポートを行なう部下か仲間が必要だ」

そうした問題点が見えてきただけ十分だ。

オコジョはよくやった。

「──……! ──……!」

「あれ、何か言ってるな。なんだろ」

繰り返しプレイヤーや騎士たちの攻撃を受け、ジリジリとダメージが蓄積されているオコジョが何か叫んでいる。

もうしばらく放っておけばおそらく倒されてしまうだろうが、何か言いたいことがあるのであれば聞いてやってもいいだろう。

レアは空中で階段を下りるように静かに降下し、オコジョの声が聞こえる位置まで近づいた。

「──セプテムー! ど、どこに行ったのだあ! がはっ……はぁはぁ、たすっ、いや、サポートを、サポートをしろおっ!」

聞いて損した。

自慢の、かどうかは知らないが、綺麗に切りそろえ櫛を通してあったオカッパも振り乱し、喉を枯らして今わの際に泣き叫ぶ言葉がこれとは。

「聞いて、いるのか……! セ、セプテムう!」

叫ぶばかりで攻撃が疎かになった隙を好機と見てか、プレイヤーや騎士たちの集中砲火が激しさを増す。

それはオコジョのLPの光を徐々に弱めていき、叫ぶ声さえ途切れ途切れになっていく。

そしてついに、火が消えるようにオコジョのLPは尽きた。

「──た、倒した!」

「やったぞー!」

「ゾンビアタック様様だなこりゃ!」

「ぞんびあたっく? なんだそれは」

「あー、そうか。実際にゾンビがいる世界じゃそんなスラング生まれないか。なんて言ったらいいかな。ゾンビアタックってのは──」

オコジョを倒した騎士とプレイヤーたちは手を取り合って喜んでいる。

ゲリラにハラスメントを仕掛けさせていた時はそれほど仲が良さそうにも思えなかったものだが、オコジョとの戦いで連帯感でも芽生えたのだろうか。

とりあえず、貴重な戦闘データも取れたし、今後の運用における問題点も割り出すことができた。

これ以上この場に用はないし、時間も十分稼げただろう。

領主に命じてゲリラたちも引き揚げさせ、キーファの防衛に専念するよう伝えておく。シェイプ軍やプレイヤーたちもあの街がゲリラの拠点だとわかっているだろうし、普通に考えれば根から断つために街は攻撃される。

ただシェイプにも時間的余裕があるわけではない。

ゲリラの攻撃がこれ以上ないようであれば、キーファなど無視して先に進むかもしれない。

あるいはキーファが攻撃されるとしても、守りを固めて籠城していればすぐに諦めるはずだ。

しかし去ろうとしたレアに気付いた者がいた。

「──まだ終わってません! 上を見てください! 何かいます!」

聞き覚えのある声だ。

この声は確か、いつかレアに『回復魔法』の存在を教えてくれた声である。

このゲームにおけるヒーラーの先駆者だ。

それはつまり、プレイヤーの中でも最も警戒すべき人物の1人ということでもある。

この集団の中に混じっていたとは思っていなかった。

「白いローブ……。もしかしてあなたは──」

白いローブの黒幕。

第七災厄。

その繋がりについてはすでに変態たちに見られている。

「──第七災厄、セプテム!」

どうやら名前も浸透しているようだ。

変態たちはうまく紹介してくれたらしい。

「じゃ、じゃあ今の奴がセプテムとか叫んでたのは……」

「第七災厄を呼んでたってのかよ!」

「死に際に次のレイドボスを召喚するとか、タチ悪いにも程があんだろ……」

間違っていないような気もするが、決定的に間違ってもいる。

別にオコジョに呼ばれて来たわけではない。

プレイヤーたちが騒ぐ一方、NPCの騎士たちは困惑している。

大型のレイドボスを苦労して倒し、共に勝利を噛み締めていたはずのプレイヤーたちの緊張が一気に高まったのを目の当たりにしたせいだろう。

「──この戦争は、貴女が裏で糸を引いていたのですか!」

ヒーラーの女──たしか、その手が暖かとかいうふざけた名前──が叫び、プレイヤーたちがぴたりと静かになる。

ウェインたちのクランが立てたスレッドでは戦争を早く終わらせたいとか書きこまれていたし、そんなプレイヤーと共に行動しているのなら、ここにいる彼らも戦争の真実については興味があるのだろう。

しかし教えてやる理由がない。

「──そんなことをして、わたしに何の得が?」

「そ、れは……! それはもちろん、大陸に混沌をもたらすためです!」

「だから、大陸に混沌をもたらしたとして、わたしに何の得があるというの?」

その手が暖かは悔しげに黙る。

「──混沌をもたらし、人類を 相争(あいあらそ) わせることで、この大陸を破滅させるためだろう!」

近くにいた男がフォローした。

この男にも見覚えがある。

その手が暖かと距離が近いところを見るに、おそらくアマテインというのはこいつだろう。

付き合っていたりするのだろうか。これがリア充というやつなのか。

「なにか、勘違いしているようだけど」

『魔眼』で適当に何もない地点に狙いをつけ、『ヘルフレイム』を発動した。

この魔法自体は使えるプレイヤーもたくさんいるだろうが、能力値の高さに加え『魔の理』をはじめとする多数の自己強化に補助された魔王の一撃とは比べ物にならない。

燃え上がる炎は大地を溶かし、まき散らされた熱気が視界を歪ませた。

十分距離を取ってやったつもりだったが、目測が甘かったのか何人か巻き込んでしまった。

一瞬で死体も残さず消えた仲間の姿や、ちりちりと自らの肌を焼く感触に騎士やプレイヤーたちは呆然としている。

「大陸を滅ぼすだけなら、別に混沌とかは必要ない。わたしひとりで十分だ」

本来、単体で強力だとされる魔王である。

そのくらいの事が出来なければ、他の災厄の先輩がたに申し訳ないというものだ。

いつかの礼もある。アマテインたちについてはここで一度キルしてやってもよかったが、この驚いた顔を見た事で溜飲も下がった。

ただし、その手が暖かだけは別だ。

戦って負けただけならば、次に戦った時勝てばいい。

しかし「誰より早く『回復魔法』を発見した」という功績については、もう覆すことはできない。

その点において、このプレイヤーは永遠にレアの上にいる。

他にもレアの知らないスキルを発見しているプレイヤーは多くいるだろうが、『回復魔法』はβテストの時から気にしていたスキルだ。

それに『回復魔法』の汎用性や重要度も考えれば、この先もこのゲームにおいて彼女の名前が忘れられる事はないだろう。

この敗北感を払拭するには、別の功績をもって並ぶしかない。

またオコジョに呼ばれて現れたのだと思われているのも癪だし、そこも訂正しておきたい。

「静かになったという事は、わかってもらえたと思っていいのかな。

それとわたしがここに来たのは、別にこの彼に呼ばれたからじゃない。わたしのほうが彼に用事があったからだ。

──『 復活(レスレクティオ) 』」

レアが発動した魔法により、オコジョの傷ついた身体がまるで映像の巻き戻しのように癒されていく。

上半身にひっかかっているボロボロの法衣らしき服は戻らないが、どうせ全体の防御力の中で大した役割を果たしているわけでもないし構うまい。

この魔法による蘇生は失われたLPやMPもすべて最大値まで回復する。確認したことはないが、おそらく疲労度や他のゲージも同様だろう。

仕切り直しというわけだ。

「そ、蘇生魔法……? そんな……」

知らないという事は、あのザグレウスの心臓を自分で使用した魔法職はまだいないという事だ。

その手が暖かの驚愕に歪む美しい顔を見て、ようやくレアも気が済んだ。

「きみたち異邦人はわたしの庭にも懲りずに何度も攻めてくるし、きっと戦うのが好きで好きで仕方がないんだろうね。

そんな業が深いきみたちのためにおかわりを用意してあげたから、心ゆくまで楽しんでくれ。じゃあまたね」

意識を取り戻したオコジョが首──当然人型の方──を振りながら立ち上がる。

それを確認すると『天駆』で上空まで駆け上がり、『召喚』でその場から去った。

結局、裏で糸を引いていたのか、そうだとしたら目的は何なのかについては何も答えてはいないが、たぶんもうそれどころではないだろう。